山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

Google、中国政府にサイト運営ライセンス更新を拒まれる ほか~2010年6月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

Google、中国政府にサイト運営ライセンス更新を拒まれる

 Googleは6月28日、中国政府が同社中国サイトから香港サイトへのリダイレクトを嫌い、中国国内でのサイト運営ライセンス更新を拒むため、Google.hkへのリンクを張り、リダイレクトをやめると公式ブログで発表した(http://googleblog.blogspot.com/2010/06/update-on-china.html)。

 Google社が中国本土から香港に撤退する前のURL「google.cn」や「g.cn」にアクセスすると、以前は香港のサーバーにリダイレクトされたが、現在中国のサイトにアクセスすると、香港の簡体字検索サイトにジャンプする画像リンクのみが貼られている。

 中国の各ネットメディアはこのニュースについて特集記事こそ組んでいないものの、多くのメディアが報じており、中国内でも関心が高いことが伺える。

 なお、Googleでは、中国におけるサイト運営ライセンス更新に関するトラブルが2007年の同時期にも起きており、このときは7月中旬に解決している。

画像リンクだけとなったGoogle.cn。検索入力窓の部分は画像で、画像をクリックすると香港の簡体字検索サイトにジャンプするGoogle中国ライセンス問題を報じる新聞

サッカーワールドカップ、ネット動画配信は正規版を徹底

 中国はグループリーグに出場ができなかったが、それでも中国におけるワールドカップ観戦はネット、テレビともに前回まで以上に盛り上がっている。各ポータルサイトは特集サイトを開設、日本のワールドカップ特集サイトを超える量のコンテンツを用意し、サイト利用者を呼び寄せている。

 今回の中国のネットにおけるワールドカップ報道では、版権を得た動画のネット配信が鍵となっている。インターネット利用者は35歳以下の若い世代がほとんどでサッカーファン層と重なることもあり、版権を得た各著名ポータルサイトや動画共有サイトがどれだけアクセス数が稼げた、広告収入を上げた、という話がインターネットのニュースとして連日報じられた。

 一方で、海賊版配信の動画サイトには非常に厳しい体制が敷かれた。国営ネットテレビ「中国網絡電視台(CNTV)」は24時間体制で携帯電話向けを含む動画サイトをチェック、海賊版を配信したサイトはすぐに動画サイト運営許可証を取り上げ、裁判所に提訴するという体制で臨んだ。

 しかし、中国メディアでは、こうした厳戒態勢にもかかわらず、開会式から試合に至るまでの動画を海賊版配信する版権意識に乏しいサイトが絶えないと報じた。

cntvのワールドカップスペシャルコンテンツポータルサイト「捜狐」のワールドカップスペシャルコンテンツ

ショッピングサイトに実名登録審査制がスタート

 7月1日より、ショッピングサイトを開くために、実名での運営者登録と、販売する商品が問題ないかの審査が必要となった。これは中国国家工商総局の「網絡商品交易及有関服務行為管理暫行方法(オンラインショッピングとそれに関するサービスの管理方法)」というオンラインショッピングに関する法律の実施によるもの。近い将来、中国の各ショッピングサイトで、工商当局によるショップおよび販売商品の違法性のチェックも行われる予定だ。

 日本では特定商取引法により販売責任者などの明示が義務づけられているため、ショッピングサイトが匿名で運営できること自体不思議に思うかもしれない。

 中国においては、中国最大シェアの「淘宝網(TAOBAO)」をはじめとするオンラインショッピングサイトの仕組みを利用すれば、個人がショッピングサイトを無料で開設できる。このため、顧客の購入後の配送などの具体的なやりとりが始まる前の段階では、匿名でショッピングサイトの運営が可能であった。

 淘宝網は今回の実名登録審査制の実施に備え、5月25日より2週に渡って同サイト内において違法性のある販売商品がないかどうかを自主的にチェックした。淘宝網の発表によれば、チェックの結果、ショップ11万店が違法性のある商品を出品しており、その総商品数は360万点にも及んだことがわかった。淘宝網は違法出品への対策として、問題のある製品を非表示にし、販売店に電話やメールなどで指導を行ったと発表した。

 淘宝網に限らず、宣伝内容と異なる商品の販売でのトラブルはよく聞く。6月だけのニュースを抜粋しても、Amazon中国(卓越亜馬遜)では、中国正規流通品と称したカシオ製腕時計が保障の効かない輸入品だったことが判明したり、中国最大靴販売店を自称し「正規版販売のみ販売!全品3割引から」とサイト上でアピールする「好楽買」というオンラインショップの靴が実はニセモノばかりだという話があったりと、こうした話題は絶えない。

淘宝網の海賊版販売店

政府当局による地図サイトの認可制スタート。Google Earthが利用不可に?

 中国政府国家測絵局は今年12月末までに、地図サイトを認可制にすることを発表した。中国の地図サイトは4万2000サイトあるといわれているが、その中の不良サイトを存続させないためというのが理由の1つと中国メディアは分析する。

 また、認可の前提として、地図データが入ったサーバーが中国内にあり、かつサーバーのIPアドレスを公開することが条件となっていることが明らかになっている。中国政府は過去にも、軍事施設を表示する地図サイト運営企業に警告を発しており、中国政府の認めた地図データのみを公開させようという意図が伺える。

 こうした中、6月中に早くも百度(Baidu)など4企業が申請を行ったが、Googleは申請を行わなかったことが、ニュースの中であわせて報道された。

 Google Mapも百度地図も、Googleや百度自身がデータを所有しているのではなく、別の中国地図ベンダーのサービスと提携している。しかし、Google Earthは人工衛星から撮影した写真を提供するKeyhole社を買収してGoogle自身がデータを提供するサービスだけに、Google Earthが近い将来使えなくなる可能性を指摘する報道もあった。

中国でアクセス禁止のYouTubeなど米国動画サイト、中国市場に活路

 中国からYouTubeへのアクセスは、2009年3月から引き続き遮断されたままだが、YouTubeが中国市場に向けて動き出した。中国のニュースメディアの報道によれば、米国よりYouTube社員一行数十名が中国を訪問し、中国の動画共有サイト「激動網(http://www.joy.cn/)」と提携関係を結ぶ交渉を行ったと伝えた。交渉が成立すれば、中国からYouTubeのコンテンツを激動網を通じて視聴可能になる。

 また、YouTube社員の訪問に先立ち、米国ではYouTubeに続く人気動画サイトのHuluのCEO、Jason Kilar氏も同月中国を訪問。北京の清華大学で「Huluは中国市場にマッチしたサービスを提供できる」と講演した。講演の後、前述の動画共有サイト「激動網」や「優酷網(YOUKU)」のCEOなどと密会したことが中国メディアにより報じられた。

中国の動画共有サイト「激動網」

中国ネットの雄「百度」と「アリババ」、日本の次は米国へ

 淘宝網(TAOBAO)の親会社であるアリババホールディングスはアリババ(日本)やYahoo!チャイナモールと提携する淘日本を立ち上げ、中国での検索サイトの雄百度(Baidu)は日本でも百度日本を立ち上げたが、この勢いある両社が米国をターゲットにした。

 アリババホールディングスは25日、米国のECサービスプロバイダーのVendio社を買収。これは同社での海外における初の企業買収となった。買収完了後、Vendioはアリババホールディングス内の1ブランドとなり、同社の英語による卸売り(B2B)向けECサイト「Aliexpress(全球速売通)」に米国Vendioの8万のバイヤーを呼び込む。

 百度は6月30日、7月より米国で30名程度エンジニアを募集すると発表。全社的な技術水準向上を目指すと同時に、米ナスダックに上場している関係上、株主へのアピール目的も兼ねると見られている。

 なお、百度ではこの発表の際に百度日本での収益についても触れ、日本においては会社設立以来ずっと赤字であることを明かしている。

アリババホールディングスが買収した、米国のECサービスプロバイダーのVendio社サイトアリババホールディングスの英語による卸売り(B2B)向けECサイト「Aliexpress(全球速売通)」

広東省深セン、3年以内に全世帯に10M~100Mbpsを目指す

 中国有数のプロバイダーである中国電信(チャイナテレコム)は、広東省や深セン市の役人に後押しされ、広東省深セン市内で2013年までにすべての建物に光ファイバーを通し、各家庭に10M~100Mbpsのインターネット回線を提供することを約束した。

 香港と隣り合う深センのブロードバンド事情は中国国内でももっとも良い部類で、最速12Mbpsのプランが月218元(3000円弱)、年2180元(3万円弱)より提供されている。

深センの出稼ぎ労働者向けの2Mプラン。月額約1200円

ネット先進省での条例が「人肉捜索禁止法案」かと注目をあびる

 アリババホールディングスなどを生み出した、中国内でもインターネット産業で一歩先を行く浙江省で、「人肉捜索禁止法案が提案された」との報道がなされ、省を超えて中国全体のインターネットユーザーの注目を集めた。

 中国語で「人肉捜索」とは、ナレッジコミュニティーのことだが、この本来音意味が転じて、ネットで非難の的とされた人などの個人情報をよってたかって収集・公開して“晒し上げる”ことを指す。日本の2ちゃんねるでよく見られる、SNSやブログにおける失言や軽犯罪自慢などに端を発した“祭り”状態と同じようなものと考えればいいだろう。

 報道により注目を集めた条例だが、「人肉捜索禁止条例では?」と疑われたのは、「浙江省信息化(情報化)促進条例」のうちの一文。しかし、浙江省の担当者に直接取材したメディアの質問に、担当者は人肉捜索を禁止する条例ではないと否定。関心を寄せた人々をほっとさせた(?)結果となった。

百度に同人チャンネルがオープンも政府はコンテンツに懸念

 百度の掲示板サービス「百度貼〓」に同人チャンネル(同人頻道)(http://tieba.baidu.com/tb/zt/tongren/)がオープンした(〓は口へんに巴)。百度の同人チャンネルといっても、掲示板サービスの中の1コンテンツなので、アップロードされるコンテンツの多くがテキストベースの同人小説のようだ。

 同人小説は数年前から人気のジャンルなので、突然人気が沸いたわけではなく、以前からのニーズを受けて同人チャンネルがスタートしたと解釈すべきだろう。

 人気の一方で、中国政府国家新聞出版総署の担当者は、「同人小説は画像や動画コンテンツ同様に、ポルノ的暴力的反政府的など、中国国内で流通するのにふさわしくないコンテンツがある」と指摘。来年までにネット小説を管理するルールを作る考えであることを中国メディアの取材に答えて明かしている。

百度の掲示板サービス「百度貼〓」の同人チャンネル「同人頻道」(〓は口へんに巴)

関連情報

2010/7/8 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。