清水理史の「イニシャルB」

M.2スロット×3に5Gbpsポート×2の個性派NAS登場! TerraMaster「F2-425 Plus」を試す
2025年12月8日 06:00
TerraMasterから発売された「F2-425 Plus」は、高性能でコンパクトなNASが欲しいユーザー注目の製品だ。実売価格は6万4590円(2025年11月22日時点)と、個人向けとしては高価だが、それに見合った高いハードウェア性能が手に入る。大容量データを頻繁に扱う環境に適した製品と言えそうだ。
第2.5世代のNAS
TerraMasterは、国内でも徐々に知名度が上がってきたNASメーカーだ。
筆者が最初にレビューしたのが2016年(F2-220)で、企業としての歴史もSynology、QNAPに続く2010年設立なので、知っている人も少なくないかと思う。ただ、昨今のUGREENのような大型新人の登場によって、少し影が薄くなってしまったメーカーと言える。
仮に、Synology(DS-101が2004年)やQNAP(TS-101が2006年)などの自由度の高いNASを「第2世代」、2025年のUGREENなど最近のパーソナルストレージ系NASを「第3世代」と考えると、2010年設立のTerraMasterは、その中間に位置する「第2.5世代」と言えるような存在で、製品としても両者の特徴を併せ持っている印象がある。
そんなTerraMasterから、今回新たに登場したのが、F2-425 Plusという2ベイのNASだ。
同社製品のラインアップの中では、ホーム/SOHO向けに位置づけられている製品だが、「Plus」という型番からも分かるとおり、従来のエントリーモデルに対して、ハードウェア性能を高めたミドルレンジの製品となっている。
このため、実売価格は6万円以上と、正直、安くはない。しかし、競合メーカーの製品に対して、CPU性能も、ストレージ構成も、ネットワーク速度も、ワンランク上のハードウェアが盛られているのが本製品の特徴となる。
簡易フラッシュNAS+HDD NASとして構成可能
それでは、実機をチェックしていこう。
本製品はHDDを2台まで搭載できる2ベイNASだ。筐体は、本体の6面のうち、正面と背面を除いた左右側面および上下の4面が一体成型となったアルミ製(要するに金属部分は筒状)で、厚みも2.5mmほどあり、非常にしっかりとした作りになっている。
この角のRが大きく、丸みを帯びたデザインは、近年の第3世代NASでも見られる、ひとつのトレンドだ。一体成型のアルミボディを採用することで、放熱性を高め、さらに振動やノイズを低減することを狙っている。TerraMasterは、伝統的にこの方式を採用しており、近年のNAS筐体トレンドの源流になった製品の1つともいえる。
注目は、冒頭でも触れたスペックの高さだ。
CPUはクアッドコアのIntel N150、メモリは標準でDDR5 8GBという点も、競合メーカーの製品に比べて高いスペックになっているが、特に注目したいポイントが、NVMe SSD搭載用のM.2が3スロット搭載されていること、そして5Gbps×2のネットワーク(チップはRTL8126採用)を備えていることだ。
これは、2ベイNASとしてもめずらしいが、そもそも家庭用のNASとして異例ともいえるリッチな構成だ。
家庭用のNASは、現状、ハイスペックな製品であってもM.2は2スロット、ネットワークは2.5Gbpsが上限となっているので、こうした常識を打ち破った製品となっている。
これは、シンプルにパフォーマンスに効いてくる。
NASのCPUがどんなに高性能であっても、ネットワークの速度が低ければ速度は頭打ちになってしまうが、本製品は最大5Gbpsで、しかも2系統で通信できる。NASとして、この基本スペックの高さは大きな武器になる。
SSDに関しては、使い方次第ではあるが、例えばキャッシュとして使った場合でも、3スロットをフルに使うことでRAID 5(冗長性を考慮しなければRAID 0でも構成可能)で構成できる。一般的な2スロットのRAID 1よりも、容量を無駄なく使える。
また、3スロット使うのであればキャッシュとして使うだけでなく、RAID 5構成の通常のボリュームとして使う選択肢も見えてくる。要するに、簡易オールフラッシュNAS+2ベイHDD NASを1台で実現できるわけだ。
どちらで使うかは悩ましいところだが、いずれにせよ、この製品を購入するかどうかのポイントは、こうしたリッチなハードウェア性能が必要かどうかという一点に集約されると言える。
ストレージとしての本質を重視したソフトウェア
一方で、ソフトウェアに関しては、奇をてらったところのない基本的な構成だ。
もちろん、中間サーバーとなる「TNAS.online」を使ったリモートアクセスの設定もIDを設定するだけと簡単だし、TerraSyncという同期ソリューションを利用することでOneDriveのような同期ソリューションをNASのローカル環境でも実現できる。スマートフォン向けのアプリも用意されており、写真のバックアップもできるし、保存した写真のAI認識も可能だ。つまり、第3世代のモダンなNAS的な使い方も提供されている。
ただし、こうした機能を有効にするには、初期設定後に自分で設定やアプリのインストールが必要になる。
初期設定で、リモートアクセス、同期を自動的に構成する近年の第3世代NASとは、設計思想がやや異なる。Sambaを中心にファイルを共有することをメインに考えられた第2世代に近い発想と言えそうだ。
かといって、SynologyやQNAPほど多機能か? と言われると、現時点では、そこまででもない。基本的なファイル共有、バックアップ、同期などのソリューションは備えているが、競合と比べると見劣りする部分もある。例えば、近年Synologyが力を入れているオフィスアプリ関連は本製品では利用できないし、QNAPのような仮想マシン機能も搭載されていない。
しかし、この状況は今後改善される予定だ。すでにインサイダー向けのテストが開始されているが、次期バージョンとなる最新のTOS 7では、大幅なUIの刷新、Officeアプリの提供、リモートアクセスの効率化(バックボーンのTNAS.onlineの更新)、アプリの増加、仮想マシン機能の実装などが予定されている。
現状は、どちらかというと、ストレージとしての基本、つまりファイルの保管、共有(Samba)、バックアップというNASの本質を重視した製品という印象だが、TOS 7がリリースされれば、競合とのソフトウェア面での差は縮まると言えるだろう。
とはいえ、現状でも他社にはないソフトウェア的な工夫もみられる。特にコダワリを感じたのはバックアップだ。
本製品には、以下のように、違いを理解するだけでも相当な時間がかかるほど多くのバックアップソリューションが提供されている。
- TPC Backupper:Windows PC向けのバックアップツール
- Centralized Backup:ネットワーク上のPCや仮想マシンのバックアップを中央管理する
- CloudSync:クラウドストレージサービスのデータをNAS上と同期する
- Duple Backup:NASのデータをリモートNAS、ファイルサーバー、クラウドにバックアップ
- SnapShot:Btrfsベースのスナップショットツール
- TFM Backup:重要なデータを含むフォルダー単位での同期ツール
- TerraSync:PCとNASのデータを同期する
- USB Copy:USBストレージにNASのデータをバックアップする
これを適切に使い分けるのは、なかなか難度が高いということで、本製品は設定画面に「バックアップ」というボタンが用意されており、ここから同社がおすすめするバックアップトポロジーを参照したり、バックアップガイドラインで各ツールの使い方をイラスト付きで参照したりできる。
これは、非常に有意義な取り組みだ。バックアップは用途や対象によって機能を使い分けることもめずらしくないので、どうしても複雑になりがちだが、それをイラスト入りのドキュメントとして、誰もがすぐに参照できるようにすることで、分かりやすくしている。他社もまねた方がいい工夫だ。
また、ストレージの構成時に「HyeprLock-WORMファイルシステム(BtrfsのWORM機能)」を有効化することもできる。WORM(Write Once, Read Many)、つまり、一度書き込んだデータを変更できないようにすることで、データの完全性を確保しながら、長期保存できる機能となる。組織などでは、法令対応のために一定期間、書き換えできない状態でファイルを保存することが求められるが、こうしたケースでの対応ができる。
とにかく、データを安全かつ確実に保存する、という基本に注力した製品で、多機能化、パーソナル化が進む、デスクトップ型NASの中で、データの保管という基本の重要性を再認識させてくれる製品と言えそうだ。
完成度を高める工夫は必要
ただ、個人的には、使っていて「ん?」と思う点もいくつかあった。細かな点だが、いくつか挙げる。
まず、初期化に時間がかかる。本製品はスマートフォンから設定が可能なのだが、その流れの中でHDDの初期化(ボリューム作成は別に手動で実行する必要があるので、OS領域用の初期化だと思われる)が実行されるのだが、これに時間がかかる。
アプリの画面表示に「初期化が正常に完了するため、このページから離れないでください」と表示されるのだが、この状態で、正確に測っていないが、数十分ほど待つ必要があった。実際はアプリを閉じてしまっても継続されるようだが、このあたりのユーザビリティはもう少し改善した方がいい。
スマートフォンのバックアップも可能だが、標準のバックアップ先が「ユーザーのホームフォルダー配下」に設定される。本製品は、「Photo」という管理アプリで写真を管理でき、AIを利用した顔認識やシーン認識が可能なのだが、その対象はユーザーフォルダー配下の「Photo」フォルダー内になる。であれば、スマートフォンのバックアップ先も、ホームフォルダー配下ではなく「Photo」フォルダーにすべきだ。しくみがわかっていれば、変更するだけでいいが、初心者には、こうした些細な違いが分かりにくさにつながる。
もう1つ、これは本製品だけでなく、同期系のソリューションではめずらしくない上、仕組み的にも仕方がないと言えるが、WindowsのOneDriveとの相性が悪い。本製品のTerraSyncとの同時利用はできない。NASへの同期とOneDriveを同時に使うケースは稀だが、これも初心者には分かりにくいし、トラブルの元になる要因なので、OneDriveをオフにする方法を案内するなどの工夫が必要だろう。
バックアップトポロジーとして、あれだけ丁寧なガイドを制作しているのだから、同期トポロジーや同期ガイドのようなものを提供することも、ぜひ検討してもらいたいところだ。
最後にクラウドストレージとの連携だが、これも非常に細かくて申し訳ないが、NASのバックアップ先として比較的リーズナブルに利用できる「Wasabi」を候補に入れてほしい。せめて、S3の設定をカスタマイズできれば手動で設定することもできるのだが、全てプリセットされているのでWasabi用にカスタマイズできない。これも改善してほしいポイントだ。
パフォーマンスは優秀
最後にパフォーマンスについてだが、以下のように、さすがに5Gbps LANの性能が効いていると言える結果だ。2.5Gbps対応のNASより確実にパフォーマンスは高い。本製品は、実売価格が6万円前後と家庭用NASとしては高いが、この速度を見ると、十分に価値があるという印象だ。
ただ、まあ、実質的に5Gbpsネットワーク環境を用意しようとすると、10Gbps対応のスイッチを用意することになるし、PCも5Gbps対応の製品やアダプターは稀な状況となるため、どうせなら10Gbpsにしてほしいという希望はある。
本製品の5Gbps LAN実力を生かすために、LAN側に10Gbps環境が整備されると、本製品の5Gbpsが物足りなく感じてしまうのは、皮肉なところだ。
データ保存、バックアップ重視の人向け
以上、TerraMasterのF2-425 Plusを実際に使ってみた。派手さはないが、NASとしての基本を追求したハイパフォーマンスな製品という印象だ。
ソフトウェア的には、伝統的なファイル共有、バックアップ用NASとしての性格が強いので、旧来のNASからの移行を検討している場合の選択肢にもなるだろう。個人的には、細かな部分のブラッシュアップをしてほしい印象はあるので、今後に期待したい製品と言える。
最後に、個人的に面白いと思った点を紹介する。本製品にはHDDトレイに貼り付けるシールが同梱されている。トレイ番号とHDDの容量、用途などを書き込むラベルだ。これが何とも事務用品っぽいというか、90年代の発想というか、味があっていい。日本人には好まれやすいサービスだと思うが、人間味があっていいので、ぜひ続けてほしい。























