被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

“ネットバンキング開設詐欺”各地で発生中!

「還付金をネット銀行経由で受け取れる」銀行・税務署・市役所を名乗る電話が来たら、それは詐欺

横浜信用金庫は“騙り詐欺”として注意喚起を行っています。

 最近、高齢者にネットバンキングの口座を開設させ、預金を奪い取る詐欺が相次いでいます。今年4月、長野県上田市の八十二銀行花園出張所に80歳代の女性と90歳代の女性が、ネットバンキングの口座を開設したいと相談してきました。開設の理由を尋ねても「他人に言わないほうがいいと言われた」と濁します。銀行員は詐欺に巻き込まれていると判断して、粘り強く話を聞いたところ、「警察官から指示された」と答えたため、警察に通報し、被害を回避できました。

 長野県内では2024年11月以降、同様の手口で、少なくとも9件・1億8000万円の被害が発生しているようです。

 この“ネットバンキング開設詐欺”は全国で発生しており、多くの金融機関が注意喚起を行っています。こうした詐欺の最初のアプローチは電話です。金融機関や税務署、市役所、保険会社などを名乗り、「還付金が受け取れます」と言ってくるのです。そして、還付金を受け取るために、ネットバンキングの契約が必要と誘導します。

 詐欺師はネットバンキングの開設方法を丁寧に説明し、金融機関の店頭に誘導します。その際、自分から指示されたことは他の人に言わないようにくぎを刺します。そして、ネットバンキング口座が開設できたタイミングで再び連絡し、「還付の手続きをするので、IDとパスワードが必要」だというのです。口座を開設した高齢者は信じてしまっているので、それらアカウント情報を伝えてしまいます。そして、詐欺師はネットバンキングに不正ログインし、別の口座に全額送金してしまうのです。

 お金をもらえるという欲望を刺激するとともに、そのために手数料などを前払いする必要もないことで安心させる、という手口です。本来、IDとパスワードを教えるなど絶対あり得ないのですが、IDやパスワードを扱い慣れていない高齢者を狙った卑劣な手口です。

清水銀行の注意喚起ページ

 清水銀行の注意喚起ページでは、別の口実でネットバンキングを開設させる手口が紹介されていました。このケースでは警察を騙って電話をしてきます。「あなた名義で契約された携帯電話(または預金口座など)で詐欺行為が行われている」と言われるのです。そして、調査のためにネットバンキングを開設するように指示されます。

 このケースでは、ネットバンキングの開設手続きを代行すると言われたそうです。詐欺師はネットで申し込みを行い、被害者本人のところに届く初回ログイン用のパスワードを電話で聞き出してしまいました。こうなると、その初回パスワードでログインした詐欺師が正式なパスワードを勝手に設定し直してしまうため、IDと正式なパスワードは詐欺師だけが知っていることになり、被害者本人はどうすることもできません。この場合は、多額のお金を不正送金されてしまったそうです。

 高齢者はそもそもネットバンキングを利用していないことが多い、という点を突いた手口です。当然、ネットバンキングに関するリテラシーが不十分な高齢者も多いことでしょう。本来であれば、銀行側が対策を強化すべきです。とはいえ、現在のところ、預金を不正送金されてしまうと取り返すのはとても困難ですから、可能な限り自己防衛する必要があります。

 まずは、IDやパスワード、暗証番号は、金融機関や市役所の職員であろうと警察であろうと、絶対に他人に教えてはいけない、ということを理解しましょう。これはマストです。次に、何か怪しいことがあれば、家族や警察、消費者センターなどに相談すること。「他の人に言わないように」と言われたら、なおさら急いで相談するようにします。また、今回のようなネットバンキング開設詐欺の事例があることを事前に知っていれば、自分に電話が掛かってきたときに詐欺だと気が付ける可能性が高まります。

 若い方は、本記事の内容をご両親と共有してください。記事を読め、と言っても読んでくれない場合は、食事のときにでも“最近はやりの事件”を話題にするといった感じで教えてあげてください。それだけで、大事な預金が守れる可能性が高まります。

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※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと