"ここ"がイチ押し! 旬モノ実験室

実売3万円以下なのにWi-Fi 7! 10GbEにも対応のアイ・オー「WN-7T94XR」は、いろいろな点で“買いやすい”ルーター

手の届くWi-Fi 7ルーター、アイ・オー・データ機器「WN-7T94XR」

 アイ・オー・データ機器から、実売3万円以下の普及価格帯といえるWi-Fi 7ルーター「WN-7T94XR」が登場した。他社のフラッグシップモデルでは実売10万円オーバーも存在するド派手なWi-Fi 7ルーターの中では、価格も、そしてデザインも控えめなモデルだ。

 価格を抑えたとはいっても、無線は5765Mbps(6GHz)+2882Mbps(5GHz)+688Mbps(2.4GHz)のトライバンド対応な上、有線も10GbE×1に2.5GbE×3と、豪華な構成となっている。その実力を検証してみた。

◆「WN-7T94XR」のイチ押し!
価格的にも、デザイン的にも買いやすい新世代Wi-Fi ルーター

アンテナ内蔵のシンプルデザイン

 本製品のいいところは、見た目から「Wi-Fi 7だっ!」という強い主張が感じられないわりに、しっかりとパフォーマンスを意識した設計がなされていることだ。

 本製品のデザインは非常にあっさりとしていて、近年の同社製品がうたう「生活になじむ、暮らしによりそうルーター」を意識したものとなっている。前面に配置された最低限のLEDと、側面下部にうっすらと刻まれたメーカー名があるくらいで、ハイエンドモデルであることを主張するような加飾とは無縁だ。しかも、アンテナも内蔵でスッキリとしている。

正面
側面
背面

 もしかすると、店頭に実機が展示されていたとしても、Wi-Fi 7対応モデルだとは気づかないかもしれないほど控えめだといえる。

 しかしながら、家庭では、このデザインが実によく馴染む。

 余計な突起物がないから、多くの設置面積を占有することがない上、リビングなどに設置しても、白い壁紙に自然と溶け込み、無駄に目に留まることがない。高性能なWi-Fiルーターは欲しいが、「ド派手な製品はちょっと……」というユーザーには最適な選択肢だろう。

 注意点としては、サイズが意外と大きいことが挙げられる。本製品のサイズは約180×65×247mm(幅×奥行×高さ)で、身のまわりにあるものでいえば、幅×高さはノートなどで一般的なB5判(182×257mm)のサイズに近く、その厚みが65mmあるイメージとなる。よくあるWi-Fi 6までのルーターと比べて1、2まわり大きい印象で、重量も1.4kgある。

 しかしながら、縦置きタイプなので実質的な設置面積はそれほど要求されず、前述したようにアンテナ内蔵なので、設置場所の高さも必要ない。わざわざ置き場所を確保しなくても、空いている場所にポンと置いて、違和感がない。この手軽さが実に魅力的だ。

近距離の6GHz、長距離の5GHz、そのほかの2.4GHzを使い分け

 本製品は、どちらかというと性能を重視した製品となっており、機能面は比較的シンプルだ。

設定画面。必要な機能に絞ったシンプルな構成

 もちろん、スマホからも設定できたり、既存のWi-Fiルーターから情報を引き継ぐ引っ越し機能に対応していたり、QRコードの読み取りでスマホを接続できたり、簡易的ながらペアレンタルコントロール機能を搭載していたりと、家庭向けのルーターに求められる機能は一通り備えている。

 しかしながら、「全部入り」を目指した他社のWi-Fi 7ルーターと異なり、セキュリティベンダーと組んだ高度な保護機能やUSBファイル共有、VPNサーバーといった機能は搭載しない。

 その代わり、基本的な性能面は充実している。特に有線は10GbE×1(WAN)、2.5GbE×3を搭載し、10Gbps接続の回線の性能を生かせるようになっている。

WANポートが10GbE対応となっている

 無線に関しては、Wi-Fi 7ことIEEE802.11be対応で、各帯域の最大速度は5765Mbps(6GHz)+2882Mbps(5GHz)+688Mbps(2.4GHz)となっている。

 ハイエンドクラスのWi-Fi 7ルーターは、MIMOによる多重化が4ストリーム対応となっているため、6GHz帯の最大速度が11529Mbps、5GHz帯も5764Mbpsとなっている製品が主流となる。

 一方で、本製品は、6/5/2.4GHzの全ての帯域が2ストリーム対応までで、最大速度は半分ほどとなっている。

 ただし、接続するPCやスマートフォンなども基本的には2ストリーム対応までなので、実質的につながる最大速度は6GHzが5765Mbps、5GHz帯が2882Mbpsとなる。つまり、本製品の最大速度と同じだ。

 ハイエンド製品では、この帯域に余裕があるため、複数台を同時接続しても余裕があるが、本製品でも単体なら、PCやスマートフォンを接続した場合の最大速度は変わらないことになる。

10Gbps対応のauひかり回線に接続し、Wi-Fi 7(6GHz)で接続したPCで回線速度を計測した結果

 実際に、木造3階建ての筆者宅にて、iPerf3による速度を検証した結果は以下の通りだ。


【お詫び 2024年7月22日】
本記事のテストに使用したPCのWi-Fiモジュールは、320MHz幅での通信が許可されていなかったことが判明いたしました。記事の制作において不適切な過程があったことをお詫び申し上げます。

データ自体は意図通りに320MHz幅での通信を行ったものとなっています。詳細は以下の記事もご覧ください。

Wi-Fi 7対応でも「320MHz幅」でつながるPCとつながらないPCがある、謝罪と問題の整理


iPerf3テスト結果
上り/下り1F2F3F3F端
Wi-Fi 7(5GHz) 上り1350442238149
Wi-Fi 7(5GHz) 下り1430785442335
WI-FI 7(6GHz) 上り206050515353
WI-FI 7(6GHz) 下り2120892536115

※単位:Mbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 Pro
※クライアント:Core Ultra 7 155H/RAM 32GB/1TB NVMe SSD/Killer Wi-Fi 7 BE1750w (Intel BE200D2W)/Windows 11 Home

iPerf3テスト結果

 1階の近距離では6GHz帯で2Gbpsオーバーを達成しており(今回は2.5Gbpsの有線にサーバーを接続しているので上限が2Gbps前後となる)、4096QAMと320MHz幅対応で高速化されたWi-Fi 7の恩恵を実感できる。4096QAMのみで160MHz幅までの5GHz帯と比べると、2倍の速度となるので、かなりの高速化が実現できている。

 ただし、これは本製品に限らずWi-Fi 7/6E対応機器に共通する欠点となるが、6GHz帯は電波の特性上、長距離や遮蔽物のある環境が得意ではない。

 このため、3階端などの長距離になると、速度は逆転し、5GHz帯を使った方が快適になる。

 つまり、環境次第ではあるが、近距離では6GHz帯、長距離では5GHz帯と使い分けることが望ましい。本製品のようなトライバンド対応製品では、こうした環境による帯域の使い分けができることが魅力と言える。

 なお、本製品も、Wi-Fi 7の特徴のひとつとなるMLO(Multi-Link Operation:複数帯域を同時利用して速度を向上させる技術)に対応しているが、利用できる帯域は「2.4GHz+5GHz」か「5GHz+6GHz」のいずれかの組み合わせとなっている。

MLOは選択式

激戦区となる3万円クラスのWi-Fi 7ルーター

 以上、アイ・オー・データ機器のWi-Fi 7対応ルーター「WN-7TR94XR」を実際に検証してみたが、シンプルに「無線も有線も速いWi-Fiルーター」が欲しいというのであれば、いい選択肢と言えそうだ。前述したように、デザインもシンプルで、日本の家庭事情に合った製品と言える。

 価格的にも魅力的で、5月13日時点でのAmazon.co.jpの実売価格(予約価格)は税込2万7800円となっている。これくらいの価格なら、無理なく購入できるだろう。

 とはいえ、Wi-Fi 7対応のスマートフォンやPCがほとんどない現状を考えると、安いWi-Fi 6を選ぶメリットもある。

 Wi-Fiルーターの買い替えサイクルは5年程度と言われているので、仮にこれから5年使うことを考えると、予算を追加してでもWi-Fi 7対応の本製品を買うことを推奨する。おそらく今年の後半から来年にかけて、PCやスマートフォンでもWi-Fi 7が一般的になっていくので、そのときに今の投資が生きてくるはずだ。

 なお、本製品とほぼ同時期に、エレコムから「WRC-BE94XS-B」という製品が発表された。スペックも一緒で、採用されているチップも同じ(Qualcomm Immersive Home 326)。デザインは若干違うがポートやスイッチの位置なども同じ、実売価格もほぼ同じとなる。

 また、同価格帯には、TP-Linkの「Archer BE550」(実売価格2万9800円)という製品も存在する。2ストリームの同等クラスの製品だが、Archer BE550はEasyMesh対応や高度なセキュリティ対策機能を搭載するのが特徴で、本製品は無線が全てWi-Fi 7対応で有線に10GbE×1を備える(Archer BE550は2.4GHz帯がWi-Fi 6対応となっており、有線はWAN、LANとも2.5GbE)のが特徴となる。

 このように、3万円前後のWi-Fi 7ルーターは激戦区となりつつある。今後、おそらく他社も続々と、この価格帯の製品を投入してくることだろう。その動向も気になるところだ。

「"ここ"がイチ押し! 旬モノ実験室」は、今気になるハードウェアやソフトウェアをピックアップして、その製品の「イチ押しのポイント」に注目し、魅力をレポートします。バックナンバーはこちら

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。