読めば身に付くネットリテラシー

「だます技術」を学べば、「だまされない力」が身に付く! ネット詐欺対策お勧めの1冊

 今回は、ネット詐欺対策にぴったりの推奨図書を紹介します。今年3月に技術評論社から発刊された「だます技術」という書籍で、著者は株式会社ラック金融犯罪対策センターの方たちです。初代金融犯罪対策センター長を務めた小森美武氏は三菱UFJ銀行のサイバー犯罪対策や金融犯罪対策を担当する部門で働いていましたが、所属している銀行の利用者だけでなく、社会全体を守りたいと考え、2020年にセキュリティ会社のラックに転職したそうです。そして、新たに立ち上げたのが、金融犯罪対策センターです。

「だます技術」(四六判・208ページ、1540円)

 「だます技術」というタイトルがユニークですね。「だまされない技術」とか「ネット詐欺の対策」ではなく、詐欺師側から見た「だます技術」を分かりやすく解説し、“自分事”と感じてもらう仕掛けです。

 書籍の帯のキャッチコピーは「『自分が引っかかるわけない』そう思っている人がカモになる」や「落とし穴はすぐそばに」など、日頃からネット詐欺の啓蒙活動を行っている我々DLISも、激しく同意するフレーズが並んでいます。

 5章構成となっていて、「1章」~「4章」で「本物と錯覚させる」「美味しい話で惹きつける」「話術と仕掛けで信用させる」「考えられない状況に陥れる」などの「だます技術」――すなわち、ネット詐欺でよくあるパターンを手口ごとにまとめて紹介しています。

 一方、ネット詐欺の手口は数あれど、対応策はほぼ共通しています。そこで本書では、手口ごとに対応策を都度説明するのではなく、ネット詐欺にだまされる可能性を下げる方法として「終章」にまとめているなど、読みやすい構成になっています。

「だます技術」目次

  • 【巻頭付録】詐欺一覧表
  • 第1章 本物と錯覚させる
    本物をコピーして同じ見た目にする
    銀行からの手紙と同じ文章を使う
    なりすましで本人だと思わせる
  • 第2章 美味しい話で惹きつける
    「お得なチラシ」と思わせる
    「かんたんに稼げる」で興味を惹く
    「無料」で釣ってアクセスさせる
    「当選しました」で釣る
    コラム ラッキービジター詐欺とは
    「今なら安い」ですぐに買おうとさせる
  • 第3章 話術と仕掛けで信用させる
    実在する役所の部署を装う
    個人情報を使って話すことで信じさせる
    コラム 履歴書に自分の情報を書いただけなのに
    「そうかもしれない」と思わせる理由をつける
    「後ほど担当よりご連絡します」とリアルなやりとりを見せる
    長期間にわたりコミュニケーションをとることで信頼関係を築く
    「仲間がいるから大丈夫」と思わせる
    本当だと一度証明して安心させる
    「なりすましじゃありません」という音声で本人と信じ込ませる
    なりすました人物の動画で信じ込ませる
  • 第4章 考えられない状況に陥れる
    「使えなくなる」不都合で焦らせる
    「盗まれている」で焦らせる
    コラム キャッシュカード詐欺盗の被害者は高齢の女性が多い
    「捕まる」で不安にさせる
    警告画面で焦燥感を煽る
  • 終章 だまされる可能性を下げるには
    パソコンやスマートフォンの通知をオフにする
    メッセージはまず疑う
    オフィシャル情報を確認する
    URLにアクセスする場合は事前にチェックする
    電話番号をチェックする
    広告ブロッカーを利用する
    「相談は恥」と思わない

 とても易しい文章ですが、随所に最新事例をもとにした情報が入っているので、とても役に立ちます。例えば、銀行口座の売買について、通帳も印鑑もカードも渡さず、犯人とも会わずに取引をした事例などが紹介されていました。ネットバンキングを狙った最新の手口です。さすが、金融犯罪対策を専門に手掛けている人たちが書いただけあると感じました。

株式会社ラック金融犯罪対策センターの小森美武氏(金融犯罪対策エバンジェリスト/初代金融犯罪対策センター長)。「1人でも多くの方がだまされないように、被害者が減らせるように何をすべきかということを、我々金融犯罪対策センターが考えた結果が『相手を知り、自分を知る』ことではないか」と考えていると述べ、「だます技術」は「我々の知識・経験を注ぎ込んだ本」だと説明しました(5月27日に行われた報道関係者向けの勉強会で)

 だます技術という切り口なので、いかにも対策方法を勉強しますというよりは、面白い読み物のような感覚で読み進められます。ネット詐欺は、事例を知っていれば被害を回避できる可能性が格段に高まります。特に、手口について詳しく知っていれば、だまされる可能性は下げられます。本書を全部読めば“詐欺センサー”が身に付いて、たとえ今後新たな手口が登場しても詐欺と気付くことができるようになり、“君子危うきに近寄らず”と回避できること請け合いです。

 問題は、本書に興味を持つ人はそもそもリテラシーが高いということです。できれば、リテラシーが低い人に読んで欲しいです。本書の帯に「あなたは見抜けても、親は? 子供は?」と書いてありました。まさにその通りです。

 ぜひ、ご両親がスマホを使い始めたなら、本書をプレゼントして読んでもらうことをお勧めします。どうしても受け取ってもらえない場合は、食事中にでも本書の内容を話題に挙げてください。「知人が詐欺に遭ってさ……」という雑談であれば耳を傾けてくれるかもしれません。

 何はともあれ、ネットを使う人全てが知っておくべき内容になっています。ぜひ、一読することをお勧めします。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと