第196回:5,980円で自作できる低価格NASケース
アイ・ジー・エスのネットワーク接続型HDDケース「LAN SERVER」



 アイ・ジー・エスから、NASやUSB接続型HDDとして利用できるHDDケース「LAN SERVER」が発売された。NASを自作できる製品はいくつか発売されているが、LAN SERVERの最大の特徴は5,980円という低価格な点にある。この価格でどこまでの実力を備えているのかを実際に検証してみた。





低価格ながら完成度の高いケース

LAN SERVER

 アイ・ジー・エスから発売された「LAN SERVER」は、割り切って使う限りはなかなかコストパフォーマンスの高い製品だと感じた。低価格ゆえにNASとして見ると機能的に物足りない部分も見受けられるが、個人で複数台のPC間でファイルを共有する、もしくは外付けHDDとして利用する限りでは、必要最低限の機能を備えており、実用上は困ることがない。

 実際、高機能なNAS製品を利用しているユーザーの中にも細かなアクセス制御やバックアップ機能を利用していないユーザーもいるだろう。そういったユーザーにとっては、「LAN SERVER」の機能だけでも十分に満足できるのではないか。

 実際に製品を見ていこう。筐体は価格的からあまり期待していなかったのだが、実際に目にしてみるとなかなか完成度は高いと感じた。フロントと背面はプラスチック製だが、外装にアルミが採用されており、低価格なHDDケースにありがちな安っぽさは感じられない。

 感心したのは正面から見て右側面のアルミパネルだ。このパネルは側面にある4本のネジで固定されているのだが、ネジを締め込むとパネル全体が内側に押される格好となり、内蔵したハードディスクの側面に密着するようになっている。要するにHDDのヒートシンクの役割も担っているというわけだ。

 市販のNAS製品の場合、HDDの放熱対策でファンが内蔵されていることが多いが、こういった仕組みからLAN SERVERは完全なファンレスとなっている。基本的に電源を入れっぱなしで使うことが多いことを考えると、動作音は静かに越したことはない。実際にHDDを搭載して利用してみたが、本体から聞こえてくるのはHDDの動作音だけで、省電力機能によってHDDの回転が止まるとほぼ無音と非常に静かだった。

 組み立ても非常に簡単だ。バックパネルを固定している2本のネジを外し、前述した側面の4本のネジを取り外すと、フロント側から内部のケースを引き出せる。ここにHDDを固定し、IDEと電源ケーブルを接続するだけでいい。今回、筆者はHGST HDS722525VLAT80(250GB)を利用して組み立てたが、作業時間は10~15分程度で完了した。


本体のネジを計6本外すと内部のケースを引き出すことができる。内部にHDDを装着すれば組み立ては完了だ

背面にはLANポートとUSBポート、電源ポートを装備。USB2.0での接続にも対応する




設定もシンプルだがインターフェイスは英語のみ

 設定もシンプルだ。LAN SERVERには標準で「169.254.0.1」というアドレスが割り当てられており、標準ではLAN SERVERがDHCPサーバーとして動作する設定となっている。このため、DHCPサーバーが存在しない環境であれば、ブラウザを利用して「169.254.0.1」にアクセスすれば設定画面が表示される。なお、ルータなどのDHCPサーバーが存在するネットワークでは、LAN SERVERが自動的に自身のDHCPサーバーを無効にして、ネットワーク上のDHCPサーバーからIPアドレスを取得する仕様になっている。

【お詫びと訂正】
 初出時、設定の際にはPC側のIPアドレスを一時的に変更する必要があると記述しておりましたが、実際にはDHCP環境下でLAN SERVERが自動的に自身のDHCP機能を無効にするため、IPアドレス変更の必要はありません。お詫びして訂正いたします。


1) IPアドレスの割り当て
本体のIPアドレスは固定設定のみに対応
LAN側のサブネットに合わせてIPアドレスを設定する
2) HDDのフォーマット
LAN SERVERが対応するのはFAT32のみ
設定画面からフォーマットを実行しておく

3) ホスト名とワークグループの設定
標準のホスト名は「STORAGE-xxxx」でワークグループは「WORKGROUP」
必要に応じて既存ネットワークに合わせて設定を変更する
4) 共有フォルダの設定
標準で「PUBLIC」フォルダが自動的に共有される
必要に応じて共有フォルダを追加する

 ここまでの設定でPCからマイネットワークを開けば、ネットワーク上のLAN SERVERを認識し、共有フォルダにアクセスできる。機能が単純なだけに、設定がシンプルですぐに利用できるのは高く評価できる。設定画面やマニュアルが英語であることは少々残念だが、これならはじめてのユーザーでもすぐに利用できるだろう。なお、LAN SERVERにはFTPサーバー機能も搭載されており、標準で有効に設定されているが、FTPを利用する場合はユーザーの登録も必要になる。


FTPサーバー機能も搭載。anonymousでの利用も可能だが、ユーザーごとに利用する場合は登録が必要




速度的は控えめだが価格相応

 パフォーマンスに関しては、価格なりと言ったところだろう。実際に20MBのファイルをWindowsからコピーして速度を計測してみたが、以下のグラフのように読み込みで約3.8MB/s、書き込みで約3.7MB/sという結果となった。個人的に所有しているバッファローのHS-D250GLが読み書きともに10MB/sの速度を実現できていることを考えると、半分以下の速度というところだ。

LAN SERVERの速度比較
型番リードライト
LAN SERVER3.8MB/s3.7MB/s
HS-D250GL9.8MB/s10.1MB/s
LAN SERVER(USB)29.9MB/s28.1MB/s
※Windowsから20MBのファイルを読み書きした時間から速度を計測
※PCにはAthlon 64 X2 3800+、RAM1GB、HDD250GB×2(RAID0)を利用


 ただし、実際に利用している限りでは、そこまで遅いという印象はない。さすがに映像などの数GBのファイルをコピーすると長い時間がかかるが、文書ファイルや音楽データなど数KB、数MBクラスのファイルであれば、パフォーマンスの低さを意識させられることはない。大容量のデータを高速にコピーしたいというのであれば、USB接続も可能なので、一時的にネットワークから切り離してUSBで接続して使うという手もあるだろう。

 なお、LAN SERVERで採用されているファイルシステムは前述したようにFAT32だが、詳細は不明だが独自の技術によって4GB超のファイル転送にも対応している。試しに9GBのファイルをコピーしてみたが、問題なくコピーが完了し、コピー後のデータも無事に開くことができた。また、Windowsからファイルの読み書きに加えて、Mac OS Xからのアクセスもテストしてみたが、日本語ファイルの文字化けなども見られず快適に利用できた。





セキュリティ機能と安全性には割り切りが必要

 このように、LAN SERVERは、ネットワーク経由で利用する外付けHDDとしては、手軽で、低価格、そのうえ実用性も十分な製品であると言える。余っているHDDを活用したいというような場合にはうってつけの製品だろう。

 しかし、いくつか妥協しなければならない点もある。1つはセキュリティ面だ。LAN SERVERでは共有フォルダにパスワードを設定することが可能だが、一般的なNASに搭載されているようなユーザー/グループごとのアクセス権設定はできない。また、LAN SERVERのパスワードは、Windows 98/Meなどのアクセス制御機能に近く、ネットワーク経由でのアクセス時にしか適用されない。セキュリティ機能を持たないFAT32がファイルシステムなので仕方がないのだが、たとえばLAN SERVERをUSBで接続すると、パスワードを設定した共有フォルダにもパスワードなしでアクセスできてしまう。複数ユーザーでの共有という使い方はあまりおすすめできないので、あくまでも個人で使う製品だろう。


ユーザーごとのアクセス権制御には未対応。共有フォルダにパスワードを設定することも可能だが、USBで接続するとパスワード設定したフォルダにもアクセスできてしまう

 また、データの安全性という点でも多少の不安は残る。一般的なNAS製品のようにバックアップ機能は備えておらず、こちらもFAT32のおかげでファイルシステムとしてのデータ保護機能も利用できない。大切なデータを保存するという使い方よりは、テンポラリとしてデータを保存したり、PCのデータのバックアップ先として利用するのが現実的な使い方と言えそうだ。これらの点を考慮して割り切った使い方をすれば低価格さゆえのメリットは大きそうだ。


関連情報

2006/5/23 10:51


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。