清水理史の「イニシャルB」

“電波が見える”Wi-Fi 7アクセスポイント、スペクトラムアナライザー搭載のUbiquiti「UniFi U7 Pro XGS」を購入!

UniFiの一部のアクセスポイントで利用可能なスペクトラムアナライザー

 Ubiquiti(UniFiブランド)の新型Wi-Fi 7アクセスポイント「U7 Pro XGS」は、トライバンド対応で5764+4804+688Mbps、有線LANは10Gbps(PoE++)に対応する。これだけのスペックで5万4000円という価格も驚きだが、なんと簡易スペクトラムアナライザーまでも搭載している。Wi-Fi通信中の電波を可視化してみた。

ずっと待ってた

 待望のスペクトラムアナライザー機能付きのUniFi APを、ようやく購入できた。

 2024年、海外でスペクトラムアナライザーを搭載したUniFi U7 Pro MAXが発売されたとき、「ぜひ欲しい」「絶対買う」と思って、国内発売を待ちわびていたのだが、結局、「国内販売なし」という結果になり、落胆していた。

 その間にUniFiのラインアップが切り替わり、アクセスポイントもデザインが一新された新しいU7/E7シリーズが登場し、ついに日本でもスペクトラムアナライザー機能付きの「U7 Pro XGS」が発売。もちろん、即購入した。

 U7 Pro XGSは、Wi-Fi 7の5764+4804(※国内法令準拠で表記)+688Mbpsに対応したアクセスポイントだ。5GHz帯のみ4ストリームで、ほかは2ストリーム対応。有線は10Gbps対応で、PoE++給電という仕様になっている。

※スペック表の5GHz帯の速度は8.6Gbps(BW240)と、国内で非対応の240MHz幅時の表記となっている。海外メーカーではよくあるが、国内法令に準拠した表記を掲示すべき

正面
背面
有線は10Gbps対応。給電はPoE++

 驚きは価格で、6GHz帯と2.4GHz帯が2ストリームとなるものの、10万円台が相場の10Gbps対応法人向けAPの約半額、驚きの5万4000円という価格で購入できる。UniFiはプロシューマー向けという位置づけだが、中小企業では、この価格は大きな魅力と言えるだろう。

 デザインも丸形ながらエッジが強調されたものに変更され、カラーもホワイト/ブラックの2色から選択可能(筆者はブラックを購入した)と、なかなか競争力のある製品となっている。同社は、一時期国内でのマーケティング活動を強化していたが、昨今はすっかり露出が減ってしまった。しかし、本製品はなかなかにインパクトの強い仕上がりとなっている。

スペクトラムアナライザーで電波を可視化

 そして、何より注目したいのが、スペクトラムスキャン/アナライザー機能(電波の強度を検知・解析し、周波数帯ごとの電波強度など、無線通信の状況を可視化する機能)を内蔵している点だ。

 Wi-Fiの電波の調査などに使うスペクトラムアナライザーは、ITインフラエンジニアや開発者向けの製品となっており、個人ではとても手を出せない、非常に高価な製品だ。

 もちろん、UniFiに搭載されている機能は、ごく簡易的なもので、リアルタイム性も低いが、それがたったの5万4000円、しかも普段はアクセスポイントとして利用できる機器に内蔵されているというのだから、お買い得と言える。

 というわけで、さっそく、この機能を使ってみた。

 ちなみに、筆者はスペクトラムアナライザーの使用経験がなく、Wi-Fiの検証で専門家と一緒に調査に立ち会ったことがある程度となる。このため、正直、詳細な検証はできないうえ、既存の専用ツールとの比較もできない。今回は、シンプルにWi-Fiの電波を可視化するだけになっている点は、ご容赦いただきたい。

 使い方は簡単で、シンプルにU7 Pro XGSをUniFiの管理ツール(Network)に登録するだけでいい。

 これで、UniFi Networkアプリの「無線機能」にある「環境」画面に「スペクトラムアナライザー」というトグルスイッチが表示される。

スペクトラムアナライザーを利用可能

 通常時は、周囲のアクセスポイントのチャネルの使用状況が表示されるだけだが、「スペクトラムアナライザー」をオンにすると、選択した無線帯域の電波状況がスキャンされ、その結果が動的に表示される。

 使ってみた感覚だと、リアルタイムではなく、数秒遅れて表示されるようで、本格的な調査は難しそうだが、通信の状況や干渉の状況を目で確認するには十分という印象だ。

調査1:5GHz帯の通信状況を確認する

 まずは、5GHz帯の通信状況を確認してみた。通常のチャネル使用状況は以下のような感じで、同じ範囲を使うアクセスポイントが周囲に複数あるが、さほど混み合ってはいない状況だ。

チャネル利用状況

 これをスペクトラムアナライザーの表示に切り替えると以下のようになる。2つのグラフのうち、上は現在の状況を示したもので縦軸が電波の強度になっている。一方、下のグラフは時系列の変化を示したウォーターフォールで、縦軸は時間となっており、電波強度は色で示されている。

接続しただけの状態

 5GHz帯は、自宅でも何台かクライアントが接続されているので、数秒おきに電波強度が高くなる状況(上図のCh56のあたり)が見られるが、データの送受信は行われていないので、グラフも全体的に平坦だ。

 この状況で、クライアントでインターネット上のサイトでスピードテストを実施したのが以下の画面だ。Ch36~Ch64の間のグラフが一気に盛り上がっており、ここを使って160MHz幅の通信が行われていることがわかる。下のウォーターフォール図も赤くなっていることが確認できるだろう。

通信中の様子

調査2:6GHz帯の通信状況を確認する

 続いて、6GHz帯の通信を確認してみた。

 Wi-Fi 7では、MLOによって複数帯域を利用できるが、eMLSRの場合、掴んだ2つの帯域のいずれかを切り替えて利用するものの、実際にどっちを使って通信しているのかをユーザーが確認するのが難しい。こうしたケースで、このスペクトラムアナライザーが重宝する。

 まずは、6GHz帯のチャネル使用状況だが、こちらは周囲にアクセスポイントが見当たらない。まさに空いている6GHz帯を堪能できている状況に見える。

チャネルの状態

 しかし、スペクトラムアナライザーで見てみると、出力が弱いながら、何かしらの電波が結構使われている状況が見える。6GHz帯は、他のシステムでも利用しているため、それを検知しているのかもしれない。

接続しただけの状態

 5GHz帯のときと同様にクライアントで通信を発生させたのが下図だ。Ch17~Ch61あたりで波が盛り上がっていることを確認できる。320MHz幅の通信なので、広い範囲を使っているが、高さは-60dBmあたりが上限(上の5GHz帯は-30dBmくらい)となっている。

 国内では空中での電力の上限が決まっているため、利用する周波数帯が広くなれば、出力は落ちる。それがグラフとしてきちんと見えている状況だ。6GHz帯が長距離に弱いというのは、このあたりの影響もある。

通信時の状態

調査3:別のAPの6GHz帯の通信状況を確認する

 もちろん、U7 Pro XGSに接続したクライアントの状況だけでなく、近くに設置されているアクセスポイントの通信状況も確認できる。下図は、アイ・オー・データ機器の「WN-7T94XR」を近くに設置して、そちらにPCを接続して通信を発生させたときの様子だ。

別のネットワークとしてアクセスポイントを用意し、そちらで通信している状態をUniFiで観測している様子

 Ch81より上の部分で値が盛り上がっているが、ここが通信している状況となる。WN-7T94XRではCh1が設定されているので、もっと左側に表示されると思っていたが、予想外の表示になった。Wi-Fi 7はメーカーによってチャネルの表記方法が異なるので、そのあたりが影響しているのかもしれない。このあたりは、もう少し、検証が必要と言えそうだ。

どう使うか悩む

 以上、UniFi U7 Pro XGSのスペクトラムスキャン機能(スペクトラムアナライザー)を利用してみたが、今まで見えなかった電波が見えるようになるだけでも面白い。

 当初は、Wi-Fi 7のMLOの切り替えの様子を可視化できるのではないか? と思っていたのだが、前述したように他のアクセスポイントの状況が表示される場所が想定と違っていたり、実際の通信と表示のタイムラグも大きかったりするので、どこまで検証に利用できるのかは不透明だ。

 そもそも普段使うアクセスポイントのオマケ的な機能なので、見て楽しむだけでも十分だが、筆者的に、今後の原稿や検証にどう生かすべきかは現在悩み中だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中