山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

ストリーミング、実況主、クラウドストレージを規制 ほか~2016年4月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

ブームの中国版YouTuberやストリーミングサイトに規制が入る

 前月の記事で、中国版YouTuber(中国語で「網紅」。ネットの有名人の意。フリートークやゲーム実況が2大ジャンル)にブームの兆しがあるとした。動画サイトの「六間房」を作った劉岩氏によれば、中国では現在数十万人の中国版の網紅がいて、近い将来1000万人に達すると言われる。また、30代の網紅が将来網紅学校を開校、10代・20代前半の若者がそこで高額な授業料を払って網紅になろうとするという動きもある。そして網紅のフリートークを武器にする女性配信者「Papi醤」がブレイクし、多額投資がされていることを紹介した。

「papi醤」の微博

 これからというところで、人民日報が4月18日、「papi醤の表現によくない表現が目立つという、群衆からの通報による専門家のチェックの結果、中国政府の動画コンテンツ配信を管轄する広電総局は、該当するコンテンツを削除するように要求した。広電総局いわく、低俗な内容をなくし、審査を通してから、アップロード可能となる。広電総局は多くの動画コンテンツをチェックし始めている」と報じた。その一方で広電総局はネットで流れる「papi醤をつぶそうとしている」という情報はデマだと火消しのコメントも。また、コンテンツを管理する中国政府文化部は、頭魚、YY、熊猫TV、龍珠TVといった網紅によるトークや、「龍が如く0」や「グランド・セフト・オート5」など(ニュースの表現のままで「等」と書いているが、他のゲームは不明)のゲームの実況を行う19のストリーミングサイトを、「ポルノ・暴力・犯罪示唆などを含むコンテンツがある」という理由で、審査リスト入りにした。コンテンツを管理する政府の2つの部署が共同でストリーミングサイト検閲を発表した。こうしたことは珍しい。

 さらに新浪、搜狐、優酷、百度など20のストリーミングサービスを提供する企業が、実況配信主に対して、実名認証を新規ユーザー・既存ユーザーともに徹底させ、18歳未満の登録を認めず、ストリーミングコンテンツの保存期間を15日以下とする「北京網絡直播行業自律公約」を共同で発表した。タイミング的に、中国政府が動画サイトに発表させたと、中国ネットメディアやネットユーザーは思っているようだ。

 もともとPapi醤ブレイク以前にもストリーミングサービスはあり、その時から女性によるフリートークとゲーム実況が2大柱のコンテンツであった。台頭したPapi醤への1000万元規模の投資のニュースあるや、少なからぬ若者がフリートークでチャイニーズドリームを実現しようと注目が集めようとしたところで、政府による待ったがかかったわけだ。

海賊版などの不良コンテンツ、競争激化から、無料クラウドストレージ終了へ

 中国の無料クラウドストレージは、百度(Baidu)や騰訊(Tencent)、金山(Kingsoft)、360などの著名ネット企業らが、ユーザー獲得のためTBクラスを無料で提供している状況であった。一方でこうした競争によって、外部ストレージとしてUSBメモリがスタンダードだった中国で、さらに大容量ストレージが必要な時、自前の外付けHDDやNASなどではなく、無料のクラウドストレージを利用する傾向にあった。著名ネット企業がクラウドストレージサービスを提供することから、新規にアカウントを作る必要がなく、利用に拍車をかけた。中国では、ポップな個人向けネットサービスでも構わず企業が利用する習慣があり、個人だけでなく企業も、永久無料をうたったTBクラスのクラウドストレージを利用していた。利用者は数千万人規模となっていた。

TBクラスの永久無料クラウドストレージが当たり前だった

 だが3月末から4月にかけて突然、百度や360など一部の企業を除く、多くの無料のクラウドストレージサービスが6月30日に終了すると発表した。この横並びの発表には、泥沼化した競争の中で、有料サービスへシフトさせたい企業の意向に加え、「無料のクラウドストレージが海賊版コンテンツやポルノコンテンツ配信の温床となっている」という政府の指摘により、閉鎖せざるを得ないという理由もある。だが、しばしば海賊版配信で百度のクラウドストレージ「百度雲」が訴訟の原因になっているにもかかわらず、百度雲はサービスは停止せず、突然の多くのサービス終了と百度のサービス存続に、ネットユーザーの間で不満と疑問が投げられている。

 6月30日までに、ネットユーザーは、いつ終わるかもしれない中国国内の他の無料のクラウドストレージか、有料のクラウドストレージか、外付けHDDか、NASへの乗り換えを行うことになる。ちなみにDropboxやOneDriveなどはそもそも中国からアクセスできない。

百度、検索結果を金で操作しているとの指摘

 珍しいガンを患った大学生の魏則西氏が、百度の検索連動広告ではない最上位に表示された病院を信じて大金を払って病院に入院。ところがその病院がアピールするガン治療法自体が効果がなく、病院が詐欺を行っていたことを大学生が治療後に気付き、百度と病院が金に欲が眩んでいるとブログで訴えたのち、他界した。この病院の名前は軍系病院で、中身は中国全土に展開し、全土で評判の悪い蒲田系(蒲の字は、蒲からさんずいをとったもの)病院の1つであった。

 この事件は魏則西事件と呼ばれ爆発的に拡散し、過去に何度か金で検索結果の操作があったという疑惑のあった百度にまたも疑惑がかかり、ネットユーザーの間で百度不信の書き込みがされた。対して百度は不信感払しょくのため、誠実であることをネット世論操作員も活用して、百度内外にアピールし、火消しに奔走した。

 5月2日には、中国政府のインターネット部門「中国国家互聯網信息弁公室」が百度に立ち入り調査をした。不思議な現象として、立ち入り調査後に一時的だが、百度の検索結果で普段はNGとなっている検索結果が表示された。この現象について、百度の抵抗ではないかとメディアは分析する。5月9日には、政府は百度の検索結果の操作に重大な問題があるという結論を出し、百度に対し医薬品など健康にかかわる商品やサービスについての検索結果操作について整理整頓を進め、違法なサイトへのリンクを消すように命令し、百度もそれを遵守すると発表した。

 今回対象になったのは、特に百度への調査で問題とされている医薬系の検索結果だが、メディアの新京報が、新京報とは関係のない広告代理サイトがより上位に来ているという記事を掲載するなど、医薬系以外で同様の解決ができているか疑問だ。

中国のアニメファンは独身男性が多く、金払いがいいとの調査報告

 iResearchは、中国のポップカルチャーの支持層についてまとめたレポート「中国粉絲追星及生活方式白皮書」を発表。このレポートによると、各ポップカルチャーのファンコミュニティから類推するファン数は、YouTuberのような網紅ファンが3億1000万人、アニメ/マンガ/ゲーム(中国語で「二次元」)ファンが2億1900万人、アイドルファンが5億人だとしている。特に網紅ファンは2014年の1億人から3倍に増え、アニメファンは2013年の8900万人から2倍程度に増えている。

 また、「微博」上のファンコミュニティにおいては、アイドルが43%、網紅が28%、ネット小説が17%、二次元が8.5%となっている。ちなみに2015年末時点でのPapi醤のファンコミュニティ参加者数は857万人だ。ファンコミュニティができるのは、気持ちやリソースを共有し、影響力を持つことで、満足したいとの意識からだとiResearchは分析している。また、ファンコミュニティを盛り上げるため、ファンコミュニティの半数以上が月に数回、23.9%は週に数回、ファン同士のイベントを開催。ファンの55%が、好きな人や作品のイラストや動画やネット小説などの二次作品を創り、29.3%がツール次第で創りたいとしている。

 中国人のファンについて分析すると、中高生は1人の誰か、ないしは作品のファンになる傾向がある一方、大学生以上になると複数の人、ないし作品のファンになることが多い。網紅のファンコミュニティの男女比は3対7で女性の方が多く、大卒以上が74.3%を占めるも、年齢別では20代がほとんどを占めており、30代以上のファンは全体の1割にも満たない。網紅のファンの54.8%は関連製品を購入し、網紅をサポート。一方、二次元ファンにおいては、62%が男性、58%が独身で、1990年代生まれもいるが、会社員も26%いる。月収は5000~8000元(8万5000円~13万6000円)程度と比較的高めだ。さまざまなファンがある中で、特に消費額も多いという。ネット小説では20代後半にファンが多く、6割が男性だ。

中国で最も多いSNSの用途は、友人と動画や音楽のシェア

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、中国のSNSについてまとめたレポート「2015中国社交応用用戸行為研究報告」を発表した。このレポートでは、中国の「微博(Weibo)」や「微信(WeChat)」に加え、出会い系SNSやビジネス系SNSなどの利用傾向について紹介されている。微信のようなインスタントメッセンジャーの全ネットユーザーにおける利用率は90.7%、ミニブログの「微博」やブログの「QQ空間」、Facebookのような「人人網」などの総合的・一般的SNSは69.7%、動画・画像系SNSは45.4%、掲示板は32.0%、出会い系SNSは8.0%、ビジネス系SNSは2.6%となっている。

 SNSの利用目的(複数回答可)としては「友人との繋がり」(72.2%)、「ホットなニュースチェック」(64.3%)、「興味ある内容をチェック」(59.0%)、「使える知識を得るため」(58.3%)、「使える知識をシェア」(54.8%)、「友人作り」(40.4%)、「ニュースの評論を発表」(37.0%)が、SNSで使う機能としては「動画音楽視聴」(71.5%)、「チャット」(62.3%)、「情報の拡散」(61.9%)、「画像アップ」(58.6%)、「日記や評論を書く」(57.7%)、「オンラインショッピング」(55.1%)、「ゲーム」(50.9%)が多く、コンテンツを楽しむためにSNSを利用するユーザーが中国では多いようだ。主に繋がっている人は「現実でつながりのある友人」(87.3%)、「クラスメート」(85.3%)、「同僚」(81.2%)、「親類」(79.7%)、「先生・リーダー」(62.4%)が主で、「ネットで知り合った人」(45.4%)、「知らない人」(24.6%)、「網紅」(24.6%)、「有名人」(13.2%)は少ない。

 微博の主な利用用途は「ニュースのチェック」(72.4%)、「関心のある内容をチェック」(65.5%)、「使える知識の獲得/シェア」(59.7%/59.1%)が多かった一方で、微信の利用用途としてはまず「友人とのコミュニケーション」(80.3%)があり、それに次ぐ「ニュースチェック」(50.2%)、「使える知識の獲得/シェア」(50.2%/49.6%)は微博よりも若干低い結果に。微信で利用する機能としては、「文字チャット」(88.0%)、「音声チャット」(83.9%)、「グループチャット『朋友圏』」(80.5%)、「オフィシャルアカウント『公衆号』フォロー」(57.8%)、「QRコード」(48.1%)、「電子マネー『微信支付』」(48.0%)といった順だった。

インスタントメッセンジャーの利用率
総合SNSの利用率
SNS利用者の年齢
SNS利用者の収入

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。