第80回:イー・アクセス「ADSLプラスQ」の実力は?
40Mbps ADSL速攻レポート
前回の連載で取り上げたイー・アクセスの「ADSLプラスQ」が筆者宅にて開通した。注目のクアドスペクトラムの効果はどれほどのものなのだろうか? 他事業者の回線との比較を交えながら、その実力を検証してみた。
●AnnexCでの速度向上はごくわずか
ADSLプラスQ対応モデム「WD605CV」 |
11月4日に@nifty経由で申し込みを済ませてから約2週間。筆者宅にも待望の「ADSLプラスQ」が開通した。前評判では、なかなか特性が良いとの話も耳にしていたため、かなり期待しながらモデムを接続してみたのだが、第一印象としては、「少し期待しすぎたか?」というものだった。
モデムの設定画面からリンクアップ速度を確認してみたところ、下りのリンクアップ速度は「9184kbps」。以前、本連載でも紹介したが、ADSLプラスII利用時のリンクアップ速度が「8896Kbps」だったことを考えると、確かに速度は向上しているものの、その向上幅はわずか300kbpsに過ぎない。
ADSLプラスQ接続時のADSLモデムの状態。下り9184Kbpsと若干の速度向上は見られるが、AnnexCでの接続となった |
おかしいなと思いつつ、接続モードを確認してみると、やはり「AnnexC」で接続されていた。筆者宅は、NTTの線路情報によると線路長1.57kmで、伝送損失は28dBほどの環境だ。この環境であれば、前回の連載でも触れた通り、AnnexIで接続されてもいいように思えるが、少し考えが甘かったようだ。
確かに、モデム側の情報で伝送損失を確認してみると、「40dB」という値が表示されていた。さすがにここまで伝送損失が高いと、クアドスペクトラムどころかダブルスペクトラムのAnnexIでの接続も期待できない。クアドスペクトラムでの接続にはかなり厳しい条件が必要となるが、AnnexIでの接続でも20dB台の伝送損失でないと厳しそうだ。
ちなみに、ADSLモデムからの情報を元に、ADSLプラスIIとADSLプラスQのAnnexCのビットマップを比較したのが以下の図だ。確かにADSLプラスQの方がビットの搭載量が多いが(図中の黒い部分)、その差はわずかであることが確認できる。
ADSLプラスII、ADSLプラスQ、それぞれAnnexC接続時のビットマップを重ねてみた。黒い部分がADSLプラスQによって増えたビット |
線路長が長い、伝送損失が高いなど、AnnexCでの接続しか期待できないケースでは、残念ながら、その効果はわずかと言えそうだ。
●強制的にAnnexIへ
とは言え、これだけでADSLプラスQの本当の実力を図ることはできない。そこで、以前にも紹介した方法で、モデムの設定を変更して、強制的にAnnexIで接続してみることにした。
すると予想通り、今度は大幅な速度向上が見られた。下りのリンクアップ速度は、実に「12512Kbps」と12Mbpsに達した。これには少々驚いた。ADSLプラスIIの時は、AnnexCからAnnexIに強制的に接続モードを変更しても、「8896kbps→9504kbps」と1Mbps程度の速度向上しか見られなかったが、今回は約3Mbpsもの速度向上が確認できた。
強制的にAnnexIで接続した場合のADSLモデム情報。下りの速度は一気に12Mbpsにまで向上した |
実際、ビットマップ情報を取得して、AnnexCの場合と比較してみると(下図)、その特性の良さがよくわかる。下図において、青い部分はAnnexCの方がビット搭載量が多い部分となるが、それ以上にAnnexIで拡張されたビット(赤い部分)が多いことがわかる。
ADSLプラスQ契約の環境にて、AnnexC、AnnexIと強制的に接続モードを変更。それぞれのビットマップを重ねてみた。青い部分がAnnexC、赤い部分がAnnexIとなる |
以前のADSLプラスIIでは、確かに帯域が拡張されるものの、その分は低周波数帯域でのビット搭載量が減るという現象が見られたが、今回はこの現象があまり見られない。確かに低周波数帯域でのビット搭載量は減るが、それ以上に拡張された周波数帯域でのビットの上積みが大きい。イメージとしては、AnnexCの山をそのまま横に広げた感じだ。モデム、と言うかアナログ回路の性能向上によって、各ビンでのビット搭載量が増えているのがかなり効果的に表われているようだ。
もちろん、標準の設定の場合、どのモードで接続されるかはモデムまかせとなるため、速度の向上幅もそれによって決まってしまう。しかし、現状、すでにAnnexIで接続されているケース、もしくは筆者宅のようにAnnexCとAnnexIの判断が微妙なケースでは、AnnexIの利用で大幅な速度向上が期待できると言っていいだろう。
●ADSLプラスIIとの違いを検証する
AnnexIの特性が向上したことは、以前の24Mサービス「ADSLプラスII」と比較しても明らかだ。
ADSLプラスII、ADSLプラスQ、それぞれAnnexIの環境でのビットマップを重ねてみると、以下の図のように、全域にわたって1~4bitほどビンへのデータ搭載量が増えていることがわかる。しかも、ADSLプラスIIのAnnexIでは利用できなかった1.6MHz付近(ビン番号で400番前後)の帯域にもデータが搭載されていることも確認できる。これも、ひとえにアナログ回路の性能向上のなせる技だろう。
ADSLプラスII(紫色部分)とADSLプラスQ(黒部分)のビットマップを重ねて表示。各ビンへのデータ搭載量が大幅に増えていることが確認できる |
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サービスや接続方式の違いによる速度をまとめてみた。あくまでも筆者宅の環境の例に過ぎないが、やはりADSLプラスQのAnnexIがもっとも高速なサービスとなった |
この結果を見る限り、現状のADSLプラスIIから乗り換えるメリットが大きいことがよくわかる。前回も解説したように、乗り換えの費用が安く済む場合が多い。しかも、今回のADSLプラスQでは、VoIPの契約をした場合に無線LAN対応のADSLモデムがレンタルされる(無線LANカードは別途用意か、別途レンタル)。これらの点を考えると、あくまでもAnnexIが使える環境に限られるが、既存のサービスからの乗り換えを検討する価値は十分にあると言える。
WD605CVに無線LANカードを装着することでIEEE 802.11a/b/gの無線LANに対応する |
●他事業者と比較しても優秀
ちなみに、他事業者の回線と比較した場合でも、ADSLプラスQの性能は良好だ。これまでの24/26Mサービスでは、アッカ・ネットワークスの回線が最も高速だったが、今回のADSLプラスQは、これを凌ぐ速度となった。
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イー・アクセスのADSLプラスIIとADSLプラスQ、アッカ・ネットワークスの26Mサービス、Yahoo!BBの26Mサービスを比較。それぞれ、筆者宅の環境でのリンクアップ速度、実行速度を計測した |
もちろん、他事業者のサービスは26Mサービスであるため、単純な比較はフェアではない。しかし、筆者宅の場合、40MサービスのADSLプラスQといえども、実質的に接続されるのはAnnexC、またはAnnexIとなる。筆者宅と同様の環境であれば、この結果をサービス選びの基準として考えても差し支えないだろう。
このあたりは、他事業者が40Mサービスを実際に提供し始めた段階で、さらに詳細に検証してみたいところだ。
●線路長2.5km、伝送損失30dB以内なら検討する価値アリ
このように、イー・アクセスの40Mbpsサービス「ADSLプラスQ」は、かなり品質の高いサービスだと言えそうだ。残念ながらクアドスペクトラムの効果は体験できなかったが、ダブルスペクトラム(AnnexI)の性能向上は著しく、中距離でもかなりの効果が確認できた。
ただし、今回の結果はあくまでも筆者宅という限られた環境の結果に過ぎない点には注意して欲しい。異なる環境の場合、筆者宅とは異なる結果となることも十分に考えられる。個人的には、今回のテストから類推して、線路長で2.5km、伝送損失で30dB以内であれば、何らかの効果が期待できると考えるが、実際には導入してみないことにはわからないだろう。
また、数Mbpsの違いが、実際のインターネットの利用に何か違いをもたらすのか? と問われると、筆者としても返す言葉がない。この結果をどう考え、実際にどのサービスを選ぶのかは、最終的にはユーザーの考え方ひとつだ。ただひとつ言えるのは、少しでも高速なサービスを望むのであれば、「ADSLプラスQ」を検討する価値が十分にあるということだけだ。
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2003/11/25 11:11
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