第129回:ケータイとブロードバンドの融合を実現
Vodafone live! BBで映像を楽しむ



 ボーダフォンから、ADSLやFTTHなどのブロードバンド回線を利用してPCでダウンロードした映像を携帯電話で閲覧できる新サービス「Vodafone live! BB」が開始された。通信インフラにブロードバンド回線を利用することで、大容量のコンテンツを利用できるのが特徴だ。早速、サービスを利用してみた。





コンテンツの流通に制限なし

 携帯電話で手軽に映像を楽しめる。12月15日にボーダフォンが開始した「Vodafone live! BB」は、そんな画期的なサービスだ(2004年冬モデルの3G端末6機種に対応)。

 もちろん、これまでも携帯電話で映像コンテンツを楽しむことは可能だった。NTTドコモのiモーションやauのEZチャンネルといった映像配信サービスもあるし、端末によってはSDメモリカードに保存した映像を再生することもできる。携帯電話で映像を楽しむということ自体は、さほど珍しいことではないわけだ。

 では、Vodafone live! BBのどこが画期的なのかというと、その配信の仕組みに特徴がある。Vodafone live! BBも前述したネットワークからの配信サービスの一種と言えるが、コンテンツの配信に一般的なブロードバンド回線を利用している。従来の映像配信サービスは、携帯電話のネットワークを利用して、コンテンツをダウンロードするという方式が採用されていたが、本サービスではADSLやFTTHなどを利用してコンテンツをダウンロードできるようになっている。

 面白いのは、コンテンツの配信だけに関しては、その制限がほとんどない点だ。前述したように、Vodafone live! BBで提供されているコンテンツはPCで自由にダウンロードできる上、コンテンツの複製に関しても特別な制限の仕組みは施されていない。ダウンロードしたコンテンツをメールに添付して、ほかの人に送信することさえも可能だ。ボーダフォンでは、今回のVodafone live! BBをコンテンツ流通の新たな形とうたっているが、まさにその通りだと感じた。

 もちろん、配信に制限がないからと言って、コンテンツの著作権が保護されないというわけではない。制限がないのはダウンロードした「ファイル」に関してであり、その中身のコンテンツはしっかりと保護されている。具体的には、映像が暗号化された状態でファイルに格納されており、その暗号化を解除しないと再生できない仕組みになっている。このため、たとえファイル自体がP2Pに流通しようと、コンテンツの中身はきちんと保護できるようになっている。

 いわば、課金や制限の対象を、コンテンツが保存された「ファイル」ではなく、「コンテンツを見る」という行為に対して行なうという、当たり前と言えば当たり前の考え方だ。


Vodafone live! BBのサービス概要




大容量コンテンツの配信を実現

Vodafone live! BB対応の3G端末「702NK」

 なぜ、このような形態の仕組みを採用したのかと言えば、よりリッチなコンテンツを実現するためだろう。いくら3Gのような高速な通信サービスが利用でき、パケット料金が定額制になったとしても、現状の携帯電話のネットワークには限界がある。メールや情報の閲覧、さらに音楽やアプリケーション程度であれば、現状のネットワークでも十分に配信することは可能だ。しかし、これらとは比較にならないほどサイズの大きな映像となると話は別だ。

 現状のボーダフォンの3Gサービスでは、ダウンロードの容量制限が2MBまでに制限されているため、配信できる映像の長さや品質はどうしても2MBに合わせて制限せざるを得ないが、Vodafone live! BBであれば、ネットワーク側の制限を考慮する必要がない。もちろん、映像を保存するメモリカードの容量に限界があるため、一切、考慮しないというわけにはいかないが、従来に比べれば、飛躍的に大きなサイズのコンテンツを配信することが可能となる。

 たとえば、現状のVodafone live! BBでは、20MBを越える数十分間の映像コンテンツも提供されている。30分から1時間程度のコンテンツも、配給の権利さえ取得できれば、仕組み的には十分に可能というわけだ。





使い方はカンタン

 では、実際の利用方法を紹介しよう。大まかな流れとしては、「コンテンツのダウンロード」、「携帯電話への転送」、「キーの取得と再生」という3つのステップになる。

 まずは、ダウンロードだが、これは実にカンタンだ。PCのブラウザを利用してVodafone live! BBのサイト(http://bb.vodafone.jp/)にアクセスすると、現在提供されているコンテンツの一覧を参照できる。ここから、コンテンツをダウンロードするだけだ。ユーザー登録なども必要なく、誰でもダウンロードできるようになっているので、Vodafone live! BBに対応した端末を持っていない場合でも、一度見てみるといいだろう。


コンテンツ自体はVodafone live! BBのサイトから自由にダウンロードできる。現状は、韓国ドラマ名場面集やアイドルのプロモーションビデオなど、約70の映像がダウンロード可能だ

コンテンツ自体はVodafone live! BBのサイトから自由にダウンロードできる。現状は、韓国ドラマ名場面集やアイドルのプロモーションビデオなど、約70の映像がダウンロード可能だ

 ダウンロードしたコンテンツは、PCのハードディスクに「*.dcf」というファイルとして保存される。もちろん、前述したように暗号化されているため、PCからはファイルとして見えるだけで、コンテンツの中身を見ることはできない。そこで、このファイルを携帯電話に転送する必要がある。

 転送の方法も自由だ。今回、テストに利用した702NKというノキア製の端末の場合、パソコンとデータを同期できるPCリンク機能に対応しているため、USBで端末を直接PCに接続できる。この方法でもdcfファイルを転送できるし、端末からメモリカード(Reduced Size MMC)を抜き取って、メモリカードリーダーなどを経由して直接メモリカードにファイルを転送しても構わない(Bluetoothでも可能)。

 テストしてみたところ、USBで端末を直接つないだ場合、転送速度の制限からファイルのコピーに時間がかかったので(20MBファイルで1分40秒程度)、速度を重視する場合はUSB 2.0接続などのカードリーダー/ライターを利用した方がいいだろう(20MBファイルで20秒前後)。


ダウンロードしたファイルはdcfという拡張子を持った暗号化ファイルとして保存される。PCでの再生は当然のことながらできない

今回、テストに利用したノキア製702NKでは、付属のユーティリティを利用してUSB経由で直接ファイルを転送可能。ただし、速度が遅いので、大容量ファイルはメディアにコピーした方が楽だ

 いずれかの方法でdcfファイルを携帯電話に転送できたら、いよいよ再生が可能だ。ただし、転送したばかりの状態では、映像の一覧にカギのマークが表示され、映像を再生できない。このため、暗号化を解除するためのコンテンツ・キーを取得する必要がある。カギマークが付いたコンテンツを選択すると、自動的にネットワーク上のサーバーに接続されるので、料金や利用規約を確認後、暗証番号を入力すれば再生が可能になる。


映像は携帯電話から手軽に再生可能。ただし、ライセンスを取得していないコンテンツにはカギのマークが表示され、再生できないコンテンツ・キーの取得は、携帯電話から行なう。金額や利用規約を確認後、暗証番号を入力すれば、ライセンスの取得が可能だ

 実際に映像を見た感想としては、さほど品質が高いとは言えないが、ぎりぎり許容範囲といった印象だ(映像は3GPP形式)。解像度が低いため、小さく映った人物の表情などは判別しにくいが、字幕も読めるし、音声の問題もない。長時間の視聴では目が疲れそうだが、現在、提供されている10分程度の映像であれば、問題なく見られるだろう。


動きはスムーズだが、サイズが小さいため、細かな部分の判別が難しいのが難点。ノイズも若干気になった




コンテンツはまだ豊富とは言えない

 肝心のコンテンツだが、サービスが始まったばかりだということもあり、今のところ数はそう多くない。ShowTimeの「韓国ドラマBB」(冬のソナタなどの名場面集)や「ショウタイムアイドルBB」、テレビ東京ブロードバンドによる番組の再配信(シブスタ、オー!マイキー)、ファンダンゴの「よしもと爆笑セレクション」などとなっている。ダウンロード可能な映像の数は、約70といったところだ。

 実際に利用するかどうかは、見たいコンテンツがあるかどうかが大きなポイントと言える。今後、コンテンツの数が増えてくることを望みたいところだ。

 価格は、映像ではそのほとんどが3~10分程度で、料金も100円(税別)に設定されている。これを高いと感じるか、安いと感じるかはユーザー次第だろう。冬のソナタにハマったというユーザーであれば、100円で名場面集が見られるメリットは大きいだろう。

 なお、ほとんどの映像は、一度コンテンツ・キーを購入すれば、無制限に見られるが(ライセンスがある限り、ファイルを削除しても再転送すれば再び再生可能)、中には再生が一定期間(7日間程度)に限られている映像も存在する。このようなコンテンツは、キーの期限が切れた段階で、料金を支払ってコンテンツ・キーを再取得する必要があるので注意が必要だ。





普及するかは今後のコンテンツ次第

 このように、Vodafone live! BBは、仕組みとしては非常に面白い。著作権を保護しつつ、その流通をある程度ユーザーにまかせているあたりは、ある意味、チャレンジングでもある。携帯電話という閉じた世界だけで完結させるのではなく、PCやブロードバンドなどを利用して、オープンに配信しようという試みは大いに賛同したいところだ。

 しかし、ユーザーにとってみれば、仕組みそのものに興味があるのではなく、大事なのは見たいコンテンツがあるかどうか、そしてリーズナブルな価格で見られるかどうかだろう。そう言った意味では、今のところはまだ未知数のサービスと言える。今後、多くのユーザーが興味を持つようなラインナップを揃え、30分程度の番組が100円で見られるようになれば、真の意味で映像配信の革命となり得るかもしれない。


関連情報

2004/12/21 11:01


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。