第167回:ネットワークプレーヤー搭載で映像・音楽・静止画を楽しむ
シャープのマルチメディアディスプレイ「IT-32X2」



 シャープから、ネットワークプレーヤー機能や新IEEE 802.11a対応の無線LAN機能を搭載した32型の液晶ディスプレイ「IT-32X2」が発売された。多機能なマルチメディアディスプレイの実力を検証しよう。





無線LAN、ネットワークプレーヤー機能を搭載

IT-32X2

 以前、本コラムでDLNA対応のLAN接続型HDDをレビューした際、「今後、家電のホームネットワーク化が本格的に普及するにはクライアント側の進化が必要だ」と書いたが、それを実現したのが、今回取り上げるシャープの液晶ディスプレイ「IT-32X2」だ。

 本機は「32型ワイドASV方式低反射ブラックTFT」を搭載した液晶ディスプレイだが、新IEEE 802.11aに対応したIEEE 802.11a/b/g準拠の無線LAN機能、ネットワーク経由でPCなどに保存された映像、音楽、静止画を再生するためのネットワークプレーヤー機能も搭載している。同社では、従来から単体のネットワークプレーヤー「MR-CE01」を販売していたが、このMR-CE01を液晶ディスプレイに内蔵した製品といったところだ。

 内蔵されるチューナーがアナログのみでデジタルに対応しない点、液晶テレビではなく液晶ディスプレイと呼ばれることなどから、はたして家電というカテゴリに分類すべきかどうかは悩ましいところだが、ネットワーク対応によって、単に映像を映し出すだけの機器から、マルチメディアディスプレイへと一歩進化したことは高く評価すべきところだろう。





AOSSでの設定に対応した無線LAN機能

 まずはネットワーク機能から見ていこう。IT-32X2は有線LAN(10BASE-T/100BASE-TX)にも対応しているが、新11a(J52/W52/W53)に対応したIEEE802.11a/b/g準拠の無線LANも内蔵している。これにより、住居環境などによってケーブルの物理的な配線が難しい場合でも手軽にネットワークに接続できる。

 設定も至って簡単だ。IT-32X2にはバッファローの無線LAN設定システム「AOSS」が搭載されているため、本体上部の「AOSS」ボタンを押すだけで手軽に設定できる。もちろん、アクセスポイント側もAOSSに対応したバッファロー製品を利用する必要があるが、SSIDやWEPキーなどを設定する手間が省けるのは嬉しいところだ。


バッファロー製アクセスポイントを利用した場合はAOSSでの自動設定が可能。そのほかのアクセスポイントの場合は手動で無線LANの設定を行なう

 もちろん、手動での設定も可能だ。IT-32X2の設定画面から無線LAN設定を表示し、リモコンを使ってSSIDやWEPキーを入力することで、一般的なアクセスポイントにも接続できる。ただし、筆者宅の環境に問題があるのかもしれないが、特定の環境では接続ができない場合もあった。以前、シャープのネットワークプレーヤー「MR-CE01」をレビューしたときにも同じ現象に見舞われたのだが、今回もアクセスポイントにNECアクセステクニカの製品(Aterm WR7850S)を利用した場合、暗号化にWEPを指定すると必ず接続に失敗してしまった(AES、TKIPでは接続可能)。

 このほか、筆者宅ではAOSSでの接続に失敗するケースも見られ、どうも無線LANの初期設定における確実性に欠ける印象がある。もしかすると利用するアクセスポイントとの相性の問題があるのかもしれない。

 ただし、いったんつながりさえすれば非常に快適に利用できる。詳しくは後述するが、ネットワークプレーヤー機能を利用して映像を再生した場合でもコマ落ちなどは見られなかった(もちろん利用環境や電波状況にも左右されるが……)。また、本製品では無線LANコンバータ機能もサポートされており、本体背面のLANポートに接続した機器からのネットワーク接続も可能となっている。HDD&DVDレコーダやゲーム機など、ネットワークに対応した機器もIT-32X2経由でネットワークに接続できるのは大きなメリットだろう。

 なお、無線LANコンバータ経由でIPv6の利用はできないようで、試しに4th Mediaのチューナーを接続してみたが、ネットワークの接続に失敗してしまった。ブロードバンド映像配信サービス系の利用には注意が必要だろう。





DLNA対応機器との組み合わせで広がる世界

 続いて肝心のネットワークプレーヤー機能について見ていこう。前述した通り、IT-32X2のネットワークプレーヤー機能は、基本的には単体のネットワークプレーヤー「MR-CE01」と同等だ。

 リモコンの「ITメニュー」ボタンを押すと、DLNA対応クライアントで見慣れたメニュー画面が表示される。ここから、「フォト」「ミュージック」「ムービー」など、再生したいカテゴリを選ぶことでネットワーク上のサーバーのコンテンツを再生できる。なお、画面右下に表示されているロゴからもわかるように、クライアントはデジオンのDiXiMが採用されている。


IT-32X2の「ITメニュー」画面(左)。各カテゴリからネットワーク上のメディアにアクセスできる。PCで録画したテレビ番組の再生も可能だ(右)

 気になる相互接続性だが、さすがにDiXiMが採用されているだけあって、ほとんどの機器との接続が可能だった。筆者の手元にあった以下の機器で接続を試したところ、HS-D300GLのみメインメニューからコンテンツを参照できず、サーバーを選んでコンテンツを再生する必要があったが、そのほか製品に関しては問題なく、映像、音楽、静止画などのコンテンツを再生できた。

  • デジオン DiXiM Media Server
  • Windows Media Connect
  • 富士通 MyMedia
  • アイ・オー・データ機器 LANDISK HDL-AV250
  • バッファロー Linkstation HS-D300GL
 再生対応フォーマットは、動画ファイルの場合、MPEG-1/2およびWMVで対応ビットレートは最大10Mbpsまで。音声ファイルはMP3/LPCM/WAV/WMAに対応する。画像ファイルはJPEG/BMP/PNGに対応し、解像度はJPEGで最大1,600×1,200ピクセル、PNGで最大1,024×768ピクセル。一般的なコンテンツであれば問題なく再生可能だ。

 これまで、ネットワーク経由で他の機器に保存されている映像を再生するには、ネットワークプレーヤーを別途用意する必要があったが、これが液晶ディスプレイ単体で実現できるのはやはり便利だ。テレビ側のビデオ入力を消費する必要がなく、リモコンも1つで済む。やはり、DLNAクライアントの機能は最終的にテレビに搭載されるのが正しい姿なのだと実感させられた。

 このほか、IT-32X2にはUSBポートも搭載されており、マスストレージクラス対応のUSBストレージ製品やデジタルカメラなどに保存されたメディアファイルの再生も可能になっている。試しにソニーのHMP-A1を接続してみたところ、ITメニューの「USB」から問題なくデータを参照し、ハードディスク上に直接保存したBMP/JPG、WMV、MP3/WMAファイル(専用ソフトで転送したメディアファイルは参照不可)を再生できた。これまでPCが必要だったコンテンツの再生がIT-32X2のみでできるのは非常に便利だ。





マスストレージクラス対応のUSB機器の場合、本体に接続することで保存されているコンテンツを参照可能。ただし、専用ソフトなどを利用して転送したコンテンツは参照できないが、ハードディスク上にユーザーが手動で保存したコンテンツは問題なく再生できる




テレビと考えるか、液晶ディスプレイと考えるか

 このようにシャープのIT-32X2は、コンバータとしても機能する無線LAN機能、ネットワーク上のさまざまな機器のコンテンツを再生できるネットワークプレーヤー機能、USB機器上のメディア再生機能と、まさにマルチメディアディスプレイと呼ぶにふさわしい非常に豊富な機能を備えている。今回はあまり紹介しなかったが、DVI-I/アナログRGBによるPC接続に利用できる点(解像度は1366×768)、PCとテレビの入力映像を2画面表示できる「マルチ画面機能」なども大きなメリットだ。

 ただし、個人的に買うかと言われると、正直言って悩んでしまう。リビングに設置するテレビとして考えると、アナログチューナーのみでデジタルチューナーに対応していないのは物足りない。かといってPC用のディスプレイとして使うかと言われると物理的にも大きいし、価格も決して安くはない(参考価格26万円前後)。ネットワーク機能は非常に大きな魅力ではあるが、どのようなニーズのユーザーがターゲットなのかがいまひとつ見えにくいと感じた。

 ただ、この製品によって、テレビ+ネットワークプレーヤーというスタイルが提案された意義は大きい。ニッチだと思われていたネットワーク機能が、今後家電に進出していくきっかけを作った製品として評価したい。


関連情報

2005/10/11 11:09


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。