清水理史の「イニシャルB」

Ryzen AI MAX+ 395搭載の高性能ミニPC「Minisforum MS-S1 MAX」購入! Proxmox VEで10Gbps LANが見えなくなるトラブル??

自宅サーバーにすることを想定して、思い切って買ったMS-S1 MAX

 将来的には自宅サーバーとして使うことを想定して、思い切ってMinisforum MS-S1 MAXを購入した。Proxmox VE 9.1も登場し、タイミング的にもちょうどいいのだが、特徴の1つでもあるRTL8127の10Gbpsポートでトラブルが……。Linux系で使う際の注意点を紹介する。

安くなるまで待つと高くなる

 「どうせ検証用か、サーバー用として使うくらいだから、安くなるまで待ってから買うか……」。そう思っていたのだが、結局、MinisforumのMS-S1 MAXを発売直後に購入してしまった。

正面
側面
背面

 というのも、ここ1年ほどのPCやNASなどのデバイスは、「時間が経てば安くなる」という考え方が通用せず、いくら待っても初回の販売価格からさほど変わらない、むしろ徐々に高くなるという例が多くなっている。

 実際、今回購入したMinisforum MS-S1 MAXも、筆者が購入した時(10月25日注文)の実売価格は35万9990円だったが、本稿執筆時点(2025年12月5日時点)の公式ショップでの実売価格は、すでに43万6799円となっており、びっくりするほど価格が上がっていた(今の価格だったら買わずに諦めていた……)。

 もちろん、これは昨今の物価高に加え、著しいPCパーツ関連の価格上昇の影響も大きい。製品によっては、クラウドファンディングの初期ロットや、発売記念セールが最安値になるケースもあり、しばらくの間は、こうした傾向が続きそうに思える。

 口コミや評価が定まらないうちに安く買うか? それとも、高くなってもじっくりチェックしてから買うか? どっちを選んでも、それなりにリスクがあるのが悩ましいところだ。

NICにRTL8127を採用

 この製品の最大の特徴は、Ryzen AI MAX+ 395と256GB/sの帯域を持つ128GBのユニファイドメモリだ。96GBをVRAMとして割り当てることで、gpt-oss-120bのようなパラメーターサイズの大きなLLMもローカルで動作可能な点にある。

 もちろん、それも魅力なのだが、個人的にミニPCに求めるのは、自宅用サーバーとしての特性で、特にネットワーク機能が充実していることも重要なポイントとなっている。

 Ryzen AI MAX+搭載PCは、他社製品も存在するが、このMS-S1 MAXは、RJ45対応の10Gbps LANポートを2つ搭載している。しかも、この10Gbpsポートは、Realtekの新しいNICとなる「RTL8127」を採用しており、低消費電力かつ低発熱で10Gbps環境を構築できる。

RTL8127採用の10Gbpsポートを2つ搭載

 現状、筆者の自宅では、同じくMinisforumのMS-01(Core i5、メモリ64GB、SFP+構成)が、自宅のルーター兼DNS兼ファイルサーバー兼パーソナルストレージ兼……の、マルチなサーバーとして稼働している。

 このMS-01もそうだが、10Gbps対応ルーターとしても稼働させたいので、10Gbps LANが2系統あるMS-S1 MAXを、次期サーバーとして選択したわけだ。

 ただ、MS-S1 MAXは、ストレージ用のM.2スロットが2つのみとなっており、しかも片方がPCIe 4.0×4となるものの、もう一方はPCIe 4.0×1となっている点が難点だ。SSDが高騰している現状は、標準搭載の2TBのSSDのみで使うつもりだが、将来的にどうストレージを拡張していくかは課題となる。

M.2スロットは2つ。標準で2TBが搭載される写真右側は4.0×4だが、左側のWi-Fi側にあるスロットは4.0×1

タイミングよくProxmox VE 9.1がリリース!

 購入してからしばらくは、Windows環境でいろいろな検証をしていたのだが、タイミングよく11月中旬にProxmox VE 9.1(カーネル6.17)がリリースされたので、念願のサーバーとしての検証を始めることにした。

Proxmox VE 9.1がリリース

 筆者がMS-S1 MAXを購入した当時、Proxmox VEのバージョンは9.0(カーネル6.14)で、カーネル6.15以降を要求するRTL8127のドライバーを利用することができなかったが、これでようやくサーバーとしての道が見えてきたことになる。

 実際に、Proxmox VE 9.1をインストールすると、確かにインストーラーでさくっとネットワークが認識された。画面上は「RTL8169」と認識されるが、Linux 6.16以降では、このr8169のドライバーにRTL8127のサポートが追加されている(詳細はPC Watchのこちらの記事を参照)。

 というわけで、検証を開始したのだが、いきなりつまずいてしまった。

 問題は2つ。1つはネットワークを見失う問題、もう1つは上りのパフォーマンスだ。

シャットダウンでネットワークを見失う問題

 インストールからしばらくは順調に使えていたのだが、サーバーをシャットダウンし、再び起動したところ、ネットワークにつながらない問題が発生した。再起動では問題なく、シャットダウンするとネットワークに接続できなくなる。

 コンソールで「ip a」などで確認してみると、本来存在するはずのネットワークデバイス(nic0とnic1)が見えなくなっている。

シャットダウン前。10Gbpsのnic0とnic1が認識されている
あるはずのnic0やnic1がない

 Proxmox VEでは、M.2 SSDの増設など、PCIe関連の増設でネットワークの名前が変更され、接続できなくなることは、よくある。しかし、今回は機器の増設などなく、単にシャットダウンしただけで、ネットワークデバイスが見えなくなってしまった。

 ということで、困ったときに頼りになるRedditを探してみると、以下のような投稿が見つかった。

▼筆者と同様の問題に関する投稿
MS-S1 MAX Arrived -- Both Realtek NICs missing from two different OS's(Reddit)

 どうやら、Linuxのドライバーの問題ということのようだ。電源ケーブルを抜いてしばらく待つことで一時的に復帰でき、UEFIの設定で「Wake up on LAN」を「Disabled」、「ERP」を「Enabled」に変更することで永続的に回避できると記載されていた。

UEFIで設定を変更することで回避できる

上りが遅い問題

 以上の対策によって、無事にシャットダウンしてもネットワークがつながるようになった。そこで、速度を検証してみたのだが、どうも上りが遅い。以下は、同じ環境でMS-S1 MAXをWindowsで利用した場合と、Proxmox VEで利用した場合のiPerf3の計測結果となる。

iPerf3テスト
上り下り
Proxmox VE 9.15.03Gbps9.32Gbps
Windows 118.63Gbps9.28Gbps

 Windowsの場合も上りが8Gbps前後なので、若干遅いが、Proxmox VEだと5Gbps前後とさらに遅い。MS-S1 MAXから見て上りなので、サーバーとして利用した場合は下り方向、つまりサーバー→PCの速度が理論値の半分ほどになってしまう。

 執筆時点では、対策はできていない。Windowsで速度が出ていることを考えると、こちらもドライバーが原因だと考えられるので、しばらくの間は待つしかないだろう。

Windowsでメインマシンとして使うか……

 ということで、毎年、年末年始はサーバーを作って遊ぶのが個人的な楽しみのひとつとなっているのだが、今年は肝心のハードウェアに課題が残ってしまったので、見送ることになった。

 今回のMS-S1 MAXはメインマシンとしても使えるという気持ちで買ったので、サーバーとしては別のPCを検討し、しばらくはWindowsで使うことにしようと思う。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中