Pentium G620搭載の6ベイタワー型NAS Thecus「TopTower N6850」


 ユーエーシーから、Thecus製のNAS製品の新シリーズ「トップタワーNAS」が発売された。高性能なCPUの採用に加え、タッチ式の有機ELパネルやHDMIポートを搭載し、Dropbox連携などの豊富なアプリケーションにも対応したNASだ。その実力を検証してみた。

フルスペックのタワー型最強NAS

 もしも、実容量で10TBクラスの容量が必要で、複数台のPCからのアクセスで十分なパフォーマンスを実現でき、さらに拡張機能によって、さまざまな用途に使えるNASを探しているのであれば、Thecusから新たに登場した「TopTower N6850」は、なかなか魅力的な選択肢だ。

 「トップタワー」と名付けられ名前からもわかる通り、タワー型のケースを採用した高性能なNASとなっており、サイズはマイクロタワー並みの幅215×高さ320.4×奥行き282.6mm、フロントパネルを開けてアクセス可能な6つのベイを搭載しており、パワーユーザーから中小規模のオフィスまで幅広く対応できる製品となっている。

Thecusの高性能6ベイNAS「TopTower N6850」

 最大の特長は、Thecusらしい、妥協のないハードウェアスペックだ。搭載するCPUはPentium G620 2.6GHzで、メモリはDDR3 2GBとなっており、汎用的なサーバーPC並みのスペックを誇っている。

 SOHOや比較的小規模な事務所向けのNASとしては、Atomを搭載した製品が主流になりつつあるが、これよりもワンランク上のCPUを採用したことで、複数ユーザーからの同時アクセス時やiSCSIのパフォーマンスが向上し、後述するアプリケーションモジュールを追加して、さまざまな役割を実行させたときでも高い性能を維持することが可能となっている。価格は19万2000円となるものの、6ベイながら、一般的なNAS製品の8~10ベイクラスのNASと同等のスペックを誇っているのが特長だ。



正面側面背面

 なお、同じトップタワーシリーズには、Core i3 2120(3.3GHz)を搭載した8ベイの「N8850」、Xeon E3-1225(3.1GHz)を搭載した10ベイの「N10850」もラインナップしており、より高性能かつ大容量のNASが必要なケースにも対応できるようになっている。

 このように、性能にこだわったN6850だが、インターフェイスも充実している。ネットワーク接続は1000BASE-T×2が標準で搭載されているが、内部に用意されている拡張スロットに10GbEのカードを増設することで10Gでの通信にも対応している。

フロントパネルを開けると6つのベイにアクセスできるHDDカートリッジは2.5/3.5両対応

 外付けHDD用のインターフェイスも、USB2.0×4に加え、eSATA×1、USB3.0×4を搭載。さらに、通常のNASではまず搭載されていることはないHDMI×1、VGA(D-sub)×1のディスプレイ出力端子、さらにオーディオ出力、マイク入力、ライン入力の各端子まで搭載されている。

 何も知らずに見れば、PCとほとんど区別が付かないほどのフルスペックで、実際、USBキーボードやマウス、HDMI経由でディスプレイを接続すると、PCとして利用することも可能となっているなど、非常にマニア心をくすぐる製品になっている。

 Thecusは、マザーボードベンダー(Abit)から発展した企業だが、内部を見ると独自設計の赤いマザーボードが搭載されていたり、電源が400W 80 Plusだったり、メモリスロットが4つあったり、PCI-E x8とx16のスロットが用意されていたり、背面のネジを緩めるだけで簡単に電源ユニットやマザーボードを引き出せたり、ケース内部の配置やケーブルの取り回しが非常にシンプルできれいだったりと、正直「ちょっとやりすぎだろ」と思わずう唸ってしまうようなコダワリがそこかしこに見え隠れする設計になっている。

 また、フロントパネルはタッチ式となっており、電源のオンやパネルを見ながらのRAIDの構成なども指で触れるだけで、簡単にできるようになっている。前述したようにNASとしては、比較的高価な製品となるが、ハードウェアについては、とにかく豪華で、コストがかかっていることがひと目で実感できる製品となっている。

内部は整然と整理されており、エアフローも十分確保される。ファンの音はそれなりに聞こえる
マザーボードを簡単に取り出すことが可能メモリスロットが4つあったり、PCI-Eスロットが2つあったりとかなり豪華


RAID6構成時で100MB/sを達成

 ソフトウェア面では、同社製品共通のUIが採用されており、ブラウザベースで手軽に利用できるようになっている。ログイン画面はフラッシュを採用した動的な表示も利用できるが、設定画面自体は左側にメニュー、右側に設定画面という一般的な構成で使いやすい。

 初回設定はウィザード形式で簡単にできるようになっており、RAIDの構成なども装着したハードディスクのうち何台を利用するかを設定するだけで、最適なRAID構成が選択されるようになっている。

フラッシュを使ったグラフィカルな設定画面初期設定はウィザードで簡単

 今回はSeagate製の3TBのHDD(ST3000DM001)を6台利用したが、この場合は自動的にRAID6で構成され、総容量は12TB(実質11TB)となった。もちろん、このほかにもRAID 0/1/5/6/10/50/JBODに対応しているため、環境によってRAIDのレベルを変更することも可能だ。

 このほか、アラート系の機能が充実しているのもThecusのNASの特長で、管理者アカウントでのログインの失敗(パスワード間違え)やハード的なトラブルが発生した場合、大きめのビープ音とフロントのLED(赤く派手に点滅)に加え、設定画面にアクセスすると自動的にその状況がポップアップ表示される。

エラーがあると設定画面ログイン時にすぐに表示されるのでトラブルシューティングがすばやくできる

 ハード側でのトラブル発見から原因のチェックまでの操作ステップが少なくて済むため、すばやい対処が可能になっている。必要に応じてアラーム音やLED点滅はオフにすることもできるが、万が一のときに役立つ機能と言える。

 気になるパフォーマンスだが、ネットワークドライブとして割り当てたドライブとiSCSIで接続したドライブのそれぞれに対してCrystalDiskMark 3.0.1cを実行したのが以下の画面だ。

SMB接続のネットワークドライブに対して実行した結果(左)とiSCSIドライブに対して実行した結果(右)。クライアントにはThinkPad X201sを使用

 SMB時のシーケンシャルリードが70MB/sを超える程度となったが、ライトで100MB/sを達成しており、iSCSI時はリードが100MB/sでライトが94MB/sとなった。ほぼ1000BASE-Tの上限に達する速度と言え、かなり優秀な結果と考えて良いだろう。

 ちなみに、複数接続時のパフォーマンスは正確に計測することができなかったのだが、たとえばCrystalDiskMarkやファイルコピーなどを実行しながら、N6850上に保存したビデオを他のPCで再生しても、一切映像が途切れることなく安定して再生することができた。複数同時接続時のパフォーマンスも期待して良さそうだ。


VirusScanやDropbox同期機能も利用可能

 続いて、インターネット経由でモジュールをダウンロードして機能を追加できるアプリケーションサーバー機能について紹介しよう。

 設定画面のネットワーク設定でゲートウェイやDNSを正しく設定すると、アプリケーションサーバーの自動モジュールインストール画面に、追加可能なモジュールが一覧表示されるようになる。メールサーバーやDLNAサーバー(Twonky)、ウェブサーバなどベーシックな機能の中で目を引くのはVirusScanやDropboxなどの機能だろう。

 VirusScanは、フリーの製品を使うNASも存在するが、本製品ではMcAfeeが提供するモジュールを無料で利用可能となっており、指定したフォルダを定期的にスキャンしたり、定義ファイルのアップデートを自動的に実行することが可能となっている。さまざまなユーザーのデータが集中するNASで、本格的なウイルス対策ができるのは大きな魅力だ。

豊富なモジュールを追加することでアプリケーションサーバーとして利用可能McAfeeのウイルススキャン機能が無償で利用可能

 一方、Dropboxは、N6850上の共有フォルダ(Dropboxフォルダ)をインターネット上のDropboxと同期させることができるモジュールだ。このモジュールは非常によくできている。モジュールをインストール後、トップ画面からDropboxと関連づけしたいNAS上のローカルアカウントでログインし、機能を有効に設定後、Dropboxにサインインすると、NAS上の「Dropbox」フォルダ配下にユーザーごとのフォルダが自動的に作成され、その内容がDropboxと自動的に同期されるようになる。

Dropbox連携もサポート。複数ユーザー対応、アップロード容量無制限の完全対応

 複数のユーザーが存在する場合、ユーザーごとに個別のDropboxアカウントを使い分けることができうえ、PC用のDropboxクライアントと同様に1ファイルの容量制限なしにデータをアップロードできるようになっている。以前、アイ・オー・データ機器のNASに搭載されたDropbox連携を本コラムで取り上げたことがあったが、同製品ではWeb経由でのアップロードと同様に1ファイル350MBまでの容量制限があったが、こちらは制限がない。

 試しに、1.3GBの動画ファイルをNASのフォルダにコピーしておいたが、しばらく待つと、無事に自動的にDropbox側にファイルがアップロードされていた。こういうシームレスで、制限のない連携を体験すると、クラウドとローカルNASの連携も実用的だと実感させられる。

 実現可能かどうかわからないが、ぜひSkyDriveやGoogle Driveとの連携機能なども実装してほしいところだ。

 また、標準で搭載されている機能の中で面白いのは、「Data Burn」だろう。USB接続のDVDドライブを接続することで、NASの設定画面から、ISOファイルやデータをDVDに書き込むことができる。最近では、光学ドライブレスのPCが増えてきているので、こういった機能がNASに搭載されたことは大きなメリットだろう。

 このほか、スマートフォンからNAS上のデータにアクセスできるThecus Shareを利用できたり(Twonkyの機能を利用する)、IPカメラの映像を保存するためのモジュールが提供されていたり、クライアント用のバップアップソフトウェアとしてAcronics TrueImageも付属する。機能的にもかなり豊富と言って良いだろう。

スマートフォン用のアプリ「Thecus Share」を使ってNASにアクセスすることも可能


HDMIポートは今後対応予定

 なお、本製品の特長の1つとなっているHDMIポートだが、現状のソフトウェアでは、HDMI経由で設定画面やメディア再生は利用できない。HDMI出力を実現するためのソフトウェアモジュール(LocalDisplay)は、同社のWebサイトからダウンロードできるのだが、インストールして試したところ、現状はまだ画面にLinuxのコンソールしか表示されなかった。今後の対応に期待したいところだ。

 なお、このことからもわかる通り、HDMIおよびVGAポートの出力自体は、BIOSなどで制限されることなく、そのまま有効化されている(コンシューマー向けの製品のN4800やN2800なども同様)。このため、HDMIやUSBキーボードなどを接続して再起動すると、BIOSの画面が表示され、そこからBIOS設定画面にアクセスしたり、ブートデバイスを変更することなども可能となっている。

 試しに、Windows 8のWindows To GoのディスクをUSB接続のSSDで作成し、USB2.0経由でブート(3.0ブートは不可)してみたところ、見事にWindows 8が起動した。そうする意味があるかどうかは微妙な判断となるが、その気になればHDDにWindows Serverなどをインストールして利用することさえ可能だ。PCI-Eにテレビチューナーカードを装着して……、などと考えると、それはそれでやりがいもある。

 もちろん、サポート外になるうえ、せっかくパフォーマンスチューニングされた専用OSと優れた拡張モジュールを捨てるのは損だが、この自由度の高さもThecusのNASならではの魅力と言える。

 基本的には、パフォーマンスが要求されるビジネス環境に最適なNASと言えるが、PC好きのハイエンドユーザーにぜひおすすめしたいNASと言える。



関連情報

2012/5/22 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。