被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

それってネット詐欺ですよ!

「Google広告からの誘導が6割」との分析結果。より巧妙化し、高齢者を狙う「サポート詐欺」に注意!

 トレンドマイクロが「国内サポート詐欺レポート 2024年版」を公開しました。2023年に日本で発生したサポート詐欺に関する情報を分析しています。今回はこのレポートから、サポート詐欺に遭わないために押さえておきたいポイントを紹介しましょう。

トレンドマイクロが公開した「国内サポート詐欺レポート 2024年版

 サポート詐欺の基本的な手口は、次のようなものです。

 まず、何らかの手段(最近では主に広告)を使って、ユーザーを仕掛けのあるサポート詐欺サイトに誘導します。ユーザーがアクセスすると仕掛けが作動し、PCがウイルスに感染したなどの偽の警告画面を表示したり、けたたましい警告音を鳴らしたりして、ユーザーを動揺させます。

 同時に、対策となるサポート先として電話番号を表示し、そこに電話するよう誘導します。ユーザーがその番号に電話すると、ネット詐欺師が用意したコールセンターにつながり、偽のサポートが始まります。

 偽のサポートでは、サポートのために必要だと嘘をついてリモートアクセスアプリ(詐欺師側からユーザーのPCを自在に操作可能にするアプリ)をインストールさせ、表示された警告を消して、多額の金銭の支払いを求めます。コンビニエンスストアでGoogle PlayやAppleのギフトカードを購入させる手口や、リモートアクセスを利用して詐欺師の電子マネー口座などに振り込みをさせる手口も登場しています。

 トレンドマイクロのセキュリティアプリ「ウィルスバスター クラウド」では、2023年にサポート詐欺のアクセスを900万件以上ブロックしました。毎月平均25万台のPCがサポート詐欺サイトにアクセスしようとしており、フィッシング詐欺サイトへアクセスした端末数を上回っているそうです。

 以前から多数の被害を出してきたサポート詐欺ですが、2023年にはより巧妙に、より検出されにくく、環境変化に適応するようになったそうです。

 トレンドマイクロのサポート窓口で被害が確認できたケースでは、なんと誘導元の60%が、Google広告経由だったそうです。Google広告は、Googleの検索結果のほか、多くのウェブサイトやYouTubeなどにも表示されます。「とはいえ、怪しい広告なんかクリックしないよ」と思う人もいるでしょうが、地図や旅行、健康、災害、さらには時事問題、マッチングサービスなど被害者の興味を引くような内容を巧妙にチョイスして、クリックさせようとしてきます。広告のデザインを調整して、表示されたウェブサイトのコンテンツのように見せかけることもあるそうです。

Xの広告による、サポート詐欺の警告サイトに誘導する不正広告の例。「コーヒーが体に与える影響って?」と、詐欺そのものとは全く関係のない話題で興味を持たせ、クリックさせようとします(国内サポート詐欺レポート 2024年版より)

 広告をクリックするとサポート詐欺サイトに転送されるわけですが、詐欺の実際調査のためのツールや匿名のウェブブラウザーからアクセスしたり、同じPCから何度もアクセスしたりした場合には、問題のない適当なおとりサイトに転送されるそうです。これは、広告配信会社の審査を潜り抜けたり、セキュリティ機関の調査に発見されないようにするためだと見られます。

ブログに表示された詐欺広告の例。時事的な話題を扱い、クリックをさそっています(国内サポート詐欺レポート 2024年版より)

 偽の警告画面も、以前より巧妙なつくりになっています。従来の偽警告画面では、より強烈にユーザーを驚かせるために画面全体に偽警告を表示させようと、一旦ウェブブラウザーのウィンドウを全画面表示にするのですが、このとき、「全画面表示を終了するには~」と全画面表示を解除する方法を知らせるメッセージが表示され、分かる人には、何も操作していないのにウィンドウが全画面表示になった、これは怪しいぞ……と分かるようになっていました。

 しかし、最近の偽警告では、このメッセージと同系色の色を背景に表示し、メッセ―ジを見えにくくして、より巧妙にだまそうとするのです。

 また、キー操作を制御して、キー入力を無効にすることもあります。通常のキー操作では全画面表示を解除できず、Windowsなら「Ctrl」+「Alt」+「Del」キーを押してウェブブラウザーを強制終了させないと偽警告を解除できなくなったりします。

全画面表示を解除するメッセージを読みにくくする例。(国内サポート詐欺レポート 2024年版より)

 さらには、被害にあったユーザーにリモートアクセスアプリを自動でダウンロードさせることなく、プログラムにより自動的にダウンロードさせる手口もあるそうです。

 一時期は、電話ではなくチャットサポートを使って被害者とやり取りするサポート詐欺も報告されましたが、最近はまた電話メインとなっています。ネット詐欺師も試行錯誤を繰り返し、より効率的にだませる手法を模索しているのです。

 被害者の年齢層を集計すると、65歳以上の高齢者層が、サポート詐欺につながる広告をクリックする傾向があるそうです。Google広告経由でサポート詐欺サイトにアクセスした端末数の割合をみると、60歳代から多くなっており、80歳代が26%を占めていました。Google広告が高齢者層を誘導する効果的な手段となってしまっていることが分かります。

サポート詐欺サイトにアクセスしている年齢層。60代高齢者の割合が多くなっています(国内サポート詐欺レポート 2024年版より)

 対策としては、サポート詐欺のそれぞれのステップでリスクを抑える方法が紹介されています。まずは、ウェブブラウザーのセキュリティを強化するとともに、セキュリティソフトを導入し、詐欺サイトへのアクセスを遮断することが効果的です。

 もしもサポート詐欺の仕掛けがあるウェブサイトにアクセスしてしまっても、偽の警告を表示して動揺させる手口があると知っていれば、あわてて電話をかけずに済むでしょう。偽警告が消せなくて困ったときは、「Ctrl」+「Alt」+「Del」キーからアプリを強制終了できることも覚えておきましょう。

 かつてのサポート詐欺の被害額は数万円から数十万円程度でしたが、最近はネットバンキングで振り込ませることで100万円以上の被害も発生しています。トレンドマイクロによると、サポート詐欺の法人被害も10件確認されているとのことで、もはや誰もが被害者になる可能性があります。デジタルリテラシーを高め、事例を知ることで、被害を回避できます。ぜひ、ご両親や祖父母の皆さんと情報を共有し、サポート詐欺に引っかからないようにしてください。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

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参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと