山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
Windows 8やOfficeなどMicrosoftの製品を利用しない動き ほか~2014年5月
(2014/6/17 06:00)
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
Windows 8やOfficeなどMicrosoftの製品を利用しない動き
中国政府は、Windows 8はそれまでのOSよりもクラウド連携が強まり、情報の漏えいに不安があるとして、中国中央政府各省庁内でのWindows 8購入禁止を発表した。消費者や地方政府での購入や、現状最も普及していると思われるWindows 7の購入は禁止されていない。5月19日に米司法省が中国人民解放軍の将校5人をサイバースパイの容疑で起訴したので、その翌日にこの発表が行われたわけだ。国産OS待望論がニュースで報道されているが、今のところこれといった中国産OSはなく、Windows 7をしばらく利用していくと思われる。
5月末からは、中国各地の地方政府や企業から、Microsoft Officeをアンインストールし、キングソフト(金山軟件)のOfficeをインストールするという発表が次々と行われた。OSとは異なり、Officeソフトでは代替えがきくというのはあるだろう。
天安門事件の日を前に、Googleが利用不可。同社翻訳や地図に強いニーズが出る
6月4日の天安門事件の日には、毎年ネット規制が厳しくなる。今年も去年同様、哀悼を想像するという理由からか蝋燭アイコンが入力できなくなり、「64」の(漢)数字や英語、それに今日の意味を示す「今天」という文字が検閲対象となった。
その予兆は5月初めまでさかのぼる。5月初めにはPublic DNSサービスが利用できなくなり、さらに5月27日からGoogleが利用できなくなった。最新の中国の検索市場(広告収入)では、百度が8割超のシェアを獲得しているものの、Googleについても、ヘビーユーザーにより1割超のシェアがある。このタイミングでGoogleの各サービスが利用できなくなったことから、「Googleに繋がらなくなった」と多くの人が情報を発信しており、結果的に5月末から6月はじめにかけてGoogleに繋がらなくなったことがネットで注目された。
ユーザーからは「Gmailが使えなくなってメールが確認できなくなった!」、「英字圏の資料探しでも百度を使えというのか!」、「Google Adsenseが見られなくなった! 収入がゼロだ!」といった悲鳴が上がった。Google Trendsのような「百度指数」では、このタイミングで検索ワード「Google」が急上昇。とくに「Google翻訳」と「Googleマップ」のニーズが高いことが明らかになった。
百度はGoogleよりも中国に根ざした情報提供で進んでいる点はあるが、百度ではGoogleのような多くの言語に対応した翻訳サービスを持たず、中国国外の地図がないなど、百度ではフォローできないサービスをGoogleは提供している。このため、Googleが利用できない時の様々な問題点が露わになった形だ。一方で、百度は5月10日に、Googleで深層学習(ディープラーニング)の研究を行う、通称「Google Brain」のリーダーのAndrew Ng氏を百度へ招き入れ、研究開発力を強化する動きもあった。
Googleに繋がらなくなったが、それでも有志は多くの人が翻訳や地図サイトを含むGoogleの各サービスを使えるようにしようと、ミラーサイト( sinaapp.co )を立ち上げた。そこにはGoogleのロゴのほかに「抗争無くして自由なし。2013年はじめに工信部にプログラマーが請求して GFW(Great firewall)の規制が解除されたこともあった。GFWに負けないよう微博(Weibo)に拡散しよう!」という文言が書かれている。
アリババと気象局がビッグデータで提携
4月は、百度が検索データを活用した観光地の混雑具合や注目度予想をリリースするなど、ビッグデータ絡みの話題が多かった。5月はBAT(百度・阿里巴巴・騰訊)の1社である阿里巴巴(アリババ)が中国気象局と提携し、ビッグデータを活用するための技術サポートを行うことを発表した。今後気象局の予報は阿里巴巴のクラウド技術を活用したものとなり、様々な情報が公開される予定だ。
阿里巴巴は今年2月に、中国最大の地図サイト「高徳地図」を10億4500万ドルで元買収し、子会社とした。今回の提携により、高徳地図の上に天気情報を掲載するようになるだけでなく、同社のオンラインショッピングサイト「天猫(Tmall)」「淘宝網(Taobao)」の配送に関しても、地図情報に加え天気情報を活用することにより、よりスムーズでトラブルの少ない配送を行うだろうと言われている。
一方で、阿里巴巴の大株主はソフトバンクであることから「気象局のデータを阿里巴巴に見せていいのか」という声も出ている。
中国初の海賊版サイトの刑事裁判が行われる
中国初の海賊版サイトの刑事裁判が行われた。問題となったのは、HD動画の海賊版コンテンツを配信するサイト「思路网」。一見すると、映画やゲームについての感想掲示板に見えるが、有料会員になると、海賊版コンテンツがダウンロードできる仕組みになっているサイトだ。
メディアの報道によれば、スタッフはサイト管理スタッフ、サポートスタッフ、映像圧縮スタッフ、システム管理スタッフ、字幕作成スタッフなど総勢139人。配信していた海賊版コンテンツは2万2000に上り、映像作品1万9000タイトル、音楽作品3300タイトル、ゲームソフト208タイトルを配信していたという。
月会費が50元からではあるが、中国をはじめイギリスや日本や韓国を含む140万人超の会員を抱え、毎日数万人がオンラインになり、毎日平均6000のコンテンツがダウンロードされているという。大手正規版動画サイトが有料HD動画サービスの利用者集めに苦労する一方で、海賊版サイトはそれ以上の利用者を集めていたことになる。また広告収入も、年間2~300万元(3300~5000万円)あったという。
そもそもの発覚は、北京市文化執法総隊という組織への通報を受けて発覚したもの。その後北京市文化執法総隊は北京市公安局と提携し、サイト運営会社の経営者ら7人を逮捕した。北京市海淀法院の判決では、代表の周志全に対し、刑法第二百一十七条著作権侵害の罪で懲役5年,罰金100万元を、6人に懲役1年から3年を言い渡した。
スマートフォンユーザーの利用実態についてのレポートが発表される
中国の調査会社「iResearch」は、スマートフォンによるインターネットユーザーの利用実態について調査した「中国移動互聯網用戸行為研究報告」を発表した。これによると男女比では、男性の比率が去年に比べ10ポイント近く高まり65.1%に、また年齢別では全体の50.7%が26~35歳となった。
利用端末のOSは、1位より「Android(70.9%)」「iOS(18.1%)」「Windows Mobile/Phone(3.1%)」「Symbian(2.5%)」。前年比では、Androidが9ポイント、iOSが2ポイント増やし、Symbianは大幅編、Windows Mobile/Phoneも微減となった。
スマートフォンによるインターネットの利用頻度は「毎日数回(67.0%)」が3分の2を占め、「毎日1回(21.3%)」を合わせれば、9割弱が毎日スマートフォンでネットに繋いでいることになる。利用する場所だが、多い順に「帰宅後の自宅内(42.8%)」「車で待機中(40.5%)」「仕事の休憩中(37.3%)」「バスや地下鉄の乗車中(36.6%)」「常に(31.7%)」「外出中(23.8%)」「トイレや体を洗うとき(18.9%)」「ショッピングの時(10.7%)」となった。
iResearch社はまた、今年1月から3月までの中国インターネット市場についての調査結果も発表。1月末から2月初めにかけての春節で、人々が故郷や旅行に出かけたことをトリガーに、スマートフォンによる動画サイトの利用が急増したことが明らかになった。実家やホテルでのブロードバンド+無線LANを利用したのか、3G回線が増えて初めて多く活用したのかは不明だが、この時期にスマートフォンで初めて様々なネットサービスを利用したユーザーは結構いるようだ。
第2の中国B2CECサイト「京東商城」上場、阿里巴巴も上場を発表
中国で阿里巴巴(アリババ)の「天猫」に続く、第2のB2CのECサイト「京東商城( http://www.jd.com/ )」が5月22日に米NASDAQに上場、279億ドルを調達した。米国株式市場に上場した中国企業では最大の額となる。
また阿里巴巴も5月6日、米証券取引委員会に新規株式公開を申請した。同社は過去に香港証券取引所に上場し、自主的に上場廃止をしている。米国のどの証券市場に上場するかは不明だが、上場すれば、やはり百億ドル以上の金が動くとして注目を浴びている。
教育大手と動画サイトが提携したセットトップボックスが登場
動画配信サイトの「百視通(BesTV)」と、教育業大手の「新東方」が提携を発表。近年、「楽視盒子」をはじめとした複数の動画サイトからセットトップボックスが3000円超程度で売られるようになったが、そこに百視通も新東方と提携して参入する。新東方は幼稚園児向けから社会人向けまで幅広く対応しているが、小学校や幼稚園での同社セットトップボックス活用を目指していくという。
動画を活用したり、Flashを使った教育コンテンツを使うことは、都市部の中位以上の幼稚園では普通のことだ。インフラなどの環境も習慣もモノもあるので、浸透していくのにはさほど時間はかからないかもしれない。
これを機に、他の教育企業と動画サイトが提携したり、動画サイトが付加価値を求めて教育以外の何かを入れてセットトップボックスを販売したりといったこともありそうだ。