第220回:NASやDLNA、iTunesなど多彩な機能を搭載
160GBのHDDを内蔵したASUSの無線LANルータ「WL-700gE」



 ASUSの「WL-700gE」は、本体に160GBのHDDを搭載した無線LANルータだ。無線LANルータとしての機能に加えてNASやDLNAサーバー、iTunesサーバーとしても利用可能なほか、外部にフォトアルバムやブログ(簡易掲示板)を公開するためのサーバー機能、さらにBitTorrentやFTP、HTTPによる自動ファイルダウンロード機能などを搭載する。早速、その実力を検証した。





どの機能を使って良いのか困ってしまうくらい多機能

 ASUSの「WL-700gE」。この製品をひと口に言い表わすとすれば、一体、どのような表現が適切なのだろうか? ASUSのグローバルサイトで情報を参照すると、一応、無線LAN機器に分類されているようで、個人的にも基本的には無線LANルータであると認識していた。

しかし、国内のリリースを参照すると「ミニサーバー」と表現されており、実際に使ってみてもやはりサーバーと表現する方が適切な印象もある。なぜそんなに迷うのかというと、あまりにも多機能で、1台で何役もの役割を果たすことができるからだ。


ASUSの「WL-700gE」。見た目は少し大きめの無線LANルータだが、内部に160GBのHDDを搭載しており、NASなどとしても利用できる

具体的には、以下の表のように大きく3つのカテゴリの機能を利用できる。1つは無線LANルータとしての通信機能、もう1つはNASとして家庭内での情報共有ができる共有機能、最後はインターネットへの情報発信を目的とした、いわゆる自宅サーバーとしての公開機能だ。
分類機能種別詳細
通信有線ルータ10BASE-T/100BASE-T対応/WAN×1、LAN×4搭載
UPnP対応/DynamicDNS対応/URLフィルタ機能搭載
無線ルータIEEE802.11b/g準拠/64、128bitのWEP、WPA、WPA2搭載
EzSETUP対応/125Mbps ASUSハイスピードモード対応
自動ダウンロードBitTorent、FTP、HTTPによる自動ダウンロード機能
共有NASCIFS/NFS/FTP/WEBアクセスによるファイル共有に対応
プリントサーバーUSB接続のプリンタ共有に対応
DLNAサーバー画像、音楽、映像の共有機能搭載
iTunesサーバーiTunesからサーバーとして認識し、音楽の共有が可能
USBストレージUSBメモリからの自動ファイルコピー/USB HDDのミラーリング
公開WEBカメラUSB接続のWEBカメラを利用した監視
フォトアルバムHDDに保存した写真をインターネットで公開
メッセージボード簡易掲示板、簡易日記として利用可能な公開メッセージボード
お気に入りリンクお気に入りの公開と共有
個人ホームページ自己紹介などの簡単なホームページ

 読者の中には、Linuxなどを利用したサーバーを自宅に設置して、それを使ってホームページやブログなどを公開している人もいるかもしれないが、これをプリインストールされた機能として提供するのが、このWL-700gEというわけだ。実際、形は少々大きな無線LANルータに過ぎないが、中身はLinuxベースで動作しており、やはりミニサーバーと呼んだ方がしっくり来る。





通信機能での注目はダウンロード機能

海外では125Mbpsという表記がよく利用されるBroadcomのAfterburner。実際に125Mbpsで通信できるというわけではない

 先ほど分類した機能を、通信機能から順に見ていこう。最大125MbpsのASUSハイスピードモードというのは、BroadcomのAfterburnerというテクノロジーを元にしたもので、いわゆるフレームバーストなどの効率化機能の延長線上にある機能だ。実際に125Mbpsで通信できるというものではなく、Broadcomチップ採用クライアントとの組み合わせでしか利用できないので、実質的には通常の54MbpsのIEEE802.11g製品と同等と考えてかまわないだろう。

 むしろ、通信関連の機能で注目したいのは自動ダウンロード機能だ。以前、本コラムでプラネックスコミュニケーションズのBitTorrent対応ルータ「BRC-14VG-BT」を紹介したことがあったが、これと同様にBitTorrentのトレントファイルを登録することで、PCを利用せずルータが自動でファイルをダウンロードしてくれる。プラネックスの製品は、外付けのUSBハードディスクが必要だったが、本製品の場合、内蔵したHDDにダウンロードできるのが特徴だ。

 しかもWL-700gEの場合、BitTorrentだけでなくFTPやHTTPによるダウンロードにも対応している。正直、国内ではBitTorrentの認知度が低く、それほど普及していないため、他のユーザーと協力してダウンロードするというBitTorrentのメリットが受けにくく、実質的にLinuxのディストリビューションしかダウンロードするものがないのが実情だ。

しかし、これがFTPやHTTPにも対応となれば話は別だ。映像などの巨大なファイル、Windows Vistaなどのベータ版OS、ダウンロード販売のアプリケーションなどなど、現状、インターネット上で提供されているほとんどのファイルを自動ダウンロードできる。


ダウンロードしたいファイルのURLを登録すると、ルータが自動的にファイルをダウンロードしてくれる。ダウンロードしたファイルは内蔵HDDの共有フォルダに保存される。ダウンロード中は「InComplete」フォルダにあり、完了すると「Complete」フォルダに移動される

 Webページのダウンロードリンクを右クリックして付属のダウンロードマネージャを利用してダウンロードするか、ダウンロードしたいファイルのURLを手動で登録(ファイルのURLを特定できないとダウンロードできない)しておけば、あとは放っておくだけで、自動的にWL-700gEのHDDにファイルがダウンロードされる。あとはLAN内のPCから、共有フォルダにアクセスし、ファイルが保存されている「ダウンロード」フォルダにアクセスすれば、ファイルを入手できるというわけだ。

 この機能は、実際に使ってみると非常に便利だ。確かにブロードバンド環境の普及によって回線速度は向上したが、これイコールダウンロードが高速になるというわけでもない。人気があり、かつサイズの大きなファイルは、一晩かかってようやくダウンロードできるというケースも珍しくない。こういったケースにはまさにうってつけだろう。他社製のルータも、HDD搭載まではする必要はないと思われるが、USB HDDやUSBメモリに自動ダウンロードできる機能をぜひ搭載して欲しいところだ。





設置するだけですぐにファイル共有が可能

 続いての共有機能だが、これもなかなか手軽で使いやすい。WL-700gEには出荷時設定で「MYSHARE1」という、アクセス制限が設定されていない共有フォルダが作成済みで、ネットワーク上に設置してワークグループの設定さえ済ませれば、すぐにファイルを共有できる。

 この共有フォルダは、標準ではパスワードベースの認証(Windows 9x系のファイル共有と同等)となっているが、もちろんユーザーレベルでの認証を利用したり、ドメインでの認証も可能となっている。これらの認証方式を利用すれば、ユーザーやグループごとに共有フォルダのアクセス権を細かく制御することもできる。家庭内でのちょっとしたファイル共有はもちろんのこと、小規模オフィスなどでの利用も可能だろう。

ただし、市販のNASと比べると、気になるほどではないものの、若干ファイルアクセスが遅い印象がある(実測で4MB/s前後)。ルータとして多くの通信要求も処理しなければならないことを考えると、あまり多くのユーザーでの共有には向いていないだろう。


共有フォルダが作成済みとなっているため、設置後すぐにファイル共有が可能。標準ではパスワード認証のみになっているが、ユーザーレベルの認証方式に変更することで、ユーザーやグループごとにアクセス権を制御できる

 このほか、DLNAサーバー機能、iTunesサーバー機能も搭載しており、音楽や画像、映像といったメディアを意識せずに共有できるのもWL-700gEの特徴だ。デジタルカメラの写真、音楽CDの音楽、テレビチューナーカードなどで録画した番組など、あらゆるメディアを保存しておけば、家庭内のPC、さらには家電製品(もしくはDLNA対応レシーバー)などでもメディアを楽しめる。

ただし、そう考えると160GBという内蔵HDDの容量が若干足りない気もする。WL-700gEには外付けのUSB HDDを接続することもできるので、前述したようなメディアサーバーとして利用する場合はHDDの増設も検討すべきだろう。ハードウェアの構造を見る限り簡単にケースを開けられるため、HDDの交換も不可能ではなさそうだが(システムはHDDに書き込まれているため転送が必要)、当然ながらサポート外となるため、通常はUSB HDDの増設が無難だろう。


DLNAサーバーやiTunesサーバーとしても利用可能。DiXiM2やiTunes7からも問題なく認識でき、音楽などを再生できた

 なお、WL-700gEでは、USB接続したHDDを利用して、内蔵HDDの間でミラーリングを構築することが可能となっている。この機能は無駄とは言わないものの、実用性はあまり高くないと感じた。なぜなら内蔵のHDDが故障した場合、ミラーリングしたHDDからシステムを起動して欲しいところだが、これは不可能なためだ。結局は本体を修理に出し、修理から戻ってきたら、ミラーしたUSB HDDから復旧するという手順になる。

 では、ミラーしたUSB HDDをPCに接続してデータが参照できるかというと、これもできない。つまり、いずれにせよ本体が修理から戻ってくるまで、保存したデータにはアクセスできないというわけだ。

ミラーリングを行なうメリットは、ダウンタイムを最小限に抑えられる点が一般的と考えると、そういった用途には使えないことになる。国内で販売されているNASは、eSATAミラーリングやバックアップ、RAID5など、データをいかに保護するかが重要視されはじめているが、そういった観点では機能的には弱いと言わざるを得ない。





インターネット公開で情報発信

 最後の公開機能だが、これは「使える」機能と「使えない」機能がわりとはっきりしている。個人的に使えると感じたのは、インターネット経由での共有フォルダへのアクセスだ。

 ダイナミックDNSを利用して、外部からアクセス可能なアドレスを取得後、外出先のPCなどから「http://xxxx.xxxx.com:8080」のようにポート(あらかじめ設定可能)を指定してアクセスする。すると、WL-700gEの設定画面が表示されるので、ここで「Browse Share」を選択する。ユーザー名とパスワード(ユーザーベース認証の場合)を入力すれば、ブラウザから共有フォルダの内容を参照でき、ファイルのアップロードやダウンロードが可能というわけだ。

この機能を利用すると、インターネットに接続できえすれば、いつでもどこからでも家庭内の共有フォルダにアクセスできるようになる。セキュリティ上の不安があるため、常に開放しておくことはおすすめできないが、たとえば出張の間だけ外出先から見られるようにしておくなどといった使い方には便利そうだ。


WAN側からのアクセスを許可しておくと、共有フォルダの内容をブラウザから参照できるようになる。外出先などから自宅のファイルを参照したい場合に便利だ

 なお、URLでポート番号を省略してアクセスすると(要するにHTTPの80でアクセスすると)、外部公開向けの個人ページが表示される。このページには、インターネット上のユーザーに写真を公開できるフォトアルバム、マニュアルにはブログなどと記載されているが実質的には簡易掲示板や簡易日記的な使い方となるメッセージボード、さらにお気に入りリンク、簡単な自己紹介ページなどが用意されている。


ポート番号指定なしでアクセスすると、外部公開用の個人ホームページにアクセスできる。フォトアルバムやメッセージボードなどのアプリケーションがあらかじめ用意されているが、「web」フォルダの内容を置き換えることでオリジナルのホームページも設置可能だ

 個人的には、このままの機能やデザインで使う気はしないが、このページは単純に共有フォルダ内の「web」ディレクトリ(/shares/MYSHARE1/web)の内容をHTTPサーバーで表示しているに過ぎない。このため、このフォルダの内容を変更してしまえば、自由にWebページを作成することが可能だ(簡単なcgiなら動作可能)。どう使うかはユーザー次第だが、なかなか面白い用途に使えそうだ。NASをハックしてLinuxのサーバなどとして利用しているユーザーも少なくないが、そういった使い方を考慮した場合でも、WL-700gEの素性はなかなか良さそうだ。





課題は価格。付加機能に価値を見いだせるかがポイント

 以上、最終的にはやはりミニサーバーと呼ぶのがふさわしいASUS WL-700gEの機能を検証してみたが、いろいろな用途に使えるため、1台あるとなかなか便利そうだという印象を受けた。

 ただし、国内ではルータや無線LAN機器が、事実上ISPからレンタルで提供されることが多いこと、さらに個人向けのNAS市場が拡大し、高性能で低価格な製品がすでに多数存在することを考えると、無線LANルータ+NASというベーシックな用途では、あまりWL-700gEのアドバンテージが活きてこない。

しかも、WL-700gEは、多機能なだけに価格も高い。無線LANルータ+NASと考えれば妥当なのかもしれないが、160GBの容量で実売で4万円前後もする。一般的な160GBのNASの価格が2万円前後なので、ほぼ倍の値段だ。

 このため、WL-700gEを購入するかどうかは、そのほかの付加的な機能にいかに価値を見いだせるかがポイントとなる。個人的にはダウンロード機能、および外部からの共有フォルダの参照機能は便利だと感じたので、このような使い方をしたいユーザーにはお勧めできる製品と言えそうだ。

また、おそらくハックという点では、なかなかの可能性を秘めているように思える。サーバーや組み込み系のLinuxが好きなユーザーにはぜひチャレンジして欲しい。


関連情報

2006/11/14 10:51


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。