清水理史の「イニシャルB」【特別編】

やっぱりASUSはこうでなきゃ! クアッドバンド対応のWi-Fi 7ルーター ASUS ROG Rapture GT-BE98

アンテナは8本に見えて16本、有線は10Gbps×2+2.5Gbps×4………

 ASUSから、Wi-Fi 7対応のハイエンドルーター「ROG Rapture GT-BE98」が登場した。

 性能も価格もデザインも「突き抜けた」製品で、6GHz+5GHz(1)+5GHz(2)+2.4GHzのクアッドバンド対応や10Gbps×2+2.5Gbps×4の有線、8本に見えて実は16本のアンテナなど、かなりの破壊力を持った製品に仕上がっている。

 また、セキュリティ機能も充実しており、特に「広告」の扱いのバランスに優れる。その実力を検証してみた。

ASUSから登場したクアッドバンド対応Wi-Fi 7ルーター「ROG Rapture GT-BE98」

これぞASUSスタイル!!

 ASUSから登場した「ROG Rapture GT-BE98(以下、GT-BE98)」は、久々にASUSらしさが爆発したWi-Fiルーターだ。

 ここ数年、国内市場では、落ち着いたデザインやアンテナ内蔵の日本市場向け製品など、市場ニーズに合った製品をリリースしてきた同社だが、今回のGT-BE98は、まさに我が道を行くモデル。Wi-Fi 7対応でしかもクアッドバンド、10Gbps+2.5Gbpsの有線、クアッドコア2.6GHzのCPUと、内なる欲望が爆発したかのような完全に性能に振り切った製品に仕上がっている。

 賛否が分かれることもある挑発的なデザインも、ゲーミングという皮をかぶってはいるものの、ASUSルーターが持つ筋肉質な部分を表現方法するための演出であり、あふれ出る実力が負の威圧感となってしまうことがないように、あえて抑えているかのようにも思える。

 Wi-Fi 7という圧倒的なパフォーマンスの技術に対して、通信機器としてどう挑むかにASUSというテクノロジー企業が真正面から挑んだ集大成と言っても過言ではないだろう。

アンテナ8本⁉︎ いえ16本です‼︎

 それでは実機を見ていこう。本製品は、前述したように性能を重視した設計となっており、デザイン的な要素にも、それぞれ性能を実現する意味が込められている。

 まず目につくのは、8本の大きなアンテナだ。本製品は、6GHz+5GHz(1)+5GHz(2)+2.4GHzという4つの帯域を同時に利用できるクアッドバンド対応となっており、それぞれの帯域が4ストリームのMIMOに対応している。つまり、4帯域×4ストリームで合計16ストリームの通信となる。

正面
背面

 GT-BE98のアンテナは、一見、8本だが、内部が2つのアンテナで構成されており、8×2の16本構成となっている。つまり、16ストリームのすべての通信に対して、1本ずつ外付けのアンテナが用意されていることになる。

 製品によっては、6GHzや5GHzなどのメインの帯域だけが外付けで、ほかは内蔵というケースもみられる。本製品も「2.4GHzは内蔵でもよかったんじゃないの?」と思わなくもないが、当然のように1本ずつ外付けアンテナが用意されている。

各バンドの各ストリームに1本ずつ用意される外付けアンテナ
内部的に2本のアンテナになっている

 演出のように見えるグラフィック部分も、しっかり意味がある。実態は内部基盤を挟み込むヒートプレートで、熱を効率的に排出するための工夫だ。底面も高めの台座で空間が確保されており、底面から空気を取り込んで上部へと逃がす工夫が施されている。

見た目だけでなく熱対策も徹底される

 その一方で、内蔵された複数のLEDによって、自在に色を変えられるロゴ部分は完全な演出だ。性能的な意味はなく、設計者の遊び心としか思えないが、こうした遊びの部分も併せ持っているところが実にASUSらしい。

グラフィック部分はナノカーボンコーティングされたアルミのヒートプレート
上部のLEDはアプリで光り方を制御できる

 インターフェースは圧巻で、有線ポートは、10Gbps×2、2.5Gbps×4、1Gbps×1という構成になっている。

 ASUSのルーターは、設定画面から、ポートの役割をある程度変更することが可能になっており、2つの10Gbpsポートをそれぞれインターネット接続用のWAN、PCやNAS接続用のLANとして利用することもできれば、2.5GbpsをWAN、10GbpsをLANのように使うこともできる。

10Gbpsを2ポート備えたリッチなインターフェース
WAN、LANにそれぞれどのポートを使うかを選択可能
さらにVLANも構成できる

 例えば、回線も10Gbps、LANも10Gbpsというリッチな環境にも対応できるし、回線はまだ1Gbpsだが2.5Gbps対応のPCやNASがあるという環境にも対応できる。また、10GbpsのLANポートは、ゲーミングポートとなっており、つなぐだけで優先的に通信を処理することができ、ゲーム環境にも適している。この性能なので、当たり前と言えば当たり前だが、どんな用途にも困らない。まさに「大は小を兼ねる」だ。

 もちろん、USB3.2 Gen1対応のUSBポートも搭載しており、USB接続のモバイル通信モジュールを利用したり、USBストレージを接続することで簡易NASとして利用したりすることもできる。詳しくは後述するが、こう見えて(失礼)、ASUSのルーターはセキュリティ機能も充実しているため、小さなオフィスや店舗などのセキュリティゲートウェイ兼ファイルサーバーとして利用することもできる。

ROG Rapture GT-BE98
実売価格(税込)13万6182円
CPUQuad-core 2.6GHz
メモリ2GB
無線LANチップ(5GHz)-
対応規格IEEE802.11be/ax/ac/n/a/g/b
バンド数4
320MHz対応
最大速度(2.4GHz)1376Mbps
最大速度(5GHz-1)5764Mbps
最大速度(5GHz-2)5764Mbps
最大速度(6GHz)11529Mbps
チャネル(2.4GHz)1-13ch
チャネル(5GHz-1)W52/W53
チャネル(5GHz-2)W56
チャネル(6GHz)1-93(PSCあり)
ストリーム数(2.4GHz)4
ストリーム数(5GHz-1)4
ストリーム数(5GHz-2)4
ストリーム数(6GHz)4
アンテナ外付け(8本[16本])
WPA3
メッシュ〇(AiMesh)
IPv6
IPv6 over IPv4(DS-Lite)×
IPv6 over IPv4(MAP-E)〇(一部)
有線(10Gbps)2
有線(2.5Gbps)4
有線(1Gbps)1
有線(LAG)
USBUSB3.2(gen1)×1、USB2.0×1
セキュリティ
USBディスク共有
VPNサーバー〇(OpenVPN、PPTP、L2TP/IPSec、WireGuard)
動作モードRT/AP
ファーム自動更新
LEDコントロール
サイズ350.41×350.41×220.6mm

4択の贅沢! もう周囲の混雑なんて関係ない

 さて、肝心のWi-Fi性能だが、これもすごい。

 まず、近隣の電波状況(混雑状況)なんて気にしなくていい。なぜながら、前述したように本製品は6GHz+5GHz(1)+5GHz(2)+2.4GHzのクアッドバンド対応なので、どこでも空いている帯域を選んで利用すればいいからだ。

 現状、6GHz帯は確実に空いているが、将来的にWi-Fi 7やWi-Fi 6Eの製品が当たり前になってくれば、混雑する場合も考えられる。もし、そうなっても5GHzを使えばいい。本製品なら、W52/W53の5GHz(1)とW56の5GHz(2)の2系統を選ぶことができる。もちろん、ありえないかもしれないが、空いていれば2.4GHz帯を使うことだってできる。

 現状、世間の多くの人は、空いている帯域を2.4GHzと5GHzの2択でしか選べないが、本製品のユーザーは「4択」の特権を持っており、どこでも空いているところにつなげばいい。実に贅沢な環境だ。なお、2.4GHz/5GHz(1)/5GHz(2)はスマートコネクトによる自動接続も可能。

6GHz+5GHz(1)+5GHz(2)+2.4GHzの帯域を利用可能
スマートコネクトの詳細設定も可能。各帯域の選択ルールなどをカスタマイズできる

 もちろん、6GHz帯は、Wi-Fi 7ならではの320MHz幅対応で、最大速度は11529Mbps、つまり10Gbpsとなる。

 現状、Wi-Fi 7に対応したPCの最大速度は2ストリーム320MHz幅構成で5764Mbpsなので、実効で10Gbpsで通信できるわけではないが、トータルの帯域で考えると、Wi-Fi 7対応のPCやスマートフォンを同時に2系統(2台同時)接続できるだけの実力を備えていることになる。

 単純な計算なら、クアッドバンドのすべての帯域を使えば、それぞれ2台ずつ8台のPCやスマートフォンが同時にフルスピードで通信できる帯域なので、一般的な家庭なら、帯域不足に困ることはない。もちろん、無線の速度は、電波環境次第なので、単純な話ではないが、とにかく、本製品なら同時に複数台のPCやスマートフォンが通信しても、それぞれ十分な速度を確保できることになる。

 なお、複数帯域を統合して高速な通信を実現できるMLOは、今後、ファームウェアのアップデートで対応予定となっている。本製品を複数台組み合わせてメッシュで利用する場合は、ファームウェアの更新情報を定期的にチェックしておくといいだろう(※編集部追記:4月23日公開のファームウェアで対応済み)。

Wi-Fi 7対応のノートPCでテスト、実力も文句なし

 実際の環境でのテスト結果は以下の通りだ。木造3階建ての筆者宅の1階に本製品を設置し、Wi-Fi 7対応のノートPCを利用して、各階でiPerf3の速度を計測した。検証のため、5GHz(W56)帯と6GHz帯の両方で検証している。

グラフ

 結果を見ると、Wi-Fi 7の320MHz幅の恩恵によって、近距離で3Gbpsオーバーをきっちり発揮できている。6GHz帯の場合、2階や3階でも1Gbpsオーバーが実現できており、全体的にかなり速い印象だ。

 特筆すべきは、長距離の性能で6GHz帯でも下り518Mbpsと高速な点だ。これまで、いくつかのWi-Fi 7対応製品をテストしてきたが、最も遠い3階端では、5GHz帯の方が速度が高くなることが多かったが、本製品は長距離でも5GHz帯よりも6GHz帯の方が速い。

 今回の検証では、垂直方向に電波を送受信しやすくするために、アンテナをすべて開いた状態で検証したため、それが効果的だったと思われる。独立した外付けのアンテナで、かつ可動域が広く、上下方向に電波を飛ばしやすいメリットがありそうだ。

ユーザー層によっては悪質な広告もカット

 機能面では、前述したようにUSBポートによるファイル共有やゲーミング環境などに活用できるQoS機能なども本製品の特徴だが、セキュリティ機能が無料で使える点が大きい。

 他社製のWi-Fiルーターでは、無料版と有料版で機能に差が設けられている場合や、一定期間無料でその後は有料になるサブスクリプション形式のサービスとなっている場合があるが、本製品は無料でフル機能が利用可能となっている。

 本製品のセキュリティ機能を利用するメリットは3つある。

ルーターの乗っ取りなどを防げる

 1つは、昨今問題になっているルーター自体の乗っ取りを防げる点だ。自己診断機能によって、ルーターのパスワードなどの弱点を検出し、その対策をすることができる。WPAやUPnPなど、少しでもリスクがある機能の有効/無効状態も表示されるので、「何がリスクなのか?」「どう設定すればいいのか?」が分からなくても、リスクを確認し、その設定にワンクリックでジャンプできる。

 ルーターの安全性を確保する基本は、ファームウェアのアップデートとパスワードの管理となる。ファームウェアは自動的更新が有効化されているので、せめて管理者パスワードとWi-Fiの接続パスワードは、強固な文字列の組み合わせに変更しておこう。

自分自身の設定をチェックし、改善した方がいいところを表示してくれる

PCだけでなくIoT機器の通信を保護できる

 もう1つは、PCやスマートフォン以外のIoT機器を保護できる点だ。

 正直、PCやスマートフォンは、OSに搭載されたセキュリティ機能やブラウザのURLフィルタによって、マルウェアの侵入やフィッシングサイトなどの危険なサイトへのアクセスを遮断できる可能性が高い。

 しかし、ゲーム機や監視カメラ、各種センサーなど、家庭内のIoT機器は、こうしたセキュリティ機能がないため、危険にさらされる可能性が高い。ASUSのルーターには、外部からの攻撃や感染した端末が内部から外部に行う不正な通信を検知できるIPS/IDS機能が搭載されているため、こうした通信を検知・遮断できる。

 IPS/IDS機能は、法人向けのUTMなどで採用されている機能だが、同様の機能が無料で使えるのは大きなメリットだ。場合によっては、ローエンドの法人向けルーターやUTMなどの代わりとして使うこともできるだろう。

AiProtection機能によって、悪質サイトへのアクセスや感染端末の外部通信を検知・遮断できる

広告をカットできる

 最後のメリットは、広告カット機能が使える点だ。

 これは、正直、本稿のような商用媒体では触れたくない機能だ。インターネット上の情報が広告による収益で成り立っていることを考えると、それをカットすることは避けて欲しいのが本音となる。しかしながら、最近の広告は一線を越えるような悪質なものも少なくない。

 インターネットに不慣れな高齢者や子供を過剰なコンテンツから保護することも重要だし、在宅勤務中に本来の調べものの目的を忘れてついつい広告をクリックしてしまうことも避けたいところだ。

 本サイトも含め、広告の在り方については、もっと深く議論を進めるべきだが、本製品の広告カット機能は、広告の要不要をユーザーが選択できるいいバランスに仕上がっている。

 具体的には、ペアレンタルコントロールの機能として設定可能になっており、特定のデバイス、または特定のユーザー(後述するASUSルーターアプリで設定)に対してのみ広告カット機能を有効化できる(DNS設定で全端末に設定することも可能)。

ペアレンタルコントロールの一部として広告ブロック機能を提供

 つまり、「子供のPCとスマホ」、「仕事で使うPC」などといったように、特定の端末だけで広告カット機能を有効化できるわけだ。子供の端末などでは悪質な広告をカットしつつ、自分のPCやスマホでニュースを見たり、趣味の情報を調べたりするときは、情報の対価として広告を見る(クリックする)という使い分けができるメリットは大きいだろう。

 なお、この設定をするためのスマートフォン向けの「ASUSルーター」アプリの完成度も高い。ペアレンタルコントロール機能を使う場合、通常、端末のMACアドレスを調べる必要があるが、ホスト名でデバイスを識別でき、ユーザーが使うデバイスを簡単にグループ化できる。例えば「パパ」に会社のPCとAndroid、「子供」にリビングのPCとiPhoneなどのような構成が簡単にできる。

 ルーターの稼働情報をチェックしたり、外出先からルーターを管理したりするのも簡単なので、普段の管理はスマホアプリの利用がおすすめだ。

端末をホスト名で認識できるので、時間制限やコンテンツフィルタリングなどの制御がしやすい

全てに余裕を持てる

 以上、ASUSから登場した「ROG Rapture GT-BE98」を使ってみたが、さすがに性能や機能に不満はない。速度も余裕、使える周波数帯も余裕、台数のキャパシティも余裕、セキュリティ対策有効化しても処理能力も余裕と、不満を感じることがない。間違いなく、現時点でのトップを争うことができる製品と言っていいだろう。

 また、本ルーターは、ゲーミングルーターなのでゲーミング機能も当然ながら充実している。詳細はメーカーサイトで調べてほしい。

 課題を挙げるとすれば、価格とIPoE IPv6対応だろう。価格は、コスト度外視の性能重視なので仕方がない。一方、現状、IPoE IPv6環境(IPv4 over IPv6)の対応が、v6プラスとOCNバーチャルコネクトとなっている。購入時は、自分が使っている回線環境で利用できるかを確認しておく必要があるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。