第456回:People ハブのコンセプトとOfficeの完成度は圧巻
Windows Phone 7.5を搭載した「IS12T」


 auからWindows Phone 7.5を搭載したスマートフォン「IS12T」が発売された。正直、携帯電話として見ると、現状は物足りない部分も多いが、UI、Peopleハブ、Office連携など、今までのスマートフォンにはない魅力を備えた製品だ。実際の使用感をレポートしよう。

意外に高い業界関係者の評価

 最近、同業のライター諸氏に会うと、「IS12T買った?、意外に悪くないよね」ということが話題になる。

 「悪くない」というのは、もちろん欠点があることを前提にした話で、良いところと同じくらいに気に入らないところも話題に挙がるのだが、総じて、UIの軽快さ、Peopleハブのコンセプト、Office連携の完成度の高さには、高い評価を下す人が多い。

Windows Phone 7.5を搭載したauのIS12T背面カバーを開いたところ。電池は1460mAh。一日利用するには十分な容量

 個人的にも、単純にAndroidに飽きたという理由もあるが、People ハブによって各サービスにちらばっていた連絡先がキレイに結びついたときのスッキリ感、小難しいことを一切意識せずに使えるSkyDriveとの連携などには、素直に感動した。

 とあるライターの方が、この延長線上にある次世代Windowsやサービスの姿を考えるとより興味深いと語られていたが、まったく同感で、マイクロソフトがこのUIやクラウドサービスで、今後、何をやりたいのかという方向性が見えてくる製品になっている。

 とは言え、誤解のないように言っておくが、これはあくまでも研究対象として見たときの評価であって、無条件にIS12T、そしてWindows Phone 7.5をほめているわけではない。実際、IS12Tは、現状、以下のように、auの携帯電話としてあきらめなければならないことがいくつかある。


   ・Cメール(現状は受信のみ送信は対応予定)
   ・ezweb.ne.jpのメール(10月に対応予定)
   ・おサイフケータイ
   ・赤外線通信
   ・LISMO系のサービス

 このため、少なくとも現時点で、フィーチャーフォンとの併用ならまだしも、機種変更するのは、かなりの割り切りが必要だと思われる。

 個人的なIS12Tの評価としては、「PDAとしてよくできている」という印象だ。日本語アプリの少なさや気づくと再起動している不思議な動きは気になるが、メールやSNS、オンラインストレージなどを利用するには、非常に便利な端末に仕上がっている。

 もしかすると、Windows Phone 7.5は、スマートフォン用というよりも、隙だらけのAndroid 3.x対抗として、タブレット用OSとして登場していたら、その存在感がまるで違うものになっていたのかもしれないとも感じるのだが、それは今後の話になりそうだ。

 とにかく、Peopleハブを中心とした「情報の整理」という観点では、なかなか完成度の高いデバイスとなっており、これまでにない面白い製品であることは間違いないと言えそうだ。

 

進化したアドレス帳「Peopleハブ」

 それでは、もう少し、具体的に製品について見ていこう。全体的なレビューは他の媒体でも取り上げられているので、個人的に気になった機能を中心に紹介していくことにする。

 まずは、この製品の魅力として伝えたいのは「Peopleハブ」だ。そもそも何なのかがかもわかりにくい機能だが、電話、メール、SNSを統合できる高度なアドレス帳と言ったところだ。

スタート画面の上に配置されるPeopleハブ。SNSを統合した進化したアドレス帳となっている

 公式サイトを見ると、「人とのつながり」が強調されており、実際、TwitterやFacebookのアカウントを従来の電話やメールアドレスなどと一緒に管理したり、SNSの最新情報や個人ごとの状況を表示したりできるのだが、TwitterやFacebookのアプリを完全に置き換える存在ではない。あくまでも、そのベースはアドレス帳だ。

 具体的に何ができるのかというと、複数のサービスの連絡先を統合できる。たとえば、Google、Windows Live、Twitter、Facebookの各アカウントを端末に登録したとする。するとPeopleハブには、Gmailの連絡先、Windows Liveのアドレス帳、Twitterのフォロワー、Facebookの友達が、ごっそり登録される。

 便利なのは、これらのアドレスを関連付けして管理することができる点だ。電話番号とGmailのメールアドレス、Twitterのアカウントのように、これまで個別に管理されていた情報をPoepleハブで連結してまとめ上げることができる。

 アドレスのリンクは、基本的にメールアドレスがキーになり、例えばGoogleのメールアドレスとFacebookのメールアドレスが同じであれば、これらは自動的にリンクされる。イメージとしては、メールアドレスをキーにしたリレーショナルデータベースのようで、複数のサービスのデータを連結し、そのビューをPeopleハブとしてユーザーに見せているイメージだ。

Gmailのアドレス、Messengerの友人、Twitterのフォロワー、Facebookの友達など、さまざまなサービスのアドレスをリンクして管理できる人を選択すると、その人の連絡方法が表示される。電話、メール、SNS、どれでもここからアクセスすれば連絡ができるTwitterやFacebookの最新情報もチェック可能

 これにより、たとえばAさんに連絡したいと思ったとき、Peopleハブからアクセスすれば、電話でも、メールでも、Messengerでも、Twitterでも、Facebookでも、どの手段でも連絡ができるようになる。しかも、TwitterやFacebookのアイコン画像も反映されるので、携帯電話の電話帳の風景が、TwitterやFacebookのように変化する。誰かに連絡をしたいと思ったら、とにかくPoepleハブをタップすればいいというわけだ。

 連絡と言っても、その方法は、Twitterは@でのツイート、Facebookはウォールへの書き込みかチャットになり、ダイレクトメッセージは送れない。このあたりに物足りなさを感じるが、これまでバラバラに管理されてきたサービス、放置されていたWindows Live IDやMessengerの友人が忽然と復活し、TwitterやFacebookのアカウントと結びついて、キレイに整理されたときのスッキリ感は特筆モノだ。まるで、ごちゃごちゃにモノを詰め込んでいた押し入れを、誰かがキレイに整理してくれたかのようなイメージだ。

 もしかすると、我々は、片っ端からデータをため込んでおいて検索れば良いという「整理しない」ライフタイルに慣れすぎてしまっていたのかもしれない。Peopleハブによって、きれいに整理されたディレクトリを使うと、そう実感させられるし、断片的な検索では見えなかったつながりの意味が見えてくるような気がする。

 

地味に便利なグループやタイル

 また、グループを上手く扱えるという点も、Android端末にはないWindows Phone 7.5の特徴と言える。

 Windows Phone 7.5の新機能として、Peopleハブでグループを利用することが可能となった。これにより、家族や趣味の仲間などをグループに登録しておくと、そのメンバー全員にメールを送信したり、チャットなどで会話をすることが簡単にできる。

 しかも、グループ単位でTwitterやFacebookの最新情報を表示することもできるため、Twitterクライアントでよく見かけるグループごとのタイムライン表示のような使い方も可能だ。このグループは、タイルとしてスタート画面に貼り付けておくこともできるので、たとえば仕事仲間の状況を確認したり、友人のタイムラインを追いかけて、そこからメッセージを送るといった使い方ができる。

 このため、グループ全員に連絡したいときでも、人ごとにメールだったり、Twitterだったりと、連絡方法を使い分ける必要がなくなるわけだ。

グループを作成して、人やSNSを再整理することが可能グループ全体に対してメールやチャットを手軽に利用できる

 Peopleハブは、あくまでも人を起点した機能となるため、ハッシュタグでタイムラインを表示したり、検索する機能は備えていないのだが、Windows Phone 7.5の場合、IEの特定のページをタイルとしてスタート画面に貼り付けることができるので、IEからTwitterの検索を実行し、これをスタート画面に貼り付けることで代替え可能だ。

 このIEのページや検索結果をタイルとして貼り付けられる機能は、地味に便利で、動的なブックマークのように使ったり、作業を中断するときの付箋のような感覚で使うことができる。タイルはWindows Phone 7.5のUIを象徴する特徴的なもの1つだが、単なるデザイン的な要素だけでなく、非常に実用的な機能を備えている点に感心させられる。

 それにしても、これらの機能を体験すると、普段、仕事に使っているWindowsで、どうしてこのスマートさが味わえないのかと不満に感じてしまう。Windows 8まで待つにはまだ間がありそうなので、Peopleハブだけでも、サービスとしてWeb上で提供したらどうだろうか?

特定のハッシュタグを追いかけたいなら、IEで検索し、タイルとしてスタートにピンすればいいよく使うページを貼り付けたり、閲覧中のページをしおり代わりに貼り付けておくという使い方もできる

 

SkyDrive連携と完成度の高いOffice機能

 続いて紹介したいのは、SkyDirveとの連携機能だ。Windows Live IDを登録しておくと、25GBまでのオンラインストレージを利用可能となり、「Picturesハブ」からSkyDrive上の写真を参照したり、OfficeからSkyDrive上のデータを参照することができるようになっている。

 感心するのは、オンラインサービスであることをほとんど意識させないUIだ。写真については、Facebookに友達がアップロードした写真も表示されるようになっているが、アルバムからローカルとSkyDrive上のデータを区別することなく参照することができる。また、カメラで撮影した写真を自動的にSkyDriveにアップロードすることも可能になっており、これまでSkyDriveを使ったことがなかったユーザーでも、簡単に同サービスを利用できるようになっている。

SkyDriveのデータを何も意識せずに各機能から利用可能カメラで撮影した写真を自動的にアップロードすることも可能

 Officeハブからも、同様にSkyDrive上のデータを手軽に利用できるようになっており、OneNoteを使ってメモなどをシームレスに端末とPCの両方から利用することも可能だ。

 それにしても、当然ではあるのだが、Office文書の再現性は非常に高い。Androidなどでは、パワーポイントの資料など、レイアウトが崩れたり、図版がうまく表示できないことがあるが、そういった心配もほとんどなく、文書を表示することができる。

 パワーポイントの図版や表の修正はできないものの、編集も可能となっており、移動中にプレゼン資料を確認したり、最終チェックで文字を修正するといった程度なら手軽にできる。正直、AndroidでのOffice環境がむごかっただけという話もあるが、ようやくスマートフォンでもOffice文書をまともに扱えるようになったという印象だ。

OfficeハブからWordやExcel、PowerPoint、Onenoteを利用可能OneNoteを使って写真や文字などのメモをPCとシームレスに共有することもできる
図表などもきちんと表示されるためプレゼンの予習に便利。編集もできるので校正などもできる

 

課題は具体的な「気持ちよさ」の伝導

 以上、特徴的な2つの機能を中心にIS12Tを紹介したが、これらの機能+軽快なUIは、まさにWindows Phone 7.5ならではの特徴で、Androidにはない魅力と言える。

 もちろん、Androidでも、Jibeなどのソーシャルアドレス帳、各種Twitterクライアント、GoogleDocsやDropBox、Evernote、Office互換アプリなど、豊富なアプリを利用することで、このような機能を実現することも可能だ。

 しかし、ポイントは、これをOSのみで実現できるという点にある。アプリやサービスを使いこなすことは、スマートフォンの利用に慣れた上級者なら苦も無いことだろう。しかし、はじめてスマートフォンを使うユーザーにとっては、アプリを選ぶことすら難しい。それをOS側でやってしまおうというのは、スマートフォンが広い層に普及してきた今の状況を考えると、なかなか悪くない狙いだ。

 しかしながら、であればこそ、初心者ユーザーが必要とする携帯電話としての機能で、遅れを取っていることが、非常にもどかしい印象だ。個人的には、せめてezweb.ne.jpのEメール対応を待ってから発売してもよかったのではないかと感じる。英語版となるBing Mapも不満だし(NAVITIMEがあるので実質的には困らないが……)、音声認識が使えないのも残念なので、これらも万全に対応してから発売しても遅くはなかったと感じる。

携帯電話としての機能も万全ではないが、BingMapが英語だったり、音声操作ができないなど課題も少なくない

 なお、ezweb.ne.jpのメールについては、単にアプリをリリースするだけでなく、きちんとPeopleハブに統合されることを強く願いたいところだ。現状でも、アドレス帳にezweb.ne.jpのメールアドレスがあれば、Peopleハブからメールを送信することはできるが、送信元としてGmailやHotmailしか選べない。

 きちんとezweb.ne.jpのアドレスから送信できるように、しっかりとPeopleハブに統合し、インターネット上の各種サービスとフィーチャーフォンの世界をしっかりと結びつけて欲しいところだ。

 それにしても、IS12Tの発表会の際にKDDIの田中氏が使っていた「ジワジワ気持ちよくなる」という表現は、実際にIS12Tを使って見ると、まさにピッタリだと感心させられる。当初は、あまりにも抽象的すぎて、発言の真意を測りかねたが、確かに使い込むほどに「気持ちいい」というよりは、「よく考えられているなぁ」と感心させられることが多い。

 あとは、これをどのように広く認知してもらうかがカギだろう。使ってみないとわからないというのでは、むしろ初心者は手を出しにくい。Peopleハブでスッキリしたときの感動とか、グループで便利連絡がスムーズにできたときの感動とか、こういった一つ一つの体験を具体的に伝えられるかどうかが勝敗のポイントになるだろう。

 


関連情報

2011/9/6 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。