第126回:ネットワーク経由で外付けHDDにデジタル放送を録画
東芝の液晶テレビ「face 37LZ150」が提案する新しい録画スタイル



 LAN接続のHDDを利用して、番組を録画できる液晶テレビ「face 37LZ150」が東芝から発売された。この製品の最大の特徴は、これまでのHDD&DVDレコーダやテレビ機能搭載PCとは一線を画した、新しい録画スタイルが提案されている点だ。実際にどのような使い方ができるのかを検証してみよう。





LAN HDDにテレビ番組を録画できる

37インチ液晶の「face 37LZ150」

 東芝から、新型の液晶テレビ「face LZ150シリーズ」が発表されたとき、「欲しい!」と思った。最終的には、価格の問題などの点から購入を見送ったのだが、単にテレビを見るだけではなく、ネットワークに接続できる点に興味を持ったからだ。

 LZ150シリーズの本体にはLAN端子が搭載されており、テレビを家庭内LANに接続できるようになっている。もちろん、LAN端子を搭載したテレビは、松下電器産業などがこれまでにも発売していたが、従来の製品に搭載されていたLAN端子は、インターネットに接続するためのものでしかなかった。これに対して、LZ150シリーズは、インターネットへの接続に加え、ネットワーク上のHDDへの録画機能をサポートしている。

 具体的には、LAN上に接続したLAN HDD(いわゆるNAS)やPCのHDDに対して、ネットワーク経由でテレビ番組を録画・再生できるようになっている。テレビ自体に録画機能が備えられ、しかもネットワークで経由での録画に対応しているというのは、これまでにはなかった非常に興味深いスタイルだ。





ファイル共有の仕組みを利用してHDDにアクセス

 実際に37インチ液晶モデルの「face 37LZ150」を利用してみたが、利用方法自体は非常に簡単だった。

 まずは接続だが、37LZ150の背面には、2つのLAN端子が備えられており、これを利用してネットワークに接続するようになっている。2つのLAN端子のうち、片方はLAN HDD専用となっており、もう片方が汎用のLAN端子となっているので、今回はLAN HDD専用端子にアイ・オー・データ機器の「HDL-120U」を接続し、汎用端子を数台のPCとバッファローのLAN HDDである「Linkstation HD-HG250LAN」が接続されている家庭内LANに接続した。


今回、テストに利用したネットワーク環境。37LZ150のLAN HDD専用端子にアイ・オー・データ機器のLAN HDDを接続し、汎用端子を既存の家庭内LANに接続した

 なぜ、2つの端子が用意されているのかというと、トラフィックの問題を回避するためだ。家庭内LANは、PCからのインターネット接続やファイル共有など、さまざまな用途に利用するため、場合によっては37LZ150とHDD間の帯域が狭くなってしまう恐れがある。これを避けるために、LAN HDD専用の端子が用意されているわけだ。

 物理的な接続が完了したら、テレビ側でHDDを認識させるための設定を行なう。設定画面からLAN HDDの登録画面を表示すると、ネットワークで接続されたLAN HDDやPCの共有フォルダが表示される。これらを「LAN1~LAN8(最大8台まで登録可能)」まで用意されている37LZ150側の登録IDとして登録すれば、テレビ側からHDDを利用することが可能だ。なお、LAN HDD専用端子を利用した場合、自動的にLAN HDDを認識・登録できるためこの設定は不要になる。


汎用端子に接続したHDDを利用するには、37LZ150の設定画面で機器登録しておく必要がある。ネットワーク上の共有フォルダが自動的にリストアップされるので、これを機器IDに関連付けしておく

 もちろん、LAN HDDやPC側に特別なソフトウェアをインストールする必要などはない。37LZ150では、ファイル共有の仕組みを利用してHDDを認識する仕様になっているため、LAN HDDであればそのまま利用できるし、PCの場合はフォルダを共有しておくだけで利用できるようになっている。唯一、注意しなければならないのはPCのアクセス権の設定だ。アクセス制限が設定されていると、37LZ150から共有フォルダを参照できないので、あらかじめ「Everyone」に「フルコントロール」のアクセス権を与えておこう。


PCのHDDを利用する場合は、フォルダを共有し、Everyoneにフルコントロールの権限を与えておく必要がある

 なお、37LZ150では、最初に登録された機器の共有フォルダにシステムフォルダを作成する仕様になっている。システムフォルダには、録画した番組のインデックスや保管場所などが記録されており、テレビから録画した番組を再生するときなどに必ず参照される。録画番組の実体ファイルが保存されているHDDが起動していたとしても、インデックスにアクセスできないと再生できないので、PCのように電源がOFFになる可能性がある機器ではなく、LAN HDDのように常時起動し、常にアクセス可能な機器にシステムフォルダが存在することが望ましいところだ。後から変更することもできるが、できれば最初にLAN HDDだけを接続し、システムフォルダを作成しておくといいだろう。


LAN上のいずれかのHDDに、インデックスなどを保存するためのシステムフォルダを作成しておく必要がある。標準では最初に接続したHDDにシステムフォルダが作成されるが、実際の利用を考えるとLAN HDDに作成しておくのが便利




デジタル放送もMPEG-2 TSでHD画質のまま録画可能

 ここまでの準備ができれば、実際の録画が可能だ。録画したい番組を表示し、リモコンに用意されているクイックボタンから「一発録画」を押すか、番組表を表示して録画予約を行なう。その後、録画先として、先ほど登録したネットワーク上のHDDを指定すれば、実際にネットワーク経由での録画が開始される。


HDDが複数台登録されている場合は、録画先のHDDを選択することが可能。デジタル放送をMPEG-2 TSのまま録画することも可能だが、画質の変更もできる

 録画できる番組は、アナログ放送だけに限られない。37LZ150には、アナログ地上波チューナーのほかに、デジタル地上波、BS/CSデジタルチューナーが搭載されているが、このようなデジタル放送の録画も可能だ。デジタル放送の場合、MPEG-2 TSによるビットストリーム録画となり、いわゆるハイビジョンとなるHD放送もそのままの画質で録画することができるようになっている。美しい画質のまま、しかもデータ放送も含めた形で録画できるメリットは大きいだろう。


HDDが複数台登録されている場合は、録画先のHDDを選択することが可能。デジタル放送をMPEG-2 TSのまま録画することも可能だが、画質の変更もできる

 ちなみに、マニュアルなどには、MPEG-2 TSでの録画は録画先にLAN HDDを指定した場合に限られると記載されていたが、テストしてみたところPCのHDDにもTSでの録画が可能だった。ただし、詳しくは後述するが、再生に難があるため、実質的にはLAN HDDに録画するか、PCに録画する場合は標準画質に変換して録画する必要があるだろう。





ストレージとコンソールを分けた新しいスタイル

 このように録画した番組は、リモコンの「face net」ボタンを押すことで、テレビ画面上で一覧表示することができ、手軽に再生できる。視聴・録画・再生というすべての操作が、テレビのみで完結するというのは、実に使いやすい。ビデオ入力を切替えたり、リモコンをいくつも使い分ける必要がないのも便利だ。


録画した番組は、「face net」画面から再生することが可能。最近録画した番組の一覧からの再生やHDDを指定して番組を再生することも可能

 また、37LZ150では、LAN HDDやPCに保存されたMPEG-2ファイルを再生することも可能となっている。つまり、PCに搭載したテレビチューナーカードなどで録画した映像もネットワーク経由で37LZ150で再生できるわけだ。もちろん、この逆も可能だ。37LZ150で録画したアナログ放送の番組は、MPEG-2ファイルとして保存される(デジタル放送はdtvファイルとなり再生不可。またアナログ放送もあらかじめ暗号化を解除しておく設定が必要)。このため、PCから録画した番組が保存された共有フォルダにアクセスすれば、そのファイルを再生することが手軽にできる。


録画されるMPEG-2ファイルは、ファイル名が記号のため、見たい番組を探すのが少々面倒だが、テレビだけでなくPCからも映像を見られるメリットは大きい。また、その逆にPCに搭載したテレビチューナーカードで録画した番組を37LZ150で再生することも可能

 従来のHDD&DVDレコーダやテレビ機能搭載PCは、ストレージとコンソールが一体となるスタイルだったが、本製品では、映像を蓄えておくためのストレージと、それを再生するためのコンソールを別々の機器として考え、それをネットワークで接続するという新しいスタイルが提案されている。どちらが便利かは、考え方にもよるが、個人的には録画した映像をネットワーク上の資源と考え、あらゆる機器から利用できる37LZ150のスタイルの方が好みだ。





無線LANでの利用は難あり、PCでの再生も標準画質に限られる

 このようにネットワーク上のストレージを利用した録画や再生が手軽にできる37LZ150だが、再生時に1つ注意しなければならない点がある。それはネットワークのパフォーマンスだ。アナログ放送やデジタル放送を標準画質に落として録画した場合であれば、ほとんど問題にならないが、デジタル放送をHD画質で録画した場合は、再生時に非常に高いネットワークのパフォーマンスが要求される。

 試しに、NECアクセステクニカのWL54TE(Ethernet接続の子機)を利用し、37LZ150をIEEE 802.11aの無線LAN環境で利用してみたが、標準画質の映像は問題なく再生できたものの、デジタル放送のHD画質映像は、映像がコマ送りのようになり、音声もとぎれとぎれにしか再生することができなかった。

 HD画質の映像は、BSデジタルの場合で最大24Mbps、地上デジタルの場合で最大17Mbpsのビットレートとなる。もちろん、最近の無線LANはさまざまな技術の利用により、実効で40~60Mbpsと高い転送速度を実現できるようになっているが、これはあくまでもSuper A/Gの圧縮機能が効果的に働いたり、瞬間的に計測できた最高速度に過ぎない。24Mbpsもの帯域の映像を連続して、途切れなく伝送するには、現状の無線LANでは少々力不足と言えそうだ。

 では、有線であれば問題ないのかというと、そうとも限らない。有線LANの場合、今度は機器側のパフォーマンスが問われることになる。と言ってもCPUやメモリ搭載量といった機器のスペックではなさそうだ。たとえば、デジタル放送をHD画質で録画した場合、保存先がLAN HDDの場合は問題なく再生することができたが、保存先にPCを指定した場合は、無線LANのときと同様に映像がコマ送りとなり、音声がとぎれる現象が見られた。

 CPUやメモリという点で考えれば、本来、LAN HDDよりもPCの方がはるかに高性能だ(テストではPentium 4 3GHz、1GBのメモリを搭載したPCを使用)。にもかかわらず、PCでまともに再生できなかったことを考えると、おそらくOSが大きく関係していると考えられる。

 今回、使用したPCのOSはWindows XP Professionalだが、Windowsのファイル共有は、あまり速いとは言えない。どうやら、これがボトルネックになってしまったようだ。実際、BSデジタルの24Mbpsの映像を再生しながら、タスクマネージャでネットワークのパフォーマンスを監視してみたが、20Mbps~25Mbpsの間で速度が上下している様子が見られた(Gigabit Ethernetのため%では2~2.5%前後)。20Mbps前後に落ち込んでいるところでは、確実に帯域が足りなくなってしまうので、ここで映像が途切れている格好だ。


PCに録画したBSデジタルの映像を再生した際のネットワークのパフォーマンス。左側(image5)が標準画質(XP)で録画した映像を再生した場合で、右側がMPEG-2 TS(HD)を再生したところ。TS(HD)画質の場合、映像のビットレートが24Mbpsであるにもかかわらず、転送速度が2~2.5%の間を上下するため、確実に帯域が不足していることがわかる

 前述したように、37LZ150のマニュアルには、TSでの録画はLAN HDDに限られると記述されているが、これは録画は不可能ではないが、実質的には再生できないからというのがその本当の理由だと言えそうだ。

 このため、実際に37LZ150を利用する際は、ネットワークの構成をよく考える必要がある。幸い37LZ150には、前述したように2つのLAN端子が用意されている。このため、これをうまく使い分けるのが効率的だ。たとえば、LAN HDD専用端子に有線でLAN HDDを接続してデジタル放送の録画用として利用し、一方の汎用端子は無線LANなどを利用して家庭内LANに接続し、標準画質の映像の録画用として利用するのが効率的だ。こうすれば、HD画質で録画したデジタル放送も問題なく再生できる上、標準画質の映像を37LZ150とPCで共有することが可能だ。無線LANによるワイヤレス化も問題なくできるはずだ。





最大の欠点はテレビ側のチューナーを使う点

 以上のように、ネットワークの構成を工夫する必要はあるが、37LZ150で提案されているスタイルは非常に興味深いもので、個人的にも高く評価したいところではある。

 しかしながら、「買いか?」と問われると、素直にうなずくことはできない。なぜなら、録画の際にテレビ側のチューナーを占有するからだ。当然と言えば当然なのだが、ネットワーク上のHDDに番組を録画するには、そのチャンネルを37LZ150で受信しておかなければならない。つまり、録画中のチャンネル変更はできないわけだ。

 わかってはいても、これは非常に不便だ。もちろん、留守中に見たい番組を録画したいのであれば、これでも構わないのだが、録画しながら裏番組を見るといったような一般的な使い方はできないことになる。もちろん、地上デジタル放送の録画中にBSデジタル放送を見るなど、別サービスの視聴は可能だが、見たい裏番組が同じサービスの場合は視聴できないことになる。

 本当の意味で、37LZ150を便利に利用するためには、おそらくチューナーを2機搭載する必要があるだろう。その頃には、液晶テレビ自体の価格ももう少し安くなっていると思われる。意欲的な製品の今後に期待したい。


関連情報

2004/11/30 10:52


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。