被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

それってネット詐欺ですよ!

ノブコブ吉村さんも遭遇、「PCのカメラからシャッター音! 何か撮影された!?」と驚かせる手口とは?

 お笑いコンビ・平成ノブシコブシの吉村崇さんは、出演したテレビ番組の中で「セクストーション詐欺」に遭いかけたことを話していました。地方のホテルに一人で泊った時にPCでアダルトサイトを表示したところ、カメラのシャッター音が鳴りました。そして、PCの画面に「そういう姿をもう撮ってます」と、3ビットコインを要求するメッセージが表示されたそうです。

 ほかの人に相談したところ、「あなたの姿を撮影した」というメッセージで脅す詐欺であって、実際に撮影されてはいない、対応の必要はないと言われ、何も支払うことはせず、吉村さんは被害を回避できました。しかし、番組中で笑いを取るためか、それとも本気で心配しているのか、あのときの姿が流出したらどうしようか……と、今でも心配しているとのことでした。

 このような手口は古くからあり、性的な(Sex)映像をもとに脅迫する(Extortion)ことから、セクストーション詐欺と呼ばれます。実際には撮影できていない隠し撮り映像など、存在しないものを“ネタ”に金品をだまし取ろうとする架空詐欺の一種です。

 Web会議などでPCのカメラを使ったことのある人は多いと思いますが、そもそも撮影時に音を出す必要がありませんし、PCであってもスマートフォンであっても、ウェブブラウザーからのメッセージに応じてそのウェブサイトに対してカメラを操作することを許可しなければ、ウェブサイトによって勝手に撮影されることは、基本的には考えられません。ウェブページを閲覧中にドキッとするようなメッセージが表示されても、それは、シャッター音と合わせてユーザーを不安にさせ、判断力をうばうためのものです。

 それとは別の話として、マルウェアによりカメラが操作されるケースはあります。また、後述するように、知らない間に遠隔操作アプリをインストールされた後、知らない間にカメラを操作されてしまう可能性も考えられます。カメラに関しては、非使用時はカメラのレンズを物理的に隠すカバーを付けるか、もとからカバーが付いている製品を買うようにすれば安心できます。

保護カバーでウェブカメラを塞いでおけば録画されたと脅されても安心です。写真は、ノートPCのWebカメラに貼り付けて、レンズ保護件目隠しのカバーとなる、エレコムの「ESE-02MBK」

 さておき、アダルトサイトを閲覧中に突然「あなたの姿を撮影した」のようなメッセージが表示されたら、誰しも驚くでしょう。

 このセクストーション詐欺にはさまざまな派生手口があり、深刻な被害を出しています。「アダルトサイトを見ていたら撮影されちゃったみたいで……」などとは言い出しにくく、周囲に相談しにくいことも問題で、被害金額も大きくなりがちです。被害に遭わないためには、まず、このようなセクストーション詐欺の手口があることを知っておくことが重要です。

 メールでセクストーション詐欺を仕掛けてくるケースもあります。ハッカーを名乗り、「あなたのPCをハッキングして、アダルト動画を見ている様子を撮影しました」として、PCの連絡先にある相手全員に動画を送り付けられたくなければビットコインをよこせ、のように脅迫してきます。

 こちらも、実際にはハッキングなどをしておらず、メールで脅しているだけです。メールが届いても、無視すればOKです。

セクストーション詐欺メールの例。ハッキングしたという手口を詳しく語り、焦らせようとしています。

 本当に恥ずかしい映像を撮影し、脅すパターンもあります。マッチングアプリやSNSでターゲットに接触し、ビデオ通話で性的な会話をしながら、局部などを映すように誘ってくるのです。そして、狙った映像を手に入れたら、それを録画し、脅してきます。

 このとき、相手も裸になっているので、被害者側からも「こちらも録画しているのでばらまくぞ」と言い返すケースもあるようです。しかし、相手は動じません。被害者側は脅迫者の個人情報を何も把握しておらず、やり返すことができないのです。そもそも、その相手の裸の映像は、商品として販売されているものだったりするかもしれません。

 このような脅迫をする相手は、数万円から数十万円と、比較的支払えそうな金額を要求してきます。しかし、1回で要求が止まるとは限らず、繰り返し金品を要求されることもあります。

 われわれDLISにも、セクストーション詐欺の被害者から相談が届きますが、相談者のほとんどは若い男性です。お金を支払わないと、連絡先のすべてに動画を送り付けると言われたという相談に対し、ビデオ通話をしただけなら連絡先の情報は取られていないと考えられるため、それを実現できる可能性は低いとアドバイスします。しかし、脅迫者は実際に連絡先に登録している人の情報を読み上げたというのです。

 よくよく話を聞いてみると、ビデオ通話をしただけではなく、相手から遠隔操作アプリをインストールされていたようです。それでは、確かにPCを相手に自由に操作され、連絡先の情報を見られてしまうかもしれません。ほかにも、ビデオ通話する前に、距離感を縮めて名前や勤務先などの個人情報を聞き出し、その情報をもとに脅してくるケースもあります。

 残念ながら、こうした巧妙なセクストーション詐欺に対して、特別に有効な対策はありません。正体の分からない相手が送ってきたURLをクリックしたり、よく分からないアプリをインストールしたりはしない、性的なビデオチャットに応じることも自重する、といった、基本的な対策を知って、いつも忘れないでおくことが大切です。

よく知らない相手にリスキーな映像は渡さないようにしましょう(生成AIによるイメージ画像)

 セクストーション詐欺では、一度被害にあった人に画像の画像の拡散を防止するなどと言って近づき金品をだまし取ろうとする詐欺師による、二重・三重の被害事例もあるようです。被害は警察や弁護士、またはDLISのような団体に相談でき、加害者を捕まえられる可能性もありますが、個人情報が流出してしまった場合、それを回収する術はありません。金銭面だけでなく心理面のダメージも大きくなりがちなセクストーション詐欺の手口を知り、そもそもの被害にあわないよう、くれぐれも注意してください。

 また、最近では広義のセクストーション詐欺として、AIを使ったディープフェイクによる手口も問題になっています。例えば、顔は実在の誰かで、体は生成AIによる全裸の姿、のような画像を作り、それをばらまくと脅てくるのです。本物ではないのですが、他人には判別がつかず、そもそもフェイク画像であっても、そのような画像を拡散されてはダメージを受けます。現時点では根本的な対策のない問題ですが、もしもそのような脅迫を受けた場合には、警察などに相談するようにしましょう。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

「被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー」の注目記事

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと