清水理史の「イニシャルB」

「すべてはパフォーマンスのために」 11ac 4x4無線LANルーター「WXR-2533DHP」のコダワリとは

 バッファローから、1733Mbps(5GHz)+800Mbps(2.4GHz)の通信速度に対応した4x4 MIMO対応のIEEE 802.11ac無線LANルーター「WXR-2533DHP」が発表された。製品の実力も気になるところだが、それに先立って、開発のコダワリを同社に聞いた。

理由がわかると欲しくなる

 「4本のアンテナに挟まれた3つのすき間は、それぞれ8cm、9cm、8cmで、真ん中だけ1cm広いんです」。

 株式会社バッファロー ネットワーク事業部 BSS課 BSS-HW開発係の成瀬廣高氏は、熱を込めて、そう語った。

 バッファローから6月3日に発表されたばかりの「WXR-2533DHP」は、同社の無線LANルーターのトップモデルに位置付けられる製品だ。最大1733Mbpsの4ストリーム MIMO対応のIEEE 802.11acに準拠した製品だが、規格上の最大速度だけでなく、実際に通信したときのパフォーマンスでどのメーカーの製品にも引けを取らないようにするために、アンテナの細かな配置など、その設計に徹底的にこだわり抜いた製品だという。

 「そんなにパフォーマンスにこだわる必要はないのでは?」。そう、考える読者もいるかもしれない。

 無線LANの速度は1733Mbpsでも、そこから先、インターネットやLANにつながる有線の速度は1Gbpsが上限となる。

 もちろん、複数のLANポートを使った合計で1Gbps以上の帯域を計測することも可能だが、このようなテストは環境を整えることすら難しいため、ユーザーはなかなか目で確認することはできない。

 しかし、それでも「最速」にこだわったというのだから、恐れ入る。効率性を重視する海外メーカーであれば、もしかすると、無駄と切り捨てることがあるかもしれない。そんなコダワリで開発された製品というのは、自然と魅力的に見てくるものだ。

バッファローの4ストリームMIMO対応IEEE 802.11ac無線LANルーター「WXR-2533DHP」
正面
背面
右側面
左側面

いかに速度低下の要因を減らすか?

 冒頭で触れたアンテナの配置もそうだが、WXR-2533DHPでは、パフォーマンスを低下させる要因を徹底的に取り除くことに力が注がれている。

 成瀬氏によると、「開発の初期段階では、アンテナの内蔵も考えました。しかし、本当にそれでいいのか? という疑問があったので、上部2+側面2など、いろいろなアンテナの配置で実際にテストし、最終的に上部に4本という今の配置になりました」という。

こだわりのアンテナ配置

 高いパフォーマンスを発揮させるには、アンテナを十分に離して配置する必要がある。同社では、社内でさまざまなアンテナ配置のテスト機を用意しながら、実際にスループットを計測したとのことで、その結果、最もパフォーマンスが発揮できるのが、今の配置であり、中でも中間のすき間だけ少し開けた今の形が、最終的に最も高いパフォーマンスが発揮できたという。

 上部に並んでいるだけなので、一見、何の工夫もなさそうに思えるが、これが実際の数値から導き出された最適な配置ということになる。シンプルだが、機能的に優れているというわけだ。

 こだわったのは、アンテナだけではない。「せっかくアンテナをチューニングしても、電源やUSBポートからのノイズによって、十分な性能が発揮できないケースもあります」(成瀬氏)という。このため、WXR-2533DHPでは、電源の設計にも気を配ったり、USBポートもなるべくアンテナから離して配置するように工夫しているとのことだ。

 本製品では、USBポートにUSBメモリやHDDなどを接続することで、簡易的なファイル共有が可能になっているが、テスト段階で、この機能を有効にすると、ノイズが原因でスループットが低下することが確認できたため、なるべくノイズの影響をうけない配置にしたそうだ。

内部写真

 同様に、熱対策にも工夫している。「WXR-2533DHPでは、1.4GHzの高性能なCPUを採用しているうえ、4x4で大量のデータを処理することから、チップからの発熱をどう処理するかも課題となりました」と成瀬氏は言う。

 「発熱が高くなると、次第にスループットが低下する傾向が見られたため、通信機器としては比較的大型のヒートシンクを装着し、筐体も下から空気を取り込んで上に排熱するようにエアフローにかなり気を配って設計しました」(成瀬氏)とのことだ。

 感心したのは、熱対策の理由が、「スループットを低下させないため」である点だ。もちろん、安定性を重視しているのは当然だが、単に不具合を発生させないためだけであれば、ここまで大きなヒートシンクは必要ない。

 コストの増加という対価を支払ってでも、スループットの低下を押さえ込む努力を惜しまないというのは、企業としてはなかなかできる決断ではない。これを実現しているのだから、もはや感心するしかない。

 このような努力によって、WXR-2533DHPでは、同社の計測によって最大1258Mbpsというスループットを実現している。1Gbpsの有線を完全に上回る性能は驚きだ。

性能を使いこなせるのがバッファロー製品の魅力

 もちろん、そんなにパフォーマンスが高くても、ユーザーが使いこなせなければ意味はないが、その対策も万全だ。

 株式会社バッファロー ネットワーク事業部 次長の富山強氏は、取材日の前日にできあがったばかりだという「アンテナ設置ガイド」を見せてくれた。

 富山氏によると、「従来も、外付けアンテナの機種で、利用ケース別に最適なアンテナの配置を説明する設置ガイドを配布していましたが、今回のWXR-2533DHPでは、より詳細なガイドを作成しました」とのことだ。

 製品同梱には間に合わず、当初はダウンロードする形になるようだが、その内容に感心させられる。

 大まかなアンテナの向きが記載されているのかと思ったが、各アンテナの角度まで記載された詳細なものとなっており、さらに後半のページには、オススメの角度(垂直位置から両端2本が67.5度、中央2本22.5度)で描かれた実物大のイラストまで掲載されている。

 このイラストを実機に重ね合わせて調整すれば、その角度に自然と調整できるというわけだ。

角度まで指定されたアンテナ設置ガイド。設置場所やシーンごとにアンテナの配置例が紹介されている
イラストに実機を重ねて置くことで、アンテナの角度を調整できる

 正直、「そこまでやるか」という印象だ。

 こういったハイエンドモデルの場合、ある意味、ユーザーにおまかせという姿勢で製品を開発するメーカーが多いが、さすがにアンテナの調整は、ハイエンドユーザーと言えども簡単にできるものではない。

 せっかくの素材なのだから、そのおいしさを生かす調理をしてほしいというのは、生産者ならぬ設計者として当然の思いだ。

 もちろん、アンテナを内蔵したり、固定してしまう、つまり設計者側で、あらかじめ調理してしまうのも、1つの考え方だが、今回のWXR-2533DHPでは、外付けというスループットを重視する選択をした以上、最後の調理まできちんと面倒を見る覚悟をしていることは高く評価したいところだ。

4x4にも意味を持たせる

 もう1つ、今回のWXR-2533DHPで感心したのは、4ストリームMIMOというテクノロジーがもたらすメリットをきちんとユーザーに提案している点だ。

 正直、これまでの4ストリームMIMO対応製品では、「最大1733Mbps」という速度しか語られてこなかった。このため、2万円代後半という高いコストを負担する意味が、ユーザーには見えにくかった。

 これに対して、WXR-2533DHPでは、「スマートフォンの向き」という新しい発想を提案している。

 富山氏は、WXR-2533DHPの特徴について次のように語った。「従来の無線LAN、特に2x2やIEEE 802.11nの製品では、スマートフォンの向きによって速度が極端に低下する例がありました。縦方向では普通に使えるのに、動画を再生しようと横向きにした途端に、画面に読み込み中を表す回転するアニメーションがグルグルと表示され続けるといったケースです。4x4に対応したWXR-2533DHPを利用すると、この状況が改善されます」。

 具体的には、こういう理屈だ。富山氏によると、アンテナごとにある程度の指向性があり、面で通信範囲をカバーするそうだが、アンテナをそれぞれ別々の角度で配置しておけば、2つより3つ、3つより4つと、多くの面(角度)をカバーできるようになる。

 これにより、端末を縦から横に持ち替えたり、ベッドやソファーなどで横になるなど、端末側の角度が変わっても、カバーできる範囲が多くなり、通信速度の低下を避けられるというわけだ。

 実際、同社では縦方向と横方向に持ち替えたときに、従来の2x2の11n対応機とWXR-2533DHPで、どれくらい速度が変わるかをテストしており、横方向にしたときに通信できなかった端末がWXR-2533DHPでは150Mbps以上で通信できるようになったとしている。

 このたりは、利用環境や従来のどの規格の製品と比較するかという違いもありそうだが、「アンテナが多い=多くの面をカバーできる」というアイデアは、新しい発想で、これまで4ストリームMIMOに興味がなかったユーザーにも、製品を検討させるきっかけになりそうだ。

この他にも細かな工夫が満載

 以上、バッファローの新型ルーター「WXR-2533DHP」の特徴について、同社に話を聞いたが、他社から遅れてでも開発に時間をかけてきただけあって、かなり作り込まれた製品となっている。

 実際の性能は、実際の製品をテストしてみるまでわからないが、かなり期待できる製品と言ってよさそうだ。

 また、今回はあまり触れなかったが、2.4GHz帯のIEEE 802.11nも4x4で最大800Mbpsのスピードとなっていたり、対応クライアントの登場を待つ必要があるもののMU-MIMOに対応していたり、ゲスト接続用のボタンが用意されていたり、LANケーブルなどの配線が目立たないようにサイズやデザインを工夫しているなど、ほかにもいろいろな特徴のある製品となっている。

 ここ最近、国内メーカー製の無線LANルーターは、インパクトで海外メーカーに押されているイメージがあったが、どうやら「本気」を出してきたと言ってよさそうだ。

 アンテナ内蔵のNECプラットフォームズ製「AtermWG2600HP」とは、アプローチが対照的である点も興味深い。個人的には非常に出荷が待ち遠しい製品だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。