被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー
退職金は詐欺師にとって格好の標的!?
老後資金が危ない! 2024年サイバー犯罪統計が映す“狙われる60代”
2025年6月20日 06:00
サイバー犯罪被害額は166億ドル、過去最悪を更新
FBIのインターネット犯罪苦情センター(IC3)は設立から25周年を迎えました。設立当初、寄せられる苦情の件数は月間約2000件でしたが、現在では1日の平均が2000件を超えるまでに増加しています。この四半世紀で、IC3は累計900万件を超える苦情を受理したそうです。
IC3は年次レポートを公開しており、先日、2024年版が公開されました。この年次報告書によると、被害総額は過去最悪の166億ドル(約2.5兆円)にもなったそうです。FBIの犯罪・サイバー担当作戦部長であるB・チャド・ヤーボロー氏は、同レポートの序文で「今日のテクノロジーを使えば、キーボードを数回タップするだけで、ネットワークを乗っ取り、水道システムを麻痺させ、暗号資産取引所から強盗を働くことさえ可能です」と警鐘を鳴らしています。
2024年におけるサイバー犯罪の状況を把握するため、まず主要な統計データをチェックしてみましょう。この数字は、被害の規模と深刻さを表しています
総苦情件数は85万9532件で、1日あたり約2355件の苦情が寄せられた計算になります。金銭的損失を伴った苦情件数は25万6256件で、全体の約30%の苦情で実際に金銭的な被害が発生しています。被害総額は166億ドルで、前年と比べると33%増加。平均被害額も6万4800ドルと、1件あたりの被害が高額化している傾向も見られます。
サイバー犯罪は年齢を問わず全ての人を標的にしていますが、被害の傾向は年齢層によって大きく異なります。苦情件数では30代と40代が比較的多いものの、金銭的被害額では年齢が上がるにつれて被害が大きくなります。特に60歳以上の層は、他の全ての年齢層の被害額を合計したものに迫るほどの被害を受けており、退職金など多額の資産を持つ高齢者が詐欺師の格好の標的とされていることが分かります。
総額166億ドルに上る巨額の被害は、多種多様なサイバー犯罪手口によって引き起こされています。このIC3のレポートでは、犯罪を「苦情件数」と「被害額」という2つの側面から分析しており、それぞれで上位に来る手口は異なります。
2024年に通報された苦情件数で多かった手口のトップ3は以下の通りです。
1. フィッシング/スプーフィング:19万3407件
正規の企業や組織を装ったメール、テキストメッセージ、電話などを使い、個人情報、金融情報、ログイン情報などを盗み出す手口です。
2. 恐喝:8万6415件
脅迫や、権力の不正な行使によって金品を不法に奪い取る行為です。近年では、性的画像をばらまくと脅して金銭を要求する「セクストーション」や、企業の重要な情報を暗号化して身代金を要求する「ランサムウェア」が代表的です。
3. 個人情報漏えい:6万4882件
機密情報や保護されたデータが、権限のない第三者によって盗まれるセキュリティインシデントです。盗まれた情報は、さらなるネット詐欺や、なりすましに悪用されるという二次被害のリスクを伴います。
一方、被害金額が大きかった手口のトップ3は以下の通りです。
1. 投資詐欺:65億7063万ドル
偽の情報に基づいて投資家に購入を促す詐欺的な行為です。近年は、暗号資産を利用した詐欺が急増しており、巧妙に作り込まれた偽の投資プラットフォームで被害者をだまし、巨額の資金を奪い取ります。
2. ビジネスメール詐欺:27億7015万ドル
経営者や取引先になりすまし、ソーシャルエンジニアリングやコンピューターへの侵入技術を用いてメールアカウントを乗っ取り、「振込先が変更になった」などと偽って、不正な口座に資金を振り込ませます。
3. サポート詐欺:14億6475万ドル
「あなたのPCはウイルスに感染しています」などの偽の警告画面を表示させ、記載された電話番号に連絡させて、偽のサポート料金やウイルス対策ソフト代金を請求します。
「高齢者詐欺」と「暗号資産詐欺」が猛威
サイバー犯罪は年齢層に関係なく人々を襲いますが、その中で特に大きな被害を受けているのがシニア層です。IC3のレポートでも、特に注意が必要な2つの手口――「高齢者詐欺(Elder Fraud)」と「暗号資産(仮想通貨)詐欺」について、特設セクションで詳しく説明しています。
2024年のデータでは、60歳以上のシニア層における相談件数は2023年から46%も増加し、14万7127件となっています。被害額も大きく、被害総額は48億8500万ドルです。平均被害額も8万3000ドルとなっており、全年齢層の平均(1万9372ドル)の4倍以上で、1件あたりの被害がいかに大きいかが分かります
これほどまでにシニア層が狙われるのは、退職金などで比較的多くの資産を保有していること、テクノロジーに不慣れなこと、社会との接点が減ることによる孤独感などが、詐欺師にとって都合の良い条件となっているからです。
暗号資産詐欺が猛威を振るっているのは、暗号資産の匿名性や国際送金の容易さがサイバー犯罪者にとって非常に魅力的なツールとなっているためです。特に2024年、暗号資産が関連する犯罪は爆発的に増加しました。
暗号資産関連の苦情件数は14万9686件、被害額は93億ドルと、こちらも前年から66%も増えており、全サイバー犯罪被害額の半分以上を占めています。全ての年齢層で被害が見られますが、最も被害額・件数が多いのはやはり60歳以上の高齢者層でした(3万3369件、28億3933万ドル)。
最も注意しなければならない手口が、暗号資産投資詐欺――通称「豚の屠殺詐欺(Pig Butchering)」です。被害額は58億ドルと、2023年から47%の増加となっています。詐欺師はSNSやマッチングアプリなどで被害者に接触し、時間をかけて信頼関係を築いたのち、偽の暗号資産投資話を持ち掛けます。まずは少額の取引で利益を出させて信用させ、被害者が大金をつぎ込んだところで資金を引き出せなくして持ち逃げします。
被害に遭わないために「シンプルな原則」を守ること
IC3は、米国のサイバー犯罪対策において、市民社会と法執行機関の間で重要な役割を担っています。一般市民や企業からのサイバー犯罪に関する苦情を、ウェブサイト(www.ic3.gov)で受け付け、収集された膨大なデータを分析し、新たな脅威や傾向を特定します。同時に、詐欺的な取引を迅速に金融機関に警告し、資金凍結します。そして、関連する苦情をまとめ、捜査のために国内外の適切な法執行機関に情報を提供します。一度送金してしまったお金を取り戻すことは極めて難しいのですが、IC3には、資金回収の専門部隊があり、実績を上げています。
2024年の実績
- 対応件数:3020件
- 対象となった盗難未遂額:8億4840万ドル
- 凍結に成功した額:
国内:4億6910万ドル
国際:9250万ドル
合計:5億6160万ドル
IC3のレポートを読んでいて感じるのが、サイバー空間がかつてないほど危険な場所になっているという現実です。被害総額は過去最高を記録し、特にシニア層や暗号資産を利用する人々が深刻な被害に遭っています。投資詐欺やビジネスメール詐欺、サポート詐欺といった手口はより巧妙になり、私たちの資産や情報を虎視眈々と狙っています。
まず重要なのが、私たちひとりひとりからの情報提供です。1件1件の苦情は小さな点に見えるかもしれませんが、対応する組織に情報が集約されることで、点は線となり、巨大な犯罪ネットワークという面が浮かび上がってきます。あなたの報告が、あなた自身や他の誰かのネット詐欺被害を防ぎ、犯人逮捕に繋がるパズルの一片となる可能性があるのです。
そして、被害に遭わないためには、シンプルな原則を守ることが重要です。FBIが提言するのは大きく以下の2つです。
1.「CHECK、CALL、WAIT(確認、電話、待機)」の原則を徹底する
- CHECK:送金やリンクのクリックを求められたら、まずはメールアドレスや電話番号が正しいものか確認する。
- CALL:取引先や知人から支払い指示の変更依頼が来たら、メールで返信するのではなく、以前から知っている確実な電話番号に電話して真偽を確かめる。
- WAIT:確認が取れるまで、決して焦って送金しない。一呼吸おいて待機する。
2. 次のような「詐欺の危険信号」を察知する
- 会ったことのない相手から、暗号資産や金(ゴールド)への投資を勧められた。
- 銀行や政府機関を名乗る者から、犯罪の嫌疑を晴らす、または、口座を保護するために送金するよう要求された。
- テクニカルサポートを名乗り、ウイルス除去やPCの保護のために金銭を要求された。
- 家族が危険な状況にあると告げられ、今すぐ送金しないとさらに危害が及ぶと脅された。
- 現金を引き出して金や銀の延べ棒を購入し、誰かに渡すよう指示された。
- 現金でギフトカードを購入したり、暗号資産ATMに入金したりするよう指示された。
「詐欺の危険信号」に関しては、上記のいずれかに「はい」と答える状況に遭遇したら、それは詐欺であると断じています。直ちに連絡を絶ち、しかるべき窓口(日本では、消費者ホットラインや警察)に相談や報告をしましょう。家族や知人に相談してもOKです。くれぐれも自己判断で対応しないことが重要です。
- 消費者ホットライン:局番なしの「188」
- サイバー事案に関する通報(警察行政手続サイト)
- サイバー事案に関する相談(警察行政手続サイト)
- サイバー事案に関する情報提供(警察行政手続サイト)
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※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと