山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

モバイルセキュリティの網泰、米国調査会社のレポートで株価大暴落 ほか~2013年10月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

モバイルセキュリティの網泰、米国調査会社のレポートで株価大暴落

 米国のリサーチ会社「Muddy Waters」は10月24日、中国のモバイルセキュリティに特化した「網泰(NQ Mobile)」について、重大な虚偽報告をしたことで格付けを「Strong Sell」とするレポートを発表。その影響でニューヨーク証券取引所に上場中の網泰の株価が半額まで下落した。

 レポート発表後、2011年5月から2013年10月24日までに網泰社の株式を購入した人々の依頼を受け、米国の法律事務所「Robbins Geller Rudman & Dowd」が30日、網泰を相手取って集団訴訟を起こした。網泰も中国メディアで反論し、中国の裁判所にMuddy Watersを相手取り損害賠償請求の裁判を起こしたが、Muddy Watersは「米国に来て裁判を起こしてみろ」と一歩も引かない。

 レポートの内容によれば、「中国で55%のシェアと書いてあるが実際は1.5%程度」で「網泰の最大の顧客は網泰自身」だとしている。また「網泰は第三者支払サービスがあるというが実際はない」とし「そもそもセキュリティソフト自体がスパイウェア」など例を挙げ、「2012年の決算報告のなかで72%が虚偽」としている。

 中国メディアの網泰に関するニュースでも、「決算レポートでは同社ユーザー数は4億6000万ユーザーで、アクティブユーザーは1億2000万だというが、実際は3500万程度しかない」など網泰を擁護せず疑う記事が並ぶ。過去に、網泰は3月15日の消費者保護デーで槍玉にあがったこともあり、「中国企業の中でも網泰は怪しかった会社」と指摘している。10月には三行広告サイトの「58同城」や旅行予約サイトの「Qunar」やゲーム会社数社が上場したが、水を差す結果となった。

腕時計型スマートデバイスリリースを各社予告

 百度は10月末、同社のクラウドサービス「百度雲」専用デバイス紹介サイト(http://x.baidu.com/wearable)を立ち上げた。現状のラインアップは、スマートウォッチの「inwatch」や、リストバンド型の「Gudong手環(Gudongは口へんに古、口へんに冬の2文字)」がある。百度は体重計などの健康器具方面のデバイスが出てくると予告している。なお、inwatchは模倣製品といった指摘はないが、Gudong手環については、リストバンド型のJawbone UPにデザインも機能もよく似ているという声がある。

 百度や騰訊とライバル関係にある奇虎360も、子供向けのスマートウオッチを発表。時計の機能に加えGPSもあり、子供の場所を確認できるほか、設定した地域の外に出ると親に異常を通達する機能がある。400元を切る価格設定となっており、価格面でもアピールしている。

 そのほかにも、果殻電子というメーカーからスマートウォッチ「Geak Watch」が出ており、デジタル製品好きの間で話題になったが、多くのユーザーを抱える百度や奇虎360もこのジャンルに進出したことで、自サイトユーザーにスマートウォッチなどを使わせてシェアを一気に獲得しにいきそうだ。

 スマートフォンやスマートテレビにおいても、スタートの段階から低価格競争が起きる可能性は十分にある。こうした価格競争により、中国で新しいスマートデバイスが一気に普及する可能性もある。

クラウド製品をリリースし始めた百度
映趣科技制「inWatch」
360のリリースする子供向け腕時計
オリジナルにそっくりと指摘されるリストバンド

2013年中国富豪ランキングで「百度」「騰訊」「阿里巴巴」の3社がランクイン

 米フォーブスは10月16日に中国富豪ランキングを発表。検索サイトの「百度(Baidu)」の李彦宏氏が677億元で3位に、「騰訊(Tencent)」の馬化騰氏が622億元で5位に、「阿里巴巴(Alibaba)」の馬雲氏が522億元で8位となり、ネット企業ではこの3社の代表が10位に入った。各社の代表サービスは、百度は検索サイト、騰訊はチャットソフト「QQ」やオンラインゲームやマイクロブログ「騰訊微博」、阿里巴巴はECサイトの「淘宝網」や「天猫」や電子マネーの「支付宝」。各社は他のネットサービスへの展開も積極的で、新サービスを立ち上げては既存ユーザーに対し新サービスへの誘導を積極的に行っている。最近ではニュースメディアで3社の頭文字を並べて「BAT」と表記するようになった。

 3社に続くネット企業のオーナーは、19位となった老舗ポータルサイトの「網易(NetEase)」の丁磊氏、23位となった「金山軟件(キングソフト)」やスマートフォンの「小米(Xiami)」やモバイル向けブラウザーの「UC瀏覧器」のオーナーの雷軍氏、33位となったオンラインゲーム「巨人」の史玉柱氏が50位以内に入った。

淘宝(TAOBAO)で投資信託商品を販売開始

 中国最大のECサイト「淘宝網」内の投資信託サイト「淘宝基金」が11月1日よりスタート。14の投資信託運用会社がそこで旗艦店を開いた。阿里巴巴系の第三者支払サービス「支付宝(Alipay)」で、残額を投資信託に回して運用できる「余額宝」が6月にリリースされたが、わずか3カ月後の9月末には余額宝の資産総額は556億元となり、規模としては最大となっている。

 一方、百度も「支付宝」同様の第三者支払サービス「百付宝」と、「余額宝」同様のコンセプトの少額投資サービス「百度理財」を10月末に開始。騰訊も投資信託運用会社との提携を9月に発表している。

 中国株バブル崩壊後、インターネットユーザーが増える中で、オンラインで投資する人が減少するほど避けられたが、著名サイトの参入で新規の投資者を増やしそうだ。

淘宝理財
百度理財

ネット小説大学が開校。名誉校長にノーベル文学賞の莫言氏

 スマートフォンや携帯電話でのネット小説読者が増える中、ネット小説の書き手に基礎を知ってもらうべく「網絡文学大学(ネット小説大学 http://daxue.17k.com/ )」が開校した。名誉校長にはノーベル文学賞を受賞した莫言氏が就任する。

 大学といっても校舎はなく学費もない。受講した人が著名作家などによる講義の授業ビデオをオンデマンドで見るかたちとなる。大学サイトに登録した上で、テストの代わりに2万字以上の文字量の作品を提出し、合格となれば利用が可能だ。毎年ネット小説の書き手を10万人育成したいとしている。

ネット小説大学サイト

アプリベンダーがデータ通信代を肩代わり

 阿里巴巴(Alibaba)は、淘宝網や天猫や支付宝など同グループのサイトのモバイル利用者に2GBまでパケット代料金を肩代わりするサービスを発表。まずは広東移動、江蘇聯通、湖南聯通、浙江聯通のキャリアと提携し、該地域でのサービスを開始する。

 中国ではスマートフォンが普及したが、使い放題のプランはなく、ヘビーユーザーでも1GBを超える人は少ない。多くの利用者が1カ月に100~300MB程度しかデータ通信を利用していないのが現状だ。そこで同社が提供する淘宝、支付宝、天猫などのアプリからの利用に関しては、利用分を2GBまで肩代わりして、スマートフォンでの同サイト利用を促進する施策だ。

 Alibabaが運営するECサイト利用だけでなく、同社のLINEに似たインスタントメッセンジャーにも対応しており、騰訊の微信(WeChat)の牙城を切り崩そうとしている。

 こうした動きに同ジャンルであり中国電信がリリースするインスタントメッセンジャーの「易信」も追随し、同社アプリ利用者は300MBまで肩代わりすることを発表している。

 これら一連のニュースは多くのネットユーザーが歓迎しており、今後の中国全土展開や、他社の同様のサービスも期待されている。

易信
来往

スマートフォンからタクシー呼び出しが普及

 大都市でタクシー呼び出しアプリが普及しつつある。調査会社のiResearchは、2013年のモバイルネットユーザーが5億人、スマートフォンユーザーが4億8000万人いる中で、2012年より各社からリリースされたタクシー呼び出しの利用者が大都市を中心に1800万人に達すると報告した。

 報告によれば、2013年8月時点でタクシー呼び出しアプリによる呼び出し数は毎日34万回あるという。現在のタクシー乗車方法は「街中で手をあげる(86.8%)」が最も多いが、「専用アプリを使う(35.6%)」も増えつつある(複数回答)。

 利用者は年齢では19~35歳がほとんどで、特に25~30歳に集中。男女別では男性が64%。収入別では月収3000~1万元(4万8000円~16万円)に集中した。最も人気のアプリは「didi打車(diは口へんに商)」。人気の地図サイト「百度地図」「高徳地図」や、旅行予約サイト「qunar」と提携を結び利用者を増やしている。タクシードライバーは、「複数の呼び出しアプリを使っている(39.3%)」人よりも「単一のアプリを利用(60.7%)」しているほうが多く、didi打車のシェアは高まりそうだ。

 タクシー呼び出しアプリを初めて知ったきっかけについては、「周囲の友人が使っていた(34.9%)」「アプリランキングに入っていた(27.3%)」「SNS(20.9%)」「タクシードライバーが使っているのを見て知った(11.7%)」「広告(5.0%)」となった。呼び出し代として5元前後が運賃に加算されるものの、呼び出しアプリを「他人にも薦めたい(88.6%)」という人は多く好評だ。

タクシー呼び出しアプリサポートエリア
タクシー呼び出しアプリ利用者の推移とベンダー別シェア

モバイルブラウザーは中国製がシェアを圧倒

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、モバイル向けブラウザーについての調査結果「中国手机瀏覧器用戸研究報告」を発表した。

 報告によると、今年6月末の時点でモバイル向けブラウザー利用者は3億6900万人(うちAndroid向けが2億3200万人、iOS向けが7400万人)でモバイルインターネット利用者の79.5%が利用。利用頻度は毎日何回も利用する人が利用者全体の63.3%を占め、1日のモバイルブラウザー利用時間は1時間以内が4割強、1時間以上が6割弱で、うち4時間以上も2割弱を占めた。

 最もよく利用するブラウザーでは、トップより「UC瀏覧器(46.0%)」「百度瀏覧器(16.8%)」「QQ瀏覧器(15.6%)」「デフォルトのブラウザー(11.2%)」「360瀏覧器(7.5%)」と続き、「Opera(1.2%)」「Chrome(1.0%)」ユーザーは非常に少ない結果に。

 利用するブラウザーについての複数回答でもChromeは14.0%、Operaは9.3%にとどまり、中国製のブラウザーが圧倒。利用するきっかけは、「アプリストア(46.9%)」「周囲の友人知人の紹介(45.9%)」「オフィシャルサイト、オフィシャル微博アカウント(33.2%)」「ネット広告(31.1%)」「BBS、微博(25.6%)」「百度や騰訊などベンダーサイトからの誘導(22.9%)」「地下鉄やバスの広告(18.3%)」「テレビ広告(17.3%)」の順となった。選択の決め手で最も多い意見は「動作が軽いこと」だ。

 ブラウザーで利用する定番のサイトは7割が1~6サイト。特にニュースサイトの利用率が高い。ブラウザーとは別にWEBサイトのアプリを多くの利用者がインストールしており、そのインストール数は7割強が10個以内としているが、2割弱が15サイト以上のアプリをインストールしている。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。