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NTT、人間を模倣して“互いに空気を読んで”複雑なプロジェクトに取り組むマルチAIエージェント技術を開発
AI同士ですり合わせを行い、従来は難しかった企画業務などでの貢献も期待できる
2025年8月12日 07:30
NTT株式会社は8月8日、エージェント同士が対話し協調しながらタスクに取り組むマルチAIエージェント技術を開発したと発表した。今回の技術では人間の記憶構造と共同創造プロセスを模倣して開発され、これまでのAIが苦手としていたような複雑なタスクの処理が可能となり、一貫性・実現性・具体性を求められる企画業務などにおいても、継続的な業務改善への貢献が期待できるとしている。
複数のAIエージェントが協調することで、業務の一部を代行する「マルチエージェントシステム」が注目を集めているが、従来のシステムでは分割したサブタスクを各エージェントが個別に処理するため、ほかのエージェントのサブタスクとの整合性を保ったタスク遂行が難しかった。例えば、複数部署間の調整が必要となる企業戦略検討や、多様な解を持つビジネス企画の策定にあっては、AIエージェントが複雑なタスクを一貫性・実現性・具体性を持って完遂するのは困難だとされていた。
人間の「記憶構造」と「共同創造プロセス」を模倣
同社では今回、AIエージェントに対して、人間を模倣した「記憶構造」と「共同創造プロセス」をとらせることで、人間のように互いの解決アプローチや能力を確認・更新しながら、複雑なタスクを解決するAIエージェント自律協調の基盤技術を開発した。
システムの概要としては、まず、複雑なタスクをいくつかのサブタスクに分け、そのタスクに対応するエージェントを生成し、それぞれにサブタスクに関する知識を構築していく。その後、人間社会における協働創造プロセスを模倣し、ほかのエージェントと動的に知識の獲得・共有を行う。また、チーム会議や生産会議を行い、自分やほかのエージェントが割り当てられたサブタスクの内容や個々のアプローチの理解を継続的に更新し、タスク解決の方針をすり合わせ、互いに協調しながら、多様なサブタスクを統合してチームタスクとする。
このようなプロセスにより、「デザイン・広報・マーケティングなどを統合する企業ブランディング戦略の立案」「視点の異なるニーズを満たす多角的なビジネスプラン検討」といった、多様なニーズを満たしつつ一貫性・実現性・具体性が求められる複雑なプランニング業務においても、高品質なアウトプットが可能だという。
今回の技術のポイントとして、次の3点が挙げられている
人間の記憶構造を模倣した知識管理
会話を通じてほかのエージェントとの「エピソード記憶」を獲得し、段階的に抽象化したものを「意味記憶」として知識を階層的に管理する。これらの知識をもとに議論を繰り返すことで相互的な共通理解が進み、多様な視点を取り入れた生産的な議論が行える。
知識の相互チェックによる正確性の担保
チーム会議や専門的な知識を持つ専門家エージェントとの会話を通じて知識を更新する。これが相互チェックとなり、最終的な解の正確性の担保につながる。
エージェントの再利用によるタスク解決性能向上
知識を蓄積し、相互理解を深めたエージェント群を以降のタスクでも再利用することで、タスク解決性能を継続的に向上させられる。
従来手法に比べ、多角的なビジネスプランを出力
実験として、創造的な文書生成タスクの遂行性能の比較が、従来のマルチエージェントシステムと今回の技術で作成したシステムの間で行われた。例えば、紅茶を題材とした、多様な顧客ニーズを反映するビジネスプランを検討させた。
従来システムでは、エージェントごとのサブタスクの解決策を単純に羅列したのみだったのに対して、今回の技術ではエージェントごとのタスクについて、各タスクの詳細情報や互いの検討内容を考慮して統合し、「多様な顧客ニーズに応じた幅広い紅茶関連製品の開発と、ワークショップを通した顧客体験を向上させる」という多角的なビジネスプランを出力した。また、生成した企画書と、正解として人間が作成した複数の企画書案との一致度合いを評価指標の「Rouge」により評価したところ、本技術は従来手法と比較して平均14.4%程度スコアが向上し、さらに、タスク遂行時の知識を再利用した場合は平均17.2%程度スコアが向上した。
同社では、今回の技術に関して、今年度中のPoC(概念実証)に向け、引き続き開発に取り組んでいくとしている。なお、この技術は、2025年7月28日に、自然言語処理分野の最難関国際会議「ACL2025」で発表された。