第443回:動画ストリーミングもファイル転送もOK! WHS2011+Win版Pogoplugで作るスマホ向け自宅サーバー


 ファイル共有やリモートアクセスなど、PCから使う分には非常に便利な「Windows Home Server 2011」。しかし、スマートフォンからの利用となると、現状は少々使いにくい面がある。それを補完するためにオススメしたいのがWindows版Pogoplugだ。WHS2011のサービスとして動作させてみた。

注目を集めるWHS2011

 5月21日にDSP版の販売が開始されたWindows Home Server 2011。サーバーOSとは思えないほどの好調な売れ行きのようで、非常に高い注目を集めている。

 本コラムでもベータ版を含め過去に何度か取り上げたうえ、使い方を丁寧に解説した記事が「窓の杜」にも掲載されているが、その実用性の高さだけでなく、「いじり甲斐」のある製品となっており、工夫次第でいろいろな活用ができるようになっている。

ファイル共有、メディア共有、バックアップ、リモートアクセス環境が手軽に作れる「Windows Home Server 2011」

 もちろん、ヒットの要因には、USB2.0のインターフェイスセットで12000円前後という低価格もあるだろうが、スマートフォンやタブレットなどの登場によって、クラウドサービス的な存在としてのホームサーバーに再び注目が集まっているのだろう。

 これまで、「ホームサーバー」と言うと、ファイルサーバーやNASの延長線上の存在と考えられがちだったが、今回の製品はDLNA2.0互換のメディアサーバー機能やリモートアクセス経由での動画のストリーム配信など、メディア系の機能やリモートアクセス機能が大幅に強化されており、家電やスマートフォンなどとの連携が強化されている。

DLNA2.0互換のメディアサーバー機能やメディアストリーミング機能を搭載外出先からブラウザでアクセスし、ビデオをストリーム再生することも可能(要Silverlight)

 スマートフォンやタブレットが、PCの役割の一部を担う存在になるには、データの保存先が不可欠であり、その存在はクラウドが担うというのが現在の一般的な考え方だ。しかし、その一方で、選択肢の1つとしてパーソナルクラウドなどと呼ばれる自宅サーバーやNAS、組み込み機器の存在も注目されはじめている。このようなクラウド的な存在として、WHS2011も注目されているのだろう。

 実際、今後、スマートフォンやタブレットが今以上に普及した場合、自宅にいる場合にもWANにアクセスするというのは電波の利用状況やネットワークのトラフィックを考えても効率的とは言えない。データがローカルに存在するというメリットは、今後、見直されてくるのではないだろうかと、個人的には思える。

 

スマートフォン、スレートPC時代のサーバーを目指して

 とは言え、スマートフォンやタブレットからの利用できるクラウド的な存在として考えると、個人的には、WHS1011に少々物足りない部分も感じている。

 もちろん、旧WHSから比べれば、リモートアクセス用のサイトにモバイルデバイス向けのページが用意されるなど、格段に使い勝手は良くなってはいるのだが、実用性という点を考えると物足りない部分も少なくない。

 たとえば、ファイルはダウンロードのみでアップロードすることができないうえ、写真や音楽、ビデオなどもブラウザからファイルを一覧表示したり、ダウンロードすることは可能だが、その場で写真を見たり、ストリーム再生することはできない。

スマートフォンからもWebベースのUIでアクセスできるが、機能的にはファイルをダウンロードするための機能のみとなる

 WHS2011の場合、アドインによる機能拡張が1つの特徴となっているため、このあたりはアドインの登場を待つという選択肢もある。実際、旧WHSはアドインでかなり高度なスマートフォン対応が可能となっており、こういった旧WHS用アドインがWHS2011で使えるようになる日もそう遠くはない。

 また。ちょうど良いタイミングで、Windows Phone 7やWindows 8の情報が出はじめたため、今後、このような端末との連携が可能になる可能性もあるが、これらが日本で使えるようになるのは、まだ先だ。

 現状、ユーザーが普段使っている端末が、iPhoneやAndroidなどのスマートフォンに移行しつつあることを考えると、iPhoneやAndroidから、今すぐに、そして便利にWHS2011を使えないと、ユーザーの期待を裏切ることにもなりかねない。

 そこでおすすめしたいのが、WHS2011とWindows版のPogoplug(Pogoplug Premium Software)の組み合わせだ。個人的には、この2製品によって、やりたいことが、ほぼすべて実現できるようになった。

パーソナルクラウドという考え方では最強と言ってもいいWHS2011+Pogoplug Premium Softwareの組み合わせ

 

WHS2011のリモートアクセス機能の欠点を補完

 では、具体的にWHS2011とPogoplug Premium Softwareの組み合わせによって何ができるのだろうか?

 まず、Pogoplug Premium Softwareについて簡単に紹介しておこう。これは、以前、本コラムでも紹介したPogoplugのソフトウェア版の製品だ。Windows版やMac OS X版のソフトウェアとして提供されており、PCにインストールすることで、PCをPogoplug化することができる。

 製品情報サイト(http://www.pogoplug.com)から無償で利用できる「Pogoplug Free Software」をダウンロード可能だが、本格的に利用するのであれば、29ドルを支払って「Pogoplug Premium Software」にアップグレードするのがおすすめだ。

 Free版では、場所を問わないファイルの共有(P:ドライブとしてどこからでもアクセス可能)、インターネットを介したファイル転送や共有、データのバックアップ(アクティブコピー)などの機能が利用できるが、Premium版では、これに加えて、メディアサーバー機能(DLNAサーバー機能)、およびモバイルデバイスへの音楽とビデオのストリーム配信機能が利用できる。

クラウドプリント以外、ハードウェア版Pogoplugと同等の機能を備えるPogoplug Premium Software。高性能なサーバーにインストールすると、独特のもっさり感もなくなりかなり快適

 以下の表のように、WHS2011のスマートフォン向けリモートアクセス機能は、基本的にファイルのダウンロード用として提供されているが、ここにPogoplug Premium Softwareを組み合わせることで、ファイルのプレビューやストリーム配信、転送など、さまざまな機能が使えるようになるわけだ。

 唯一、WHS2011の機能としては全文検索ができるのがメリットだが、WHS2011のリモートアクセスとPogoplug Premium Softwareの併用は可能なので、どうしても検索したい場合のみWHS2011のリモートアクセスを利用すればいいだろう。

WHS2011
スマートフォン向けリモートアクセス機能
Pogoplug Premium Software
対応端末WebUIのため汎用iPhone/iPad/Android ※
ファイルダウンロード
ファイルプレビュー×TEXT(UTF-8)エクスプレスエリア
アップロード×ビデオ/写真/音楽/任意のファイル/撮影
写真再生×jpg/gif(tif/bmp不可)
動画再生×mp4/mts/ts/mov/wmvなど
音楽再生×mp3/wma/m4aなど
検索全文検索ファイル名検索のみ
ファイル共有アカウントベースアカウントベース/ダウンロードURL生成
印刷×△(Pogoで共有すれば可)
※ Android3.0ではストリーム再生でエラー発生する場合あり

 

サービスとしてセットアップ可能

 もちろん、同様のソリューションを実現する方法はほかにも存在する。しかし、個人的にPogoplug Premium Softwareをおすすめするのは、「サービスとして動作させることが可能」であること、そして「動画のストリーム配信機能が非常に強力」であるという2つの理由があるからだ。

 まずは、サービスとしての利用について紹介しよう。Pogoplug Premium Softwareは、サイトからプログラムをダウンロードしてインストールするだけと簡単で、WHS2011上にも問題なくインストールすることができる。インストール後、アカウントを取得したり、利用するフォルダを選択する。WHS2011の場合、共有フォルダはDドライブの「ServerFolders」以下に配置されているので、ここを登録し、標準のマイドキュメントなどはAdministratorアカウントのユーザフォルダとなるので、すべて削除しておくといいだろう。

 この状態でPCやスマートフォン(マーケットからアプリのダウンロードが必要)からアクセスをテストし、問題なければサービスとして動作させるための設定をする。

まずは普通にPogoplug Premium Softwareをインストールして設定を済ませる。サービスとしてインストール後は、C:\Program Files\Pogoplug\pppref.exeを起動すれば設定の変更も可能

 サーバーのレジストリで「HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Run」を見ると、PPDrive.exeというアプリが起動していることが確認できる。このアプリによってPogoplugの動作が実現されているので、これを自動起動しないようにレジストリからエントリを削除後、サービスとして登録してしまえばいいわけだ。

 なお、実際にはPPDrive.exeに加えて、PPfs.exeも動作に必要だが、PPDrive.exeから自動的に実行されるため、PPDrive.exeのみをサービスとして登録すればいい。

 サービスとしての登録方法はいくつか存在するが、今回はsexeというオンラインソフト(有限会社軟式ソフトウェアhttp://www.nanshiki.co.jp/software/)を利用した。

 任意のフォルダにプログラムを配置後、実行して前述した「c:\Program Files\Pogoplug\PPDrive.exe」を指定するとサービスが追加される。その場ですぐに起動しても、うまく動作しないため、起動せずにサーバーマネージャから設定を変更する。「構成」の「サービス」を開き、追加された「PPDrive」サービスをダブルクリックすると設定画面が表示されるので、「ログオン」をローカルシステムアカウントから「Administrat」アカウントに変更、パスワードを登録しておく。

 これで、サービスを起動すればWHS2011をログオフした状態でも常時Pogoplug Premium Softwareが動作可能だ。

レジストリでスタートアップを削除(msconfigでも可)sexeを利用して「PPDrive.exe」をサービス可する
サービスのログオン設定でAdministratorアカウントを指定すればサービスとして利用可能になる

 

あらゆるファイルをリアルタイムトランスコードして再生

 続いて、ストリーミング機能を紹介しよう。先にも少し触れたが、この機能は非常に強力だ。

 Android端末で再生できる動画を作成しようとしたり、メディアサーバやストリーム配信しようとした経験がある人はわかると思うが、ソースとなる動画を用意するのは非常に手間がかかる。MP4に変換するだけでも面倒だが、コピーした場合は再生できるものの、DLNAサーバー経由で配信しようとするとエラーになったり、さらに解像度の問題でうまく再生できないなど、いろいろな難題があった。

 しかし、Pogoplug Premium Softwareを利用すれば、こういったことは一切意識する必要がない。再生したい映像をWHS2011のフォルダに保存し、そこをPogoplug Premium Softwareに登録すれば、ほとんどのスマートフォンからこの映像を再生することができる。

 映像のフォーマットはMP4でなくてもかまわず、デジタルビデオカメラから取り込んだMTSファイル、MOVやWMV、MPEG2(TSなども)、と形式を問わず再生できる。タスクマネージャーの動作を見ていると、ffmpegが起動しているので、これで最適なフォーマットとレートに変換して再生しているようだ。

 もちろん、回線速度が遅いと画質は粗くなるが、WiMAXはもちろんのこと3Gでもスムーズに映像が再生され、品質的には十分という印象だ。

 ただし、サーバー側に負荷がかかるため、ある程度の性能を持ったサーバーで動作させることをおすすめする。当初、HP ProLiant MicroServer(AMD Athlon II NEO N36L 1.3GHz/RAM4GB)で動作させていたのだが、再生スピードにエンコードスピードが追いつかないような印象で、LAN経由での再生でも映像が途切れてしまった。テストした限りでは、Core 2 Duo P8600、Core i5 2400Sでは、まったく問題なく再生できたので、ある程度パワーのあるサーバーを用意すべきだろう。

 また、端末に関しては、手元にあるiPhone4、およびAndroid端末(IS03/HTC EVOなど)のほとんどの端末で問題無く映像を再生できたが、唯一、Galaxy Tabのみ映像が再生できなかった。Galaxy TabはDLNA環境でも映像の音声しか再生されない場合があるので、この端末を利用する場合のみ注意が必要と言えそうだ。

 なお、Android端末の場合、再生位置を指定するためのバーはグレーアウトして操作できない。ただし、バーを操作できるiPhoneの場合でも、エンコードが完了している範囲でしか早送りすることができないため、どれくらい早送りできるかはサーバーのパフォーマンス次第だ。

 Core i5 2400Sなどの環境では、しばらく再生しているとどんどんエンコード済みの早送り可能な映像がバッファされていくので、なるべくパワフルなCPUを搭載したサーバを用意するといいだろう。

動画再生中のHP ProLiant MicroServerのタスクマネージャー。CPU負荷はさほどでもないが、エンコードのスピードが再生に追いつかないとスムーズさに欠ける。高性能なCPUのサーバーを利用するのがおすすめ

 

ワンストップのサービスを目指して

 以上、WHS2011とPogoplug Premium Softwareを組み合わせて、AndroidやiPhoneから使えるサーバーを構築してみた。

 スマートフォン向けのファイル共有、転送、ストリーム配信は、Pogoplug Premium Softwareの機能となるため、Windows 7やMacで利用してもかまわないのだが、WHS2011と組み合わせることで、LAN内のファイル共有やバックアップなどの環境も整えることができるのがメリットといえる。設定次第では、TimeMachine用のバックアップ先としても利用できるので、WHS2011とPogoplug Premium Softwareがあれば、いろいろなサービスをワンストップで使えることになる。

 もちろん、ダッシュボードからPogoplugの管理ができないので、誰かがドインを作成してくれることを望みたいところだが、iPhone、Android端末から自宅のリソースにアクセスしたいと考えている人にはおすすめできる組み合わせだ。

 理想としては、クラウド上のほかのサービスもWHS2011で使えるようになってくれると、よりありがたい。TwitterやFacebookといったコミュニケーションサービスは無理だが、Evernoteなどのようなサービスは、クライアントソフトさえあればWHS2011で何とかなりそうだ(One Noteで良いとも言えるが……)。

 もちろん、クラウド上には便利なサービスがたくさんあるが、正直、数が多すぎて困る状況となっているので、こういったサービスの統合やクラウドサービスとの架け橋として、WHS2011のような製品が役立つようになるとうれしいところだ。


関連情報



2011/6/7 13:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。