山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
中国を意識したiPhone 5c、中国で受け入れられず ほか ~2013年9月
(2013/10/18 06:00)
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
中国を意識したiPhone 5c、中国で受け入れられず
iPhone 5sとiPhone 5cが、世界同時発売日の9月20日に中国でも発売された。中国市場を意識したiPhone 5cだったが、調査会社Localyticsによれば、中国は世界で最もiPhone 5sに対してiPhone 5cの売れた割合が低い国であるとし、またIT系ポータルサイトの「中関村在線」でも、先代のiPhone 5より注目度が低いという結果に。
一方でiPhone 5sはGalaxy S4を抜いて最も注目を集める機種となり、とくにゴールドモデルは価格が暴騰。ゴールド化できるシールまで登場した。
ネット世論監視員で国の認可制を採用。200万人が誕生か
ネット世論監視員を国が認定する資格とすることを発表した。中国がネット検閲のトレーニングと検定試験を行い、合格すると、国のお墨付きのネット世論監視員となれる。10月中に人民網ネット世論監視部署(人民網輿情監測室)によるトレーニングが開始される予定で、200万人に認可者が下りると予想されている。ネット世論監督員の最大の目的は、現体制に関する看過できないネガティブな話題を消し、結論を無難なところへ誘導することにあるが、それだけではなく、体制批判以外にも度が過ぎた非難めいた発言を削除することもある。
9月頭には雑誌「博客天下」で、大学内におけるネット世論監視員事情の記事が掲載され、それなりにネットでも反響があった。記事によると、大学における検閲は、2005年3月の大学内掲示板サイト利用の実名制導入や、翌2006年3月に江南大学でネット世論をコントロールする70数名を擁する部署を創設したことにはじまる。大学では、検閲員が学内掲示板でのよくある意見をまとめ、学校側に伝えるとともに、学校側の思想に合うようにコメントの削除や誘導コメントを書き込んで、洗脳とも評される言論コントロールを行う。
大学入学シーズンを迎え、ごく一部ではあるが学生の親たちが「大学という場で言論をコントロールし、学生を縛り付けるのはやめてほしい」と連名で大学に請願する動きも見られた。この記事は大手ポータルサイトにも転載され、感想欄には1万以上のコメントが書きこまれた。
また、ネット世論関連の話題では、9月9日、最高裁にあたる最高人民法院がネット上のデマや誹謗中傷の罪の線引きについて発表。問題のデマや誹謗の情報が、5000回以上アクセスされるか、500以上別の媒体に転載されたら罪になると定義。中国のネット世論コントロールを良く思わない人々から不満の声が上がった。
スマートテレビの普及が加速
リサーチ会社「中怡康」によると、2013年上半期の中国におけるスマートテレビの販売は上半期で1128万台となり、3Dテレビの販売量を超えた。また、リサーチ会社「易観国際」は今年第2四半期のスマートテレビの販売台数を、薄型テレビ全体の販売数の45%にあたる511万台と発表した。
スマートテレビ市場の活況は、今年「楽視TV」や「楽視盤子」や「小米TV」や「愛奇藝」など、ハードウェアは安価で高性能で、しかも使いやすいインターフェいいスで大量のコンテンツを実現したスマートテレビやセットトップボックスが立て続けにリリースされ、話題となったことが大きい。スマートテレビブームの火付け役となった楽視網は10月に、50インチのスマートテレビを2499元(約4万円)で販売すると発表。やはり話題を呼んだ。
一方で、最新のIT機器に関心がありながらもスマートテレビを導入したくない人もいる。中関村在線の調査によると「ネットの速度が不充分でときどき動画が止まる(39.3%)」「コンテンツが独自で家族と一緒に見られない(19.6%)」といった理由が上がっている。良い環境が揃うには、まだ時間がかかりそうだ。
中国のリサーチ会社「奥維咨詢」は、「今年の下半期もこの勢いは続き、今年のスマートテレビの販売量は去年の1090万台から2130万台になり、スマートテレビの浸透率も去年の26%から今年は46%まで上がるだろう」と予想している。
上海自由貿易区でネット自由化の噂
金融や投資や貿易で地域限定で規制緩和を行う上海自由貿易区が開設された。「上海自由貿易区限定ではあるが、ネットの壁が取り払われ、Facebookやtwitterなど今まで中国国内から遮断されてアクセスできなかったサイトがアクセスできるようになる」という話が、中国国内外で飛び交った。
情報の出本は香港の「サウスチャイナモーニングポスト」の25日付の記事。同記事では「貿易区限定で香港同様に外資の電信企業がサービスを提供できるようにすることを決定した」と中国政府筋の人が語ったとしている。
しかしその後、人民網は「上海自由貿易区内でネットが自由になるということはない」と否定する記事を掲載。
また、上海市政府は上海自由貿易区内の禁止事項を発表、その中には「中国資本の比率が半分に満たない企業によるVPNサービスの提供」や「ネットカフェやメディアや出版への投資」や「地図の作成など国家機密作成に関すること」が含まれていた。VPNサービスは、外国の禁止サイトを見るためのメジャー手法となっている。
なお、2年前の2011年6月にも、ネットの検閲を一切なくす「重慶クラウド特区」計画が発表されたが、実現はされていない。
中国独自アプリストアも配信権獲得の時代到来
今年7月に百度が19億ドルで買収したスマホ向けアプリ配信サイト「91無線」が、同サイト限定でアプリ「Angry Birds Star Wars 2」の「独占配信」を開始した。
Angry Birdsは中国のスマートフォン普及に貢献したキラーアプリ。中国のアプリ配信環境は、Google Playが利用できず、アプリサイトしか利用できないというガラパゴスな環境にある。中国の動画サイト業界で人気コンテンツを独占配信で配信するように、スマートフォン向けアプリに関しても独占配信を巡ってライバルのアプリ配信サイトと競い合うことになるとみられる。
騰訊(Tencent)の時価総額が1000億ドルを超える
9月27日、騰訊(Tencent)の時価総額が中国のネット企業ではじめて1000億ドルを突破した。最近では、中国のネット市場を語るとき、検索の百度(Baidu)、ECサイトのアリババ(Alibaba)と騰訊(Tencent)の3社を並び称することが多い。
騰訊はICQ似のチャットソフト「QQ」でブレイク。QQのアカウントを活用させるべく、ブログサービス「QQ空間」、Twitterに似た「騰訊微博」、Whatsappに似た「微信(Wechat)」を次々にリリース。QQで8億アクティブユーザー、微信では4億アクティブユーザーを擁するまでに成長した。
ただし、ゲームでも他社のそっくりなタイトルをよくリリースすることから、「後出しで真似して国が保護した市場で儲けてるだけ」とユーザーやメディアは、このニュースにも喜びを見せていない。
中国政府がスマホアプリを健全か白黒判定
中国国家ネット応急センター(中国国家互聯網応急中心)は、スマートフォン向けアプリのブラックリスト「移動互聯網悪意程序黒名単規範」とホワイトリスト「移動互聯網悪意程序白名単規範」を制定中だとした。
判断基準は明らかにされていないが、中国を代表するネット起業「騰訊(Tencent)」「百度(Baidu)」「金山(キングソフト)」「360」「レノボ」などがホワイトリストに入っており、違規行為があればホワイトリストから除名するとしている。
もっとも現在のところ、ブラックリスト入りしているからといって何かあるわけではなく、効力は強くはない。
中国最大のルートサーバー攻撃。その原因は非公認ゲーム同士の争い
8月25日の深夜に中国で過去最大規模となるルートサーバへの攻撃があり、cnドメインのサイトに2時間アクセスができなくなった。当局は9月23日にクラックした犯人を青島で逮捕。犯人は「オンラインゲームのサーバーを攻撃した後、ルートサーバーを攻撃しようと思った」と自供している。
大規模障害を引き起こした攻撃の背景には、オンラインゲームの非公認サーバー(中国語で「私服(プライベートサーバー)」)の乱立とその争いがある。中国の正式なオンラインゲームは、プレイ時間など制限があり、制限を外した非公認サーバーを立てる動きが絶えない。非公認サーバーは儲けるために、ライバル関係にある他の非公認サーバーを停止させてユーザーを獲得しようとすることがよくあり、今回もクラッカーがライバルの顧客流出を狙い、ルートサーバーまで攻撃したとされている。