山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

春節の海外旅行でモバイルルーターレンタルの利用が進む ほか~2016年2月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

春節の海外旅行でモバイルルーターレンタルの利用が進む

 毎年1月から2月にかけては中国最大の伝統イベント「春節」がある。今年の春節は2月7日で、1週間休みとなった。春節では、多数の中国人が日本に爆買い旅行に来たのが日本では話題になった。複数の調査会社が春節の旅行レポートを出したが、レポートには差こそあれ、海外旅行のニーズは高まり、海外旅行先としては日本かタイが一番人気だったとしている。

 中国の空港の国際ターミナルでは、海外で利用できるSIMカードの自動販売機をよく見るようになったが、SIMカードは個人旅行者向けであり、一方でモバイルルーターは同行者とシェアできることから、家族やグループ旅行がメジャーな中国ではレンタルルーターが人気だ。中国で著名な旅行予約サイト「携程旅行網」では、モバイルルーターレンタルを行っていて、日本での利用は1日10元(約170円)という、中国のキャリアと比べても格安でレンタルを行っていてシェアを獲得している。モバイルルーターのレンタル価格は各国向けともに、前年比で半額以下の価格になりお手軽になっている。

空港の各国向けSIMカードの自販機
「携程」のレンタルモバイルルーター

 同社が発表した「2015-2016年出境WiFi報告」によると、最もレンタルされるのが日本向けで、3割強が日本向けとなっている。また、上海発レンタルが半数弱、北京発レンタルが2割弱、残りが他都市発となっている。現地でモバイルルーターを通して利用するアプリでは、多い順から「SNS」「地図」「旅行」「検索」「ニュース」「ゲーム」となっている。

現地におけるレンタルモバイルルーターでの利用アプリ

春節で“ながら視聴”がさらに進む

 春節で盛り上がるのは旅行だけではない。中国国内ではネットを活用したプロモーションが盛んになった。

 春節といえば、大晦日となる2月6日に放送の国民的番組の中国版紅白「春晩」だが、これも視聴スタイルが変わりつつある。6億9000万人がテレビで視聴する一方、1億3800万人がネットのライブ配信で視聴した。「新浪(Sina)」のミニブログ「微博(Weibo)」は、これを活用してもらおうと、芸能人ら著名人に微博で春晩の感想をつぶやかせることに。これにより多くの一般人が微博になだれ込み、微博の当日のアクティブユーザーは31%増の1億3400万まで増えた。

 なお、日本ではニコニコ動画でも放送されたが、ニコニコ動画に続いて弾幕機能を搭載した中国の動画サイトでは、春晩の弾幕機能はまだ搭載せず。中国は最新のテクノロジーをとりあえず導入してしまうきらいがあり、今回の春晩では、ドローンも活用されたが、中国での弾幕採用は保留となったようだ。

春節で電子マネーの紅包(金一封)が飛び交う

 新年のメッセージでは、SMSによる「あけおめ(新年快楽)」メールの勢いが衰え、騰訊(テンセント)のメッセンジャーの「微信(WeChat)」「QQ」によるメッセージや、お年玉のような金一封を送る機能「紅包」がより普及した。紅包を送れるサービスでは、阿里巴巴(アリババ)による、エスクローサービス兼電子マネーの「支付宝(Alipay)」と、微信、QQ、微博があり、個人同士の紅包の送り合いもさることながら、それ以上に企業からの紅包を期待して多くのネットユーザーが紅包をもらう臨戦態勢となる。企業側も認知してもらう機会として、広告に力を入れる企業は100万元(約1750万円)以上のお金をネットユーザーにばらまき(特に中国スマートフォンメーカーが多かった)、力のない企業も企業有名人連合という枠で紅包をばらまいた。

多くの企業が紅包でPRにつとめた

 結果、微信の紅包利用者は4億2000万人(総発送数は昨年の8倍の80億8000万)、QQの紅包利用者は3億800万人(総発送数は42億)、微博の紅包利用者は1億2000万人(総発送数は9億)となった(支付宝の紅包利用者数は不明)。

微信の紅包発送量の推移
微信の紅包の送り相手

 支付宝は、これをリアル店舗での電子マネーとして使ってもらうべく、利用者がいる場所付近で、紅包キャンペーンを行う店舗から紅包がもらえる「休一休」(※休の字は口へんに休。「シューイーシュー」という発音)を実施し、新サービス認知を促した。

 CNNIC(China Internet Network Information Center)によれば、ネットユーザーのおよそ半数が電子マネーを利用している。また、調査会社の易観国際によれば、取引額シェアでは支付宝が73%、微信(微信支付)が13%となっている。2015年の利用総額は16兆4000億元で、前年年比で倍となっている。こうした中、2月にはApple Payも中国に上陸し、静かなスタートを切っている。

阿里巴巴が春節EC商戦を仕掛け、農村で利用者増

 新年を迎え、モノを買うというのも、中国人の習慣だ。春節を迎える時に故郷の家族に送るものを年貨という。この年貨を狙って、阿里巴巴は「天猫(Tmall)」や「淘宝網(Taobao)」で年貨商戦キャンペーン「阿里年貨節」を開催。650万の商品が対象とされ、5日間で21億点が販売された。購入者の実態は、都市部の10~30代の若者層に偏っているものの、農村の親族向けに購入する人も多いため、農村向けが前年比で331%増加。また、在外華人の利用も多かったのが特徴だ。国歌郵政局によると、2月6~12日での小包の数は25%増の1000万強となった。

 民間企業でなく、農村部までネットワークのある郵政局の小包が増えたことは、ECによる農村部への配達が増えていることを裏付ける。普段の中国のEC商戦では、アパレルやかばん、化粧品、若い女性向けの商品が飛ぶように売れるが、この春節商戦では、加えて工芸品や食べ物など、伝統的な地場商品が売れるのが特徴だ。また、農村部の伸長ばかりを紹介したが、都市部でも故郷の食べ物で年を越すべく、故郷の食べ物を取り寄せる動きもあったし、商戦だとばかりに、安くなった日本など外国の化粧品やベビー用品の商品を買う動きもあった。モバイルでの購入が普及し、購入の7割がパソコンではなく、スマートフォンからの購入となっている。

家族でのグループチャットが普及

 春節はまた、故郷で親族一同が集まるタイミングでもある。昨年は買い替え需要でスマートフォンが中高年に普及してきた感があり、これまでパソコンやスマートフォンを敬遠していた中高年層がスマートフォンを利用する姿をよく見るようになった。春節では、親族がそろって、実家でスマートフォンを振ってメッセンジャー上で繋がり、関係を深めていく。Kandarの調査レポート「中国年齢別ソーシャルメディアレポート」では、「微信」は75.9%、ブログの「QQ空間(Qzone)」は50.5%、「微博」は35.0%、「掲示板」は12.9%、Facebook型SNSの「人人網」は12.4%となっていて、微信の人気は高い。特に微信は都市部から地方へと普及し、特に、中高年で目立った増加をしている。

中国での各SNS利用率

 今までも都市部の若き社会人が、パソコンを地方都市や農村部の実家に設置し、使い方を教えていた。その結果、春節中や連休直後は農村部のインターネット利用が増えるが、その後残された農村住民にとってパソコンを利用するハードルが高いという理由で、利用者が減るという動きが毎年のように見られた。

 だが、スマートフォンと微信によりそれは変わりつつある。微信でのグループチャット機能により、旅行写真や食べ物写真を簡単に撮って家族や親族でシェアすることができるようになり、それがハイテクの苦手な中高年にも受け入れられるようになった。もともと家族親族での団らんを大切にする習慣があるからこそ、受け入れられた。中国青年報社会調査中心によれば、調査対象の2004人のうち、65.4%が微信により家族親族との関係が密になり、紅包も投げ合うようになったと回答している。

外国企業によるコンテンツ配信禁止を明文化、アルファブロガーにも圧力

 中国政府の複数のネットコンテンツ担当部署が、「網絡出版服務管理規定(ネット出版サービス管理規定)」という改訂版の規定を制定した。これにより、外資企業・合弁企業を問わず、ネットワーク出版サービスはできないとなっている。とはいえこれまでも、Google Playにはアクセスできず、App Storeは中国向けは中国にサーバーを移転したように、外資企業が外国サーバーで中国ビジネスをやりくりして、かつ中国で人気になった例はなく、禁止を明文化したものといえる。

 その施行が3月10日からとなったが、3月10日から数日が経過し、取り締まりをさっそく行ったというニュースは報じられていない。発表された後も施行された後も、中国メディアの関心は、媒体並みに影響力を持つアルファブロガーのブログや微博、微信がライセンス制になるのではないか、ライセンスがないという理由で消されるのではないか、というところに集中している。

有料課金の動画視聴利用者が増える

 iResearchは、中国の動画サイトについての調査レポート「中国在線視頻用戸付費市場研究報告」を発表。2015年の市場規模は51億3000万元(約900億円)で、2013年の6億9000万元、2014年の13億9000万元と比べて大幅に増加した。有料動画利用者も同様に2884万人と、2013年の410万人、2014年の792万人と比べて大幅に増加した。多くが年間50元以上(約900円)支払っている。

動画サイト「愛奇芸」

 この原因として、スマートフォンでの視聴へのライフスタイルの変化により、支付宝などで支払いやすくなり、手間がかからなくなったという点や、中国での動画広告市場の伸びが鈍化している点、テレビ局が独自コンテンツを動画サイトと提携し有料で提供するようになった点、国が海賊版に力を入れてきた点を調査では挙げている。また、動画サイトがリリースする格安のスマートテレビやセットトップボックスの料金の中に動画サイト利用料金も含めている点や、FTTHやADSLの回線速度が速くなり、中国のサイトを見る分には高速になった点も原因であろう。

 課金ユーザーが課金した理由は、「広告なしで見たいから」「高画質で見たいから」が最も多い。また、視聴するコンテンツ(複数回答)としては、外国映画(61.6%)、中国映画(52.9%)、海外ドラマ(45.5%)、ネット限定ドラマ(36.1%)、アニメ(22.0%)、個人がアップした作品(17.3%)となった。お金に余裕のない学生世代の利用者に課金ユーザーは少なく、かつ社会人になると日本のアニメ視聴を卒業するという人が多いため、課金されたアニメコンテンツにはそれほど需要がないようだ。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。