第234回:WPSへの統合が始まる無線LANの接続設定方式
ボタン式接続設定を搭載したコレガ「CG-WLBARGPX」



 コレガからPIN方式およびプッシュボタン方式での無線LAN設定システムを採用した無線LANルータ「CG-WLBARGPX」が発売された。認定の関係で現時点ではまだ正式準拠が謳われていないが、「Wi-Fi Protected Setup(WPS)」ベースの技術を搭載した製品だ。その使い心地を検証した。





統一の方向へと向かいつつある無線LAN接続設定方式

 ようやくメーカーの違いなどを意識することなく、無線LANの設定が手軽にできるようになりそうだ。

 Wi-Fiアライアンスで標準化が進められてきた無線LANの接続設定方式「Wi-Fi Protected Setup(以下WPS)」の認定が2007年1月8日から開始された。これにより、今後は無線LANの接続設定方式が統合され、これまで以上に手軽に無線LANを使える可能性が高くなった。

 もちろん、無線LANの接続設定方式に関しては、バッファローの「AOSS」、NECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」を筆頭に、すでに無線LAN機器ベンダーやチップベンダーが独自の方式を提供している。特にAOSSとらくらく無線スタートは、その手軽さ、セキュリティの高さで高い評価を受けており、ゲーム機やAV機器などでの採用も積極的に進められていた。無線LANの設定を誰にでも手軽にできるようにしたという点では、この2方式が市場に与えた恩恵は計り知れない。

 しかしながら、2方式まではよかったが、すでに他の方式を含めると5~6の方式が存在する状況下にあり、異なるベンダーの機器間での相互接続に問題が出始めていた。たとえば、新たにネットワーク対応テレビを購入したが、「AOSS」にしか対応しておらず、すでに利用している無線LANルータの「らくらく無線スタート」が使えないため、結局は手動で設定しなければならなかった……、といったケースだ。

 このような状況の中で登場したのが今回のWPSだ。もちろん、規格の統一と言っても、従来の方式を統合したわけではなく、あくまでもWi-Fiアライアンスによる新方式の提案という形となっている。また、WPSはWi-Fiによる認定の必須項目ではなく、あくまでもオプションという位置付けであり、完全な相互接続性が確保できるわけではなく、既存の製品との相互運用という点でも課題は残る。しかし、少なくとも今後はWPSが数多くの製品に採用される可能性が高いため、事実上の標準方式になると考えても差し支えないだろう。





WPSを基にした設定に対応した「CG-WLBARGPX」

プッシュボタン、PIN方式の設定を採用したコレガの無線LANルータ「CG-WLBARGPX」。IEEE802.11b/g準拠の製品だが、コンパクトなサイズで、価格も手ごろな製品だ

 そんな中に登場したのが、今回取り上げるコレガの無線LANルータ「CG-WLBARGPX」だ。IEEE 802.11b/gに準拠した小型の無線LANルータで、本体のみで7,770円、PCカード型子機のセットモデルで8,925円(いずれも参考価格)という低価格の製品となっている。

 最大の特徴は、本体上部に用意された「ワイヤレスコネクトボタン」だ。同社の製品としては初となるプッシュボタン方式の無線LAN接続設定を用意しており、手軽に無線LANの設定が可能となっている。また、本体側面に貼り付けられているPINコードによる設定にも対応しており、従来製品に比べて設定が大幅に簡易化されている。

 と言っても、残念ながら現時点では正式なWPS対応というわけではない。WPS対応を謳うにはWi-Fiによる認定を受ける必要があるが、本製品はまだ認定を受けていない(今後認定予定)。技術的には問題ないが、あくまでも現状は「WPSベース」の製品だ。

 早速、ボタンによる設定を試してみたいところだが、実は出荷時設定のままではプッシュボタンによる設定もPINコードによる設定も出番はない。CG-WLBARGPXには、背面に「Securityスイッチ」というスイッチが用意されており、これが標準では「OFF」に設定されている。このSecurityスイッチは、文字通り無線LANのセキュリティ設定をON/OFFするためのスイッチだ。標準のOFFの場合、暗号化の設定が無効なオープンな状態となり、セキュリティ設定ナシで接続できるようになっている。


本体上部に用意されたワイヤレスコネクトボタン。このボタンを押すことで無線LANの設定を自動的に行なうことができる出荷時設定では暗号化の設定がOFFになっている。背面の「Securityスイッチ」を切り替えることで無線LANのセキュリティ対策が可能だ

 無線LANのセキュリティが問題視され、その重要性が問われる中、各メーカーとも暗号化を設定した状態でアクセスポイントを出荷するケースが増えてきていることを考えると、少々時代に逆行した考え方であることは否めない。そもそも、WPSのような設定方式が必要なのも、セキュリティと設定の手軽さをどう両立させるかが重要だからと言える。この状況でスイッチによる切り替え式とは言え、標準で暗号化ナシという状態は、かなり思い切った設定と言えるだろう。

 このような設定をしたメーカーの見解としては、ゲーム機の存在があるとのことだ。具体的には任天堂の「ニンテンドーDS」の「ニンテンドーWi-Fiコネクション」での接続だ。Wi-FiアライアンスのWPSではWPA2による暗号化が必須だが、ニンテンドーDSでは無線LANの暗号化方式としてWEPしかサポートされていない。このためニンテンドーDSを利用したい場合はWPSで設定することができず、ニンテンドーDSだけでなくPCもすべて手動でWEPを設定することになってしまう。

 PCであればWPAという高いセキュリティがボタン一発で設定できるのに、ニンテンドーDSをつなぐときは手動でWEPに変更しろというのも、ユーザーにとって利便性が高いとは言いがたい。とはいえ、メーカーにとっても、これだけ普及しているゲーム機の接続をサポートしない、もしくはその接続のためにWEPの設定をユーザーに伝えるためのサポート体制を整えるのも難しい。

 個人的には、出荷時設定で「Securityスイッチ」は「ON」の方が良いのではないかと考えるが、このあたりの判断は非常に難しいところだ。いずれにせよ、本製品を利用する場合は、初期設定で暗号化の設定が一切されていないという点に注意し、すみやかに「Securityスイッチ」を「ON」にすることをお勧めする。





設定はカンタン、既存のボタン方式と同じ感覚で使える

 では、本題の設定について見てみよう。プッシュボタンによる設定は、AOSSやらくらく無線スタートなどの既存の設定方法に極めて近い方法で行なう。


CG-WLBARGPXではWPSをベースにした3つの設定方法をサポート。それぞれ図版のように数ステップの操作で接続設定ができる

 ドライバやユーティリティをインストール後、クライアントに無線LANカードを装着。自動的に接続用のユーティリティが起動するので、ここでプッシュボタンによる接続を選択する。画面の指示に従ってアクセスポイント上部のワイヤレスコネクトボタンを2秒以上押すと、アクセスポイントがセットアップモードへと移行。この間に、クライアント側でスタートボタンを押すと、自動的に暗号化の設定が行なわれるという仕組みだ。


クライアント側でプッシュボタン方式かPIN方式かを選択。アクセスポイントのボタンを押してから、クライアントでも設定をスタート。これで自動的に設定が完了する

 なお、バッファローのAOSSなどでは、ネットワーク上のクライアントのセキュリティレベルを判断して、自動的に一番強い暗号化方式を選ぶなどといった高度な設定が行なわれるが、本方式の場合は、アクセスポイントにあらかじめ設定されている情報をクライアント側に転送するという形態となる。

 一方、PINコードによる接続だが、これは2通りの方法がある。1つはアクセスポイントに設定されているPINコードをクライアントのユーティリティに登録する方法だ。CG-WLBARGPXには、出荷時に設定されたアクセスポイント固有の8桁のPINコードが本体側面にシールで貼られている。これをクライアントのユーティリティに入力することで設定できる。


本体側面に貼られた初期設定PINコード。このPINコードをクライアントのユーティリティに入力することで設定が可能となる

 もう1つは、クライアント側のPINコードをアクセスポイントに登録する方法だ。クライアント側のユーティリティで設定を開始すると、自動生成された8桁のPINコードが表示される。この状態で別のクライアントからアクセスポイントの設定画面を開き、クライアントのPINコードを入力して設定を開始すると、同様に暗号化設定などの情報がやりとりされる。WPSでは接続する端末のPINコードを識別する機器をレジストラと呼ぶが、アクセスポイントとクライアントのどちらがレジストラとなるかの違いだ。


クライアントでPINコードを生成し、それをアクセスポイントに登録することも可能。この場合、別のクライアントからアクセスポイントの設定ページを開き、PINコードを入力する

 いずれの方法の場合も、ユーザーは暗号化の方式や暗号キーなどは一切意識する必要はない。ボタンを押すだけ、もしくはPINコードを入力するだけで手軽に設定できる。PINコードによる方法は少々とまどうところもあるが、手軽さという点では既存の方式と遜色ないと考えて良さそうだ。

 なお、CG-WLBARGPXの場合、アクセスポイントのPINコードはWPA2のPre Shared Keyと同じものが設定されている。セキュリティ面を考えるとPINコードとPre Shared Keyは分けるべきだと考えられるが、このおかげで無線LAN内蔵ノートや他社製クライアントを利用した場合でも、本体のシールでPre Shared Keyを手軽に確認して接続設定を行なうことができる。





相互接続はどこまで可能になるか?

 以上、WPSとほぼ同等の機能を備えたコレガのCG-WLBARGPXを試してみたが、プッシュボタンによる接続やPINコードによる接続のおかげで、かなりカンタンに接続設定を行なうことができた。これなら、はじめて無線LANを使うユーザーでも、迷わずに接続設定を行なうことができそうだ。

 ただし、この方法でどこまで相互接続が実現できるかは、まだ未知数と言えそうだ。Wi-Fiアライアンスによる認定が進めば問題はないだろうが、市場にはまだ複数の接続方式が混在した状態と言える。また、古いクライアントやゲーム機などのように、この方式をサポートできない機器をどう混在させるのかという問題も残る。利用者によっては、自分の使っている機器がAOSSなのか、WPSなのか、らくらく無線スタートなのかを意識していない場合もあるだけに、方式の違いによる混乱も予想できるだろう。WPSが普及するには、もう少し時間がかかりそうだ。

 また、既存の方式との共存や移行がどう進むのかも注目されるところだ。バッファローでは、先日公開した新しいクライアントユーティリティ「クライアントマネージャーV」において、AOSSとWPSの両方式をシームレスに扱えるようにした。これにより、いずれの方式で接続する場合でも、ユーザーはクライアントの設定開始ボタンを押すだけで良いように工夫している。すでに市場に出回っている製品に関しては、このような複数方式をシームレスに使える工夫も不可欠だろう。

 なお、WPSによる接続設定は、現状のPINコードとプッシュボタンが必須のコンフィグレーションとして定義されているが、今後、さらにUSBメモリを使った設定転送、デバイスを10cm程度に近づけることで自動的に設定情報をやりとりするNFC(Near Field Communication)と呼ばれる方式もオプションとして盛り込まれる予定となっている。これらの設定が追加されれば、ゲーム機、デジタルカメラ、携帯電話など、無線LANに対応したデバイスの接続も手軽に使えるようになりそうだ。


関連情報

2007/2/27 11:05


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。