山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
Twitterの140字制限撤廃報道を受けて「微博」も140字制限撤廃 ほか~2016年1月
(2016/2/16 06:00)
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
台湾総統選で、中国人がGFWを越え、Facebookのページを荒らす
台湾次期総統選挙が1月16日に行われ、一部の中国のインターネットユーザーが、親中でない蔡英文氏や、メディアの蘋果日報(アップルデイリー)、三立新聞網のFacebookページに大量の反台湾独立の書き込みを行い、コメント欄を埋め尽くした。これは百度の掲示板群「百度貼バ」(バは口へんに巴)の人気掲示板「李毅バ(略称:帝バ)」の利用者らが計画した、「帝バFB出征」という名の、「Facebookに出向いて台湾独立反対を書き込もう」という計画によるもの。計画は多くのユーザーを抱える李毅バで周到に準備は行われた。この計画を前に微博(Weibo)や微信(WeChat)、QQで外部に募集をかけ、より参加者が増えた中で、20日19時から一斉に台湾独立反対の書き込みがされた。中国国内で近年見ないほどにFacebookなど中国国外にアクセスする「VPN」の注目度があがり、多くの人が、Facebookにアクセスし、台湾独立反対の文字や用意した画像を貼り付けた。
台湾で注目の総統選挙で、多くの大陸からの荒らしのような書き込みがあったことは、多くの台湾人が目にし、台湾メディアが紹介し、荒らしの行為が結果として蔡英文氏当選の追い風となった。一方、中国メディアは、この荒らし行為をおかしいということはなく、肯定するような論調で紹介している。
百度の掲示板群で百度による管理人すり替えが話題に
中国のメディアが上記の台湾総統選の帝バ以上に話題にした百度貼バの話題があった。百度貼バ内の掲示板「血友病バ」で、突然管理人が予告なく管理の権限がなくなり、代わって、血友病研究員院長が専門家として、掲示板の管理人になり、中国血友之家オフィシャルサイトに関する詐欺行為に関するスレッドが次々消えた。
これを「百度が商業主義で、金を積まれてスレッドを勝手に売った」と多くのユーザーが不満を出し、メディアもこれを紹介し、大きなうねりとなった。百度は後日、謝罪の記者会見をし「悪例とし戒める」とした。
Twitterの140字制限撤廃報道を受けて「微博」も140字制限撤廃
米Re/codeが1月5日、Twitterが140字の制限を1万字まで拡張するだろうと報じ、Twitterのジャック・ドーシーCEOが文字数制限拡張に前向きなツイートを行った。
1月20日、ポータルサイトの新浪(Sina)がTwitterの後を追ってリリースした140字制限のミニブログ「微博」が、同サービスについて140字制限を2000字制限にすると発表。微博はバージョンアップした後、140字を超えた場合、冒頭の140字だけ表示され、そのあと全文が表示されるリンクが生成されるという。早ければ2月28日にも一般ユーザー向けに開放される。
旬なはずのO2O、うまくいかず
近年、中国のインターネット業界で注目のワード「O2O(Online to Offline)」がうまくいっていないとして、さまざまなメディアがその現実を報道している。うまくいっているのはレストランや食堂による食品のデリバリー(出前)くらいで、マンション群という小さな地域単位での食品の配送や家事サービス、個人向け家庭出張サービスで成功した企業は聞かない。1月には、口コミサイト最大手の「大衆点評」のO2Oサービスが終了したことが、中でも話題となった。
O2Oサービスが軌道に乗らないのは、昨年、ネット関連株を含め中国株が大幅に下落し、それによりベンチャー企業への投資がストップしたことが大きい。投資があれば、先行投資で、紅包(金一封)を利用者に送る赤字覚悟のキャンペーンを打って客を増やしてさらに投資を呼ぶことができたが、それができなくなってしまった。利用者がいれば口コミで増えて業界が活性化するが、利用者不在の状態で資金がなければ、技術はあっても普及はしない。こうしたことからO2Oサービスが停滞していることが挙げられる。さらに市場があまりに小さいため、他のブラッシュアップされた中国全土向けのサービスと比べると、更新速度が遅いなど、常に在庫切れなど、クオリティが低いことも挙げられる。
信頼が肝のB2C ECサイトでニセモノ販売、越境ECでも
中国の人気ECサイトは、淘宝網(Taobao)から天猫(Tmall)へと移行しているが、その理由として、C2C(個人対個人)の淘宝網はニセモノが混ざっているリスクがあり、B2C(企業対個人)の天猫なら、名のある企業のオフィシャルショップが販売するなら、本物が確実に届くから――という理由で、若干淘宝網より高くても買われがちだ。こうした風潮から、天猫をはじめとしたいくつかの有力なB2Cサイトが利用されている。
ところが有力なB2Cサイトの1つ「唯品会」で、同サイトが販売する著名な中国酒「五粮液」にニセモノが混ざっていたことが、客からの苦情で判明。回収作業は行ったが、絶対本物のB2Cサイトでニセモノが販売されたとして、B2Cサイトにも信頼に傷が付いた。
また、大手ポータルサイト「網易(ネットイース)」による、三井物産と提携した日本の商品を主に販売する越境ECサイト「考拉(kaola)」においても、ユニ・チャームのおむつにニセモノが混ざっていたことが判明。「大手サイトのB2C越境ECサイトでもニセモノが混ざるのか」と、驚くネットユーザーも。
全人口におけるインターネット利用率が半数を超える
中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は1月22日、2015年末における中国のインターネット利用状況をまとめた「第37次中国互換網発展状況統計報告」を発表。それによると、中国における2015年末時点のインターネット利用者は6億8800万人となった。この数字は半年で2000万人、年間で3900万人増となる。モバイルによるインターネット利用者は6億2000万人で、利用者の多くがパソコンと3G・4Gスマートフォンを併用している。
利用実態については、この半年で3G/4G普及による動画視聴者が目立って増加し、支付宝・微信支付の2大オンラインペイメントサービス(エスクローサービス)が、一気にリアル店舗でも導入されていることから、利用者が増加。またオンラインショッピングや旅行予約の利用者もスマートフォンユーザーを中心に増えた。反面、SNS系は利用が増えず、微信やQQに集約されているようだ。
2015年に固定回線も移動回線も高速化
中国の情報産業省にあたる中国工業和信息化部は1月21日、2015年の通信の普及状況などをまとめた「2015年通信運営業統計公報」を発表。携帯電話加入者数は13億600万で、普及率は95.5%。2Gユーザーが1億8300万減少する一方で、4Gユーザーは2億8894万増加し、年末には3億8622万に。携帯電話ユーザーの3割近くが4Gユーザーとなった。その4Gユーザーの少なく見ても半数以上が、中国主導の中国移動(China Mobile)によるTD-LTE方式。2億5000万ユーザーを抱え、月2000万ユーザー増加している。1ユーザーあたりのモバイルによる月平均利用データ量は、前年比89.9%増の389.3MBとなった。
また、固定回線のインターネット加入者数は1288万増の2億1300万戸に。うちFTTH加入が5140万増の1億2000万とほぼ倍増し、ブロードバンド回線の半数以上がFTTHになった。8Mbps以上の高速回線ユーザーがブロードバンド回線ユーザー全体の69.9%、20Mbps以上が33.4%と、固定回線も高速化した。それまでにもインフラはあったが、2015年に一気に高速化したわけだ。
「2016年全国ネット宣伝工作会議」で「より監視を強化」
1月5日、「2016年全国ネット宣伝工作会議」という会議が北京で開催された。今年はさらにネット世論対策を強化するという話であったが、また、2015年を振り返って分析も行った。
2015年の大きな事件として、PM2.5の公害問題を訴えたビデオ「穹頂之下」公開や天津大爆発、長江での観光船沈没、北京のユニクロ店舗での破廉恥なビデオ公開事件などを挙げた。いずれも社会問題ではあるが、PM2.5問題提起ビデオについては、「多くのメディアや公衆が問題視し、共通の問題意識ができていいこと」とまとめるが、天津大爆発や観光船沈没やユニクロ破廉恥ビデオに関しては、(いうことを聞く)大メディアと歩みを同じくしない中小のいくつかの“不良媒体(メディア)”を問題視。「大V」と呼ばれるフォロワー数が多く発言力があるアルファブロガーは、圧力があるので2014年よりはおとなしかったとしている。また、ユニクロ破廉恥ビデオ事件は、微信(WeChat)による小さなコミュニティでも拡散される案件だとし、今後も注意が必要としている。
全般論として、相変わらず民間がつくるネット世論はリスクが非常に大きいとしたほか、民間のネット世論部門が台頭し、従来のオフィシャルなネット世論分析が誤報だらけだとして信用されなくなっていると警鐘を鳴らした。