山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国版YouTuberにブームの兆し/中国国内でのドメイン取得を義務化へ ほか~2016年3月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国版YouTuberにブームの兆し

 YouTuberのような(中国ではYouTubeは使えないが)動画配信者で、ハンドルネーム「Papi醤」という1987年生まれの女性がいる。美しさや可愛さをアピールする女性動画配信者が多い中で、そうした路線には進まず、トークや、全体的なショートムービーの面白さから、人気を集めている。2015年秋口から動画配信を始めて、2カ月で数百万のフォロワーを得て、動画サイト「優酷(Youku)」での動画再生回数は3000万を超えるまでに。ネットで旬の人気の人を意味する「網絡紅人」といえばPapi醤だ。

「papi醤」の人気動画

 人気が上昇する中で、ファンドがPapi醤に1200万元(2億円超)の投資をするというニュースが、さらなる話題に。もともと中国のIT系メディアは、新しいテクノロジーのサービスや、モノづくりにこだわった製品よりも、どれだけ儲かるネットビジネスが登場したかに注目するきらいがある。今までは、微博や微信で影響力があるアルファブロガーの人々が広告塔として注目と資金を集めたが、YouTuberのようなおもしろ動画の配信者が、ネットビジネスの注目の存在「網紅経済」になると、多くのメディアは予測している。

有力中国製ブラウザーに、同様の脆弱性の恐れ

 3月28日、カナダのトロント大学にある研究機関Citizen Labは、騰訊(Tencent)のブラウザー「QQブラウザー」が、解読が簡単にできる暗号化、ないしは暗号化をせずにデータ通信を行っていることが判明したという発表を行った。騰訊だけでなく、騰訊と並んで中国の3大ネット企業の百度(Baidu)がリリースする「百度ブラウザー」と、阿里巴巴(Alibaba)がリリースする「UCブラウザー」においても、それぞれに似たようなセキュリティホールがあり、検索データや位置データを収集していると指摘している。しかも、この騰訊のQQブラウザーのセキュリティ問題について、外国メディアしか報じず、普段はセキュリティ問題を報じる中国メディアが全く報じなていない。

QQブラウザー

マーク・ザッカーバーグ氏、中国を再訪

 Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、中国・北京を訪問し、中国共産党最高幹部(常務委員)のひとり、劉雲山氏と会見。また、その後、天安門広場前でジョギングをする姿を見せ、中国メディアやFacebookの同氏ページ上で親中国をアピールした。ザッカーバーグ氏は2014年10月に中国を訪問し、また、2014年12月には中国のインターネット担当(中国国家互聯網信息方公室)のトップがFacebook本社を訪問し、2015年には習近平国家主席が訪米した時に、ザッカーバーグ氏が会っている。

 今回の訪中の目的として、中国発展高層論壇(China Development Forum)の参加の取り付けや、その時に阿里巴巴のCEO馬雲(ジャック・マー)氏と会う約束をつけたと分析するメディアも。ザッカーバーグ氏が訪問したところで、海外のSNSが中国でも事業展開できるとは考えづらく、仮に中国限定のサービスがリリースされたとしても、すでに人と人とのSNSのつながりは、微信や微博であり、インターネットユーザーが利用し始めるとは考えづらい。

中国国内でのドメイン取得を義務化へ

 3月25日、情報産業省にあたる中国工業和信息化部は、改版「互聯網域名管理方法」のドラフトを発表した。これは中国国内で運営するネットサービスでは、中国国内でドメインを登録しないといけないというもの。海外でドメインを取得した企業は、外資企業はもちろん、中国国内の著名企業でもドメインを海外で取得している企業はあり、これが施行されれば、ドメイン管理を中国に移行しないと、違法な状態となり消されても文句はいえない。

 このドメインについての新規定について、「違反によりサービスを停止させる場合、サーバーだけでなく、ドメインもコントロールすることで、より強固にサービスを停止させられる」「より各種サービスの管理者を中国にとって明確にするのと同時に、世界共通のドメイン登録システムから離脱できる」といった意見がある。

 最近は、中国のインターネット環境を中国自身ですべて管理するという言論が増えてきていて、例えば同じく3月に、名門の復旦大学の国際政治学副教授の沈逸氏が、米国が強くかかわるICANNから独立をすることで、中国がインターネットの独立するといった論文を発表している。

フードデリバリーでも食の安全の問題が発生

 近年の中国のネット業界トレンドワードとなっている“O2O(Online to Offiline)”の中でも、特に人気なフードデリバリー(出前)で信頼を揺るがすニュースが報じられた。O2Oサイトの1つ、「美団外売」に登録している店から出前を注文したところ、中に小さな虫が何匹か混入していたため、消費者が販売店に2000元(約3万4000円)の賠償を請求し、店側はそれは高すぎると、販売価格の10倍の慰謝料を提案するという事件があった。このニュースは店の信頼だけでなく、美団外売だけでもなく、フードデリバリー業界に不信感を与えるニュースとなった。

 一方、同じくフードデリバリーサイト大手の「餓了me」は、こうした食の不信感の払しょくのため、セキュリティ企業の奇虎360と提携し、同社のネットワークカメラを餓了me登録店舗に無料で設置することを発表。近年、食の不安に伴い、特に食の不安を払しょくしようとするレストランは、厨房をガラス張りにして中の調理環境を、客席側から見えるようにした。これと同様のことが、フードデリバリーでも行われるということだ。

奇虎360のネットワークカメラ

「世界消費者権利デー」でモバイル向けサービスにさまざまな問題発覚

 3月15日の「世界消費者権利デー」は、権威ある国営テレビ「中国中央電視台(CCTV)」が不良サービスや不良製品をさらし上げる番組を放送している。今年は主に中国のモバイル向けサービスが標的に。上記の「餓了me」の加入企業(食堂)で食堂経営未許可の低品質だという問題や、不用意に利用すると問題が発生する、セキュリティ面で問題のあるQRコードや公衆無線LANの問題、価格表示のおかしい中古車販売サイト、それに悪意ある広告アプリを実質的にサポートしている電信キャリア3社の実態が暴かれ、指摘された各企業はサービス改善を誓うことになった。

iResearch、越境ECの実態を発表

 iResearchは、越境ECサイト利用実態についてまとめた「2016年中国跨境網購用戸研究報告」を発表。利用者は性別では男性、年齢別では30代が比較的多い。また、まだ普及途中のサービスであるため、利用者の4分の3が月に1回以下の利用と利用頻度は低く、毎回の支払い額は100~500元(約1700~8500円)となった。

1回の越境EC利用での消費額
越境EC月平均利用額

 商品は2週間で届くことが最も多く(38.5%)、続いて3週間(26.4%)、1週間(15.6%)という回答に。越境ECサイトを利用した理由について、「品質保証がある」(60.7%)、「価格が安い」(58.6%)、「国内サイトでは買えない」(52.0%)、「ブランドがいい」(45.6%)、「商品が豊富で選択ができる」(42.8%)、「旅行時に買ったことがあるが、継続して越境ECサイトで購入していきたい」(35.0%)となった。

 購入した製品を国別で見ると、越境EC利用者の45.7%が日本の商品を買ったことがあるという。製品ジャンル別では、「化粧品」(45.7%)、「ベビー用品」(39.3%)、「健康食品」(38.6%)、「アパレル」(38.0%)、「デジタル製品」(30.6%)、「家具小物」(26.6%)、「かばん」(26.1%)、「スポーツアウトドア用品」(26.0%)、「生活家電」(24.4%)、「おもちゃ」(23.1%)となった。

越境ECで購入したことがある外国の製品

 どんな越境ECサイトで今後買いたいかという質問では、「中国国内の定番ECサイトの海外商品のページ」が最も多く(65.2%)、以下、「世界的に定番の越境ECサイト」(54.1%)、「海外のECサイト」(39.0%)、「中国の越境EC専門店」(37.9%)、「SNSで友人に買って来てもらう」(30.4%)、となった。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。