第219回:VOD、HDD内蔵STB、双方向サービスと着実に進化するCATV
J:COMのデジタル放送サービス「J:COM TVデジタル」



 CATV事業者の経営統合が進む中、筆者宅のテレビ環境も、これまでのCATV事業者のサービスからJ:COMのサービスへと切り替わった。J:COMになって新たに利用可能となったHDD内蔵STBやVODなどのサービスを実際に試してみた。





地味ながらも着実に進化しつつあるCATV

 本コラムでこれまで何度もレビューしてきたように、VODサービス、特に専用STBを利用して家庭のテレビに映像を配信するサービスは、4th MEDIA、OCNシアター、オンデマンドTVV、スカパー!光など、通信事業者によって提供されるものが多かった。

 しかし、これらとは異なる方式で、VODや双方向サービスといった新しいサービスの提供を進めているのがCATV事業者だ。インターネット接続サービスの契約者数では、すでにFTTHに2倍近い差をつけられてしまったが(平成18年6月末時点でFTTHが約630万、CATVは約340万)、それでも契約者数が純減に転じたDSLと異なり、毎年10%前後の伸びを示しており、堅調な成長を続けている。

 と言っても、CATVのインターネット接続サービスが劇的に進化したわけでもないし、価格的なメリットが打ち出されたわけでもないだろう。その背景には、もちろん営業努力もあるのだろうが、もしかすると今回取り上げる映像サービスの拡充が寄与しているかもしれない。そう感じさせるほどJ:COMのサービスはよくできており、通信事業者の同等サービスよりも完成度は高いと感じた。





HDD内蔵STBで録画環境が手軽に

 筆者宅では、これまで小田急ケーブルテレビジョンが提供していたデジタル放送サービスを利用していたのだが、これが経営統合によって、J:COM(ジュピターテレコム)のサービスへと切り替わった。これにより、さまざまな新サービスが利用可能になった。

 中でも最大の特徴と言えるのは、HDD内蔵STB「HDR」が利用可能になった点だ。通常のデジタル放送サービスの料金(筆者宅の地域では税込み月額5,229円)に、レンタル料の840円(税込)を追加すると、通常のCATV用STBをハイビジョン録画対応のHDD内蔵STB「HDR」へと変更できる。


韓国HUMAX製のHDD内蔵STB。リモコンの質感などは今一歩で、使いやすさという点も市販のレコーダにはかなわないが、録画、再生という基本的な使い方が手軽にできる。本体サイズは市販のレコーダより若干幅が狭い程度

 このSTBは非常に多機能で、地上デジタル放送やBSデジタル放送、CATV方法の受信ができるだけでなく、本体に内蔵した250GBのHDDでデジタル放送の番組を録画することもできる。市販のHDD&DVDレコーダと比べると光学ドライブを搭載しておらず、デザインも洗練されているとは言い難い。しかし、CATV放送の録画環境は、このSTBによって劇的に改善された。

 たとえば筆者宅では、これまで子供向けのアニメ専門チャンネルを録画することが多かったが、そのためにはSTBにレコーダを接続し、録画のたびにCATVのIRリモコンを使ってHDDレコーダーに予約情報を転送(これがまたうまくいかないことが多い)、さらに録画中はCATVのチャンネルを該当チャンネルに固定しておく、といった手順が必要だった。手順が面倒なため、どうしてもという番組以外は録画をあきらめることもたびたびあった。

 これに対して、HDRでは番組表から録画したい番組を選ぶだけで、手軽に、しかもハイビジョン画質のまま内蔵HDDに録画できる。しかもHDRはチューナーを2基搭載しているため、2番組同時録画はもちろんのこと、録画中に別のチャンネルを視聴することも可能だ。これによってテレビを観るのも録るのも実に手軽になった。残念ながら録画したい番組は観たら消すことになるが(iLinkを使えば転送も可能)、「観たら消す」という使い方をしているユーザーであれば特に不便は感じないだろう。

 ユーザーインターフェイスも、洗練されているとは言い難いが、使いにくいというほどでもない。録画も番組表から選ぶだけとシンプルで、番組表での時間選択が手軽にできたり、予約した番組の時間変更の追従なども可能だ(毎週予約の場合は不可)。キーワード指定で好みの番組を録画するといった機能はないものの、一般的な使い方なら特に不自由を感じることはない。理想は市販のデジタル放送対応レコーダとHDRの2台を組み合わせて使うことだが、おそらくHDR1台でも十分満足できるだろう。


番組表から番組を選ぶだけで手軽に録画可能。時間追従なども可能だが、残念ながら定期的な予約にすると追従は無効になる

録画した番組はプレイリストから再生可能(おっかけ再生も可能)。ただし、番組を書き出すことはできないため、観たら消すという使い方になる




VODサービスを手軽に利用可能

 このようにレコーダとしても利用できるHDRだが、これ以外にVODサービスの受信端末として利用することも可能だ。起動時のメニュー画面、もしくはリモコンのVODボタンを押すと、VODサービスの画面が表示される。ここで、ジャンルから観たいタイトルを選べば、その場で映像の再生が開始され、一時停止や早送りなどの操作をしながらビデオ感覚で映像を楽しめる。


VODサービスも利用可能。観たい番組を選んでレンタルビデオ感覚で再生できる。料金は作品にもよるが、24時間視聴可能で400円前後

 画面の操作性、配信される映像フォーマット(SDでMPEG-2 TS 3.6Mbps)などの違いはあるが、サービス内容や使い方は4th MEDIAやオンデマンドTVとまったく同じだ。提供されるタイトル(ここから参照可能:http://www.jvod.jp/jcom/)や料金もこれらVODサービスとほぼ同じで、映画などは420円/24時間で視聴できる。

 唯一、残念なのは、4th MEDIAやオンデマンドTVでは、今年の11月からWOWOWとの提携により、過去にWOWOWで放送した作品を中心に権利者から許諾を得た作品が提供される「WOWOWプレミアム・オンデマンド」の利用が可能だが、J:COMのVODサービスでは、現状、このサービスは利用できない。WOWOWプレミアム・オンデマンドでは、現在、「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」など、話題作などが提供されているだけに、これらが提供されていないのは残念だ。

 とは言え、VODの利用環境として考えると、J:COMのVODサービスには、4th MEDIAやオンデマンドTVにはない「わかりやすさ」を備えている。4th MEDIAやオンデマンドTVのサービスは、そもそも光ファイバーで映像を見るという仕組みが一般ユーザーにとってわかりにくいだけでなく、フレッツ・ドットネット(東日本の場合)などのIPv6サービスに加入しなければならない。

 このような複雑なサービスに対して、J:COMのVODサービスはデジタル放送サービスに加入すれば誰でも手軽に利用できる。前述したHDRのハイビジョン録画機能もそうだが、高い年齢層のユーザーや、さほど映像サービスに詳しくないユーザーにとってみると、利用するのにどのような環境が必要で、具体的にどのような手続きや使い方が必要になるのかが非常にわかりづらい。これがデジタル放送サービスに加入するだけで、録画もできて、VODも楽しめるのだから、これほどわかりやすく単純なものはないだろう。

 しかも、機器の設置は業者が担当してくれただけでなく、(必要ならビデオなどの接続にも対応)、サービス内容からリモコンの使い方まで作業に訪れた担当者が丁寧に説明してくれた。こういったあたりは、地域に密着したCATVらしいメリットだ。





新たな競合の登場にどう対処するか?

 このほか、「インタラクTV」と呼ばれる双方向サービスも利用可能で、乗り換え案内や高速道路の渋滞情報などの交通情報、百科事典の検索などの情報サービスを参照できる。情報の中には、休日夜間診療情報や役所などの案内などといった地域に密着した情報などもあり、このあたりも地域密着型のCATVらしいメリットだ。


地域密着の情報提供や投票などによるユーザー参加型コンテンツを楽しめる「インタラクTV」。若干、反応が遅いのが気になるが、いつでも天気や交通情報を確認できるのは便利だ

 ちなみに、このような双方向サービスや前述したVODサービスは、CATV事業者のインターネット接続サービスを契約していなくても利用できる。たとえば、筆者宅では、外から引き込んだ同軸ケーブルにブースタが接続され、そこからSTBの「HDR」にケーブルが直結されている。この状況で、どうやってIPによる通信をしているのかが気になったが、どうやらSTBのHDRにケーブルモデムが内蔵されているようだ。実際、HDRのセットアップ時に工事担当者が信号レベルやIPアドレスをHDR上で表示して確認していた。HDRはモデムまで内蔵するという、まさにオールインワンの機器というわけだ。

 ただ、この手のテレビ向けポータルサービスとしては、パナソニックが同社製のテレビやSTB向けに提供していた「Tナビ」などがすでに存在だけでなく、2007年2月には、このサービスを発展させたテレビ向けポータル「acTVila(アクトビラ)」が提供開始予定となっている(シャープ、ソニー、ソネット、東芝、日立、松下で設立)。acTVilaは、サービス開始時点では情報ポータルとしてスタートするものの、将来的にはVODやダウンロード蓄積型配信サービスなども提供する予定となっており、サービスとしてはVODも含めて今回のCATVのサービスと競合しそうだ。

 インターネット接続サービスで先行しつつも、あっという間にADSLやFTTHに追い越されてしまった状況を考えると、VODや双方向サービスで同じ状況に陥らないように、今後は先行するメリットやCATVならではの強みを見せていく必要がありそうだ。当面はサービスのわかりやすさ、地域密着の緻密なサービスで乗り切れそうだが、その先の競争でどうやって勝ち抜いていくかが注目だ。


関連情報

2006/11/7 10:58


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。