第140回:DVDドライブがなくても大丈夫?
東芝のHDD単体レコーダ「RD-H1」のネットワーク機能を検証
東芝から、低価格のHDDビデオレコーダ「RD-H1」が発表された。計3回、約3000台の予約販売が開始されたが、いずれも即日完売という人気ぶりだ。DVDドライブは搭載していないが、3万円という低価格でありながら250GBのHDDを搭載し、さらにネットワーク機能も備えている興味深い製品だ。試作機をお借りすることができたので、早速、その実力を検証してみよう。
●「見たら消す」という使い方にぴったり
RD-H1 |
3月9日、前回、本コラムで掲載したバッファローの取材(名古屋)からの帰り道、同行した担当編集から「あ、RD-H1の予約が開始されましたね」とのショッキングな発言を耳にした。発表当初から個人的に買おうと心に決めており、予約開始日を毎日チェックしていただけに、「よりによって今日か……」と非常に落胆したのを今でも覚えている。
結局、東京に帰り着いて家から予約したものの、時すでに遅く、すでに初期出荷分は締め切られていた。何とか4月下旬出荷分を確保したが、正直、ここまで人気になるかと驚きを感じたところだ。
なぜそこまで欲しかったのかというと、我が家の使い方にぴったり合っていたからだ。現在、筆者宅では、松下電器産業のDIGA「DMR-E500H」「DMR-E80H」、ソニーのPSX「DESR-5000」という3台のレコーダを併用しているが、ほとんどの場合「録画した番組を見たらすぐに消す」という使い方をしている。HDD&DVDレコーダを手にした当初は、映画などをDVDにダビングしたこともあったが、大半のDVDが再生されることなく山積みに眠っている。
もう一度、見ようと思ってHDD内に残しておいた番組も、数カ月もすれば感動が薄れ、「消してもいいか→消そうかどうしようか→消そう」と、結局はほとんど消してしまっている状況だ(最近では、この思考プロセスすらムダなので、一度見た番組は迷わず消すことにしている)。
こういった使い方をする限り、RD-H1は非常に魅力的な製品だ。DVDドライブが省略されており、DVDへのダビング、録画、再生などができない仕様になっているが、3万円台(税込み31,990円)で、250GBのHDDを搭載したレコーダを手に入れることができる。
250GBのHDDは、IDEの内蔵HDD型が1万4,000円前後、外付けならば2万円以上で発売されている。もちろんHDDだけでは録画はできないため、さらにPC用のテレビキャプチャボードが高価なもので1万数千円の費用が追加して必要なことを考えると、かなり意欲的な価格設定と言っていいだろう。以前、ソニーが「Clip On」や「Channel Server」という製品を発売していたが、価格こそ大きな開きがあるものの、コンセプトとしてはこれに近いと言える。
RD-H1 | 背面 |
もちろん、録画した番組は最終的に消すしかないのかというと、そういうわけでもない。RD-H1は既存のRDシリーズの増設用として利用することも可能で、ネットワーク経由で別のRDシリーズに映像をダビングできる「ネットdeダビング」を搭載している。しかも、東芝は熱心なユーザーを抱えており、PC上で同様の機能を提供するフリーソフト「VirtualRD」なども存在している。録画した映像を外部に取り出す方法がきちんと用意されているというのも、この製品の魅力の1つだろう。
●操作性は快適
実際に使ってみた印象としては、なかなか快適だ。「東芝は操作性にクセがある」と周りから聞かされていたため、当初は多少心配もあったのだが、マニュアルを見なくてもほとんどの操作が可能だった。リモコンの「簡単ナビ」ボタンを押してメインメニューを表示すれば、録画予約や再生、編集などといった一連の操作が手軽にできるようになっており、操作に迷うことはない。
はじめての場合でも親しみやすいインターフェイス「簡単ナビ」を備える。さほど使いにくい印象はない |
電源ONからの起動もわりと高速で、12~3秒ほどですぐに利用可能になるのも好印象だ。筆者が普段利用している松下電器産業のDIGA「DMR-E500H」などは、電源ONから操作可能になるまで25秒、PSXは30秒以上かかるのだが、RD-H1ではそういったイライラを感じることはなかった。東芝製の他機種を利用したことがないので、はっきりとしたことは言えないが、DVDドライブが搭載されていないため、そのチェックなどが省かれている恩恵なのだろうか?
唯一、操作系で手間取ったのは、リモコンのボタンの配置だろうか。DIGAやPSXは前の画面に戻るための「戻る」ボタンが方向ボタンの右下に配置されているのだが、RD-H1は左下に配置されており、右下には「クイックメニュー」ボタンが配置されている。慣れとは恐ろしいもので、戻るボタンを押そうと思って、ついついクイックメニューを表示してしまった。他メーカーの製品を利用していた人にとっては、少々とまどってしまうが、はじめてRD-H1を購入したユーザー、もしくは従来からRDシリーズを使っているユーザーであればさほど問題はないだろう。
また、初期設定を行なったり、初期設定画面から戻るための「設定」ボタンがリモコン下部のカバーに隠されており、最初はどこにあるのかがわからなかった。
付属のリモコン。質感は高いとは言いがたいが、PC用周辺機器などに比べればはるかに使いやすい。東芝ならではのボタン類もあるので操作に慣れは必要。もう少し小さくてもよかったのではないかと感じた |
EPGに関しては、インターネット上の「iEPG」とテレビ画面で操作が可能なスカパー!やCATVの主要チャンネルに対応した「iNET」と「ADAMS EPG」の統合された「WEPG」の2種類が利用できるが、iEPGが使えればそれだけで十分という印象だ。個人的には、複数チャンネルの番組を1画面に表示できるため、縦軸にチャンネル、横軸に時間というRD-H1のスタイルも好みだ。標準の4時間表示では30分番組の場合、番組名の最初の1~2文字しか表示できないが、2時間表示などにすれば番組名も見やすくなる。いわゆる新聞スタイルの番組表にも、一度に表示できる時間が多いというメリットがあるので、このあたりは好みの問題だろう。
EPGはiEPGとADAMS EPGの両方に対応。縦軸にチャンネルをとった表示方式も個人的には見やすくて好み |
録画時の画質は、SP(4.6Mbps)、LP(2.2Mbps)が選択できるが、マニュアルモードで0.2Mbpsずつ手動で変更することもできるうえ、音声もL-PCMとDolby Digitalを切り替えられるというマニアックな仕様だ。筆者の場合、画質にはあまりこだわりがないため、SPで十分だと感じたが、前述したように見たら消すという用途であれば、LPでもさほど悪くない印象だ。
画質が細かく設定できるのは東芝機ならではの特徴。ただし、普通に見るだけならSPか、LPを選ぶだけで十分 |
●ネットワーク機能を試す
さて、肝心のネットワーク機能だが、利用できるのは「ネットdeナビ」、「ネットdeダビング」、「ネットdeモニター」の3つの機能だ。今回、これらの機能をNECアクセステクニカの「Aterm WL54TE」を利用して、すべて無線環境でテストしてみた。
まず、ネットdeナビだが、これはPCからRD本体をコントロールする機能だ。ブラウザを利用して、「http://rd-h1/」にアクセスすると、録画予約を行なったり、録画したタイトルの一覧を参照できる。EPGを参照して番組の録画予約もできるので、家庭内のPCから予約したい場合などに便利だろう。筆者のように1日中、PCの前にいるユーザーにはありがたい機能だ。
ブラウザで「http://rd-h1」にアクセスすると「ネットdeナビ」の画面が表示される。EPGを利用した録画予約やタイトルのサムネール一覧などリモート操作が可能 |
続いて、ネットdeダビングだが、これはどうしても消したくないタイトルを書き出したいときに便利だ。ネットワーク経由でファイルを取り出すというより、録画した機器から転送(プッシュ)するというイメージの機能だが、録画した映像を他の機器に転送できる。さすがにデータ容量が数GBにもなるため、転送に時間はかかるが(特に無線LANでは時間がかかる)、テストした限りでは、前述したVirtualRDを利用してPCにMPEG-2ファイルをそのまま転送することもできた(サポート外となるため自己責任で)。
ダビングしたい映像を選んで、他の機器にプッシュするとネットワーク経由で転送することができる。頻繁に使う機能ではないが、どうしても保存しておきたい映像の書き出しに便利 |
実用的か? と言われると、やはり本体にDVDドライブが装備されていて、そこにダビングできた方がはるかに楽だが、年に数回、ダビングのために使うだけと割り切れば、悪くはない機能だ。保存用タイトルによってハードディスクが占有されてしまうことも回避できるだろう。
最後のネットdeモニターは、筆者の環境で試した限り、残念ながらさほど便利とは感じられなかった。ネットdeモニターは、RDの画面をPC側にリモート再生する機能で、放送中の番組や録画されたタイトルはもちろんのこと、操作画面などもそのままネットワーク経由で再生できるのだが、画面サイズが小さく見づらいため、録画した番組をPCで見るという使い方には耐えられないと感じた。
ネットリモコンを利用して、PC側から画面を見ながら作業するといった程度であれば画面の小ささは我慢できるが、ネットリモコンでボタンを押してから、画面が切り替わるまでにタイムラグがあり、筆者宅の環境では、映像の再生中に画面が固まったまま再生されなくなることもまれにあった(音声だけは聞こえる)。ただし、今回はすべて無線LAN環境でテストを行なったため、有線LANでの接続であれば結果は異なるかも知れない。
ネットリモコンから、「ネットdeモニター」を起動すると、RD-H1の映像をPC側で再生可能。メニューなどの操作画面などもそのまま画面上に表示できるが、録画した映像の再生は少々厳しい |
確かに、RD-H1には豊富なネットワーク機能が搭載されており、それがDVDレスという弱点の補強につながっている面はあるが、それらはあくまでもオマケ的な機能という印象だ。やろうと思えば、ネットワーク経由で映像をダビングしたり、PCで映像を見られるが、あくまでも「見たら消す」という単体での使い方に主眼をおくべきだろう。
●2台目としての選択がベスト
このように、ネットワーク機能自体は、あまり快適とは言えないRD-H1だが、決して、それが商品価値を落とすものではない。本製品の最大のポイントは、冒頭で解説したように、低価格でHDD録画環境を手に入れられるという点だ。
VHSビデオから移行する1台目の製品というより、すでにHDD&DVDビデオレコーダを所有している場合は(東芝製であるのがベストだが、そうでなくても問題ない)、2台目として十分に検討する価値があるだろう。DVDを搭載したレコーダをすでに所有していれば、保存したい番組を1台目で録画し、見たら消す番組をRD-H1で録画するという使い分けができる。そういう意味では、RD-H1は、レコーダを2台所有するというスタイルを確立しうる製品だとも言える。
本コラムの趣旨や個人的な要望を言わせてもらえば、より強力なネットワーク機能(PCへの転送やMPEG-2のネットワーク再生)が正式にサポートされることを望みたいが、価格を考えれば、そうわがままも言えない。RD-H1は1つの完成した製品であると言うべきで、それ以上の機能を望むなら他機種を買えば済むことだ。RD-H1の機能が強化されて、価格が上昇するのは無意味な話で、逆に機能を削って、よりシンプルにしていく方が好ましい(思い切ってネットワーク機能を削るというのも選択肢の1つだろう)。
また、個人的に興味があるのは、この製品の登場を他メーカーがどう受け止め、追従してくるのかどうかという点だ。メーカーによってはネットワーク機能を思い切って削るかもしれないし、また別のメーカーはネットワーク機能をより強化する方向で製品を登場させるかもしれない。現状、RD-H1が好調な滑り出しを見せただけに、他メーカーの今後の動向が注目されるところだ。
関連情報
2005/3/22 11:03
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