山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
軍事パレードを前にVPNなど壁越えツールの取り締まりへ ほか~2015年9月
(2015/10/20 06:00)
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
軍事パレードを前にVPNなど壁越えツールの取り締まりへ
9月3日に北京で軍事パレードが行われたが、その前にこのパレードや天津大爆発、株式市場についてデマを流したとして、197人を処分し、165のアカウントをクローズしたという報道が中国であった。
その前の8月29日には、ハイテク企業が集まる中関村がある北京市海淀区の公安局が、VPNやDNSなどのネットの壁越えツールのダウンロードリンクの公開をやめるよう通達する文章が流れ、VPNに関心のある一部の中国人の間で話題に。また、香港の南華早報(サウスチャイナモーニングポスト)によると、中国でVPNサービスを提供するAstrillが「サイバー万里の長城(別名グレートファイアウォール)が、IPSec VPN対策のアップデートがされた」として、ユーザーに「おそらく利用できなくなる」と通知。実際に使えなくなった。この影響か、9月になって百度でVPNに関する検索数が一気に減少した。
今までのところ、中国語で検索して入手しやすい壁越えツールがターゲットになっているようで、在中外国人には大きな影響はないように思える。
米国と中国、サイバー攻撃によるスパイ活動をしないとの共同声明
9月25日、オバマ大統領と習近平国家主席は、米中首脳会談後の共同記者会見で「双方とも知的財産を盗むサイバー攻撃を実行せず、支援しないこと合意した」と発表した。
米中首脳会談での習近平国家主席の訪米を前に、米国サイドが、中国のサイバー攻撃を止めるための措置を行う準備があると発表していた。この影響があるのか、普段は中国サイドは「中国はハッキングの被害者」「中国はハッカーを支援することはない」と一貫して説明しているが、中国側が折れたのか、このような米中共同声明となった。これに触れる中国のメディアは少なく、ポータルサイトの新浪が「双方のネットのスパイ活動について共同の認識を持った」程度の報道となっている。
習近平国家主席の訪米により、米中IT企業トップが一堂に会する
米中首脳会談に先立ち、習近平国家主席はシアトルを訪問し、8回目の開催となる「中美互聯網論壇(中国アメリカインターネットフォーラム)」に参加。そこでは、習近平国家主席と並んで、米中のIT企業のトップが勢ぞろいする写真を撮影して話題に。その顔触れは、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏や、Microsoftのサトヤ・ナデラ氏、Appleのティム・クック氏、Yahoo!創業者のジェリー・ヤン氏ほか、Amazon、LinkedIn、Airbnb、IBM、Intel、AMDのCEOがそろった。中国側は阿里巴巴の馬雲氏、テンセントの馬化騰氏、百度の張亜勤氏(社長)、つまり「BAT」と呼ばれるビッグ3企業のトップを筆頭に、ポータルサイトでは新浪の曹国偉氏、捜狐の張朝陽氏、ECでは京東の劉強東氏、レノボCEOの楊元慶氏など、やはり中国のIT事情を知る中国人ならおなじみのメンバーがそろうものとなった。
ネット規制でアクセスできないTwitterやGoogleの関係者は参加していないが、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏が顔ぶれにあるあたり、Facebookの中国進出を期待する声も若干出た。
2大サイトの接近で、口コミでのモバイルECが加速
中国のネット企業は、検索の百度(Baidu)、ECの阿里巴巴(Alibaba)、SNSの騰訊(Tencent)の3社の頭文字をとった「BAT」の3社の力が非常に強く、3社それぞれが競い合っている。3社は競い合っているゆえに、騰訊のSNS「微信」などから阿里巴巴の「淘宝網(Taobao)」や「天猫(Tmall)」への誘導はAPIが用意されておらず、手作業で(特にスマートフォンの作業において)淘宝網や天猫の商品を微信上で紹介するのは面倒であった。
そんな中、9月14日に、阿里巴巴は「内容開放計画」を発表した。APIを用意し、ライバルの騰訊のSNS上でもモバイル向け淘宝網のサイトに誘導できるようになる。さらに微信などの他サイトで紹介された商品情報について、多くの人を誘導した優良なコンテンツについてアフィリエイト的なものを出すべく、3年間で20億元(380億円)の予算を用意したと発表した。モバイル向け淘宝網のアクティブユーザー数は年2倍以上の伸びを見せていて、最新のデータでは1億1000万となっている。
今年2月には、配車サービスで競争していた阿里巴巴配下の「快的打車」と騰訊配下の「滴滴打車」が合併、10月にはクーポン購入サイトで両者が共同でサイトを立ち上げるという話が出ている。淘宝網や天猫利用で阿里巴巴の会員登録をしているユーザーや、微信やチャット「QQ」、ブログ「QQ空間」で会員登録をしているユーザーは非常に多く、両社の接近で、ユーザーにとっては便利になる。
iOS向けのマルウェア「XcodeGhost」が中国から拡散
セキュリティ企業のPalo Alto Networksが、中国製のiOSアプリの一部にマルウェアが混入していると発表した。これはAppleによる開発環境「Xcode」を改変したものが、中国の非公式サイトからダウンロードした開発者の間で出回ったことから、「XcodeGhost」と呼ばれている。中国ではiPhoneなどiOSデバイスのJailbreak利用率が高いが、非公式だけでなくオフィシャルなApp StoreでもXcodeGhostが混入されたアプリが配信され、しかもそのアプリは中小ベンダーのアプリだけにとどまらず、「微信(WeChat)」「高徳地図」「滴滴打車」といったメジャーアプリから、「アングリーバード2」「ワンピース」といったゲームアプリ、それに「百度音楽」「網易雲音楽」といった音楽アプリまで、メジャーどころの多くのアプリまでが感染した。その数は800を超えるとも言われた。
XcodeGhostは、クリップボードの情報をサーバーに送ったり、偽装したiCloudへのログインプロンプトを表示し、入力された情報をサーバーに送るなどする。中国では、大手ポータルサイトで報道されるだけでなく、テレビの権威的なニュース番組でもこの問題を8分にわたり取り上げるなど、大きく紹介された。
その後、XcodeGhostを作成したと自称する人が、コードに広告を付けて私欲のために作ったが、サーバーも閉鎖し、あらゆる関連データを削除したとコメントを発表した。
スマホ・携帯のデータ通信量の総計が去年のおよそ倍に
中国政府工業和信息化部(工信部)の発表によると、今年1~7月におけるスマートフォン・携帯電話によるデータ通信量の総計は、前年同期比95.3%増の1.88エクサバイト(≒200万テラバイト)となり、7月の1カ月のデータ通信量の総計は330ペタバイトと、これまでで最大となった。利用者の毎月のデータ通信量では、前年同期比85.1%増の平均は330メガバイトとなった。一方、「微信(WeChat)」などの普及により、ショートメールのデータ量は同21.6%減少した。
モバイル通信の契約数は7月末の段階で12億9500万で、3G/4Gの契約数を合わせると全体の半数強となる6億9500万(4Gは2億5000万)。7月には4G契約者数が2505万増える一方で、3Gは437万減っており、徐々に4Gへの移行が進んでいる。通信企業協会によると、2015年8月の携帯電話出荷台数は4738万台で、うちスマートフォンは4158万台、4G対応機種は4071万台と、ほぼ発売されているスマートフォンは4G対応となっている。
有力地図サイトと微博がビッグデータで提携
阿里巴巴系の有力地図サイト「高徳地図」と、ポータルサイトの新浪の「微博(Weibo)」の両社は、地図と微博を組み合わせた権威的な交通情報サービスプラットフォーム「V交通」を発表した。微博には、中国の公務員アカウントが多数あり、政府公式情報を発信し、ネットユーザーからの質問に対応している(これを「微博問政」という)。多数ある交通系の警察アカウントをはじめとした微博で配信される交通情報のビッグデータと、地図サイトの交通情報のビッグデータを組み合わせ、よりクオリティが高い情報発信を微博で行い、交通情報において権威的なものにする。すでに北京・上海・広州・武漢など45の都市でサービスを開始し、まずは「車速別都市ランキング」を掲載している。