第9回:安定性向上に効果あり、FBM方式を試す



 ADSL回線が頻繁に切断されるなどのトラブルを抱えているユーザーは、FBM(Far End Cross Talk BitMap)方式への切り替えを試してみる価値がある。速度は低下してしまうが、安定して使える環境を手に入れられる可能性がある。





回線調整によってFBMモードに移行

 本連載でもたびたび触れているが、筆者の自宅には3本のADSL回線を導入している。NTTのフレッツ・ADSL 1.5Mbps、前回の連載でも触れたアッカ・ネットワークスの8Mbps、そしてもっとも初期に導入したイー・アクセスの8Mbpsだ。このうち、フレッツ・ADSLとアッカの回線は安定しているのだが、問題はイー・アクセスの回線だ。頻繁に切断されることがあり、安定して使えない状態が続いている。どうやら、回線収容の問題で、経路の途中で何らかの干渉を受けているのが原因のようだ。

 そこで、いろいろな対策を講じてきたのだが、今回、比較的効果が高い対策をすることができた。プロバイダー経由で、イー・アクセスに依頼し、回線調整をしてもらったのだ。

 もちろん、このような対策は過去にも何度かやってきた。しかし、これまでは単に回線速度を落として安定性を図るという対策にすぎなかった。「特別編:つながらない!? ADSL 8Mサービスの現状を探る」でも解説したが、回線の安定性を図る場合、局に設置してあるDSLAM側で1回の変調で伝送するビット数を減らすことである程度の安定性を確保できる。速度は確実に低下してしまうが、瞬間的な速度よりも継続して使える安定性を実現できることになる。

 しかし、筆者宅のようにこの対策でも改善できない場合も少なくない。そこで、今回は多少、対策の方法を変更してもらうことができた。それがFBM方式への切り替えだ。現在は、さらなる調査をするために再びDBM方式に戻しているが、FBM方式にしていた数週間はかなり安定性を向上させることができた。





FBM方式とは

 では、FBMとはどのような方式なのだろうか。FBM方式とは、Annex Cで規定されている方式のひとつで、Far End X(Cross) Talk BitMap方式の略だ。通常、Annex Cでは、ISDNとの干渉を避けるために干渉が大きいとき(近端漏話:NEXT)と干渉が小さいとき(遠端漏話:FEXT)のBitMapを切り替えながら通信するDBM(Dual BitMap)という方式で通信を行なう。これにより、ISDNからの干渉を受けていても比較的高速な通信が実現できるわけだ。

 しかし、外的な要因からのノイズなどの干渉があまりにも大きいと、この方式では正常に通信できないことがある。NEXT時に伝送できるデータがあまりにも低くなりすぎ、DSLAMやADSLモデム側がこれを異常であると判断して、回線を切断し、トレーニングをやり直そうとするからだ。ノイズなどの干渉が一時的なものであれば、これでも全く問題ないが、継続的に干渉があるような環境では頻繁に回線が切断されてしまう可能性がある。

 そこで登場するのがFBM方式だ。FBM方式では、DBM方式と異なり、FEXT時のBitMapしか利用しない。要するに、近端漏話で干渉が大きいタイミングでは、一切、データを流さず、遠端漏話で干渉が少ないタイミングのみ通信を行なうわけだ。これにより、ISDNなどの干渉が大きい環境では、回線の安定性を向上させることが可能になるわけだ。


FEXT(上)とNEXT(下)は、1.25ms(400Hz周期)で切り替わる。データのbit数が少なくなっているNEXTを使わず、安定したFEXTだけ使ってやろうというのがFBM方式。(データ提供:イー・アクセス)

 筆者の環境では、NTT東日本などの調査により、収容されている回線の1つ飛びのカッドにISDNが存在することが判明している。もちろん、これが原因であると特定はできたわけではないが、これが原因のひとつではないかと疑うことができる。このため、FBM方式に変更したことで回線の安定性が向上したのだろう。実際、以前はほぼ1時間おきくらいに切断されていた回線が、FBM方式に切り替えていた間は、数日ほど切れずに安定してつながるように改善された。安定性の向上には、かなり効果があると言えるだろう。





安定性と引き替えに速度は低下

 ただし、FBM方式にも欠点はある。前述したようにFBM方式ではNEXTのタイミングで一切データを流さない。これにより、本来NEXTで実現されていた通信速度がまるごと失われるわけだ。具体的には、FBM方式に変更することで、最大転送速度は下りが3.5Mbps程度、上りが300~400Kbps程度と本来のG.dmtの半分以下に制限されてしまう。

 これにより、筆者の環境では、これまで回線の状態が良いときで最大2Mbps程度(下り)でリンクアップしていた速度が、最高でも1.5Mbps程度にまで減少してしまった(ただし、回線の状況によりばらつきはあり、300~800Kbps程度のときもある)。以前に比べトップスピードは確実に減少したわけだ。ただし、回線が不安定だったときは、ひどい時で下りの速度が64Kbps、128Kbpsでリンクアップすることもあったが、このような極端に低い速度でリンクアップすることはなくなった。速度的なばらつきも少なくなったわけだ。





イー・アクセスやフレッツ・ADSLでは事業者への調査依頼が必要

イー・アクセスが配布している住友電工製のADSLモデム。アッカで配布される富士通製とは違い、ユーザーがFBM設定を行なうことはできない

 さて、このようなFBM方式への切り替えだが、残念ながらユーザーが手軽に試せるようなものはではない。アッカの回線を利用している場合であれば、事業者が配布している富士通製のモデムや市販のメルコ製のADSLモデム内蔵無線ルーター(WLAR-8000ACG)など利用することで、モデム側の操作のみでらFBMモードに変更することができるが、その他の場合はプロバイダーや事業者に回線調査を依頼し、適当と判断された場合しか変更できない。ユーザーが手軽に試してみることはできないのだ。

 速度を取るか、安定性を取るかは難しいところだが、頻繁に切断されるストレスを考えれば、多少速度が低下したとしてもFBM方式に変更する価値はある。ADSLは不安定なものだとあきらめる前に、プロバイダーや事業者に相談してみることが大切だろう。


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2002/3/19 11:24


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。