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世界初、窒化アルミニウム(AlN)を採用した「AlN系高周波トランジスタ」の高周波増幅にNTTが成功、ポスト5Gでの活用に期待
2025年12月12日 06:00
NTT株式会社は12月9日、窒化アルミニウム(AlN:「l」は小文字の「L」)を使用した「AlN系高周波トランジスタ」により、無線通信の高周波信号の増幅に世界で初めて成功したと発表した。
高周波トランジスタは無線通信、衛星通信、レーダーなどにおける高周波電力増幅器の中核部品。通信サービスの向上には、アンテナから出力される無線信号の出力と周波数を高くする必要があり、高い絶縁破壊電界と飽和電子速度を持つ半導体材料が求められている。現在の5G通信では、ワイドバンドギャップ半導体である「窒化ガリウム(GaN)」を用いた高周波トランジスタが主流であるが、今回の研究で開発したAlN系高周波トランジスタはミリ波帯における増幅が可能であり、今後さらなる高出力化の開発を進めることで、ポスト5G時代の通信エリアの拡大や通信速度の高速化など、無線通信サービスのさらなる向上が期待されるとしている。
より高出力なトランジスタを実現するため、GaNより優れた特性を持つ「AlN」が注目されており、性能指数(FoM)がGaNの5倍を示している。また、AlNとGaNの化合物である窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)では、Al組成を増加させることでさらに性能指数の向上が可能となる。そこで、Al組成を高めた高Al組成AlGaN(AlN系半導体)をチャネル層に用いた高周波トランジスタは、次世代の電力増幅器として高いポテンシャルを有するという。
今回の実験では、AlN系トランジスタの高周波動作の実現に向けて、以下の2つの技術を開発した。
AlGaNコンタクト層による低抵抗オーミック接触
従来の構造では、Al組成の増加に伴い、電極と半導体の間に高いエネルギー障壁が発生していた。そのため、電力をスムーズに流すために必要なオーミック接触(半導体と金属の界面の電気抵抗が低く、電流が双方向に流れる接触)の形成が困難となり、トランジスタのドレイン電流値が低く制限されていた。しかし、今回の実験でエネルギー障壁を低減するため、電極とチャネル層の間にAl組成を徐々に変化させたAlGaNコンタクト層を形成する技術を開発し、オーミック接触の抵抗を低減できるようになった。
分極ドープチャネル構造による低抵抗化
従来のAlGaNチャネル構造は、Al組成を一定とし、AlN障壁層とAlGaNチャネル層の界面に形成される2次元電子ガスを電気伝導に利用していたが、Al組成が高くなるとその濃度が低下し、チャネル抵抗が増大してドレイン電流値が制限される問題があった。さらに、2次元電子ガスをチャネル層内に閉じ込めるエネルギー障壁も低く、高いオンオフ電流比も得られなかった。だが、同実験では、Al組成を傾斜させたAlGaNチャネル層をAlN障壁層と電荷制御下地層で挟み込む「分極ドープチャネル構造」を新たに開発。これにより、チャネル層内に高濃度の3次元電子ガス(従来の一般的な半導体における2次元電子ガスとは異なり、電子が三次元的に自由に動きまわれる状態)を形成できるようになり、チャネル抵抗の低減に成功した。
これらの技術を用いて、高Al組成のAlN系トランジスタ(Al組成:78%、85%、89%)を試作。その結果、これまではドレイン電流が低く制限されていたAl組成75%以上においても、線形性の優れた電流の立ち上がりと高いドレイン電流(例:Al組成85%で500mA/mm超)が得られることが確認された。また10⁹を超える高いオンオフ電流比も示した。
こうしたトランジスタ性能の向上により、高周波動作が困難とされてきたAl組成75%超のAlN系トランジスタにおいて、世界で初めて1GHzを超える高周波での電力増幅動作を実現した。特に、Al組成85%のAlN系トランジスタでは、電力増幅が可能な最大動作周波数(fmax)がミリ波帯(30GHz~300GHz)の79GHzに達し、これまでのAlN系トランジスタの最高値となっている。
同研究は、12月10日に米国サンフランシスコで開催された国際会議「71st IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM 2025)」にて発表が行われた。
今後は、この高周波トランジスタをより大電流・大電圧でも動作するデバイス構造を設計し、パワーデバイスから無線通信まで幅広く応用できる同社発のAlN半導体技術の社会実装に向けて研究開発を進めていくとしている。




