第115回:ブロードバンドテレビの魅力を探る その2
4th MEDIAとBBTVの導入難易度を比較する



 前回に引き続き、4th MEDIAとBBTVの2つのブロードバンドテレビサービスを取り上げながら、その違いを検証してみる。今回は、申し込みや接続などの導入方法を比較しつつ、そのうえで気になったネットワークの負荷の問題についても取り上げていく。





FLET'S.Netへの加入が必須となる4th MEDIA

 4th MEDIA、BBTVともに、実際にブロードバンドテレビを視聴するには、サービスへの加入が必要になる。どちらもオンラインで手軽に申し込みができるのだが、ひとつ注意しなければならない点があるのが4th MEDIAのサービスだ。

 4th MEDIAのサービスでは、映像配信にIPv6のネットワークを利用する。昨年、本サービスに先立って行なわれていたモニタサービスではIPv4(マルチセッションに対応)が利用されていたが、これがIPv6に変更されたわけだ。このため、4th MEDIAのサービスを利用する場合は、本サービスへの加入に加えて、FLET'S.Netへの加入が別途必要になる。

 もちろん、システム的に見れば、IPv4+マルチセッションという構成より、IPv6を利用した方がスマートではあるだろう。しかし、ユーザーはブロードバンドテレビを楽しみたいのであり、FLET'S .Netのサービスを利用したいとは限らない。それなのに、サービスへの加入手続きが必須であり、しかもFLET'S .Netの料金がさらに加算されてしまう。しかも、詳しくは後述するが環境によってはFLET'S .Netのサービスは利用できない可能性もある点も問題だ。

 IPv4ではなく、IPv6を利用する意義があるのは確かだが、それによってユーザーに負担がかかるというのは、あまり好ましいとは言えないのではないか。

 その点、BBTVのサービスでは、こういった面倒や費用負担は発生しない。もともと、NTT東日本のフレッツ・シリーズのようにPPPoEを利用するといった複雑なネットワーク形態ではないこともあり、既存のネットワーク構成、サービスのままで利用することができる。実にシンプルでわかりやすいサービスだ。





ネットワーク構成の変更も必要になる4th MEDIA

 しかも、このような違いは、機器の接続形態にも大きな影響を及ぼすことになる。ブロードバンドテレビを視聴するには、ネットワーク上にSTB(セットトップボックス)を設置しなければならないが、4th MEDIAのサービスでは、これにともなって一部の環境で機器の接続方法を変更しなければならない場合があるのだ。

 具体的には、IPv6に対応したルータータイプのADSLモデム、またはIPv6に対応したルーターを利用している場合以外は、配線の変更が必要になる。たとえばBフレッツの一般的な環境では、以下の図のように配線を変更しなければならない。


BフレッツでPlala.TV on 4th MEDIAを利用する場合の配線例。ONUにハブを接続し、既存のネットワーク(ルータやPCなど)とSTBのネットワークに振り分けるような格好になる

 前述したように、4th MEDIAではIPv6を利用するが、機器がIPv6のアドレスを取得するためには、ルータの存在が問題になる。IPv6に対応していない機器の場合、機器がIPv6のアドレスを取得しようとしても、ルータによって通信が遮断され、アドレスを取得できないのだ。このため、ハブによって既存のネットワークとIPv6が必要なネットワークを分け、これによって問題を解決している。配線自体はハブを1台接続するだけなので、さほど複雑ではないが、ネットワーク初心者にとっては、少々わかりづらい構成と言えるだろう。

 また、当然のことながら、ここで利用するハブは新たに購入しなければならない。つまり、ここでもユーザーに費用負担が発生することになるわけだ。もちろん、ハブを使わない構成にすることも可能だが、この場合はルータをIPv6ブリッジに対応した機種(NTT-MEのMN8300やMN9300など)に変更しなければならない。

 しかも、この構成の場合、そのままでは、LAN側のPCからFLET'S.netのサービスが利用できないことになる。せっかく契約したFLET'S.netであるにもかかわらず、4th MEDIAのインフラとしてしか利用できないというのは、実にもったいない話だ。

 もちろん、前述したように、IPv6に対応したルータタイプのADSLモデム、またはIPv6ブリッジに対応したルータを利用すれば、このような手間や費用負担は避けられ、しかもFLET'S .Netのサービスも利用可能となる。しかし、詳しくはさらに後述することになるがが、その場合でもまた新たな問題が発生する可能性がある。





ルータが標準で提供されるBBTV

 一方、BBTVのサービスは、この点についてもよく考えられている。BBTVも配線の変更が必要になるのは確かだが、その構成は一般のルータを利用する場合と変わりはない。また、そのために必要な機器も標準で提供されている。サービスに加入すると、STBなどの必要な機器が送られてくるのだが、そこにルータ(コレガ製 BAR Pro3 BBTV)も同梱されているのだ。


BBTV加入時に送られてくる製品一式。STBに加えて、ルータや10mのLANケーブルなども同梱されているPlala.TV on 4th MEDIAでは、STBと電源、リモコン、AVケーブルのみが提供される。LANケーブルの1本くらい付属していても良いと思われるが……

 このため、BBTVの場合は、以下の図のように既存のルータを専用のものに置き換えるか、新たにルータを設置すればいい。提供されるBAR Pro3 BBTVは、さほど高性能な製品とは言えないが、必要な機器を標準でユーザーに提供するという配慮は高く評価したいところだ。このほか、STBを離れた場所に設置することを考慮してだと思われるが、フラットタイプで、しかも10mという長いLANケーブルまでもが同梱されている。


既存のルータとの置き換え、もしくは新規設置のみで手軽にSTBを接続できる。シンプルなネットワーク構成を採用しているメリットが、こういった点でも見受けられる

 つまり、BBTVの場合、ユーザーが困るだろうと予想される点についてのフォローがしっかりと行なわれているわけだ。このあたりは、ある程度、ユーザーまかせとなる4th MEIDAとは大きく異なる点と言えるだろう。

 なお、テストした限り、4th MEDIAで使えなかったが、BBTVでは無線LAN環境での利用も可能であった。以下の図のように、BAR Pro3 BBTVに無線LANアクセスポイントを接続し、STBにイーサネットタイプの無線LANアダプタを接続すれば、映像を無線LANで伝送し、テレビが離れた場所に設置されていても利用できる。さすがに映像を伝送する必要があるため、無線LANは十分な帯域(というよりも途切れのない連続した通信)が必要になるが、802.11aなどの干渉を受けにくい方式を利用すれば、十分、無線LANでも利用できた。


BBTVの場合は、イーサネットタイプの子機を利用すれば、無線LAN環境でも利用可能。ただし、干渉などが発生する環境では、連続的なデータ転送が行なわれないため、映像に乱れが生じる場合もある

 ただし、このような構成の場合でも、ルータには必ずBAR Pro3 BBTVを利用する必要がある点には注意したい。今回は、時間の関係から、原因を突き止めるまでには至らなかったが、BAR Pro3 BBTVを市販の無線LANルータやルータに完全に置き換えてしまうと、映像を再生することができなくなってしまう(おそらくフィルタリングの設定が関係していると思われる)。市販のルータでも利用可能かどうかは、これから加入するユーザーにとって興味のある部分なので、このあたりは、今後、さらに検証してみたいところだ。





マルチキャストによるトラフィックの増大が難点

 4th MEDIA、BBTVともに、放送サービスではマルチキャスト(複数の相手を指定して同じデータを送信する技術。サーバーから複数のあて先を指定して一回データを送信するだけで、通信経路上のルータがデータを複製し、回線効率よく映像を配信できる)を使って映像を配信するのだが、環境によっては、このパケットがLAN側に大量に流れ込み、ネットワークのトラフィックを圧迫することがあるのだ(オンデマンドはPoint to Pointのため、問題は発生しない)。

 筆者宅でテストしてみたところ、この現状は、BBTV、4th MEDIA(IPv6対応機器の利用時)の両方で発生することを実際に確認した。具体的には、STBで放送サービスの視聴を開始すると、それと同時にネットワーク上に接続されている機器の「DATA」ランプが一斉に点滅を始める。ルーターや無線LANアクセスポイントはもちろんのこと、プリントサーバー、VoIPアダプタなど、ありとあらゆる機器のDATAランプが点灯するわけだ。

 もちろん、ランプが点灯するだけなら、気にしなければいいだけの話だが、これによって機器が正常に動かなくなってしまう場合があるのが困ったところだ。中でも、もっとも顕著に影響が出たのが無線LAN機器だった。マルチキャストパケットが流れ込んでいる最中は、無線LANクライアントからアクセスポイントを検出できず、接続することができなくなってしまう。また、無線LANでの通信中に、同様の事態が発生すると、インターネットに接続できなくなったり、接続自体が切れてしまうことまでもあった。

 なお、BBTVの場合は配線の変更ができないため不可能だが、4th Mediaの場合は、機器の接続方法を工夫することで、LAN側へのマルチキャストパケットの流入を防ぐことができる。前述したように、ハブを利用し、LAN側とSTBのネットワークを分離させておけばいいのだ。


ハブを利用すれば、マルチキャストをルータのWAN側で遮断することができる。ただし、この場合、LAN側のPCでFLET'S.Netのサービスを利用することはできなくなってしまう

 このような構成にしておけば、ルータのWAN側でマルチキャストが遮断され、ハブとルーターのWANポート、STB側にしか流れなくなる。これによって、LAN側のトラフィックが増大することは避けることができる(IPv6対応ルータの場合はIPv6ブリッジをオフにしておく必要がある。そうしないと、同様にマルチキャストがLAN側に流入する)。

 ただし、この方法にも欠点はある。LAN側にはマルチキャストどころかIPv6が通らなくなるため、前述したように、PCからFLET'S.Netのサービスが利用できなくなってしまう。また、この方法であっても、ハブとルータ(WANポート)に対しては、依然としてマルチキャストによる高い負荷がかかることに変わりはない。このため、利用するルータが無線LANルータなどの場合、同様にWANポートからの負荷によって、無線LANが利用できなくなる場合もあった。

 この点について、事業者やルーターメーカーに問い合わせてみたところ、「マルチキャストの流入を防ぐには、エンタープライズ向けのL2スイッチなどで採用されているIGMP Snooping (for IPv4 マルチキャスト)、 MLD Snooping (for IPv6 マルチキャスト)に対応したスイッチが必要」ということだ。要するに、IGMPやMLDといったマルチキャスト系のプロトコルパケットの中身を機器で検査し、宛先クライアントがスイッチのどのポートに接続されているかを認識した上で、マルチキャストストリームを当該ポートにしか中継しないような機器を使わない限り、問題を避けられないことになる。

 もちろん、そんな機器を家庭に入れることはできない。となると、現状は、

・放送サービス利用中は、他の通信をしない(4th MEDIA、BBTVとも)
・放送サービスは見ない、もしくは契約しない(4th MEDIA、BBTVとも)
・FLET'S .Netサービスをあきらめて接続方式を変更する(4th MEDIA)

 のどれかの対策しか実質的には回避方法がないことになる。

 もちろん、これは、あくまでも筆者宅で検証した限りの話なので、もしかすると、他の環境では発生しないのかもしれない。ただし、実際には自分の環境では発生している事象なので、個人的には、何らかの有効な対策を早々にしてほしいところだ。そうでなければ、オンデマンドはいいが、放送サービスに関しては使い勝手として難点があると言わざるを得ないだろう。

 ブロードバンドテレビは、確かに、まだ登場したばかりのサービスではあるが、それにしても、今回、紹介した加入方法や接続方法、そしてシステム的にもまだ詰めが甘いように思える。次回、操作性や画質などについて触れる予定だが、実際に使う前、導入の段階ですでに高いハードルがあるのは、少々残念なところだ。


関連情報

2004/8/31 11:13


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。