清水理史の「イニシャルB」
すべてが進化したQNAP「Turbo NAS TS-221」
~新プラットフォームQTS4.0を採用
(2013/5/7 06:00)
QNAPから、TurboNASシリーズの新製品「TS-221」が発売された。メモリなどのハードウェアスペックの向上が図られたが、最大の注目はデスクトップライクな新UI「QTS4.0」を採用した点にある。従来のTurboNASから大幅に向上した使いやすさに迫ってみた。
メジャーバージョンアップ
「TS-221」を一見しただけでは、従来機種となる「TS-219PII」との違いを見つけるのは難しいかもしれない。
もちろん、注意深く観察してみると、フロントのLEDやボタンの形状や配置が改善されているうえ、通気性を考慮してHDDカートリッジの前面がメッシュ構造に変更され、背面のUSBポートもUSB3.0対応となるなど、細かな改良が加えられている。性能面の強化も図られており、CPUこそMarvell 6282 2.0GHzと旧TS-219PIIと同等だが、メインメモリは従来の512MBから1GBへと倍増していることに気がつくだろう。
ここまでなら、これまでにも年々重ねられてきたマイナーバージョンアップか? と思うかもしれないが、今回はそうではない。
搭載されるOSが、従来の3.8系から、「QTS4.0」へとメジャーバージョンアップされ、これまでとはイメージを一新する新UIを手に入れることになった。
将来的に、この新OSが従来機種に提供されるかどうかは明らかではないが、少なくとも現状、この挑戦的な新OSは、今回発表された「TS-x20」および「TS-x21」シリーズ向けのみが提供される状況となっており、この違いが旧製品との決定的な差となっている。
現在新ファームウェアで提供されているのは、具体的には、個人/SOHO向けラインナップのタワー型1ベイモデルの「TS-121」、「TS-120」、タワー型2ベイモデルの「TS-221」、「TS-220」、タワー型4ベイモデルの「TS-421」と「TS-420」の計6モデル。個人/SOHO向けラインナップ刷新で、4年ぶりのファームウェアのメジャーバージョンアップが行われたというわけだ。
ハードウェア面での進化はやや地味だが、このような新OSの搭載によって、まさに新世代のNASへと進化した印象だ。
メディアレスで可能になった初期セットアップ
それでは、実際の製品を見ていこう。今回利用したモデルは2ベイの「TS-221」で、前述した通り、外観は従来モデルのイメージを踏襲しており、カラーやデザインもいわゆるQNAPらしさをそのまま残している。
同様に、新OSを採用した2ベイモデルのNASとしては、「TS-220」もラインナップするが、こちらはよりホームユースを意識した製品となっており、カラーがホワイトとなるほか、CPUがMarvell 6282 1.6GHz、メモリが512MBと若干グレードダウンする。個人で使うならTS-220、オフィスで複数人で使うならTS-221という使い分けになるだろう。
実際に使ってみて、まず感心したのは、初期設定のしやすさだ。HDDをカートリッジにネジ留めして本体に装着後、LANケーブルとACアダプタを接続して電源をオンにするまでは、従来モデルと変わらないが、その後のセットアップが非常に簡単になった。
これまでの製品では付属のCDからユーティリティを利用してLAN上のNASを発見する必要があったが、今回のモデルからCDレスの構成となり、インターネットに接続されたPCから「http://start.qnap.com」にアクセスしてセットアップを実行する方式に変更された。
2013年モデルのNASは、どうやらこの方式が1つのトレンドになっているようで、他社製品でも同様の取り組みが行なわれているが、QNAPの方式は比較的シンプルで、ブラウザで設定サイトから、ハードウェアの設置方法を写真で確認後、「QNAP QFinder」と呼ばれるNAS検出ユーティリティをダウンロードし、ここから初期設定を実行するという形式となっている。
要するに、これまでCDで提供していたツールをWebからダウンロードする形式に変更しただけとも言えるが、光学ドライブレスのPCが増えてきた現状にマッチした設定方式と言えそうだ。
マルチウィンドウのデスクトップUI
初期設定が完了すると、今回の注目ポイントとなるQTS4.0のデスクトップUIにアクセスすることが可能となる。
従来ユーザーは、おそらくあまりの違いに戸惑うかもしれない。管理者アカウントでログインすると、壁紙の上に「コントロール・パネル」などのアイコンが並び、上部にスタートメニューを表示するためのボタンや起動したプログラムが格納されるツールバーが配置されたデスクトップ画面が表示される。
アイコンをクリックすれば、その機能のウィンドウがデスクトップ上に配置されるうえ、デスクトップをスクロールさせ、複数のウィンドウやアイコンを使いやすく配置することができるなど、PCのデスクトップやタブレット端末のホーム画面と同じ使い方が可能となっている。
同様のデスクトップ型のUIは、他社製NAS(Synologyなど)でも採用されており、システム的にはほぼ同じと考えられるが、画面下に並べられた「QNAPモバイルアプリ」などの外部リンクや右下のアイコンをクリックすると表示される「ダッシュボード」など、デザインや使いやすさなど、QNAPならではのカスタマイズが施された構成と言えそうだ。
基本的な使い方を紹介しよう。たとえば、NASの基本的な設定は、「コントロール・パネル」から実行する。デスクトップのアイコン、もしくは上部のツールバー左端のスタートメニューからコントロール・パネルを起動する。
すると、「一般設定」や「ストレージマネージャ」、「ユーザ」など、設定項目ごとのアイコンがウィンドウ内に表示される。ユーザーを追加したければ、「ユーザ」アイコンをクリックして新しいユーザーを追加するといった使い方になる。
ポイントは、マルチウィンドウで利用できる点だ。たとえば、ユーザーを作成するためのウィザード画面を表示しながら、ユーザーの一覧を別のウィンドウで表示したり、グループの情報を確認するといった使い方ができる。
設定を中断することなく、既存の情報が確認できるので、管理作業などで設定ページを行ったり来たりする必要がなくなったのは大きなメリットと言えそうだ。
設定画面から、NAS上のファイルを扱うことも可能だ。「File Station」を起動すると、ウィンドウ内に表示されたNAS上のフォルダをたどって、ファイルをコピーしたり、削除したり、圧縮したりすることができる。
これまでの3.8系OSでもWeb File Managerを利用してNAS上のファイルを扱えたが、ウィンドウとして設定画面上で起動できるうえ、Javaのコードを実行許可することで、ローカルPCのハードディスクまでFile Stationから参照することができたり、NAS上に保存したファイルを外部からダウンロードするための共有リンクを作成できるなど、機能も豊富で、使いやすくなったのが特徴だ。
このほか、ドラッグアンドドロップによる操作もサポートされており、よく使う設定アイコンやアプリをデスクトップ上に配置するなど、使いやすくデスクトップをカスタマイズすることも可能だ。
App Centerからアプリを追加
もちろん、QNAPならではの拡張性の高さも健在だ。従来、QPKGとして提供されてきたソフトウェアは、新たに「アプリ」という形態で提供されるようになった。仕組みとしては基本的には同じだが、アプリのダウンロードや起動などが直感的に操作できるようになったのが特徴だ。
「Google Drive Sync」や「QAirplay」など、他社ではあまり見かけないアプリも提供されており、NAS上のフォルダのデータを双方向でGoogle Driveと同期させたり、NAS上に保存されたデータをLAN上のAirPlay対応デバイス(AppleTVなど)で再生することなども可能となっている。
こうしたアプリによって、クラウドサービスと連携させたり、他のネットワーク機器と同等の機能を追加していくことができるのも、比較的、拡張アプリの開発が活発なQNAPならではの特徴と言えるだろう。
コストパフォーマンスの高さに使いやすさをプラス
以上、QTS4.0の搭載によって、生まれ変わったQNAP TS-221を実際に使ってみたが、単純にUIデザインが変更されただけでなく、機能的に強化され、使い勝手もかなり向上した印象だ。
これまで、QNAPのNASは、どちらかというと、コストの割りにハードウェアのパフォーマンスが高い製品というイメージがあった。もちろん、今回の製品でも以下のようにパフォーマンスは十分だが、今回のQTS4.0で、これに「使いやすさ」もプラスされたと言っていいだろう。
とは言え、実はまだ本製品の魅力をすべて紹介しきれていない。このほか、スマートフォンとの連携やWAN経由での利用なども、新しいQNAP製品の特徴となっている。このあたりについて、次回、さらに詳しく紹介していくことにしよう。