山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

春節に「ネット強国」の歌が配信される ほか~2015年2月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

春節に「ネット強国」の歌が配信される

 春節前には、大晦日に「春節聯歓晩会」という歌ありコントありの番組が人気となるが、それに倣ったのか、春節前に、中国首都互聯網協会(中国首都インターネット協会)が独自で行った春節聯歓晩会のような催しで、中国を称え、インターネット強国を目指す、プロパガンダ色が強い「網信精神(Internet Sprit)」という歌が歌われた。動画サイトでもこの様子はアップされ、その前時代的な雰囲気もあいまって話題となった。

中国語で歌っているが、英文訳が字幕として載る動画も。「網絡強国(ネット強国)」を「InternetSuperpower」と訳している

 中国流インターネット強国を目指し、クラウドが絡む外国サービスを封じる動きが引き続き見られる。2月にはセキュリティソフトのAvastの更新ができなくなった。

 春節には、Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が中国式挨拶をし、中国市場に進出すべく再度ラブコールを送ったが、中国国産サービスを強めようという流れの中で、参入は難しい。

 脱外国産ネットサービスの動きで一番影響があるのは米国のサービスだが、米国ワシントンポストは、議院で中国に、多くのネットの壁越えツールを提供するという提案を通すべきという社説を発表。国境を持ったクローズなインターネットに対して、自由でオープンなインターネットサイドが国単位でアクションを起こしていくかもしれない。

春節で旅行熱。中国メディアも中国人の日本での爆買を伝える

 百度に次ぐ検索サイト「捜狗」の春節ネットレポートによれば、春節開始1カ月前からの検索で、海外旅行についての検索数が国内旅行の検索数の倍近くあり、その中でも日本についての検索数は多かったという。デバイス別の検索数は、パソコンからの検索は去年の春節比で35%増、スマートフォンなどモバイル機器からは3倍増となったとしている。

日本特集サイトを掲載する旅行サイトも

 日本では、春節期間に日本にやってきた中国人観光客が日本商品をたくさん買う様子が注目されたが、中国メディアもその爆買ぶりを報じた。また、日本製品を過剰に購入していると判断したのか、テレビでは日本メーカーと中国メーカーの炊飯器対決を行う番組を放映した。

日中炊飯器対決をする中国メディア

 日本製品ばかりを買う同胞の姿に、中国版ネット右翼こと「憤青(または糞青)」なる人々の非国民だと投げかける声もあったが、個人の所得が増え、海外旅行に行く人が少なくない今、爆買行為に対する声は団結して大きなうねりを生み出すほどではなかった。

 海外で買い物をしようとする動きに合わせ、オンラインショッピングサイト「天猫(Tmall)」「淘宝網(Taobao)」は、海外ブランドの製品を対象とした特別セールを実施。11月11日商戦「双十一」、12月12日商戦「双十二」に続き、春節を海外製品セール日としようとしているという。セブン-イレブンやマクドナルドのショップが安くなったほか、海外旅行客の移動が便利になる、日本のチャージ済みSuica、香港の八達通(オクトパスカード)などをセール価格で販売した。

Suicaを販売するショップ

春節で紅包大戦。ユーザーの財布を握るべく、ネット企業が巨額のばらまき

 春節を迎え、ネット企業各社が、伝統的な金一封を渡す「紅包」のネット版を行った。すなわちユーザーがサイトを訪れたり、検索したり、指定の時間にアプリを起動させてスマートフォンを振ったりすると、紅包が落ちるように各社が仕掛けた。各社サイトだけでなく、国民的番組である春節聯歓晩会をも巻き込んで、金でサイト利用者を掴もうとしたのである。

 特に注目を集めたのが、微博(新浪)&支付宝(阿里巴巴)連合、微信&微信支付(騰訊)、QQ&QQ銭包(騰訊)の3サービス。特に支付宝と微信支付は、エスクローサービスでありながらいったん電子マネーとしてスプールするので、このサービスを制したものが、ユーザーの財布を握ることになるとあってキャンペーンも目立っていた。

 メディアの報道によれば、今年の紅包大戦では、800万ユーザーが何度も紅包キャンペーンに参加。各ネット企業の合計で、100億元(約1900億円)もの金をばらまいたという。

 紅包は個人対個人で送り合うこともできる。法の整備がされる前に盛り上がったため、利用者が紅包という名の送金で脱税や賄賂を送る可能性があり、法の整備が必要とメディアは提案する。

春節で、映画チケットの定番サイトを巡るサイト間の競争が激化

 近年では春節の大型連休に、映画を見に行く人が増えた。レストランやホテルなどの口コミサイトの雄「大衆点評」は、2億元(約39億円)を投じて、中国全土の半数以上の映画館のチケットを9.9元(195円)という低価格でユーザーに提供した。春節の元旦には、オンライン映画チケットの1割にあたる70万枚を同サイトから販売した。

 一方、「美団」も2億元を投入し、中国全土で上映される映画「天降雄獅」のチケットを15元(290円)で、その他の映画チケットを19.9元(約390円)で提供。春節の元旦には販売額が1億元を突破した。

 春節の元旦からの5日間で、映画収入は14億9100万元を記録した。去年は春節開始から7日かかった記録である。中国の映画市場は毎年30%のペースで増加している。ネット企業のシェア争いから、映画業界が伸びる相乗効果が期待できるだろう。

小中学生はタブレットとスマートフォンを両方使いこなす

 百度は、「00后移動互聯網用戸報告(2000年代生まれのモバイルインターネットユーザーレポート)」を発表した。00后(2000年代生まれ)は、6歳から15歳の主に小中学生のインターネットユーザーであり、この年代についてのレポートは珍しい。

 00后(2000年代生まれ)のインターネット利用を見てみると、教育用や子供の面倒を見るために買い与えられ使っているのだろう、他の世代に比べてタブレット利用率が高く、スマートフォンとタブレットの2台を利用する傾向が見られる。

 一方で自由に使えるわけではなく、勉強が忙しいために利用は週末に集中。テスト時期には、テスト前にはアプリをアンインストールして、テスト後に再インストールする。そのため、さまざまなゲームを入れては消す傾向があり、ロングテール型でさまざまなゲーム(特に斬新なゲーム)が遊ばれる一方、粘性があまりないとも言える。主に音楽やゲームを遊ぶために使われる。パズルゲームやキャラクターゲームは好きだが、トランプや麻雀などの伝統的なテーブルゲームのアプリは嫌い。また、画像捜索や音声による捜索を好んで行うという。

ニセアカウント撲滅へ新ルール規定

 2月4日、国家互聯網信息方公室は、不良アカウント名を規制する「互聯網用戸〓号名称管理規定(略称:〓号十条)」。(〓は貝へんに長)を発布した。対象となるアカウントは、この手の規制では常にNGとなる、反中国政府的な名称のアカウント名のほか、有名人の画像や名称を使ったニセアカウントも対象となるようだ。中国メディアの報道によると、ニセ政府アカウントやニセ「人民日報」アカウント、ニセ「プーチン」アカウントなど、6万ものニセアカウントがあることが確認されている。こうした混乱を招きかねないアカウントの撲滅の一方、アカウント実名制になるのではないか、と危ぐする声も出ている。

タクシー呼び出しアプリのトップ2社が提携

 2014年から話題になったタクシー呼び出しアプリ。特に阿里巴巴系の「快的打車」と騰訊系の「滴滴打車」は、多額の投資を行い、乗車毎に運転手と乗客双方に金一封「紅包」を提供したことから、一気にタクシー呼び出しアプリは普及した。

 タクシー呼び出しアプリで熾烈なトップ争いをする快的打車と滴滴打車の両社が、合併を発表した。中国の消費者にとってはさほど大きな話題ではないが、中国3大ネット企業の2社「阿里巴巴」と「騰訊」の競合するサービスが合併したため、ネット業界の反応は大きかった。独占禁止法にひっかからないように、合併後も両ブランドは継続される。

2大タクシー配車アプリ合併のニュース

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。