第212回:音声通話に特化したSkypeならではの使い方が可能
ロジテックのSkype認定無線LAN電話端末「LAN-WSPH01WH」



 ロジテックからSkype(スカイプ)を内蔵した無線LAN電話端末「LAN-WSPH01WH」が登場した。発売前の製品をお借りすることができたので、早速その実力を検証してみた。


本体は携帯電話に比べて大きい印象

「LAN-WSPH01WH」。標準価格は26,355円

 ロジテックの「LAN-WSPH01WH」は、Skypeを内蔵した無線LAN機能搭載の電話端末だ。これまでもSkypeを本体から操作できるハンドセットなどはいくつもの製品が発売されていたが、これらはUSBでPCと接続する必要があり、PCが起動していなければSkypeを使うことができなかった。これに対してLAN-WSPH01WHはSkypeを内蔵しているため、わざわざPCを立ち上げる必要なく端末のみでSkypeを利用できる。なお、製品の概要や画面イメージなどはこちらの記事を参照いただきたい。

 製品を実際に手にした時の「意外に大きい」というものだった。筆者が普段持ち歩いている携帯電話「au W41H」の重量が159gであることを考えると、104gしかないLAN-WSPH01WH方が軽く、サイズに関してもストレートタイプである分高さがあるが、幅や奥行きは大差がない。しかも、実際に手に持ったときの手のひらへのおさまりは悪くないのだが、なぜか実際よりも大きく感じてしまう。

 この原因は、おそらく本体と液晶画面の比率のバランスから来ているのだろう。LAN-WSPH01WHには1.8型のCSTNカラー液晶(128×160ドット)が搭載されているが、このサイズが本体サイズに比べて小さい。このため晶左右のスペースが気になってしまい、全体的にサイズが大きく、どことなくアンバランスなデザインに感じられた。

 ただし、これは携帯電話と比べた場合の話だ。たとえば、筆者は家庭内で利用している電話の子機としてNTT東日本の無線IP電話端末「ひかりパーソナルフォン(WI-100HC)」を利用しているが、これと比べるとデザインは「LAN-WSPH01WH」の方が全体的に洗練されていると感じた。デザインを重視したためかボタン類が小さく、特に本体下方に集中する数字ボタンを親指で操作しにくい印象があるが、基本的にはSkypeのコンタクトリストを利用して電話をかけることになるため、中央のスティックやその両脇のボタンしか事実上利用しなくて済む。このため、ボタン類の操作性はさほど気にならなかった。


左からNTT東日本のWI-100HC、LAN-WSPH01WH、auのW41H。決して大きなサイズではないのだが実際よりも大きく感じられる




無線LANは手動で設定。連続通話時間は実用に十分

無線LANの設定は手動で行なう

 実際に製品を使ってみよう。電源ボタンを長押しして起動すると、無線LANの接続設定画面が表示される。接続可能なアクセスポイントが近隣にない場合、いつまでたっても検索中のまま次の画面に進まないが、途中でキャンセルする自宅のアクセスポイントが表示される。ここでアクセスポイントを選び、暗号キーを入力すると接続されるという仕組みだ

 最近の無線LAN製品はゲーム機なども含め、バッファローの「AOSS」やNECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」といった自動設定機能に対応しているが、残念ながらLAN-WSPH01WHには、このような機能は搭載されていない。このため、基本的には手動の設定する必要がある。面倒ではあるが入力するのは初回のみで良いと考えれば大きな問題ではないだろう。ただし、せっかくUSBポートが用意されているのだから、初回設定はUSB経由でPCからできるとありがたいと感じた。

 なお、対応する無線LANの規格はIEEE 802.11b/gとなっており、セキュリティ面では64/128bitのWEPに加え、WPA、WPA2をサポートしている。このため、一般的なアクセスポイントであればどのような製品でも問題なく接続することが可能だ。音声通話にあまり帯域を必要としないことを考えると、IEEE 802.11bのみの対応にして、消費電力の節約を狙った方が有利なようにも思えるが、これによって連続通話時間などが犠牲になっているというわけでもないようだ。

 LAN-WSPH01WHの連続通話時間は約3時間で、連続待受時間は約30時間。前述したように筆者はNTT東日本のWI-100HCを利用しているが、IEEE 802.11b準拠のこの製品は連続待ち受時間こそ約55時間と倍近くまで長いが(おそらくSkypeを動かして待ち受けるのと単純なSIPで待ち受ける差だろう)、連続通話時間は約3時間と同じとなっている。場合によっては3時間以上の長電話も日常的という利用者もいるかもしれないが、一般的な使い方であれば、3時間もあれば通話中のバッテリー切れを心配する必要はほとんどないだろう。実際、筆者は普段WI-100HCを利用しているが、これまでに通話中のバッテリー切れを経験したことは一度もない。





PC用Skypeと同じ感覚で利用可能

 無線LANでの接続が完了すると、Skypeのロゴがあしらわれたトップ画面が表示される。ここで右上のボタンに割り当てられた「サインイン」を選択すれば、PC上で動作するSkypeと同様にIDとパスワードを入力してログインできる。これで普段利用しているコンタクトリストが表示されて通話が可能になる。まだSkypeのIDを所有していない場合は、LAN-WSPH01WH本体から新たにIDを取得することも可能だ。

 試しにPC上のSkypeユーザーに加えて、SkypeOutを利用した一般加入電話や携帯電話に電話をかけてみたり、SkypeInを利用して050番号での着信を受けてみたが、どの場合でも音質は悪くないと感じた。PC上のSkypeの場合、音質に関しては利用するスピーカーやマイクの性能や音量の設定に依存するところが大きい。自分の声相手に聞こえにくいといったトラブルのほとんどは、スピーカーやマイクの設定が適切でない場合が多い。これに対して、LAN-WSPH01WHでは、こういった設定を細かく調整しなくても、標準のままで十分にクリアな音質で通話できたと感じた。

 しかも、LAN-WSPH01WHの本体側面に配置されている音量調節ボタンがが実に便利だ。NTT東日本のWI-HC100や一般的な携帯電話でもそうだが、いざ通話をはじめから相手の声が聞こえにくいといった場合、相手に「ちょっと待って」と断ってから耳から電話機を離し、その上で画面を見ながら音量を調節しなければならないことがある。これに対して、LAN-WSPH01WHでは、通話中でも指で側面のボタンを操作して簡単に音量を調節できる。特に、Skypeの場合、相手側がPCのマイクの音量を適切に設定していないケースが多いため、音量の調節が頻繁に必要な場合もある。このようなシーンでこのボタンは非常に重宝する。


側面に音量ボタンがあるおかげで通話中でも音量の調節が容易。特にSkypeユーザー相手に通話に重宝する

 このほか、底面の端子を利用することで、付属のイヤホンマイクによる通話もできるようになっており、端末を持ち歩きながらハンズフリーで通話することも可能だ。これまで、SkypeというとやはりPCの前でヘッドセットを使って利用するというイメージのものであったため、何とも表現しにくいあの独特の着信音がいつでもどこでもポケットから聞こえてくるというのはなかなか新鮮な体験だった。





Skypeならではの使い方も

相手がSkypeユーザーであれば、会議中などの状態を相手に通知できる

 このように一端設定してしまえば、普通の電話として違和感なく使えるLAN-WSPH01WHだが、一般的な電話とは少し違ったSkypeならではの使い方も可能だ。中でも便利なのがオンライン状態を利用して、相手に状況を伝えることができる点だ。一般的な電話の場合、相手が何をしているのかがわからないため、たとえば会議中などでも電話がかかってきてしまうことがある。

 これに対して、Skypeならオンライン状態を「取り込み中」などに設定しておくことで、音声による呼び出しを制限できる。残念ながら、相手もSkypeを利用していないと状態を確認できないが、このようなプレゼンス機能は企業内のIP電話内線システムなどでのニーズが高い。もちろん、バックエンドのシステムや通信の仕組みが企業システムと必ずしも親和性が高いとは言えない可能性もあるが、今回、LAN-WSPH01WHという専用端末が登場したことで、もしかすると企業システムへのSkypeの導入が進む可能性もある。

 ただ、その一方で、もう少しSkypeらしさが足りないと感じる部分もあった。たとえば、文字メッセージの送信だ。LAN-WSPH01WHは音声端末としての機能しか持たないため、登録したコンタクトリストのユーザーとチャットによる会話をしたり、SMSメッセージを送信することができない(相手側のSkypeからは送信できない相手と判断される)。文字入力の関係でチャットは事実上難しい面もあるが、SMSに対応し、携帯電話のショートメッセージやメールのような感覚で使えるようになれば便利さは格段に向上しそうだ。

 なお、すでにSkypeを利用しているユーザーが、PC上とLAN-WSPH01WHで同じアカウントを併用することも可能だ。この場合、電話がかかってくると両方が呼び出され、先に通話を開始した方に電話がつながる(電話を取らなかった方は相手が切ったと判断され不在着信扱いになる)。

 ただし、同時ログインではうまく動作しない機能もある。 たとえば、状態の変更に関しては、PCとLAN-WSPH01WHの両方で変更したとしても、LAN-WSPH01WH側での設定しか相手に表示されなくなる。また、相手がチャットをしようとして呼び出した場合、PC上で最新版を使っていたとしても、LAN-WSPH01WH側のSkypeのバージョンが判断され、バージョンが古いためマルチチャットに対応していないといったようなメッセージが表示される(当然チャットが開始されてもLAN-WSPH01WH側は反応なし)。アカウント共有しても一見問題はなさそうだが、完全に共有できているわけではないので注意が必要だろう。





音声端末と考えればお買い得

 このように今回専用端末でSkypeを利用したことで、あらためて「Skypeは電話」であることを実感させられた。やはりPCで使う場合と異なり、いつでもどこでも着信を受けられ、電話をかけるのも気軽にできるため、より音声通話の用途で使う機会が増える印象だ。筆者の場合、そもそもPCフォンというスタイルがあまり好みでなかったこともあり、専用端末でSkypeを使える便利さをより一層実感できた。

 ただし、PC向けに提供されているSkypeではビデオ通話がサポートされていたり、ベータ版向けにSkypecastなどのサービスが提供されているが、これらのサービスをLAN-WSPH01WHから利用することもできないのは残念だ。同社によるとファームウェアのアップデートは随時提供するということだが、ハードウェアが必要な機能は実現できず、今後さらに向上していくことが考えられるSkypeの機能に、どこまで対応できるかはわからない。少なくとも現状は、あくまでも音声端末として割り切って利用する必要がありそうだ。

 また、今後の要望として、公衆無線LANでの利用を可能にして欲しいところだ。公衆無線LANの場合、SSLを利用したユーザー認証が必要になるため、現状のLAN-WSPH01WHでは利用できない。これが可能になれば、家庭内や企業内以外でもSkypeを手軽に利用できるようになる。それが無理でも、せめて複数のアクセスポイントを登録し、場所によって手軽に接続先を切り替えられるようにしてほしいところだ。

 さらに細かな点としては、電話番号を直接入力した際に、自動的に「+81」を付加してくれるようになるとありがたい。コンタクトに登録しておけばいいのだが、未登録の相手に電話をかけようとして、うっかり+81を付け忘れてSkypeOutで電話がかからないと、あわててしまうことがよくある。PCのソフトウェアは自動的に付加してくれるので、そうした細かな機能の改善も期待したい。


関連情報

2006/9/19 10:55


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。