特別編:アッカ・ネットワークス インタビュー
~不具合対策、UPnP対応、チップの互換性の問題について聞く~



 昨年末、立て続けに発表された不具合の問題、3月末に予定されているUPnP(Universal Plug & Play)への対応など、何かと話題に事欠かないアッカ・ネットワークス。筆者宅にも同社のADSL回線が開通したこともあり、さまざまな疑問を同社に直撃してみた。対応して頂いたのは、副社長の池田佳和氏、NWエンジニアリング部長の河村啓史氏、広報担当マネージャーの吉田朋子氏の3名だ。





応対してくれたアッカ・ネットワークスの池田副社長。過去に「ISDN絵とき読本」などの著書を持つ
まずは、御社の近況をお聞かせください

 弊社はホールセールというビジネスモデルで展開しておりまして、コンシューマー向けには7社に、ビジネス向けには上り下り対象型のSDSL(Annex C、Annex H)もNTT-ME、NTTPC、ソニーなどに卸売りさせていただいております。
 コンシューマー向けの回線は、最初に1.5Mbpsのサービスからスタートしまして、昨年の9月からG.dmt Annex Cとしては国内初の8Mbpsサービスを提供させていただいております。おかげさまで、昨年の秋あたりから加入者も爆発的に増え、昨年の12月末の時点で15万2000回線となりました(昨年末の時点で国内全部で152万回線)。
 また、去年はNTTの収容局のコロケーションの問題が、大変大きな話題となりましたが、おかげさまでほとんど解決するに至りました。他社による回線のにぎりの問題もずいぶんと改善されています。

コロケーションの話題にも関連しますが、開通までの日数は改善されたのでしょうか? これまでは回線の割り当てができないなどの理由で、開通までに数週間から数カ月待たされたというユーザーもいたようですが

 弊社について言えば、回線の設備がきちんと整ってきた局が9割ほどに達しておりまして、そのような局に関しては最短のケース(書類などの不備がなければ)で7営業日くらいで開通するまでに回復しております。ただし、タイプ2(電話回線と共用しないタイプ)でのお申し込みの場合はNTT側で電話回線の用意などの作業の関係がありますので、工事日程の調整に手間取り、予想外の時間がかかる可能性もあります。最短での開通ができるのは、タイプ1(電話回線と共用するタイプ)を選択されたお客様で、現状の回線がアナログ回線で、工事にDIYを選択されたケースです。
 ただ、これから引っ越しシーズンとなる3月、4月となりますので、申込みが殺到する可能性もあります。そうなると、NTT側の作業も関係しますので、多少、開通までに期間がかかる可能性があります。ただ、NTT側も徹夜で工事をするなど、かなり努力されているようなので、サービスが立ち上がった頃に比べると開通までの期間はかなり改善されています。


昨年末にリンク切れの問題などのリリースをいくつか出されましたが、現状、これらの不具合の状況はどうなっているのでしょうか?

 リリースで発表させて頂いた通り、今はほとんどの問題が改善されています。リンク切れに関する問題は、すべてのお客様で発生する問題ではなく、回線状態があまり良くないお客様で発生する問題で、割合としては低かったのですが、全体の回線数が増えてきたためにかなりお客様から問い合わせがありました。しかし、現状は、NTT局舎に設置されるDSLAMのファームウェアのアップデートで対応し、すでに改善されています。
 また、富士通製のADSLモデムの問題(DMZを利用した場合にハングアップする問題)に関しては、2月27日に最新版のファームウェアを公開致しましたので、それにより最終的に問題が解決されるはずです。

現状、ユーザーに配布しているADSLモデムはNECと富士通の2種類がありますが

 現在、メインは富士通のモデムを利用しています。初期にNECの製品を利用していましたが、現在は富士通のモデムのみを配布しております。


池田副社長とともに技術説明をしていただいた河村啓史NWエンジニアリング部長(右)
富士通製のモデムでのUPnP対応も発表しておられますが、この対応は具体的にいつごろになるのでしょうか? また、これによりWindows Messengerなどはきちんと使えるようになるのでしょうか?

 現在は3月末の予定になっております。UPnP対応のファームはUPnPフォーラムでの試験は終わっているとメーカーから聞いております。後は製品としての試験をこれから行なうという段階で、今のところオンスケジュールでリリースできそうです。他社の動向はわかりませんが、国内では弊社がもっとも早くUPnP対応のモデムを配布できるようになるでしょう。ただ、UPnP自体が仕様として新しいものなので、これからまだ詰めるべき点はあると予想できます。
 実際の展開は、ファームウェアを先にリリースし、ハードウェアの製造段階が整ってからUPnP対応ファームを実装したモデムを配布するという形態になります。

UPnPはUniversalと言いながらマイクロソフト色の強い規格であり、マイクロソフトと連携して設計する必要があると思うのですが

 もちろん、マイクロソフトとも連携して設計しております。ルーターがここまで家庭に普及している環境というのは日本ぐらいだと思います。海外ではルーターはビジネス用途というイメージが強く、モデムはブリッジで使われることが多いですから。ユーザーの期待が大きく、問い合わせも多いので、我々がハードウェアメーカーやソフトウェアメーカーと連携してがんばっていくしかないと思っています。

富士通製のモデムはでPPTPも通らないという問題もありますよね。家庭から会社のネットワークにVPNでアクセスしたいユーザーにとっては大きな問題だと思われますが、この問題も解決されるんでしょうか?

 お客様からの要望が多いので、富士通のルータタイプモデムで対応するようにしました。2月27日に配布されたファームウェアは対応していますので、ぜひ試してみてください。


8MbpsのADSLでは距離による減衰が問題になりやすく、つながりにくいという話もありますが、御社の状況はどうなんでしょうか?

 弊社ではあまり問題になっていません。ただ、規格や距離だけではなく、お客様の回線状況なども問題もありますので、以前は回線の状況がよかったんだけど、急に状況がわるくなったというケースもいくつかはあります。たとえば、近所にお店ができて業務用の冷蔵庫や変電設備などの干渉を受けたというケースなどがそうです。
 ただ、このようなケースでは、我々としても対策をしにくいのが現状です。たとえば、家から電柱までの線をシールド線に変更すれば改善されるかもしれませんが、これはNTTの所有するものなので、我々が具体的に対策できない部分です。また、シールド線を使えば、今度は落雷などの問題が新たに発生してしまいます。対策が難しい部分があることも事実です。

アッカさんでは、DSLAMやADSLモデムのチップにGlobeSpan社製のものを採用されていますが、現状、NTTのフレッツ・ADSLやイー・アクセスが採用するCentillium社製の製品との互換性がありませんよね。これによってユーザー側は利用するADSLモデムが制限されてしまいますが、この問題はいつごろ解消されるのでしょうか?

 時期的には私どもではわかりかねますが、現在、互換性を取るために双方で努力なされているようです。すでにG.Liteでは互換性が確保されています。現状、弊社では市販のADSLモデムを購入するお客様が混乱しないように、製品の試験を行ない「認定」や「推奨」といったロゴを与えるようにしています(認定と推奨の違いはループバックをサポートするかどうか)。そのロゴがあるものをお買い上げいただければ安心して利用できます。弊社のホームページからもそのような製品を購入できるようなしくみにしています。
 また、GlobeSpan社製のチップではUSBをサポートできますので、他事業者にはない8Mbps用のUSBモデムも提供しております。これまではUSBモデムというとOSとのからみで、不具合が多く発生していましたが、このモデムは出来が良く、パフォーマンス面でも優れています。

モデムの出来によってノイズへの耐性なども変わるという話がありますが

 ノイズは回線から入り込んでくるものと、宅内の電源などから入り込んでくるものの2種類がありますが、回線を通じて入り込んでくるものはフィルタなどを使わない限りカットすることができません。
 むしろ、大切なのはノイズが混入している場合に、DSLAMやモデムが干渉を受けている帯域のキャリアを落として、きちんとハンドシェイクでいるように作り込むことが大切です。つまり、ハードウェア的な問題よりは、ファームウェアなどのソフトウェア的な作りを工夫することの方が重要なわけです。ノイズが混入すれば、当然スループットは落ちますが、それでもきちんとリンクアップするように設計しています。


となると、ノイズ対策などのノウハウが重要になると思われますが

 幸い弊社は国内ではもっとも早い段階でAnnex Cの8Mbpsサービスを開始させていただいております。サービス開始当初はお客様にご迷惑をおかけすることもありましたが、その分、いろいろな問題を発見することができ、ノウハウを蓄積することができました。そういう意味では、これからは自信を持って安定したサービスが提供できると言えます。いわば産みの苦しみのフェーズは終了したと言えます。
 また、先ほどのチップの話も関係しますが、GlebeSpanという会社は海外では圧倒的なシェアを持つ会社です。海外ではAnnex Aが主流という規格の違いはありますが、ノイズ対策や安定性を高めるためのノウハウを豊富に持っています。それを活かせるという強みはあります。

逆に国内のことを考えるとCentilliumを採用する事業者が多いですよね。すると、シェアを考えた場合に、国内ではCentilliumの方が、ファームなどのブラッシュアップが進みやすい状況ではないでしょうか?

 確かにAnnex A、Annex Cという違いはあります。しかし、コアとなる技術はAnnex AでもAnnex Cでも変わらないと考えています。Annex AとAnnex Cの違いはISDNとの同期をとるかどうかの違いだけですが、ノイズ対策などでは、それ以外の部分の問題の方が大きいと言えます。GlobeSpanは、米国、韓国など大きなマーケットで鍛えられてきたメーカーです。フィールドでのテストデータなどを豊富に持っていることを考えれば、国内のみでフィールドデータを集めながら問題を解決していかなければならない場合よりもアドバンテージはあるでしょう。

最後に今後の展開についてお聞かせください

 今後はコンシューマー市場はもちろんのことビジネスユーザー市場も重要だと考えています。SDSLや光ファイバーのサービスなどを強化していくつもりです。確かにビジネスユースでは光ファイバーがベストですが、それではカバーできない市場も存在します。中小企業やSOHOなどが求めるコストパフォーマンスが高い回線を求める市場をターゲットに、今後はさらにDSLサービスを展開していくつもりです。8Mbpsのサービスなどもビジネス向けに展開していく予定です。

今日はお忙しいところ貴重なお時間を頂き、ありがとうございました


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2002/3/13 11:18


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。