第204回:ネットワーク経由の共同作業が効率的に
P2Pベースのグループウェア「Microsoft Office Groove 2007」
マイクロソフトが次期Microsoft Office製品「the 2007 Microsoft Office system」日本語版ベータ2のダウンロード提供を開始した。今回の製品の中で個人的に期待しているのが、新たに追加された「Microsoft Office Groove 2007」だ。この機能を検証してみよう。
●Officeの看板を得たGroove
なかなか意図が伝わらないメールでの連絡、受け渡し漏れや送り忘れが多く、バージョン管理も煩雑な添付ファイルやオンラインストレージでの成果物のやり取り、調整に時間がかかるメールベースでのスケジュール調整……。最近、これらのツールを使った仕事の進め方に限界を感じはじめてきた。
企業ユーザーであれば、社内の連絡やファイル管理、スケジュール調整もイントラネットやグループウェアで可能だろう。しかし、筆者のように個人で仕事をしている場合、取引先企業のグループウェアに参加させてもらえるわけでもなく、ほとんどの場合は前述したようにメールベースで連絡、ファイル管理、スケジュール調整のすべてを行なう必要がある。
期間が短い仕事であればそれでもいいが、プロジェクトが数カ月単位ともなれば、1カ月も経たないうちに送られてきたドキュメントと自分が作成したドキュメントが混在して区別がつかなくなる、重要なドキュメントが送られていない、または受け取ってないといったトラブルの1つや2つが発生することも珍しくない。毎度のことではあるのだが、実に非効率的だと感じさせられる。
そんな中、今回取り上げるP2Pベースのグループウェア「Microsoft Office Groove 2007(以下Groove)」が公開された。以前から米Groove Networksによって販売されていた製品(国内でもいくつかの代理店で扱われていた)で、個人的にも2.0や3.0を使っていたことがあったのだが、国内では正直言って知名度が低い。そのため前述したような共同作業のために使おうと思っても相手が製品を理解してくれず、利用を断られることが多かった。
Officeファミリーとして登場した「Microsoft Office Groove 2007」。P2P技術を利用して、ファイル共有やディスカッションといった共同作業環境を手軽に実現できる |
そのGrooveがようやく国内で、しかもOfficeファミリーの一員として登場した意味は非常に大きい。この手のソフトウェアは、当たり前だが一緒に使う相手がいないとあまりメリットがない。基本的な機能はどうやら以前のGroove 3.0ベースで目新しい点はないようだが、個人的には何よりOfficeの看板を得たことを歓迎したい。
●ワークスペースを共有する
では、実際にGrooveの機能を見ていこう。まず、前述したようにGrooveはP2Pの技術を利用するため、基本的にサーバーは必要ない。もちろん、完全にサーバーが不要なわけではなく、アカウントの管理やPCの特定にはサーバーが必要だが、これにはマイクロソフト側が用意したパブリックサーバーを無償で利用できる。このため、Grooveをインストール後、パブリックサーバーにアカウントを作成すれば、社内や家庭内にサーバーを用意する必要はない。Windows Live MessengerのようなIMソフトをイメージするとわかりやすいだろう。
Grooveでほかのユーザーと情報を共有するには大きく分けて2つのステップが必要になる。1つは連絡先の追加、もう1つはワークスペースの共有だ。
まずは連絡先の追加だが、これはIMソフトと同様の操作だ。Grooveをインストールすると「開始バー」と呼ばれるウィンドウが表示されるが、この連絡先タブにほかのユーザーを登録しておく。ほかのユーザーのアカウントは、同一LAN上、もしくはパブリックディレクトリからユーザー名で検索できるので、ここで検索して追加すればいい。なお、連絡先はあくまでもアドレス帳のような存在のため、登録した相手と必ずしも情報を共有する必要はない。相手と情報を共有するかどうかは、次のワークスペースの設定次第となる。
Grooveの開始バー。連絡先タブにほかのユーザーのアカウントを追加できる。IMソフトのように登録したユーザーの状態が確認、メッセージを送信することもできる |
続いてはワークスペースだ。これは説明が難しいのだが、共有するデータのまとまりのようなものだと考えるといいだろう。Grooveでは、ファイルの共有や掲示板などの機能を利用できるが、これらのデータはワークスペースごとに管理されている。まずワークスペースを作成し、そのワークスペースにほかのユーザーを招待することで情報を共有するというイメージになる。
ワークスペースの利用方法は非常に柔軟で、この柔軟な考え方こそが一般的なグループウェアとGrooveとの違いとも言えるだろう。たとえば、一般的なグループウェアと同様に「Impress Watch」や「Broadband Watch」という会社組織単位でワークスペースを作成して利用することも可能だが、「イニシャルB」といったプロジェクトごとにワークスペースを作成することもできる。
もちろん、ワークスペースの複数作成も可能だ。短期間のプロジェクト向けにワークスペースを作成し、プロジェクトが完了したら削除するなど、単発でワークスペースを繰り返し利用することも可能となっている。
ワークスペースは用途やメンバーによって複数所有できる。プロジェクトごとに、その都度必要なメンバーと手軽に情報を共有できるのがメリットだ |
ワークスペースで利用可能なツールも充実している。ファイル共有やディスカッション(掲示板)、予定表のほか、SharePointサーバー上のデータを共有できる「SharePointファイル」、独自の形式を作成してアンケートによるデータ収集ができる「フォーム」なども利用可能だ。
これらツールは必要に応じてツールメニューから追加するだけで利用できる。たとえばアンケートでデータを収集したい期間だけフォームツールを追加して利用する、といったことも可能だ。ツールの追加などの管理も柔軟に可能で、ワークスペースにユーザーを招待するときに、そのユーザーに管理権限を与えておけば、複数のユーザーでワークスペースを管理できる。
基本的なファイル共有やディスカッションのほかに、予定表や案件管理、さらにはSharePointとの連携、カスタマイズ可能なフォームなど、各種ツールが用意されている |
さて、このように作成したワークスペースは、基本的にはユーザー間のデータ同期で共有される。最初の段階では、作成者のPC上にローカルデータとしてワークスペースが作成される。このワークスペースに招待したユーザーがGrooveを起動し、ワークスペースへの招待を承諾すると、その時点からワークスペースの同期が開始される。作成者のPCからデータがネットワーク経由で転送され、ローカルに保存されるというわけだ。
このため、登録されているデータが少ない最初の段階からワークスペースを共有していたユーザーの場合、あまり転送に気を配る必要はないが(差分のみが同期される)、途中からワークスペースに招待されたユーザーは、それなりに大量のファイル転送が必要となる。なお、同期のためのデータは、ほかのユーザーのPCから転送されるため、ユーザーが誰もオンラインで作業していないとデータは転送されない。最初はLAN上で同期するなどの工夫が必要だろう。
ちなみに、Grooveでのファイル共有はデータのバックアップとしても利用できる。たとえば、PCがクラッシュしてデータが消失してしまったとしても、Grooveで共有しているデータはほかのユーザーのPC上に保存されているため、Grooveを再インストールし、同期し直せばデータが元通り復旧する。考えようによっては、Grooveを介してほかのユーザーのストレージにデータをバックアップしているようなものだ。極端な話、1人のユーザーがデスクトップPCとノートPCの間でGrooveを利用してデータを同期させる、という使い方も可能だろう。
●本命は次のバージョンか?
このように、個人的には非常に便利だと感じるGrooveだが、やはりまだ知名度が低いせいか、PCにインストールするのが面倒だからか、肝心の情報を共有するユーザーがほとんどいない。
また、個人的に使いにくいと感じる部分もある。たとえば、ワークスペース間でのデータ共有が弱い点は実用上不便だ。ワークスペースを複数作成してプロジェクトごとに使い分けている場合、複数のワークスペースで登録されているスケジュールを串刺し参照できるようになると、より使いやすいだろう。
スケジュールに関しては、アプリケーションとのデータ連携といった点でも同様で、GrooveのスケジュールデータをOutlookやWindows Vistaに搭載予定のWindows Calendarからシームレスに参照することができない。こういった点から、事実上、スケジュールツールなどは単純な使い方しかできない。ツールに関しても、もともと企業がカスタマイズして利用することが前提となっているからか、細かな点で使い勝手が悪いと感じる部分も少なくないだろう。
まだ製品版がリリースされる前から言うのもおかしな話だが、本命は次のバージョンと言ってよいだろう。もちろん、使いにくいスケジュールは使わずに、ファイル共有とディスカッションだけでも十分に実用的だが、今後は他のOfficeアプリケーション、もしくはオンラインのストレージやカレンダーサービスなどとの連携ができるようになると便利そうだ。
また、個人的には、「Groove」という単体の製品だけでなく、Windows Live Messengerに一部の機能、たとえばディスカッションとファイル共有(今の共有ではなく複数ユーザーでの共有が可能な機能)を統合するといった方向性で進化してくれれば、より利用者が増えて使いやすくなるのではないかとも感じる。より敷居を低くする工夫も今後は必要だろう。
関連情報
2006/7/18 11:01
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