山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

Microsoftが地場企業と提携、「Windows 10 中国政府版」発表 ほか〜2015年12月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

Microsoftが地場企業と提携、「Windows 10 中国政府版」発表

 Microsoftは、地場の企業「中国電子科技集団」と提携し、「中国政府関係向けに安全に利用できる」ことを謳った専用のWindows 10をリリースすることを「世界互聯網大会(世界インターネット大会)」で発表した。資本比率が中国電子科技が51%、Microsoftが49%の合資会社「C&M Information Technologies(中国微軟信息科技)」を設立する。

 中国メディアの報道によれば、去年の4月からこの話が持ち上がり、9月には米国のシアトルで開催された「中美互聯網論壇(中国アメリカインターネットフォーラム。本連載2015年9月日付記事を参照)」で、中国電子科技集団がMicrosoftのサティア・ナデラCEOに相談していたという。

 Appleの中国展開のために、中国ユーザー向けのサーバーを中国電信(ChinaTelecom)の施設内に設置するなど、クラウドを活用するシリコンバレーのサービスや製品には、米国に情報がだだ漏れだと危ぐする声が挙がっていて、Windows 8以降、中国政府の購入可能製品リストからWindowsは外されていた。

 また、12月27日には、反恐法(反テロ法)が全人代常務委員会で可決。暗号化した製品をリリースする際には中国当局の要求によりデータを開示するためのバックドアを用意することを義務化しようとしたが、海外企業の猛反対を受け、その部分の文章は無くなっている。

中国主催の「世界ネット大会」開催、会場内は自由なネットに

 中国が主賓となり、習近平国家主席、中国のIT企業のトップ、世界のIT企業のトップが集うことを謳う「世界互聯網大会(世界インターネット大会)」が開催された。2014年11月の開催に続き、2度目の開催となる。前回は北京開催のAPECに続き、ネット規制が解除され、会場内の特定の無線LANスポットから自由にアクセスができたが、今回もまた同様の手法で自由なネットが局所的に提供された。会場は戦車や軍を導入するなど厳重な警備となり、反体制的と認定された西側メディアを除いたメディアの記者を招いた。

中国互聯網大会のサイト

 今回も、中国政府関係者に加え、中国のネット業界の柱となる阿里巴巴(Alibaba)、騰訊(Tencent)、百度(Baidu)ほか、中国企業では、著名ネット企業トップほか、スマートフォンメーカーやチップメーカーのトップ、キャリア各社トップが集結。Apple、Amazon、Google、Facebookなどの世界の著名企業のトップを呼ぶと報道されていたが、蓋を開ければ、西側諸国はNokia、Airbnb、LinkedInのトップと、Apple、Microsoft、Cisco、SAPの中華圏を担当する副CEOが参加する程度となった。目立ったところでは、ロシアのメドベージェフ首相を筆頭に、アジア・アフリカ・南米諸国のトップや電信企業担当者が目立ったという点だろう。

 この大会で習近平国家主席は、「一部の国だけが決定して運用するのではなく、すべての国が運用し、多くの国が利益を共有するインターネット環境を構築すべき」と提案した。

中国互聯網大会の参加者

2015年の検索傾向が発表される

 Googleが2015年の検索ワードを発表するころ、百度も2015年の検索ワードを発表した。注目を浴びたのは軍事パレードが話題となった「抗日勝利70年式典」。ニュースでトップになったほか、百科事典サイト「百度百科」でも最も読まれた記事に。日本絡みのニュースでは、小笠原諸島でのM8.5の地震も話題に。また、日本でいえばSTAP細胞にまつわる発言のような、三面記事で目立った中国国内の発言がよく検索された。

2015年の百度検索ランキング

 朝には宝くじの結果、天気予報、カレンダー、PM2.5、ニュースサイトが検索され、食事どきには動画サイト、ECサイト、宅配追跡サービス、WEB版微信、鉄道切符などが検索され、夜には動画サイトの単語がよく検索された。人気アプリでは、チャットアプリ「QQ」「微信」や、動画アプリ「愛奇藝」「優酷」「騰訊視頻」が、ゲームでは走り抜ける系のゲームほか、定番の「CandyCrash」のようなゲームが人気。

 2000年代生まれ(6〜15歳)の若者が注目する検索ランキングでは、ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」がトップ。また、定番の動画サイトのほか、ニコニコ動画に似た「bilibili動画」が上位に。bilibili動画は日本のアニメの放映など、日本のサブカル色が強いことで知られているが、年を重ねることに日本のアニメやゲームに関心を持たなくなるため、今の若者に日本のサブカル文化がが人気でも、その後に日本好きになることに過剰期待してはいけない。

Uberに仕打ち。Uber側は「不公平」と不満

 中国でUberに始まる配車サービスが盛り上がり、中国では中国産サービスの「滴滴快的」がユーザーへの金一封のばら撒きなどでユーザーをつかみ、Uber自体は滴滴快的に後れをとっている。Uberは10月に上海にできた自由貿易区に会社を構え、サーバーを中国国内に設置し、本腰を入れ始めたが、それからわずか2カ月の12月頭には苦境に立たされた。

 24時間内に100を超えるUber絡みの微信(WeChat)アカウントが消されたのだ。Uber側は「滴滴快的は微信の騰訊が投資をしているのは知っている。騰訊が独占するために、理不尽な圧力をかけたのだ。ICP許可証は申請をしたがいつまでも出さず、営業すると我々の問題となる」と不満をいう。一方、微信側は「個人情報を不当に取得しようとし、シェアを進め、許可なきまま経営しようとしたのが原因」と発表。中国メディアは異なる文化は中国には入りにくいと解説。

ECの阿里巴巴、香港有力メディアを買収

 阿里巴巴は、香港の有力英字誌「サウスチャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)」の買収を発表した。買収額は2億6600万ドル。阿里巴巴の執行副主席の蔡崇信氏は、読者に対して「阿里巴巴のIT技術の力で同誌をより広く広めたい。そのために一定の準備期間の後、有料コンテンツを無料で提供していきたい」としている。

 しかしながら、香港や外国メディアでは報道の自由がある香港メディアを、言論の自由がない中国大陸の企業が買収することで、偏った内容の媒体にならないか、と不安視される声が当然のように出た。その一方で中国メディアや中国の投資家らは、今までの偏った中国批判記事ばかりでなく、多角化し、実際の中国の状況に見合ったメディアにすべき、と中国的視点では「中国批判ばかりの内容をバランスのよい内容に」という期待をしている。

切符予約サイトの難しすぎる画像認証に不満続出

 中国全土の長距離列車の切符が変える「12306」というサイトでの画像認証が難しすぎるとクレームが出ている。ユーザーとパスワードを入力する部分の下に、8枚の画像が表示され、問題の答に合った画像を複数枚選択するというもの。外国人はもちろん、中国人すら分からないような難問も多く混ざっているため、ネットユーザーの間で「難しすぎる」とネットのお祭りのような話題のトピックへと変化した。

 鉄道予約サイトの12306はもともと、平時はどうにかなっても、年末年始から春節にかけての予約はインフラが追いついておらず、毎年のように担当者は「来年(数年後)にはシステムが完成する」というコメントを発表しては、安定したシステムは未完のまま運用されている。今年の人民大移動となる春節切符の争奪戦時も、高難易度の画像選択で試行錯誤している間に、システムにアクセスできなくなったり、予約が埋まってしまうのではないかと不安な声ばかりだ。

鉄道予約サイトの画像認証

百度、自動運転車に本腰

 12月10日、百度は同社が研究開発していた自動運転車のテスト走行を北京市内で行い、一般道での走行にとどまらず、追い越し・レーン変更・高速道の走行などをも行った。14日には自動駕駛事業部(自動運転車事業部)を設立。研究開発から実用化へと進んだと中国メディアは分析する。

 中国は日本と異なり、新技術を法整備の前に導入してしまって、それから法整備が追いつくという商習慣がある。ドローンも日本よりも早く個人に普及している。自動運転車も個人や企業や宅配業者の間で一気に普及するのではないか。

百度の自動運転車

オンラインバンキングでの振込が無料に

 中央銀行の指示により、70の銀行でオンラインバンキングでの一定金額以下の振込が無料となった。振込は有料どころか、近年まで振込自体ができなかったため、中国では長らく、エスクローサービスである阿里巴巴の「支付宝(Alipay)」が振込の代わりとなっていて、支付宝にいったんチャージし、別の銀行に振り込む手段をとっていた。一方で、支付宝やそれを追う「微信支付」は振込手数料を有料化しようと模索している。ようやっと、銀行間振込の役割を支付宝は終えることになりそうだ。

12月12日はリアルショップを舞台に支払いサービスで利用者呼び込み

 中国で11月11日は「双十一」と呼ばれるEC祭りとして定着したが、12月12日も消費者を動かそうと祭りにしようと各社企んでいる。以前、11月11日は天猫(Tmall)の日だから、12月12日を淘宝網(Taobao)の日としようとしたものの、大きな流れにならなかったからか、阿里巴巴と騰訊は、ショッピングモールなどのリアルショップで支付宝や微信支付を電子マネーとしてお得に使ってもらおうという動きに出た。両者とも使うことで特定の商品が半額となったり、店舗で使える商品券がもらえるなど、あの手この手で消費者に使わせた。3G/4Gユーザーは4億を超え、支付宝も4億超のユーザーを抱えているが、この日は2800万人がこの電子マネー祭りに参加した。土曜日ではあったが利用率は高くなく、リアルショップを活性化させるほどの大きなうねりとはなっていないようだ。

 なお、余談となるが、支付宝は、2015年3月にドイツで開催された「CeBIT」で公開していた顔認識ログイン技術を12月に搭載し始めた。アップデートでさまざまな最新技術を導入している。この辺の新技術の対応も微信支付との競争ポイントになるかもしれない。

リアルショップに貼り出された12月12日キャンペーン予告

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。近著は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」(星海社新書)。そのほか、「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などの著書がある。