山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

Googleの元AndroidプロダクトマネージャーHugo Barra氏が小米に入社 ほか
~2013年8月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

Googleの元Android担当Hugo Barra氏が小米(Xiaomi)に入社

 Androidプロタクトマネージャーを務めたHugo Barra氏がGoogleを退社し、スマートフォンメーカー「小米(Xiaomi)」に10月より入社することが、小米の微博(マイクロブログ)アカウントでの発表などから明らかになった。

 小米は日本でもセキュリティソフトやオフィスソフトをリリースするキングソフト(金山軟件)のCEO「雷軍氏」が立ち上げたファブレスのスマートフォンメーカー。従来の中国メーカーが行っていた多種多様な機種の投入ではなく、Appleのように数機種に絞り、iPhoneなどを生産するFoxconnで大量生産し、コストパフォーマンスの非常に高い製品「小米手机」シリーズを投入。短い期間でスマホ通を中心に認知された。独自スキン「MIUI」がプリインストールされており、また無料で配布も行っている。また最近ではセットトップボックスやスマートテレビにも参入している。

 米国のAll Things Dは9月12日に、Hugo Barra氏のインタビュー記事「Exclusive: Hugo Barra Talks About His Future at Xiaomi and Why He Really Left Google」を掲載。

 「1年以上前からGoogleを離れることを考えていて、小米との接触を始めていた」、「雷軍氏は、『中国ではスピードがすべて。最も表力ある製品開発に勢力を注ぐ、それは速ければ速いほどいい』と話していた」、「高性能の製品を低価格で提供するのは入口で、最終的には小米のOSを多くの人々が利用することを目指す」、「インドやロシアやインドネシアは魅力的な市場」、「今後の仕事が正しければ、AppleやGoogleと同列で小米が語られることになる」などととコメントした。

最新の小米手机3。価格は1999元(3万2000円強)から

ECサイトのユーザー獲得合戦は企業連合の争いに

 8月5日、2大微博(マイクロブログ)サイトのひとつ「新浪微博(Sina Weibo)」と最大のECサイト「淘宝網(Taobao)」が提携した新サービスを発表。淘宝網のアカウントで新浪微博に入れるほか、淘宝網の出店者が新浪微博から淘宝網に商品情報をアップすることができるようになった。

 新浪のレポート「2012年網站微博年度発展報告」によると、2012年に短縮URLとそれへのクリックは前年比ではっきりと上昇したとし、また調査会社「DCCI」の「2012年中国微博藍皮書」のレポートでは、半数以上の微博ユーザーが商品購入のきっかけに微博での製品情報のつぶやきを挙げている。主に出店者の微博上での出品情報へのアクセスにより、データ流量は5倍になったと翌月に発表した。

 淘宝網は8月、目標とする上場の際に株主から「ニセモノ販売の巣窟になっている」という不安を払拭すべく、ニセモノや海賊版販売には処罰の期間を現状よりもより長くし、特に悪質な店舗は即閉店というルールをスタートした。より厳格になったとアナウンスするも、海賊版や山寨機と呼ばれるデジタル家電のニセモノはまだ売られ続けている。

 チャットソフト「QQ」「騰訊微博」や、LINEのようなメッセージングサービス「微信(Wechat)」で知られる騰訊(Tencent)は同じく8月5日に、微信の最新バージョン「微信5.0」をリリース。このバージョンで同社の支払サービス「微信支付」と「遊戯中心」を追加した。騰訊傘下のECサイト「易迅網」も微信支付に対応させることで、QQなどの騰訊ユーザーを自社ECサイトに誘導する動線を作った。

 8月19日、新浪と並ぶポータルサイトの「網易(NetEase)」は、3大キャリアのひとつ「中国電信(China Telecom)」と提携し、「微信」に対抗した「易信」をリリースする。また、淘宝網を追うECサイト大手「京東商城」は従業員に騰訊の微信利用を禁止し、易信を利用するよう通達した。京東商城はもともとはデジタル家電に強いECサイトだったが、書籍、電車のチケットやぜいたく品などさまざまな商材を扱うようになり、8月には薬の販売も開始した。淘宝網や関連会社の「阿里巴巴(Alibaba)」も易信陣営ではないが、やはり騰訊の微信利用禁止を内部通達した。

 8月のこうした動きから、「淘宝網(阿里巴巴)+新浪」陣営と「京東商城+中国電信+網易」陣営と「騰訊」の構図が見えてきた。ほかにも百度やその他有力ネット企業がEC市場を虎視眈々と狙っているため、企業連合同士のシェア争いとなっていくだろう。

淘宝網のアカウントで微博のログインができるように

中国ネットユーザーの検索についての調査結果が発表される

 CNNIC(China Internet Network Infomation Center)は検索についてまとめた「2013年中国網民捜索行為研究報告( http://cnnic.com.cn/hlwfzyj/hlwxzbg/ssbg/201308/P020130828331153376173.pdf )」を発表した。ここ数年、検索利用者はインターネット利用者全体の8割程度を推移しており、2013年6月末時点では4億7058万人となった。スマートフォンなどモバイルでの利用者は3億2400万人に上る。

 最近半年の検索利用者による各検索サイト別利用率を見ると、PC向けでは「百度(97.9%)」「Google(38.7%)」「360捜索(33.3%)」「捜狗(27.6%)」「捜捜(27.6%)」「網易有道(12.4%)」の順。モバイル向けでは「百度(96.3%)」「Google(18.1%)」「捜捜(15.8%)」「捜狗(15.7%)」「360捜索(11.9%)」「網易有道(8.4%)」となった。

 以前に比べ、百度やGoogle以外のサイトの利用率が上がってきたといえる。また、さまざまなジャンルのサイトで検索サービスを提供しているが、その利用率は「ECサイト(67.1%)」「動画サイト(65.9%)」「微博・マイクロブログ(53.2%)」「アプリストア(32.1%)」となった。微博・マイクロブログとアプリ検索に関しては、PCよりもモバイルでの検索結果のほうが利用されており、加えて電子書籍もまたモバイルでの検索が多い。

 オンラインショッピングにおいて検索する内容は「価格(86.6%)」「製品の評価(83.4%)」「製品のメーカー(78.6%)」「製品情報(73.2%)」「販売者検索(62.7%)」「販売店情報(58.0%)」となった。購入前と購入後のどちらが多く商品情報を検索するかという点においては、購入前が62.2%、購入後が22.6%となった。2012年に比べ、今回は購入前の吟味は22.5ポイントも上昇した。今年になってリアルショップや広告などでQRコードをよく見るようになったが、その認知度は87.0%、利用経験があるのは55.7%だった。

スマートフォンなどモバイルによる検索利用者の推移

百度がブラウザーからアプリを起動する配布モデル「軽応用」を発表

 百度(Baidu)が、ブラウザーからアプリを起動する「軽応用(ライトアプリ)」を発表、開発者に配布した。2013百度世界大会で行われた発表によると、百度モバイル検索で検索すると、検索結果から関連するアプリが表示され、ブラウザーからアプリを利用する(ただし、まだ利用は可能になっていないようだ)。

 これにより、スマートフォン利用者はROMやRAMなどの容量を気にすることなく、またインストールの手間なく、さまざまなアプリが利用可能となる。また、検索結果に合ったアプリが表示されることから、従来のアプリストアでは人気のアプリはごく一部に偏っていた状況が解決し、開発者側にも光が当たるとしている。

 百度の前には、奇虎360が同社のブラウザーから限定でアプリを起動する「軽応用」が発表されていた。

百度による軽応用の説明

運用できるオンラインゲームのバーチャルマネーが登場

 オンラインゲームベンダー大手の「巨人」は、8月16日の新タイトル「征途2」に合わせ、引き出しや運用が可能なバーチャルマネー「全額宝」を発表した。オンラインゲームのバーチャルマネーを購入するのではなく、いったん余額宝にチャージして、そこからゲームへの支払いを行う。

 チャージした分の返金ができるほか、全額宝を通すことにより、同社の別ゲームへのバーチャルマネーの移動が可能になる。また、全額宝にチャージすると、貯金扱いとなり「一般的な預金の利率の100倍の利率」で利子がもらえるという。

 今回の施策は、6月に開始した支付宝(淘宝網の兄弟サイトによる支払サービス)による、少額の電子マネー残金を運用する投資信託サービス「余額宝」の影響があると見られる。余額宝のインパクトは強く、8月になっても37のファンドが支付宝との提携を発表した。

巨人の全額宝についての説明

動画市場の調査結果が発表される

 調査会社の「艾瑞咨詢(iResearch)」は中国のオンライン動画市場についてのレポート「中国在線視頻行業季度監測報告」および「中国在線視頻用戸行為研究報告」を発表した。報告によると、オンライン動画市場規模は2013年4~6月の3カ月で28億5000万元(約460億円)。内訳は「広告収入(75.2%)」のほかは「版権の販売(8.6%)」「有料コンテンツ(4.3%)」となった。

 同社が調査した利用者の動画サイトの利用時間においては、5月1日前後の連休も相まって、スマートフォンなどのモバイル経由が全体の1割をはじめて超え11.8%に。

 ふだん視聴するコンテンツは「映画(87.6%)」「テレビドラマ(86.0%)」「バラエティ番組(80.6%)」「ニュース(75.6%)」「スポーツ(56.8%)」「トーク番組(52.4%)」「アニメ(45.3%)」。

 動画サイトを選ぶ要素は、「画質や速度(64.8%)」「コンテンツの豊富さ(56.7%)」「特色あるコンテンツ(49.9%)」「サイトやアプリなどインターフェースの使いやすさ(42.0%)」「独自コンテンツ(37.6%)」の順となった。

動画サイト利用者の年齢構成(緑色。黄色はインターネットユーザー全体)

農場ゲームの先駆け「開心農場」のサービス終了に懐かしむ声

 中国でSNSを広めた立役者である農場ゲーム「開心農場」のサービスが8月30日で終了となった。

 リリースされた2009年当時は「農場育成ゲーム」ではなく「野菜盗みゲーム」と呼ばれ、人々はSNS「人人網(当時は校内網)」でつながる知人の野菜を暇があれば盗んで楽しんでいた。その人気からコラージュ画像が大量に登場したほか、リアルにまで農場ゲームを持ち込む動きが各地で見られるなど大変なブームとなった。多くのメディアがサービス終了を報じ、当時を惜しみ回顧した。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。