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ASUS Vivo Tab RT TF600TでWindows RTタブレットのパフォーマンスを測る


 Windows RTを搭載したタブレットマシン「ASUS Vivo Tab RT TF600T(以下TF600T)」が発売された。Windowsの「作法」で扱えるのが魅力だが、どれくらいのパフォーマンスを秘めているのか、その実力を検証してみた。

染みついた「作法」で扱える

 おそらく、もう、Windowsの作法、なんて考え方をすること自体が古くさいのだろう。

 しかし、タブレットでありながら、「\\server」と打ち込んでNASにあるファイルに普通にアクセスできたり、robocopyで作ったバックアップ用のバッチファイルを普通にキックできたり、mstscと実行ファイルを指定してリモートデスクトップを起動してサーバーを管理できたりすると、妙に安心できてしまう。

 Windows RTを搭載したタブレットを使っていると、iOSやAndroidなどのタブレットを使っているときにあった「これじゃない」感が、すっきりと晴れていくような感覚さえ覚える。

 いや、もちろん、そんな古くさいユーザーがいるから劇的な進化ができないという意見ももっともだが、Windowsを中心としたシステムとその操作体系は、まだまだ広く、深く、実務の環境に根付いている。その周辺の仕組みや作法を劇的に変化させることなく、タブレットという新しい枠組みの製品を既存環境に投入できるWindows RTタブレットは、なかなかよく考えられたシステムと言えるのではないだろうか。

 まあ、exeが動かない、Active Directoryに参加できないというのは大きな制約ではあるが、クラウドとWindowsストアアプリの世界に、ゆっくりとユーザーをステップアップさせていくには、何かを切り捨てる必要もある。そういった意味では、うまくバランスを取ったのではないかという印象だ。

 とは言え、今までのWindowsとは大きくアーキテクチャが変わったWindows RT搭載機を実際に購入するとなると、それなりの決断が必要になるはずだ。今回は、ASUSから発売された「Vivo Tab RT TF600T」を例に、通常のWindows 8搭載機と何が違うのかに迫っていこう。

ASUS Vivo Tab RT TF600T。Windows RTを搭載したタブレットタイプの端末となる
正面 側面 背面


プリンターもVPNも使えるがiSCSIはNG

 ASUS Vivo Tab RT TF600Tの詳細については、PC WatchのHotHot REVIEW!にて詳細なレポートが掲載されているので、そちらを参考にしていたくとして、ここでは通常のWindows 8との違いに注目していくことにする。

 まずは、機能面だが、TF600Tに搭載されるWindows RTでは、通常のWindows 8と同様に、スタート画面とWindowsストアアプリを中心とした新しいユーザーインターフェイスに加え、従来のデスクトップが利用できるようになっており、さらに現在はPreview版だがWord、Excel、PowerPoint、OneNoteを含むMicrosoft Office 2013 RTも搭載されている。

Preview版のOffice 2013 RTが搭載される。ビューワー的な使い方はもちろん、文書を作成する用途にも十分対応できる

 何も意識せずに使えば、通常のWindows 8と何ら変わらぬ操作が可能で、マイコンピューターからドライブを参照してファイルを開いたり、前述したようにネットワーク上のNASやサーバーにアクセスすることも自在にできる。

ファイルサーバーやNASにも普通にアクセスできる。身についた使い方が自然にできるのがメリット

 周辺機器の対応も、標準搭載のドライバでWindows 8と同等までカバーされており、USB接続やネットワーク対応のプリンタも、ほとんどの場合、何の問題もなく認識され、デスクトップやWindowsストアアプリから印刷することができる。

 また、VPN接続を作成することも可能で、外出先から自宅などへのアクセス環境も手軽に構築できる。前述したように、従来のWindows向けのプログラムは動作させることができないので、特殊なドライバーやプログラムが必要な環境には不向きだが、Windowsの標準機能で実現できる用途であれば、通常のWindows 8とほぼ同じ使い方が可能だ。

Windows 8と同等のInBoxドライバを搭載。プリンターも普通に利用できる ネットワークの接続方法もWindows 8と同じ。VPN接続も作成できる

 とは言え、完全に通常のWindows 8と同じというわけにはいかない。先にも触れたようにActive Directoryで管理することができないうえ(Intuneでの管理が予定されている)、コントロールパネルでは「iSCSIイニシエータ」が検索できるものの起動しようとするとモジュールがないとエラーが表示される。

 このほか、プログラムと機能から、Windowsの機能を追加しようとすると、わずかなプログラムしか一覧に表示されない。もちろん、Hyper-Vなども見当たらない。

iSCSIは利用不可
プログラムと機能の追加も項目が限られる

 とは言え、これらの制約は、個人やSOHO、中小の環境で利用するのであれば、さほど大きな問題にならない。ファイルサーバーやNASを中心に、Officeを利用して業務をこなしているような環境であれば、ちょうどいい、機能の取捨選択が行われているという印象だ。

 なお、Windowsストアアプリに関しては、基本的にWindows 8と共通のものが利用できるが、アプリによっては、動作環境としてWindows RTをサポートしていない場合もある。筆者が確認した限りでは、PowerDVD Mobileが未対応となっていた。

 Windows RTは、Windows Meida Playerを搭載しないうえ、Windows 8と同様にMPEG2のコーデックも搭載していないため、別途、動画再生アプリをインストールしておきたいところだが、PowerDVD Mobileのように未対応のアプリもあるので注意が必要だ。

WindowsストアアプリでもWindows RTには対応していないものも存在する


体感は同等だがベンチ結果は若干劣る

 続いて、パフォーマンスを見ていこう。もともとWindows 8は軽快なOSだが、Windows RT機でも、この印象は変わらない。起動直後のサインイン画面で、ソフトウェアキーボードからの入力に若干ラグが発生する場合なども見られるが、いわゆる「ヌルサク」と表現していい軽快な動作が実現されている。

 ただし、体感的には軽快なWindows RT機も、Core iシリーズを搭載したWindows 8機と厳密に比較すると、その差が目立つケースもある。そこで、Windows アセスメントコンソールを利用し、Core i5-3317U(1.7GHz)を搭載したVAIO Duo 11とパフォーマンスの違いを計測してみた。

 まずは、バッテリー駆動時間だ。TF600Tの結果にVAIO Duo 11の結果を貼り付けたので、若干、見にくい行がある点はご容赦いただきたいが、さすがWindows RT機のバッテリー駆動時間は優秀だ。

バッテリー駆動時間の検証結果

 100%充電された状態から、5%になるまで、待機と動画再生を連続して実行させるテストで、相実行時間806分(13時間26分)をマークした。VAIO Duo 11が323分なので、約2.5倍の時間利用できることになる。

 実際には、通信の状態などにも影響されるが、丸一日、持ち歩いて使うことは十分に可能だ。しかも、TF600Tには、別売りで、バッテリー内蔵のドッキングキーボードが用意されている。今回のテストは、本体のバッテリーのみだが、これを利用すれば、泊まりがけの出張などでも、バッテリーの心配をせずに済みそうだ。

 続いて基本的な項目について見ていこう。以下、ファイルの操作とビデオ再生の性能だ。File handlingの項目を見ると、VAIO Duo 11ではファイルコピーのスループットが185MB/sとなっているのに対して、TF600Tでは10MB/sに留まっている。

ファイル操作とストリーミングの検証結果

 VAIO Duo 11とTF600Tを並べて利用してみると、エクスプローラーなどを瞬時に起動できるVAIO Duo 11に対して、TF600Tはほんの一瞬起動までにラグがある。気にするほどではないが、どうやら、これはストレージを含む、ファイル処理に時間がかかっているようだ。

 ストリーミングに関しては、1080p(30FPS)のストリームで、エラーなしの再生率がわずか3%と苦戦しているが、実際の動画再生で問題があるかというと、そういうわけではなく、ファイルサーバーに保存したMTSファイルをスムーズに再生することができるうえ、Huluのアプリをインストールして映画をスムーズに再生することなども問題なくできる。このテスト項目については、あまり神経質にならなくてもよさそうだ。

 一方、写真の操作についてテストしてみた。エクスプローラーの操作などは、軽快なUIの印象通り、さほど遅延はないが、並べ替えや検索などの操作では若干遅延が見られ、さらに写真の操作、特にストレージへのアクセスが発生すると、さらに遅くなってしまう傾向が見られる。

 わずか数百ミリ秒の世界なので気にする必要はないが、確かに、前述した起動直後のキーボードのラグ、さらにはASUSオリジナルのカメラアプリなどを利用した際、撮影時のシャッターのアニメーションの動作がもたつくことがある。こういった点は、ある程度頭にいれておきたいところだ。

 同様の現象は、WinSATの結果でもわかる。ARM版とx64版で異なるテスト項目を見やすくするために貼り付けた部分がずれているため見にくいが、4コアのTegra3とは言え、Core i5に比べると、CPUそのものの処理能力は半分程度となるうえ、メモリの帯域幅も圧倒的に狭く、DX10も動作は不可となる。

 ストレージのスコアも、ここで明確に違いがわかる。シーケンシャル、ランダムともにTF600TはVaio Duo 11の10分の1に過ぎない。これでは、処理が集中すると、もたつくのも納得だ。

写真操作の検証結果 ハードウェアの総合評価


伸び悩むIE10のスコア

 最後に、UIとIEのスコアを見ていこう。Windowsアセスメントコンソールの「Windows UI Performance」では、スタート画面とデスクトップの切り替えやアニメーションなど、いわゆるUIの「ヌルサク」具合を数値化できるが、これは体感通り、TF600TとVAIO Duo 11でほとんど同等のフレームレートとなっている。検索が若干遅いが、操作の快適さという点では、Windows RTとWindows 8は同等と考えていいだろう。

ユーザーインターフェイスとIEの検証結果

 ただし、気になるのは、IEの結果だ。Startup Performanceはストレージがボトルネックになっていると推測できるが、browsing performanceが極端に低い。

 詳細を確認するため、Windowsアセスメントコンソールで利用されているIE 10 Test DriveのFishbowl(水面や光源などのさまざまな効果を利用しながら魚のアニメーションを表示できるフレームレートを表示するテスト)を利用し、ASUS Vivo Tab RT TF600T、VAIO Duo 11、ATOM N450を搭載したONKYO TW317A5の3台で、HTML5のパフォーマンスを別途計測してみたのが、以下のグラフだ。

 VAIO Duo 11は、魚の数を250匹まで増やしても60fpsで描画できるが、TF600T、およびTW317A5は、わずか1匹でも30fpsを下回るフレームレートしか実現できていない。

 当初は、ARMアーキテクチャならではの問題かと推測したが、Windows 8を搭載したTW317A5でも同様の状況が見られたため、どうやら相対的にCPUの処理能力が低い端末で、この傾向が見られるようだ。

 なお、アセスメントコンソールでは、パフォーマンスの基準も明確に定義されており、Fishbowlであれば、FPSが55以上で問題なし、30〜55で要最適化、30以下で要改善とされている。アセスメントコンソールにおけるTF600Tの結果は、魚1匹で「9FPS」なので、値が低すぎるようにも思えるが、現状は、原因がどこにあるのかまでは判断できないところだ。

 実際に使っている範囲では、Webの閲覧、WebメールやカレンダーなどのWebサービスの利用で、パフォーマンス上の問題を感じるシーンは一切ないが、他のHTML5のデモなどを実行すると、やはりフレームレートが30fps前後で頭打ちになる傾向が見られた。このあたりは、さらなる調査が必要と言えそうだ。

 なお、本題から外れるが、上記のグラフのVAIO Duo 11のクロックに注目すると、一定の負荷に達した時点でクロックが落ちていることが確認できる。これはベンチの実行時だけでなく、普段の利用中でもよく発生する現象となる。音楽やビデオを再生しながら、同時にSNSの情報も常にチェックし、PDFとExcel、ブラウザで複数の資料をチェックしながら、テキストを入力するといったことをしていると、急にPCの動作が遅くなることがある。

 VAIO Duo 11もそうだが、UltrabookタイプのWindows 8搭載機の場合、ファンの音を抑えるために、電源プランを省電力にしたり、ファンのスピードを静音に設定することができる。この設定をすると、前述したクロックが落ちる状況により速く達することがあるため、PCを使っていて、ガクンと速度が落ちたと感じたら、ファンのスピードを上げるか、電源プランを高パフォーマンスに変更するといいだろう。


実用性を考えればお買い得なWindows RT機

 以上、ASUS Vivo Tab RT TF600Tを例に、Windows RT搭載機を検証してみたが、結論から言うと、この端末はかなり面白い。

 今回は、重箱の隅をつつくような検証をしたが、実際の利用シーンでは、Windowsアプリを切り替えながらビューワ的に利用したり、さほど高い負荷がかかるようなサイトを閲覧するようなこともほとんどないため、前述したストレージやHTML5のパフォーマンスは、あまり気にしなくていいだろう。

 むしろ、冒頭で紹介したように、Windowsの作法を活かした使い方ができるのは、大きな魅力だ。あとは、WAN回線搭載モデルが登場したり、MPEG2の再生やDTCP-IPを含めたDLNAクライアントなどのアプリが登場してくるようになれば、端末としての魅力もさらに向上するだろう。個人的には、一台持っておくことをおすすめできる製品だ。



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2012/11/20 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ