ここがポイント! ○○の選び方

出張&旅行先でのスマホ利用を快適に! 縁の下の力持ち「ホテルルーター」の選び方

なぜホテルルーターが必要なのか?

 スマートフォンの普及は近年めざましい。正確な普及率を測るのはなかなか難しいが、内閣府の消費動向調査(2014年3月分)によると、“世帯普及率”は54.7%。ノートPCやスマートフォン以外の携帯電話と比べて20%ほど低い数値ではあるが、その差はまだまだ縮小していくことだろう。

 スマートフォンの普及に引っぱられる形で、無線LAN、いわゆるWi-Fiのニーズも高まっている。カフェや公共施設などで提供される「公衆無線LAN」はその代表格。3GやLTEによるモバイルデータ通信と比べて速度や通信安定性の面で有利なため、仕事をしたり動画を見るときだけはWi-Fiに接続したい方も多いはずだ。

 このように、Wi-Fiをあらゆる場所で使いたいというニーズの一方で、その死角とも言えるのが「宿泊施設の客室内」である。

 ご存じのように、国内のビジネスホテルではほぼ100%に近い確率で客室内インターネット接続が利用できる。しかし、これは「有線LAN」に限定されるケースが大半。有線LAN端子搭載のノートPCと有線LANケーブルがあれば何の問題はないが、スマートフォンやタブレットでは物理的に接続できないのだ。無料かつ高速なインターネット環境がすぐ目の前にあるのに!

 ならば、客室内にある有線LAN環境をWi-Fi用に変換できないか──? そこで登場したのが、旅行や出張の際に持ち合わせてもかさばらない、小型のWi-Fiルーター(アクセスポイント)である。

 既存の製品と仕様面の違いはわずか。しかし、その地味さとはウラハラに、一度使ってみるととにかく便利。まさに「縁の下の力持ち」と言ってよい。PC系の周辺機器メーカーがこぞって開発・販売するのも納得である。

 ただし、商品としての総称は一定しておらず、メーカーによって異なる。「ポータブルルーター」「トラベルルーター」など種々あるが、今回は「ホテルルーター」で統一させていただこう。

ホテルルーターの役割はシンプル。客室内にある有線LAN端子とケーブルで接続し、Wi-Fi接続先を臨時で作ってしまおうというわけだ。筐体は小型で、内蔵端子は最小限。当然ホテルルーター側にも有線LAN端子がある(写真はバッファローのWMR-433シリーズ)

実際に買うときのポイント──まずは11ac対応に注目!

 ホテルルーターは、旅先に持ち運んでの使用を旨とするため、小型であるのが一般的。ほとんどの機種は手のひらにスッポリおさまるほどのサイズ感で、重量も50g以下が普通だ。

 しかし、ハードウェアスペックや細かな仕様を見ていくと、違いはそれなりにある。そこでまず注目していただきたいのが「IEEE 802.11ac」への対応だ。

 IEEE 802.11acは、市場に出回っている無線LAN製品の中では最新の規格だ。5GHz帯の電波を用いており、アンテナ使用数を増やすことで速度を上げられるなど、一定の拡張性を持っている。一般に802.11ac対応というと、現時点の通信速度は433Mbps/866Mbps/1300Mbpsの3種類がある。このため、IEEE 802.11ac対応だからといって必ずしも1300Mbpsで通信できるわけではない。カタログなどで必ず確認しよう。

 なお、予備知識として、IEEE 802.11b/gなどの規格は2.4GHz帯の電波を使用することを覚えておいていただきたい。一方、IEEE 802.11acや11aは5GHz帯である。これらから転じて、「IEEE 802.11aないしacの表記がある製品は、2.4GHzと5GHzの両方をサポートしている」と考えてよい。

バッファロー

WMR-433
http://buffalo.jp/products/catalog/network/wmr-433/

 バッファローのWMR-433シリーズは、世界最軽量(2014年4月時点)の19gをうたう11ac対応ルーター。通信速度は最大433Mbps(11ac接続時)で、その他のルーターと同様、IEEE 802.11a/b/g/nなどの既存規格をサポートする。

 ただし、2.4GHz帯と5GHz帯の2つの周波数帯のうち、出せるのはどちらか一方の電波だけ。本体側面のスライドスイッチで切り替えられる。このため、複数のノートPCやスマートフォンをWMR-433に接続したいとき、どれか1台でも5GHz帯が未サポートである場合は、当然2.4GHz帯を選ばなければならない(この点は、スイッチで2.4GHz帯/5GHz帯を切り替える方式となっている他社製品でも同様だ)。

NEC

W500P
https://121ware.com/product/atermstation/product/warpstar/w500p/

 通信速度433MbpsのIEEE 802.11ac接続をサポートする。2.4GHz帯と5GHz帯は同時利用できず、どちらか一方をスライドスイッチで切り替える方式。本体重量は約34g。

 ホテルルーターとしての基本的機能を備えているが、W500Pをカフェなどの公衆無線LANスポットで使用したり、有線LANコンバーター(有線LAN対応のテレビを無線LAN化する)に転用する機能もある。せっかく買ったホテルルーターの活躍場面を少しでも増やしたいという場合に威力を発揮しそうだ。

アイ・オー・データ機器

WN-AC583TRK
http://www.iodata.jp/product/network/wnlan/wn-ac583trk/

 本稿で紹介する製品としては唯一、2.4GHz帯と5GHzの同時利用をサポートする。給電も一般的なUSB接続でOK。なお、11ac接続時の通信速度は最大433Mbps。

 本体重量は52gで、前述の2製品よりは重めだが、機能は充実。特に有線LAN端子を2つ搭載している点は魅力だ。これにより、ホテルルーターとして使いつつ、さらにノートPCを有線LAN接続できる。

 IEEE 802.11ac対応のホテルルーターをフル活用するには、ノートPCやスマートフォンなど子機側もIEEE 802.11acに対応している必要がある。国内大手キャリアから発売されているAndroidでは11ac対応がかなり進展しており、iPhone 6/6Plusでもついに対応した。

 とはいえ、11ac対応の有無は、ホテルルーターと子機間の通信速度を決めるもの。大抵のビジネスホテルでは、下り通信速度最大52MbpsのVDSLで客室内インターネット接続を構築しているはずであり、ホテルルーターがいくら高性能だからと言って、この速度を超えて通信することはできない。

 もちろん、ホテルルーターに複数の子機をつなげ、ローカルでデータをコピーするといった用途では、11acが効果を発揮すると思われる。また、ホテルルーターを何らかの理由で自宅使用する場合もあるはず。11ac対応のホテルルーターなら、用途がより幅広くなるのは間違いない。

電源供給方法も確認を

 ホテルルーターは、いわゆる「ポータブルWi-Fiルーター」ではない。単体での3G/LTE接続機能はなく、バッテリーを内蔵することもない。そのため、利用にあたっては電源供給が必要となる。

 ホテルルーターは、USBからの給電で動作するのが大半。そう、スマートフォンの充電でおなじみのあの方式である。よって、ノートPCのUSBポートからであったり、スマートフォン用のUSB充電器などを使って、電源を常時確保しなければならない。

 ホテルルーターの中には、この給電手段を工夫しているものが結構ある。

プラネックス

ちびファイ2 ac(MZK-UE450AC)
http://www.planex.co.jp/products/mzk-ue450ac/

 スティック状の外見が特徴の11ac(最大速度433Mbps)対応ルーター。2.4GHz帯と5GHz帯の同時利用はできず、スイッチで切り替える。重量は21g。また、給電用ケーブルは本体に直付けされている。

プラネックス

ちびファイ3(MZK-DP150N)
http://www.planex.co.jp/products/mzk-dp150n/

 コンセントに直差しするタイプのホテルルーター。このため、給電用USBケーブルを別途持ち歩く必要がない。さらにプラグ部分は可倒式。IEEE 802.11b/g/n対応で、通信速度は最大150Mbps。重量約55g。

バッファロー

WMR-300シリーズ
http://buffalo.jp/product/wireless-lan/ap/wmr-300/

 IEEE 802.11n接続時の最大通信速度は300Mbps。給電用ケーブルは本体に直付けされている。本体重量は約51g。LANケーブル収納ケースがセットになったバリエーションモデルもある。

エレコム

WRH-S583シリーズ
http://www2.elecom.co.jp/products/WRH-S583BK.html

 IEEE 802.11ac対応で、通信速度は最大433Mbps。2.4GHz帯と5GHz帯は同時利用できず、やはりスイッチで切り替える方式となっている。重量は約26g。

 本製品はUSBからの電源供給で動作するが、そのためのケーブルが本体にあらかじめ直付けされている。コネクタ部は本体側面の溝にスッポリとはめこむことが可能。

エレコム

WRH-300xx2-Sシリーズ
http://www2.elecom.co.jp/products/WRH-300BK2-S.html

 給電用USBケーブル(約30cm)を別添えにした、オーソドックスな製品。重量は約20g。対応周波数帯は2.4GHzのみながら、IEEE 802.11n接続時の通信速度は300Mbps。

 このように「給電用USBケーブルを本体直付けしているか否か」は、地味ながら大きな違いである。ちなみに、USBケーブルが別途必要な製品の場合、本体側の充電ポートはmicroUSBのほぼ一択だ。

 ただ、ホテルの電源環境は施設によってまったく異なる。デスクに3つも4つもコンセントがズラッと据え付けられているところがあるかと思えば、自由に使えるコンセントが家具に隠れた1つだけなんてケースもある。

 このため、給電ケーブルが短いとそれだけで設置場所が限定され、下手をすると有線LANケーブルを盛大な長さで引き回すハメに陥ることもある。

 筆者の個人的な意見ではあるが、汎用性を考えると、ケーブルは直付けでないほうがいい。また、充電用USBケーブルについても、1m前後のものを用意しておいたほうが何かと無難ではないだろうか。

バッテリー内蔵の豪華版も! ちょっと変わった仕様のホテルルーター

 ホテルルーターはかなりシンプルな造りの製品のため、値段は高くても5000円程度。11ac非対応の製品であれば3000円で十分にお釣りが来る。想像以上にお得感が高いため、気軽に買えるだろう。

 その一方、多機能化の動きも一部で出ている。モバイルバッテリーや、SDカード内データをシェアするための「Wi-Fiストレージ」の機能を統合する例などだ。

ラトックシステム

REX-WIFIMSD1-26
http://www.ratocsystems.com/products/subpage/wifimsd126.html

 最大通信速度150MbpsのIEEE 802.11b/g/n対応製品。ホテルルーターを基軸としつつも、容量2600mAhのモバイルバッテリーとして使えるため、普段の外出時から持ち歩いて活用できる。重量は約90g。

 本体側面にはmicroSDカードスロットを搭載。専用のスマートフォンアプリとの併用により、出先や移動中でもメモリカード内データを参照することができる。なお、バッテリー容量が倍の上位モデルも発売中。

アイ・オー・データ機器

WFS-SR01
http://www.iodata.jp/product/pccard/readerwriter/wfs-sr01/

 通常サイズのSDカードに加え、USBメモリの装着にも対応したWi-Fiストレージ。やはり専用のスマートフォンアプリを使うことで、メモリ内の画像ファイルなどにアクセスできる。バッテリー容量は2600mAh。重量は約120g。

 ホテルルーターとしては、IEEE 802.11b/g対応で最大通信速度150Mbps。なお、「WFS-SR02」という似た型番の製品は、ホテルルーター機能がないのでご注意を。

まとめ~サイズや重量にも注目を!

 ホテルルーターの比較ポイントについて、最後におさらいをしておこう。

・IEEE 802.11acに対応している? 価格優先なら未サポートの機種でもOK
・電源供給用USBケーブルは直付け? それとも別添え?
・本体の大きさや重量はどう?

 今回は、この3点に絞ってみた。11ac対応とUSBケーブルについては繰り返し述べてきたが、サイズや重量もぜひ考慮してもらいたい。ホテルルーターは、基本的に客室内で使うもの。日中頻繁にカバンから出し入れすることもない。それだけに、存在感を忘れるくらい軽量・コンパクトであってほしいとか、特定のポケットに収納しやすいとか、自身のニーズを踏まえてチョイスするのがいいだろう。

 また、ホテルルーターの新製品は今後も続々登場するはず。その際にも、上記の3つのポイントを覚えておけば、どこが新しいか? どこか便利になったのか? 把握しやすいと思う。

森田 秀一