第455回:自分の音楽ライブラリにいつでもアクセスOK! 一度使えば必ずハマる「music beta by Google」


 PCに保存されている音楽データをまるごとオンラインに保存し、ブラウザやAndroid端末から、いつでも、どこからでも再生できるクラウド型音楽サービス「music beta by Google」。一度使うと、まさに「手放せなくなる」非常に画期的なサービスだ。実際にサービスを試してみた。

なるほどコレは人に勧めたくなる

 友人:「スゴイから使ってみ」
 筆者:「んー、音楽あまり聴かないんだけど、とりあえず招待しておいて」

 海外に住んでいる友人が、やたらと「music beta by Google」を勧めてくるので、試しに招待してもらったのだが、いやはや、これは確かに「スゴイ」サービスだ。

 サービスとしては、プライベートな音楽配信サービスというか、音楽データのオンラインストレージというか、音楽版のGmailというか、一言で的確に表現しにくいのだが、要するに、PCに保存されている音楽データをGoogleのサーバーにアップロードし、ブラウザやAndroid向けのアプリでネットワーク経由で再生できるサービスになる。

Googleがベータ版サービスを開始したmusic beta by Google。PCの音楽ファイルをクラウド上に保存し、ブラウザやAndroid向けのアプリで再生できる

 何がスゴイかというと、その容量と、どこからでも再生できる利便性だ。本番サービス開始後はどのように運用されるか未定だが、現状のベータサービスでは、2万曲までの保存に対応しており、数十GBの音楽データをアップロードすることが可能。PCに保存されている膨大な音楽ライブラリをまるごとクラウド化することができる。

 このようにクラウド化した音楽は、ブラウザさえあれば、どこからでも再生することができる。アップロードしたPCはもちろんのこと、家庭内LANで接続されている別の部屋のPC、3GやWiMAXで接続している外出先のPCなど、どのPCからでも「http://music.google.com」にアクセスすることでブラウザ上で音楽を再生できる。

 また、現状、国内からはダウンロードに制限があるものの、Android向けのアプリも提供されており、スマートフォンやタブレットなどで音楽を再生することもできる。このため、スマートフォンをPCとつないで音楽ファイルをコピーしたり、同期する必要なく、いつでも、どこからでも数十GBもの音楽データにアクセスできるようになるわけだ。

 つまり、これまで自宅の自分のPCにしかなかった音楽データが、場所とネットワークの制約から完全に解放されることになる。この便利さは、一度使うと確かにハマる。やたらと人に勧めたくなるのも頷けるところだ。

 

現状は米国限定のサービスだが、工夫次第で登録可能?

 実際のサービスの使い方は単純だが、現状、米国での招待制のベータテストとなっているため、国内からの利用には一工夫必要になる。

 具体的には、現在は既存の利用者から招待してもらっても、登録ページで接続元のIPアドレスがチェックされ、日本からの登録ができなくなっているのだ。筆者が登録した時点では招待メールを受け取ってメール本文のリンクをクリックすることで日本からも問題なく登録できたのだが、その後いったん招待枠が取り下げられ、招待が復活した時には日本からアクセスしても登録できなくなったようだ。

既存のユーザーから招待してもらうことでサービスを利用できるが、米国以外からのアクセスはサービスへの登録ができなくなったようだ

 ネット上で調べてみると、公衆無線LAN環境でHTTPS通信するための接続ツール(hotspot shield)などを利用して登録した例もあるようだ。初回の登録のみしてしまえば、以後は日本からも問題なくサービスが利用できる。仕事などで米国へ行く機会がある人なら、招待メールをもらっておいて米国内からアクセスするなどの手段も考えられるだろうが、Google Musicのために米国へ行くというのは厳しい。日本国内でもぜひ早期サービス開始をお願いしたいところだ。

 なお、登録時には、ライブラリに登録するフリーの音楽のジャンルを選択することが可能になっており、ここで選択したジャンルの音楽が50曲ほど自動的に登録される。フリーの音楽は、音楽情報サイト「MAGNIFIER(http://magnifier.blogspot.com/)」から追加することが可能となっており、後から追加することも可能だ。

 現状、有料の音楽配信に対してどのようにアプローチするのかは不明だが、無料の音楽に関しては、このMAGNIFIERがGoogleの音楽配信プラットフォームの1つの窓口になるのだろう。ここを起点に、今後のサービスとしての発展を目指しているのかもしれない。

初回登録時にジャンルを選択すると50曲前後のフリーの音楽が追加されるmusic beta by Google向けの音楽情報ポータルサイト「MAGNIFIER」。ここからフリーの音楽などを追加可能

 登録が完了したら、PCに「Music Manager」と呼ばれるソフトをインストールする。これはいわゆるアップローダーだ。インストール後、Googleアカウントを登録すると、通知領域に常駐し、PC上の音楽ファイルを監視し、自動的にオンラインへとアップロードしてくれる。

 標準ではiTunesのライブラリが対象となっているが、Windows Media Playerや「My Music」フォルダ、任意のフォルダを指定することができるようになっており、そこにある音楽データは、DRMで保護されたデータ以外、片っ端からアップロードされる。

PCにインストールする「Music Manager」。このプログラムによって、iTunesのラブラリや指定したフォルダの音楽データが自動的にアップロードされる

 ちなみに、筆者はMy Musicを監視対象に指定していたのだが、インタビューの際にボイスレコーダーで録音した音声までアップロードされ、血の気が引いた。もちろん、アップロードしたデータは自分しかアクセスできないのだが、さすがにこういったデータをオンラインに保存するわけにはいかないので、利用時にはある程度の注意も必要だ。

 アップロードの速度は、回線速度に依存する。最大の2万曲ともなると、70~80GBほどの容量となるため、アップロードに時間がかかるが、実際に70GBをアップロードしたユーザーの話によると光ファイバーの環境で丸2日ほどでアップロードできたとこのことだ。

 ただし、上り方向に2日で70~80GBの転送量となると、回線事業者やプロバイダーから帯域制限されかねないレベルとなる。Music Managerでアップロードの帯域を128kbps、256kbps、512kbps、1024kbpsに制限することができるので、個人的にはある程度帯域を絞り、数週間ほどかけてゆっくりとアップロードすることをおすすめしたいところだ。

 それにしても、ユーザー数が限られたベータサービスとは言え、これだけのデータを受け入れられるサーバーを整えているあたりはさすがGoogleだと感じる一方、サービスが本格的に普及したら、回線事業者やプロバイダーの悲鳴も聞こえてきそうで、若干、複雑な心境だ。

Music Managerでは、アップロードに利用する帯域を指定することができる。標準では「Fastest possible」となるが、環境によっては調整も検討したい

 

場所を意識せずに音楽を再生可能

 このように、music beta by Googleでは、アップロードをほとんど意識せずに音楽データをクラウドに保存することができるが、同様に再生に関しても、ユーザーはデータの場所を意識せずに済む。

 ブラウザを利用して再生する場合、「http://music.google.com」にアクセスすると、Music Managerによってアップロードされた曲(と自動追加されたフリーの音楽)が表示される。アルバムやアーティストから聞きたい曲を選んでダブルクリックすれば、即座に音楽が再生される。

ブラウザでの再生画面。アルバムやアーティストごとに整理された楽曲をダブルクリックすることで再生できる。再生コントロールもブラウザ上で可能

 再生操作は、ブラウザの下部に表示されているボタンでコントロールできるようになっており、再生や一時停止、前の曲や次の曲、スライダーバーによる再生位置の指定、シャッフルや繰り返し再生などのオン/オフ、音量の調整などができる。

 また、プレイリストを作成することも可能となうえ、特定の曲を選択後、「INSTANT MIX」を選択することで、似た曲を集めたプレイリストを自動的に作成することもできる。ブラウザベースとは言え、機能的には十分な印象だ。

 ブラウザを終了したり、タブを閉じると再生が終了してしまうので、音楽を聞きながらブラウジングしていると、うっかりブラウザを閉じて再生が停止してまうことがあるのだが、シンプルでわかりやすいUIだ。

 Windows 7のタスクバーに固定して、アプリケーションのように利用したり、「Better music beta for Google Music」など、Chrome向けの拡張機能なども用意するなどすれば、比較的違和感なく利用できるだろう。

プレイリストを作成することも可能。特定の曲から似た曲を集めるINSTANT MIXも可能Chrome向けの拡張機能なども提供されている。ボタンから簡単にアクセスし再生をコントロール可能

 このように、アップロードした音楽を手軽に再生することができるmusic beta by Googleだが、やはり感動するのは、この音楽にどこからでもアクセスできることを実感したときだ。

 打ち合わせの時などに、WiMAX経由で、ふと「http://music.google.com」を開いても、家のPCとまったく同じライブラリが表示される。ネットカフェなどに設置してある端末でアクセスしても、当たり前だが、同じライブラリが表示される。

 もちろん、移動中に、手元のスマートフォンからブラウザでアクセスしても、ライブラリを表示して、何の問題もなく音楽を再生できてしまう。このシームレス感というか、ロケーションフリー感は、実際に体験してみると感動ものだ。

 すでに当たり前すぎて慣れてしまったが、Gmailを使い始めたときにメールにどこからでもアクセスできるようになったときと似たような感覚だ。きっと、数年後には、このような使い方が当たり前になっているのだろう。

Android端末からもブラウザでアクセスすることで音楽を再生可能。ただし、ブラウザの場合、バックグラウンドでの再生には対応しない

 

Android 3.x系では標準で使える場合も

 このようなシームレスな使用感は、Android向けの「音楽(music)」アプリを利用すると、さらに感じることができる。

 このアプリは、現状、国内で販売されている端末にインストールすることができないが、一部のタブレットなどではAndroidマーケットからインストールできる場合がある。実際、筆者の環境で試してみたところ、Androidマーケットで参照できる対象端末に「Motorola MZ604」とXOOMが表示され、インストールできることを確認できた。

ブラウザからAndroidマーケットにアクセスすると、インストール対象の端末を確認できる。筆者が登録してある端末の中では、XOOMにインストールできることを確認できた

 また、筆者宅ではインストールできなかったのだが、Optimus Padにインストールできたという報告があったり、XOOMの場合でもインストール作業をせずに利用できたという場合もあったようだ(自動アップデートされたと思われる)。このほか、2.x系でも、apkファイルを入手して強制的にインストールすることも可能だ。

 「音楽」アプリは、標準ではSDメモリーカード内の音楽データしか参照できないが、Googleアカウントを登録することで、music beta by Goolgeにアップロードした音楽ファイルが自動的に表示されるようになる。

 あとは、ローカルの音楽データとまったく同じ感覚で再生することができる。バックグラウンドでの再生も可能なうえ、Bluetoothヘッドフォンなどを利用して音楽を楽しむことも可能だ。

Android3.x向けの「music(音楽)」アプリ。music beta by Googleに対応している場合、メニューからアカウントの登録が可能music beta by Googleに登録したGoogleアカウントを登録することで、オンラインにアップロードした音楽を再生可能

 なお、3Gが圏外の場合など、サーバーにアクセスできない場合は音楽を再生することができないが、オプションでキャッシュの設定が可能になっており、一度再生した音楽を自動的にキャッシュしたり、指定した音楽をローカルで再生できるように保存しておくことができる。

 これにより、地下など電波が届きにくい場合でも音楽の再生が可能だ。通信環境によっては、音が途切れる場合などもあるので、お気に入りの音楽はローカルにキャッシュしておくのがおすすめだ。

 また、PCやAndroidなど、複数の端末を利用した場合でも、同時に再生できる端末は1台に限られる。たとえば、PCで再生中にAndroidでも音楽を再生すると(別の楽曲を選択した場合でも)、複数端末での再生がサーバー側で検知された時点で、片方の再生が停止される。不特定多数への配信を回避するための一定の配慮がなされているようだ。

Android2.x系でもアプリを強制的にインストールすることでサービスを利用可能再生した音楽はキャッシュされるうえ、明示的にダウンロードしておくことも可能
複数端末での同時再生が検知されると、再生が中断される

 

大切なのはシームレス感

 以上、Googleがベータサービスを開始した「music beta by Goolge」を実際に試してみたが、このサービスで感心したのは、やはりシームレス感だ。

 データがどこにあるのかをまったく意識する必要がなく、いつでもどこからでもアクセスできる環境というのは、非常に便利だ。これを体験すると、NASなどに保存した音楽にリモートアクセスするというアプローチは、まだまだ工夫が足りないと感じされられる。

 しかしながら、便利になる一方で、ネットワーク側の転送量の増加は深刻な問題になりそうだ。自宅からの大量のデータのアップロードもそうだが、キャッシュをうまく活用できるとは言え、音楽を聴くために、数多くの人が帯域を消費するようになることを考えると、将来的には回線事業者側も何らかの対策をせざるを得なくなるだろう。

 そう考えると、music beta by Goolgeの登場は、いろいろな方面での注目を集めるものとなりそうで、国内でサービスがどのように展開されるのか、そもそもサービス自体が開始されるのかどうかが多いに注目されるところだ。

 


関連情報

2011/8/30 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。