第216回:1ライセンスで3アカウントまで使える「ウイルスバスター2007」
Web経由のセキュリティサービスが利用できるハイブリッド機能も搭載



 トレンドマイクロから最新版のセキュリティ対策ソフト「ウイルスバスター2007 トレンド フレックス セキュリティ」が発売された。新たにWeb経由でのセキュリティサービスに対応したのが特徴だが、利用者から見た最大の魅力は、そのライセンス体系だろう。1シリアルで3クライアントに対応するようになり、複数PC所有者にお買い得な製品となっている。





1シリアルで3台まで利用可能になったウイルスバスター

 つい最近まで筆者もその1人だったが、現在プロバイダーから提供されている月額版のウイルスバスターを利用しているユーザーがいるとしたら、そのまま月額版を使い続けるか、「ウイルスバスター2007 トレンド フレックス セキュリティ」を購入するかを真剣に検討した方が良いだろう。


毎年恒例のバージョンアップによって進化したトレンドマイクロの「ウイルスバスター2007 トレンド フレックス セキュリティ」。新たにWeb経由でのセキュリティサービスを利用可能となり、ライセンス体系も大幅に見直された

 というのも、今回、トレンドマイクロから発売された「ウイルスバスター2007」は、そのライセンス体系が大幅に改められたからだ。従来のウイルスバスター2006を含め、一般的な市販のセキュリティ対策ソフトでは、1シリアルで1台のPCのみインストールという制限が基本だった。

 これに対し、ウイルスバスター2007は1シリアルで3台のPCにまでインストールすることが可能となった。複数台のPCを所有しているユーザーにとっては、セキュリティ対策ソフトにかかるコストを大幅に削減することが可能となる。

 たとえば、筆者の場合、普段筆者が利用しているPCと、家族が利用しているノートPCの2台にプロバイダー(ぷらら)が提供している月額版のウイルスバスター2006を導入していた。この価格は1クライアントあたり420円/月となっており、2クライアント契約していた筆者は毎月840円、年間で10,080円支払っていたことになる。


これまでに利用していた筆者の月額版ウイルスバスターの明細。月額420円×2ライセンスで840円/月支払っていた。これが、ウイスルバスター2007なら年間4,725円で3クライアントまで対応できる

 これに対して、新しいウイルスバスター2007は、前述したように1シリアルで3台のクライアントにインストール可能で、その価格はダウンロード版で4,725円(1年間更新可能)。年間で比較すると半額以下のコストで済み、さらにまだ1クライアントにインストールできる権利が残ることになるわけだ。

 このため、筆者は月額サービスを即座に解約し、新たにウイルスバスター2007を購入した。もちろん、月額サービスも2006から2007へとバージョンアップされる予定となっているが、その時期は2007年1月が予定されている。また、バージョンアップ後、月額版のライセンス体系や価格がどのように見直されるのかも今のところ不明だ。この間の約3カ月の月額料金だけを考えても、新たにウイルスバスター2007を購入するメリットはあるだろう。





ライセンス管理はOSごと。再利用も可能

 さて、1シリアルで3台までインストールできるということで、ライセンスがどのように管理されるかが気になる読者もいることだろう。

 ウイルスバスター2007では、ライセンスをOSごとに管理するようになっている。インストール後、アップデート機能を有効にするには「PDJF-xxxx-xxxx-xxxx-xxxx」のようなシリアル番号に加え、インストールしたPCのニックネームをオンラインで入力し、そのライセンスをトレンドマイクロのサーバーに登録する必要がある。このときおそらくプロダクトIDなどから生成されたOSごとに固有の情報がニックネームと共に登録され、これにより、現在、何台のPCにインストールされているかが管理されるようになっている。

 ここで注意したいのは、PCではなく、あくまでもOS単位でライセンスが管理されるという点だ。たとえば1台のPCに複数のOSをインストールしたデュアルブート環境の場合でも、それぞれのOSでライセンスが1つずつ消費されるようになっている。1シリアルで3台までと言っても、実際はOS環境ごとに3つまでインストールできるというのが実態だ。


ウイルスバスターのライセンスはWEB上で確認可能。画面のように3クライアントまで登録できる。ライセンスはOSごとに管理されるため、デュアルブート環境などでも各OSごとにライセンスが必要

 では、3台を越えた場合、どうなるのだろうか? 筆者が購入したライセンスで実際に試してみたところ、4台目のPCでアップデートを有効にしようとしたところで、「登録できるコンピュータは3台までです」というメッセージが表示され、シリアル番号の追加購入か、登録情報の変更をするための画面が表示された。

 ここで、登録情報の変更を選択すれば、すでに登録済みのPCのライセンスを削除して、新たにインストールしたPCへとライセンスを変更できる。よって、PCを買い換えた場合、さらに来年に控えているWindows VistaにOSを変更した場合などでもライセンスを無駄にすることなく、必要なPCでライセンスを再利用することが可能だ。


1つのシリアルを3台以上のPCで登録しようとすると警告画面が表示され、シリアルの追加もしくは登録PCの変更が可能。PCの買い換えやOSの再インストール、Vistaへの移行など、環境の変化にも柔軟に対応できる

 最近では一家に2台以上のPCがある家庭も増えており、こういった環境では、まさにウイルスバスター2007の利用が最適と言えるだろう。筆者の場合、テスト用だからという理由で、セキュリティ対策ソフトをインストールしていないPCが存在したが、これらのPCにも余ったライセンスを付与できるようになった。





Web経由のセキュリティサービスが使えるハイブリッド型

 長々とライセンスについて解説してしまったが、肝心の機能に話を移そう。今回のウイルスバスター2007の機能的な特徴は、製品名に付けられている「トレンド フレックス セキュリティ」というWebサービスが利用できるようになった点だ。


製品名の由来ともなるWebサービスの「トレンド フレックス セキュリティ」。オンラインウィルススキャンの実行やスパイウェアのリアルタイム監視が可能なセキュリティウォッチャーのダウンロードなどのサービスを利用可能となっている

 これらのオンラインサービスは、主に外出先などでユーザーが他人もしくは公共のPCを利用する際に活用したり、今後、ウイルスバスター2007本体の機能を補助するようなセキュリティサービスを提供する機能となっている。たとえば、現状は、オンラインスキャンサービス、セキュリティウォッチャー、リモートファイルロックという3つのサービスが提供されている。

 最初のオンラインスキャンは文字通りWebベースのウィルススキャンサービスだ。これはすでに一般的なサービスなので特に珍しくはないだろう。続いてのセキュリティウォッチャーは、PCに常駐させて利用するタイプのスパイウェアの監視ツールだ。。

 最後のリモートファイルロックは、ファイルの保護サービスだ。PCに特殊なフォルダを作成し、ここにファイルを保存しておくと、インターネットに接続できない状態やリモートからロックをかけることでフォルダを開くときにパスワードを要求するようになる。これにより、たとえばPCをどこかに置き忘れた場合などでも、ファイルをリモートからロックして第三者に見られないようにすることができる。

 ただ、実際に使ってみた印象から言うと、これらの機能はあまり使う機会はないのではと感じた。まず最初のスパイウェア監視機能だが、ウイルスバスター2007本体にも搭載されているため(しかも高機能)、すでにウイルスバスター2007がインストールされているPCでわざわざ併用する必要はない。おそらく使う機会があるとすれば、外出先で他人や公共のPCを利用する場合だろう。セキュリティウォッチャーにはソフトウェアキーボードも搭載されているので、キーロガーなどにも対応できる。


トレンド フレックス セキュリティで提供される「セキュリティウォッチャー」。スパイウェアの監視とソフトウェアキーボードの利用が可能となっている

 続いてのリモートファイルロックだが、この機能の発想は確かに面白い。イメージとしてはクレジットカードを無くしたときなどに電話で使えなくするようなものと考えると良いだろう。万が一PCを置き忘れたり、盗難された場合でも、リモートからファイルを完全にロックできるため、重要な情報が外部に漏れる可能性が低くなる。

 しかし、リモートからファイルをロックするには、トレンド フレックス セキュリティのWebページからログオンしてロック操作する必要があるのだが、このログオンに使うIDがお客様番号になっている。このため、いざというときに備えて、ユーザーはお客様番号を暗記しておくか、どこかにメモして携帯しておかなければならない。正直、これはとても実用的とは言えないだろう。せめてメールアドレスやユーザーが任意に決めたIDでログオンできるようにしなければ、一瞬を争ってでも重要な情報の流出を防ぎたいというときに、まず間に合わない。現状はベータサービスなので、正式サービス開始時には何とか別の方法も考慮していただきたいところだ。


トレンド フレックス セキュリティのもう1つの機能「リモートファイルロック」。デスクトップに作成されたカギマークのフォルダにファイルをドラッグ。普段は通常のフォルダと同様に利用できるが、ネットワークが切断された場合やリモートからロックした場合はパスワードが要求される

リモートからのファイルロックは、トレンド フレックス セキュリティのWebページから操作可能。ただし、ログオンにはお客様番号の入力が必要。とっさの場合にこの番号を入力できるユーザーがどれだけいるのかは疑問

 しかも、前述したオンラインスキャンとセキュリティウォッチャーに関してはサポート対象外とWebに記述されている。同社によると、今回のウイルスバスター2007は、ローカルとWebのハイブリッドという点が1つの特徴だが、このうちのWebサービスに関しては、将来的な発展は見込めるが、現状はあくまでもオマケ程度に考えておいた方が良さそうだ。





オンラインサービス時代のセキュリティ対策ソフトの在り方に期待

 このように、トレンド フレックス セキュリティという新機能は現時点では課題も多いが、それでもすでにセキュリティ対策ソフトとして必要十分な機能を備えており、同社製品の特徴でもある動作の軽快さも損なわれてはいない。そして何といっても、高機能なセキュリティ対策ソフトが低価格で、しかも3クライアント分利用できるのだから、製品としては十分すぎるほどに魅力的だ。

 ただ、若干残念だったのは、警告が従来ほど控えめでなくなっている点だ。従来のウイルスバスターは、不要な警告やメッセージはなるべく表示せず、裏方としてひっそりと仕事をする印象があったが、今回の新バージョンでは、比較的頻繁にメッセージがポップアップ表示される。もちろん、表示を消すことも可能だが、寡黙な仕事人的なイメージでなくなったのは少々残念だ。


従来バージョンに比べて比較的警告メッセージが表示されるシーンが増えた印象がある

 また、トレンド フレックス セキュリティのサービス内容は、今後、さらに拡充されていくことを期待したい。果たしてどのようなサービスが登場するかはわからないが、メールやカレンダーやストレージ、さらにオフィスアプリケーションなど、あらゆるものがWeb上で利用可能な時代になりつつあるだけに、Web経由ならではのセキュリティサービスの登場を期待したいところだ。


関連情報

2006/10/17 10:53


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。