第469回:拡張パック利用で3時間超の給電も可能! UPS「APC RS XL500」
APCジャパンの「APC RS XL500」は、長時間給電を目的にした新しいタイプのUPSだ。拡張バッテリーパックによる拡張が可能になっており、数時間、場合によっては十数時間もの長時間バックアップが可能となっている。その実力を検証してみた。
●目的は「シャットダウン」から「連続稼働」へ
万が一の電源断の際でも、安全にサーバーやPCをシャットダウンするための機器――これまで、UPSの役割をそう理解していたが、どうやら、その認識を改める必要がありそうだ。
APCジャパンから発売されている「APC RS XL500」はそんな気づきを与えてくれるUPSの1つだ。見た目は通常のUPSだが、背面に拡張ケーブルを接続するためのポートが用意されており、ここに次々にバッテリーを接続していくことができるようになっている。
これにより、本体に内蔵されたバッテリーに加え、外部の拡張バッテリーを使って給電することが可能となっており、これまでのUPSに比べて動作時間を飛躍的に向上させることに成功している。
APC RS XL500(左)と拡張バッテリーパック(右)。8台接続すれば500Wで3時間の利用も可能という長時間駆動用のUPSだ |
その実力は驚くべきもので、8台の拡張バッテリーを装着時した場合であれば、500Wで245分(約3時間)、200Wでは何と685分(約11時間)もの電源供給が可能となっており、日中の業務時間をカバーするに十分な容量となっている。東日本大震災以降は、どこかの原子力発電所で障害などがあれば、安定した電源供給に支障をきたしかねないという状況が続いている。計画停電などがまた実施される可能性を完全に払拭することはできないことを考えると、この性能は大きな魅力と言えるだろう。
特に、SOHOや中小の現場では、共有サーバーを稼働させているケースが少なくない。不意の電源断でも、いかに業務をストップさせないかという“業務継続性”が震災後はより重要なキーワードとなっている。そんな状況だけに、サーバーやネットワーク機器を含めた複数の機器を数時間にわたって稼働させることができる点は非常に大きな意味を持つ。
SOHOや小規模オフィスにおいても、PCやサーバーの電源対策は、落雷によるごく短時間の電源断など、一時的な障害に備えた対策から、事業継続的な側面をも考慮した長期間(長時間)の対策へと変わりつつあるわけだ。「シャットダウン」から「連続稼働」へ、「APC RS XL500」でどのように状況を変化させることができるのかを実際に試してみることにしよう。
●つなぐだけで容量を拡張可能
まずは、外観をチェックしてみよう。「APC RS XL500」は、これまでの家庭やSOHO向けのUPSと比べると一回り大きなUPSだ。サイズは高さ301×幅112×奥行き382で、重量は11.5kgとなっており、縦長の筐体となっている。
正面(写真左)、背面(写真右) | 側面 |
運転方式はラインインタラクティブで、出力波形は矩形波、最大出力容量は500VA/500W(拡張バッテリー1台までの使用では1200VA/720Wまで出力可能)。コンセントは合計10で、このうちバックアップ対象となるのは5個で、残り5個はサージ保護のみとなっている。
矩形波対応となるため、PFC電源搭載機では正常に動作しない可能性はあるが、PCやディスプレイ、液晶テレビ、DVDレコーダー、携帯電話充電器、LED照明など、さまざまな機器に対応しており、多数の機器に電力を供給することが可能だ。
なお、APC製品では同容量で拡張バッテリーにも対応しながら、正弦波出力に対応したAPC Smart-UPS XL500もラインナップされているので、用途によって機種を選ぶといいだろう。
APC RS XL500(BR1200GL-JP) スペック | |
運転方式 | ラインインタラクティブ |
定格入力 | AC100V単相 |
出力コンセント数 | 10(バックアップ×5、サージ保護のみ×5) |
コンセント出力容量 | 500VA/500W (単体および拡張バッテリーパック1台までの場合は1200VA/720W) |
出力波形 | 矩形波 |
自動電圧調整機能 | あり |
サージ・ノイズフィルター | あり |
回線保護 | ADSL/ISDN/10BASE-T/100BASE-TX/アナログ/同軸ケーブル |
バッテリータイプ | 小形シール鉛蓄電池 |
バッテリー容量 | 12V/9Ah(2個) |
充電時間 | 8時間(90%、拡張バッテリーパック未使用時) |
バッテリー寿命 | 5~25度で4年 |
外寸 | 高さ301×幅112×奥行き382mm |
重量 | 11.5kg |
ソフトウェア | PowerChute Personal Edition |
PCとの接続は専用のUSBケーブルを利用する仕様となっており、付属のPowerChute Personal Edition(英語版)を利用することで、稼働時間の確認やシャットダウンのしきい値などを設定することが可能となっている。
注目は、やはり背面に用意された拡張バッテリーポートだろう。回線サージ保護ポートの下に、縦長のポートが用意されており、ここに別売りの拡張バッテリーパックを接続することができるようになっている。
PCとの接続には付属のUSBケーブルを利用 | 背面のポートに拡張バッテリーパックを接続することで容量を増やせる |
つなぎ方は簡単で、本体と同じデザインの拡張バッテリーパック(BR24BPG-JP)の背面から出ているケーブルをこのポートに接続するだけでいい。これで、容量が拡張され、バックアップ時間を飛躍的に向上させることができる。
標準では本体と拡張バッテリーパックは一対一の接続になるが、二股の分岐ケーブルが別売りされており、これを複数利用することで、次々に拡張バッテリーパックを接続することが可能となっている。分岐ケーブルを利用することで、以下の表のようにバックアップ時間を延ばすことが可能だ。一般的な利用であれば、プラス1台でも十分な容量だが、接続する機器の台数に併せて構成を柔軟に変えられるのは大きな魅力だ。
拡張バッテリーパックの個数とバックアップ時間(分) | |||
拡張バッテリーの個数 | 100W | 300W | 500W |
0 | 67 | 21 | 10 |
1 | 221 | 67 | 36 |
2 | 343 | 103 | 57 |
3 | 508 | 154 | 86 |
4 | 683 | 207 | 149 |
5 | 864 | 262 | 146 |
6 | 1,050 | 319 | 180 |
7 | 1,242 | 377 | 211 |
8 | 1,438 | 437 | 245 |
●サーバー+NAS+無線LANルーターで検証
では、実際に複数台の機器を接続して検証してみよう。今回用意したのは、4台のHDDを搭載したNAS(NETGEAR Ready NAS Ultra 4)、PC(Core i7 860/RAM8GB/HDD2TB×1/GeForce GTX460、Windows Server 2008R2)、無線LANルーター(バッファロー WHR-HP-G450H)だ。これらの機器を拡張バッテリーパックを1台追加したAPC RS XL500に接続してみた。
今回のAPC RS XL500は、容量が大きく、バックアップ用コンセントの数も多いため、このようにサーバーやNASだけでなく、ルーターやスイッチなどの機器も接続しておくことで、万が一の電源断でもネットワークを利用した業務を継続することができるというわけだ。
この環境での出力は、本体前面に搭載されているディスプレイで確認したところ、122W~150W前後となり、電源供給時間の目安は170~185分となった。拡張バッテリーパックを1台のみ追加した状態でも、約3時間の稼働ができるのは非常にありがたいところだ。
前面のディスプレイで電力とバッテリー動作時間の目安を表示。複数の機器を接続したテスト環境では170~185分の動作が可能となっていた |
もちろん、PCやNASに負荷がかかれば、もう少し、電源供給時間は短くなる可能性はあるが、最近のPCやNAS、通信機器は、省電力機能が重視されているため、思ったほど電力を消費せずに済むようになっている。
併せて、クライアントにノートPCを利用すれば、UPS利用時でも、無線LAN経由でサーバーにアクセスすることができるため、数時間程度の停電などには十分に対応することができるだろう。
●サーバーやNASとの連動もバッチリ
もちろん、サーバーやNASとの連携も問題なく可能だ。今回のテストでは、NETGEARのReady NASを利用したが、付属のUSBケーブルを使ってUPSと接続するだけで、自動的にUPSを認識し、設定画面からシャットダウンまでの時間を設定することができた。こういったNASからの利用が問題なくできるのは、さすが世界的なUPSの大手であるAPCならではの安心感と言えるだろう。
NASからも認識可能。つなぐだけで利用できる |
一方、PCからの制御には、前述した「Power Chute Personal Edition」(Windows XP/Vista/7対応)を利用する。インストールすると、バッテリーの状態(給電状況や容量、負荷)などをリアルタムで監視できるほか、電源断の際の動作も設定することができるようになっている。
これまでのUPSであれば、電源断後、5~10分程度でシャットダウンする設定にするのが一般的だったが、大容量の本製品では、やはりその特長を活かして、なるべく長時間稼働させるように設定しておくのがおすすめだ。標準設定のままでも、なるべくバッテリーで動作させつづける設定になっているが、残りのバッテリー動作時間が5~10分程度になったらシャットダウンするようにしておくといいだろう。
PC側は付属のPower Chute Personal Editionをインストールして制御する。容量を活かして、なるべくバッテリーで動作させるように設定するといいだろう |
なお、電源復旧後、PCが自動的に起動するかどうかは、電源やBIOSの設定などによって異なる。PC側できちちんと復帰させるように設定しておけば、シャットダウン後、電源復旧と同時にPCを起動させることももちろん可能だ。
このほか、マスタコンセントとマスタ連動コンセントの連動機能を有効にしておけば(全面のミュートボタンとメニューボタンを同時長押し)、PCの電源ON/OFFに併せて外付けHDDなどの他の機器の電源を制御することもできる。電源供給だけでなく、このような電源連動、電源や回線のサージなどにも役立つのも大きなメリットだ。
ちなみに、余談だが、外部電源からの供給が止まると、遠くまで響く大きめの警告音が鳴るようになっているが、この音は停止することもできる。本体前面にスピーカーマークのミュートボタンがあるので、これを押せば、音を消すことができる。いざというときに、結構、驚くので、止め方を確認しておくといいだろう。
フロントのミュートボタンで警告オンを止めることができる。結構大きな音なので、止め方を確認しておこう |
関連情報
2011/12/13 00:00
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