山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国の若者も日本の若者同様、スマホで動画ニュース。そして投資も ほか~2016年5月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国の若者も日本の若者同様、スマホで動画ニュース。そして投資も

 1990年代生まれ(現在、16~26歳)の人は、中国では「90后(ジョーリンホウ)」と呼ばれるが、この90后に関する興味深いレポートがいくつか出てきたのでまとめて紹介する。

 「中国90后青年調査報告」など複数の調査結果によれば、90后もSNSに関心を持っているが、20代の1990年代前半生まれ(95前)は、メッセンジャーの「QQ」からスタートして、同じくメッセンジャーの「微信(WeChat)」へ、それからミニブログ「微博(Weibo)」へと利用を広げる一方、学生も多い90年代後半生まれ(95后)は、QQから微信にも微博にも行かず、ブログの「QQ空間」や掲示板「百度貼吧」に利用を広げるという。90后がQQを利用する理由は、大人がQQから微信にシフトするからこそ、大人がいないQQが若者に人気のSNSになっていると分析されている。また、微博や微信は人間関係が大事だが、知らない人相手にも書ける掲示板やブログは若者に人気なのだとか。さらに「ゲームが微博よりはQQのほうが充実しているから」という理由で、若者同士が繋がり、チャットしたり、ゲームをしたりする。

 清華大学の90后のネット投資意欲についての調査「中国青年財商認知与行為調査報告」によれば、大学生は「生活レベルを上げるため」「経験を積むため」などの理由で投資には前向きで、既に40.2%が株に投資し、36.7%が投資信託に投資している。特にオンラインでの投資商品には関心を持っていて、40.6%が近々購入するとしている。大学生の多くに投資欲があり、それを狙った詐欺ニュースを聞くようになり、投資禁止と規定する大学も出てきた。

 一方で企鵝智酷の「90后的新聞観」という調査結果からはネットでの金使いが慎重な一面が分かる。90后は、所得が低いので、外出先でお金のかかる4G/3Gデータ通信をそれほど活用しないとしている。スマートフォンは利用するが、データ通信代を惜しんで、外出時は公衆無線Wi-Fiのあるショッピングセンターなどでインターネットを利用する。ニュースを見る実態は、時間では1日合計30分以内、記事数では1日8本以下が多数派となっている。動画のニュースがよく、2~5分程度の長さの動画が分かりやすいと好評で、それ以上でもそれ以下でも好まれないという。事件事故やB級ニュース、それも堅苦しくなく説明されている動画が好まれる。ニュース以外の動画のジャンルでは、アニメやゲームの動画も突出して見られる。ニュースのコメントやいいね!を付けるのは好きだが、人間関係ができてないからか、シェアはまだしないという。日本でも若者は動画で見たいものを視聴したり、短く分かりやすく発信する傾向があるが、中国でも適度な時間で分かりやすい動画を求める同じような傾向があるようだ。

 ちなみにeMarketerの調査では5月に、調査開始以来初めて、中国人全体のデジタルメディアを見る平均時間が、紙メディアやテレビメディアなどの伝統メディアを見る時間よりも上回った。今後、若者はますますデジタルコンテンツに依存するので、一層この傾向が強まるだろう。

ハーバード大、中国のネット世論誘導員の実態を発表

 ハーバード大のGary King、Jennifer Pan、Margaret E. Robertsの3氏は、「五毛党」とも呼ばれるネット世論誘導員の多くが、中国の政府機関であるという調査結果を発表した。江西省のネット宣伝部署から大量に流出したメールから、ネット世論を誘導する4万3000の書き込みを分析し、そこから200の政府関連機関や団体から書き込まれていることを突き止めた。報告によれば、反論するのではなく協調路線で話題をそらす手法を使っていたという。また、これにより同チームは、政府機関による世論誘導の書き込み数は年間で4億8800万に達すると推定した。

 このニュースは、中国国外の華字メディアで報道されただけでなく、中国国内でも消されることなく掲載されたが、発表を「ありえない」「米国は恥知らず」といった評論が付く記事ばかりが目立った。

最新の日本の人気のアニメやマンガのランキングが明らかに

 調査会社の友盟は、中国大陸・香港・台湾でのアニメやマンガの検索傾向について調査した「動漫行業網站用戸訪問行為偏好分析報告」を発表。これによると、2016年第1四半期では、1日平均で400万のユーザーがアニメやゲームのサイトを訪問したという。1日平均でビュー数は400万だが、学校の宿題が少ない金土日ないしは休日にビュー数は偏る。地域では、広東省や、上海と隣り合う浙江省や江蘇省が中国大陸では多く、台湾や香港からの大陸のサイトにアクセスしてみる数字も多い。

 ビュー数を見るとアニメコンテンツが82%、マンガコンテンツが18%で、小さな子供用向けの人気コンテンツが限られていることから、ビュー数の多いアニメ・マンガコンテンツは、中国の子供向けのアニメコンテンツが上位を占めた。10位以内のコンテンツで、日本のアニメでは、「ONE PIECE」(アニメ/マンガ)、「ワンパンマン」(マンガ)、「NARUTO」(アニメ)のみ。これ以外の7タイトルは幼児などの小さい子供向けの中国製アニメとなった。ちなみに10位以下を見ると、「FAIRY TAIL」「東京喰種」「進撃の巨人」「7つの大罪」「食戟のソーマ」「BLEACH」「暗殺教室」などが人気。いずれもマンガでのランクインであり、アニメも見られるが、ランキング形式では幼児用のアニメコンテンツがより多く視聴されるのだろう。

 定番のサイトに見に行くというユーザーは3割、検索サイトなど外部サイトからコンテンツを探すユーザーが7割だ。マンガサイト「有妖気」やアニメサイト「風車動漫」など、サイト名を検索してコンテンツを探す動きもある。

有妖気

個人旅行客が増加、海外旅行でも新たなニーズ

 5月1日は連休「労働節」。3連休ではあるが、日本をはじめ、中国から近い国を旅行する人が140万人いたという。騰訊(Tencent)は微信を使った電子マネー「微信支付(WeChatPayment)」の中国国外での利用額が、春節の4日間に比べて倍になったと発表している。ライバルの阿里巴巴の「支付宝」も海外で多く使われたと報じられている。支付宝は5月にSamsung Payと提携を発表。世界で中国の電子マネー利用が拡大する。

 また、中国国家旅遊局は「2015年中国旅遊統計報告」を発表。中国国内の観光地への入場が、2010年には6、7割が団体客だったのが、2015年には2、3割までに落ち、代わりに個人旅行客が7割を占めるようになった。世代としては1970年代生まれを頂点に、1960年代生まれ、1980年代生まれの意欲が高く、オンラインの旅行予約サイト1サイトで、航空券、ホテル、観光地のチケットまであらゆる予約ができるようになり、情報提供も行ってほしいと望んでいる。

 オンライン旅行予約は2012年より急増し、2015年の利用者は2億5955万人。ネットで旅行情報を調べる際のサイトは、「百度地図」が34.2%、「携程」が33.8%(特に大都市での利用率が偏って高い)、「Qunar」が22.1%。前者2サイトは特に利用率が高く、残りのサイトは10%台、ないしは1桁台である。また、ホテルや、入場チケットに限定すれば、クーポンサイトで知られる「美団」も利用率が高い。

 日本への旅行者も今後、中国人の個人旅行者が目立つようになろう。ホテルや鉄道航空チケットだけでなく、入場券も含めてオンラインでの販売に対応すると喜ばれるだろう。また、微信支付や支付宝のような電子マネーへの対応もあると使われるだろう。

「淘宝網」では中国でさまざまな海外のチケットが買える
中国で人気の旅行予約サイト「Ctrip」。日本語にも対応している

百度、海賊版の温床となった同社掲示板サイトを閉鎖

 5月23日、百度は、掲示板サイト「百度貼吧」の文学チャンネルを閉鎖すると発表した。これは、普及しているネット小説の海賊版の温床になっていると指摘されたことによるもの。テキストコンテンツだけあり、3000以上もある各作品のスレッドで、全文が貼り付けられる文章量に分けられて、コピー&ペーストされていて、読める状態にあった。ネット小説サイト「創世中文網」の編集長は、「海賊版カバー率は100%だった。つまり、有名な作品だろうがそうでなかろうが、あらゆる作品が海賊版で手に入っていた」と頭を悩ませる。「中国網絡文学版権保護白皮書」によると、2014年の海賊版による損失額は100億元近いとしている。

テレビのニュース番組で、ネットのランキング操作の実態を紹介

 5月30日、中国中央電視台(CCTV)は、同局の独自調査で、ネットのさまざまなランキング操作業者に潜入取材をした様子を報道。潜入した、自称「ランキング操作シェア50%」の業者は、「所有する9700台のスマートフォンを使い、各スマートフォンについて、それぞれ毎日100回アカウントを変更し、評価を加える。つまり1万台が100回で、1日に100万回の評価を与えてランキングを変動させる」「1日でダウンロード数を100万にすることもできる」「60万ダウンロードでランキングサイトでベスト10には入る。費用は1日で2、3万元」と語り、視聴者を驚かせた。

並べられたスマホで次々に評価を与える

中国公安部、幼児誘拐対策に既存の微博を採用し、14人発見する

 中国公安部は5月11日、中国で問題となっている社会問題の幼児誘拐問題に対して、「公安部児童失踪信息緊急発布平台」というアカウントを開設した。失踪の連絡を受けて、同アカウントで中国全土の子供の失踪情報を掲載し、多くのネットユーザーに協力してもらう。児童誘拐問題は中国全土での人々にとって身近な問題であるからか、2週間の間に22万のフォロワーがつき、この間にツイートした70の記事のRT数は2万1000件、いいねの数は2万700件となり、2週間で14人の失踪した子供が発見された。微博の公式発表によると、同サービスについて、月に1回でも利用するアクティブユーザーは2億6100万、毎日利用するアクティブユーザーは1億2000万。

警察による失踪児童問題用微博アカウント

国の資本投入で大手ネットサイトの管理を強化

 ウォールストリートジャーナルは、中国政府が中国大手ネット企業の百度や騰訊などの株式の約1%を購入し、検閲を強化するという計画があると報道した。また、動画配信を管轄する広電総局が動画サイトの1~10%の株式を購入し、議決権や審査権を得て、審査を強化すると中文メディアが報じた。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。