第215回:FAXやスキャン文書、あらゆるドキュメントをネットワークへ
シャープのネットワーク対応複合機新モデル「見楽る UX-MF50CL」



 シャープから登場した「見楽る UX-MF50CL」は、個人向けの複合機として多彩な機能を備えた製品だ。受信したFAX、スキャンした文書をメールやFTPで転送でき、直前の通話を録音できる「戻って録音」などの機能を備えている。ネットワーク系の機能を中心にその実力を検証する。





文書や写真、あらゆるドキュメントをネットワークへ

UX-MF50CL

 シャープの「見楽る UX-MF50CL」は、1台でいくつもの用途に対応できるネットワーク対応の複合機の最新モデルだ。従来のダイレクトプリント、コピー、FAX、プリンタ、スキャナ、コードレス電話の1台6役から、さらにPCからFAXを送信できる「PC-FAX」、携帯電話から赤外線を利用したダイレクトプリントが可能な「IrSimple対応ケータイリンク」の2役を加え、1台8役という非常に多機能な製品だ。

 これら機能の中から本コラムで注目したいのはやはりネットワーク機能だ。特に、これまでに発売されていた従来モデルに比べて、受信したFAXを指定のメールアドレスに自動転送できる「FAX to E-mail」機能、PCで作成した文書を印刷せずに直接FAX送信できる「PC-FAX」機能などの使い勝手を中心にレビューしてみよう。

 今回、「見楽る UX-MF50CL」を実際に使ってみて、は「これはもはや家庭向けのドキュメントゲートウェイだ」と実感した。

 これまで、家庭用のFAXやプリンタ、そして複合機は、受信したFAXを印刷する、PCからデータを印刷するといったようにドキュメントの最終的な出力先として利用されることが多かった。これに対して、UX-MF50CLは、これまでのような出力先としてのオーソドックスな使い方はもちろんのこと、受信したFAXやスキャンしたデータをメールやストレージに転送する、PCで作成した文書をFAXすると言ったように、データのやり取りを仲介するゲートウェイ的な使い方ができるようになっている。


UX-MF50CLは、単なるドキュメントの受信機ではない。FAX原稿をメールで転送するなど、ドキュメントをネットワーク経由で別の場所へと転送できる

 もはやFAX機は利用シーンが少なくなりつつあることを考えると、UX-MF50CLのような高機能な複合機の存在、特に家庭での存在に疑問を持つユーザーもいるかもしれない。しかし、実際には単純なFAX機などではなく、紙媒体をデータ化したり、ネットワークやストレージに転送する役割を持った機器と考えると、その利便性がはっきり見えてくる。


UX-MF50CL本体前面背面にはUSBポートとLANポート

本体上面にスキャナを搭載4.3V型のASVカラー液晶




受信したFAXをメールで転送可能

 以前、本コラムで前モデルの「UX-MF30CL」をレビューした際、FAXの受信機能が弱い点が残念だと書いた。スキャンした原稿であればFTPでネットワーク上のPCやNASに転送したり、メールで転送などが可能だったが、FAXに関しては受信した書類をネットワークで転送できなかったからだ。

 これに対して、今回の新モデルではFAXのメール転送、FTP転送が可能となっている。具体的には、あらかじめPCからブラウザでUX-MF50CLの設定画面を開き、「E-mail設定」で利用するSMTPサーバーのアドレスやポート番号、認証情報などを設定しておく。その後、受信FAX転送設定で転送先にメールアドレスを指定しておく。これで、UX-MF50CLがFAXを受信すると、自動的に指定したアドレスへとFAXを転送してくれるようになる。


UX-MF50CLの設定画面。SMTPサーバーは外部のものを利用。E-mail設定で利用するSMTPサーバーを設定後、受信したFAXの転送先アドレスを登録しておけば、自動的にFAXがメールで転送される

受信したFAXやスキャン原稿はモノクロの場合はTIFで、カラーの場合はPDFの添付ファイルとしてメールで転送される。Webメールなどを利用すれば、どこでもFAXの受け取りと確認が可能だ

 個人的には、すでに同様の環境をNTT東日本の「FAXお知らせメール」で実現しているのだが、UX-MF50CLを利用すれば、これとほぼ同様の環境をNTT以外の電話サービスでも利用できるのは非常に便利だ。FAXをメールで受信できるようになると、用紙切れなどの心配がないだけでなく、データの転送や二次利用などが容易になり、さらに受信した過去の情報の管理も飛躍的に楽になる。相手との連絡や受発注にFAXを利用するような個人事務所や商店、筆者のように文書の校正などにFAXを利用しているユーザーにはぜひお勧めしたい機能だ。

 一方、FTP転送だが、こちらも設定は簡単で、ブラウザから設定画面を開き、「接続先PC(FTP)リスト」にNASなどのFTPサーバーの情報を登録。転送先を前述したメールからFTPへと切り替えれば良い(メール転送とFTP転送は排他)。これにより、FTPサーバー機能を搭載したNASなどに受信したFAXを保存できる。小規模なオフィスで複数のユーザー宛のFAXが届く可能性がある場合は、こちらの方が便利な場合もありそうだ。

 なお、FTPサーバーはNASなどのLAN内のものだけでなく、インターネット上のサーバーも指定できる。試しに、筆者が個人で契約しているレンタルサーバーのホームページ領域にFTPでFAXを転送してみたが、問題なく受信したFAXを転送でき、そのFAXをブラウザを利用して参照することが可能だった。


受信したFAXやスキャンした原稿をFTPで転送することも可能。FTPサーバー搭載のNASやファイルサーバーなどはもちろんのこと、インターネット上のFTPサーバーやWebサーバーなどにも転送可能。実際に、転送してみたが問題なくFAXを参照できた

 もちろん、インターネット上に公開されるため認証などの仕組みを別途用意しておく必要があるが、これにより過去に受信したFAXを含め、すべてのFAXをどこからでも参照できる環境を整えることができるというわけだ。同様にスキャンした原稿をFTPで転送することもできるため、プリントした写真をスキャン&転送の1ステップでNASに保存する、ホームページで公開するといった使い方もできる。このように、データをネットワーク経由で手軽にやり取りできるあたりは、まさにドキュメントゲートウェイといった印象だ。





「戻って録音」で迷惑電話を撃退

 ネットワーク系の機能以外では、電話としての機能も進化している。子機が2.4GHz帯を利用したデジタルコードレスとなった点もポイントだが、何と言っても注目されるのは「戻って録音」機能だろう。

 これは、文字通り、過去の通話を戻って録音することができる機能だ。過去の通話と言っても、内部メモリーを利用して常に一定時間の通話を録音するという仕組み上、最大45秒前までに限られるが、これにより「言った、言わない」といったトラブルになりそうな会話を録音しておいたり、録音した会話を通話中に再生して相手に聞かせて迷惑電話を撃退するといった使い方ができるようになっている。

 「今から録音」というボタンを押した時点から録音を開始する機能も搭載されており、こちらは外部メモリーを利用することでさらに長時間の録音が可能となっている。残念ながら録音した音声は独自形式となるため「見楽る」シリーズ以外では再生できないが、電話ベースでのトラブル解決に一役買う機能と言えそうだ。

 プリンタとしても非常に高機能で、標準では4色。黒インクをフォトカラーに交換することで6色での印刷にも対応し、写真も美しく印刷することができるようになっている。さらに、今回試用した「UX-MF50CL」には、4.3型ASVカラー液晶が搭載されており、本体に装着したメモリーカードの写真を見てから印刷できる。このほか、携帯電話で撮影した写真を赤外線経由で印刷できる「IrSimple」も搭載しており、専用プリンタ、もしくはプリンタベースの複合機と遜色ない実力を備えている。

 個人的には、通常のA4用紙のトレイに加えて、写真用のL版を装着しておくための専用トレイが用意されると、用紙の入れ替えの手間がなく、さらに使いやすそうだと感じたが、これならカラープリンタや複合機の購入を検討しているユーザーにも十分におすすめできると言えそうだ。





SOHO、小規模事務所はもちろん家庭での利用にもおすすめ

 このように、シャープの新型複合機「見楽る UX-MF50CL」は、1台8役というお得感だけでなく、1つ1つの役となるプリンタ、ファックス、スキャナ、コピーなどの各機能が非常に高い完成度を持つ複合機だと言える。特にネットワークでの利用を検討している場合は、共有プリンタとしてだけでなく、前述したように共有FAX、共有スキャナとしても高い利便性を備えている。

 個人的にはSOHO、小規模事務所といった環境でドキュメントのトータル環境としての導入をオススメしたいところだが、「戻って録音」などの電話機能を考えると家庭での利用にも適している。ちょっと値が張るが、数年前に買った電話、FAX、プリンタをリプレースして1台にまとめられることに加えて、新たにスキャナやコピーとしても使えるようになることを考えれば、決して高くはない投資と言えるだろう。

 ただし、個人的にはさらに要望がある。ひとつはPC-FAX機能の利便性を向上させて欲しい。UX-MF50CLではPCで作成した文書を印刷せずにFAXできる機能が搭載されているが、この機能は文書をTIFとして出力し、ブラウザの画面から電話番号とファイルを指定して送信するというかなり手動の仕組みとなっている。一般的な複合機では、PCのプリンタ一覧に登録されたFAX機を印刷時に指定してFAXを送信できるので、これと同じ方式に変更してもらえると使いやすそうだ。


PCからネットワーク経由でFAXを送信できる「PC-FAX」機能。アプリケーションから印刷を実行してFAXを送信するという形態ではなく、ブラウザから送信先とファイルを指定して送信する形態。印刷形式に対応してくれるとさらに便利だ

 また、初心者、特にネットワーク機器を使ったことがないユーザーには、若干設定が難しい印象がある。設定画面から機能ごとに設定をしていく方式ではなく、やりたいことから設定できるようなウィザード形式の設定を用意しないと、FAXとして購入したユーザーがステップアップしたいと思っても設定できないだろう。FAXやプリンタとして普通に使う分には使いやすいのだが、ネットワーク系の機能の使いやすさをもう少し配慮した方が良いかもしれない。

 さらに欲を言えば、「戻って録音」の時間をさらに長くし、通話終了後にも録音(現状は通話中のみ録音可能)できるようにして欲しいと感じた。これらが実現されれば、より誰にでも使いやすくお勧めできる製品になるのではないだろうか。


関連情報

2006/10/10 10:58


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。